Orbsとは?
デジタル資産の世界では、CeFi(中央集権型金融)が提供する高度な取引機能や効率性を、DeFi(分散型金融)でも実現したいというニーズにがあり、それに応えるために開発されたのがレイヤー3(L3)ブロックチェーンインフラストラクチャの「Orbs(オーブス)」。
Orbsは、2017年に設立され、2019年3月28日にメインネットが稼働開始。DeFiにCeFiレベルの高度な取引機能をもたらすことをコアコンセプトにしている。「オンチェーントレーディングを強化するためのレイヤー3」というスローガンのもと、従来のブロックチェーンが直面していた取引の柔軟性やスケーラビリティの課題を解決することを目指している。
Orbsの機能は、既存のレイヤー1(L1)およびレイヤー2(L2)ブロックチェーンの性能を向上させる追加レイヤーとしての役割を担う。流動性の集約、高度な取引注文、分散型デリバティブを通じてオンチェーン取引を最適化している。ユーザーがよりスムーズに取引できる環境を構築することで、「DEX取引をCEX(中央集権型取引所)での取引と同じくらい使いやすく身近なものにする」ことを目指している。
なお、現在Orbsのサービスに対して日本で適用される特定の規制要件はないが、将来的に規制の整備や変更があった場合には、速やかに必要な対応を行う準備が整っている。
主要プロダクトと特徴
取引最適化プロトコル
Orbsは、DeFi取引を最適化する4つの主要プロトコルを提供し、DeFiトレーダーにCeFi並みの高度な取引機能を実現している。
dLIMIT
DEXや自動マーケットメーカー(AMM)での指値注文を可能にするプロトコル。トレーダーは特定の価格で取引を実行でき、高い価格効率と確実な約定を実現する。市場価格とは無関係に、自分の設定した価格でのみ取引が実行されるため、価格変動の大きい暗号資産市場で特に有用だ。

Pancakeswapへ統合したdLIMIT。
PancakeSwapやSushiSwapといった大手DEXをはじめ、QuickSwap、SpookySwap、SwapX、Lynexなど複数のDEXに統合されており、「Powered by Orbs」ブランドとしてDeFiでの信頼を獲得している。
dTWAP
大口注文の市場への影響を軽減するプロトコル。注文を時間をかけて少しずつ実行し、価格変動(スリッページ)の影響を最小限に抑える。TWAP(Time-Weighted Average Price:時間加重平均価格)戦略をオンチェーンで実現し、より安定した取引を可能にする。

QuickSwapへ統合したdTWAP
このプロトコルは通常dLIMITと組み合わせてDEXに統合され、ユーザーは取引回数や取引間隔、最大実行時間などの詳細パラメータを設定可能。さらに「TWAP-マーケット注文」と「TWAP-リミット注文」の2種類から選択できる。SushiSwap、QuickSwap、PancakeSwap、SwapXなどの主要DEXで採用されており、大量保有者や機関投資家による大規模取引、ドルコスト平均法(DCA)による定期的な資産購入戦略にも活用されている。
Liquidity Hub
外部の流動性ソースを活用して競争力のある価格を提供するプロトコル。DEXは自社の流動性プールだけでなく、他のソースからの流動性も組み合わせることで、ユーザーにより有利な条件での取引を提供できる。この技術により、個々のDEXがアグリゲーターに対しても価格競争力を持つことが可能になる。

QuickSwap(Polygon/zkEVM/ETH)、THENA(BSC)、SpookySwap(Fantom/Sonic)、Lynex(Linea)など、8つのブロックチェーン上の取引所で採用されている。2025年には新たにSwapXも統合を発表し、採用の広がりを見せている。
このプロトコルはオンチェーンのソルバーオークションやAPIを利用した分散型オーダーなどの機能を活用し、MEV(マイナー抽出可能価値)保護やガスレス取引など複数のメリットをユーザーに提供している。
Perpetual Hub
オンチェーンでの無期限先物取引を可能にする総合ソリューション。ヘッジ、清算、価格情報提供などの機能が一体化したサービスを提供し、安定したデリバティブ市場を構築する。流動性が特に重要な先物市場での効率を最大化するよう設計されている。

IntentX(Base/Mantle)、IVX(Berachain)、THENA Alpha(BSC)、Pear(Base)、Xpanse(Mode Network)など複数のデリバティブ取引所と統合し、取引流動性の強化と効率的な注文処理を実現している。このプロトコルは、通常の流動性ハブと比較して全ての取引に介入できるため、同じ取引量でもより多くの活用が見込まれる。
特にBerachain上のIVXとの統合(2025年3月)やMode Network上のXpanseとの統合(2025年2月)は、これらのプラットフォームにOrbsのPerpetual Hubを活用した流動性強化、効率的な注文執行、資本効率の向上といったメリットをもたらしている。
技術基盤

Orbsは先端的なブロックチェーン技術を組み合わせ、DeFiの可能性を広げる独自の実行環境を構築している。従来の枠組みを超えたアプローチで、取引の効率性、安全性、開発の柔軟性を実現している。
Orbs Lambda
従来のスマートコントラクトの限界を超えた処理を実現する分散型実行環境。この技術は、中央集権的なサーバーレスサービスに相当する機能を分散型で提供し、DeFiアプリケーションに新たな可能性をもたらしている。
開発者は広く使われているJavaScriptを使用でき、ブロックチェーン固有の知識なしに高度な機能を実装可能。特筆すべきは、node-fetchなど一般的なnode.jsライブラリの活用や、チェーン外データへの完全なアクセスが可能な点だ。これらは従来のスマートコントラクト環境では難しかった機能であり、よりリッチなユーザー体験の構築を可能にしている。
複数の独立したバリデーターノードによる並列処理は、単一障害点のない高い信頼性と処理能力を提供し、特に複雑な計算やデータ処理を必要とするDeFiアプリケーションで威力を発揮する。
Orbs VM
多様なプログラミング言語とフレームワークをサポートする柔軟な分散型実行環境だ。Dockerコンテナ技術を採用することで、開発者は言語選択の自由を得ると同時に、常時稼働する耐障害性の高いサービスを構築できる。
この技術により、Go、C++、Rust、Pythonなど、スマートコントラクト特有の言語以外のプログラミング言語で書かれたコードを分散ネットワーク上で実行可能になった。これはブロックチェーンの計算能力と汎用プログラミングの柔軟性を融合させた画期的なアプローチで、高度な金融ロジックの実装を大幅に簡素化している。
Orbsの検証者ネットワークによって分散実行されるこの環境は、物理サーバーのメンテナンスが不要で、それでいて高い冗長性と信頼性を提供する。これにより、開発者はインフラ管理よりもアプリケーションロジックに集中でき、革新的なDeFiソリューションの迅速な開発が可能になっている。
Ethereum、Polygon、BSC、Arbitrum、Base、Blast、Linea、Sonicなど多様なブロックチェーンとの相互運用性を持ち、チェーンを横断する一貫した機能提供を実現。この多様なエコシステムとの連携能力が、Orbsプロトコルの広範な採用を支えている。
4. 運営組織

経営陣とチーム
Orbsは創業者4名により始動した。創業者のうちTal Kol(CTO兼共同創業者)氏はTON公式アンバサダーとしても活躍している。
Orbsの現在の経営陣は、豊富な経験を持つ専門家チームで構成されている。
- Nadav Shemesh(CEO)
複数のスタートアップを創業、OrbsのDeFi戦略とV4アップグレードを牽引。 - Nechama Ben-Meir(CFO)
フィンテック企業で財務戦略を統括、Orbsの1億ドル超の資金調達やその後の資金運用を牽引。 - Ran Hammer(CBO)
トップ弁護士事務所でブロックチェーン専門弁護士として活躍し、Orbsに参画。法整備及び事業開発を主導。TONやSwapXとの戦略的パートナーシップも推進。 - Shlomi Zaig(VP R&D)
複数のハイテク企業でCTOとして活躍。Orbsではブロックチェーン技術の研究開発を統括。
チームは約40名のメンバーで構成されており、テルアビブ、ロンドン、ニューヨーク、東京、ソウル、リスボン、リマソールなど世界各地を拠点に活動している。Orbsの技術開発チームの多くは設立当時からのメンバーで、過去にも別のスタートアップでも共に活躍した、協力な信頼関係のもと活動している。2021年以降、DeFi分野に特化した機能拡充に注力しており、新たなエンジニアも迎え入れてチーム強化を図っている。
資金調達実績と主要パートナー
2017-18年にかけてプライベートセールを実施し、1億ドル以上の十分な資金を確保している。
CTO兼共同創業者のTal Kolが公式アンバサダーを務めるTONではTON Access、TON Minter、TON.vote、TON Verifierなど、TONエコシステムで使用されるツールの開発に多く携わっている。
近年はフェニックス・ファイナンスへの30万ドルのシード投資や、DEXのThenaや、オンチェーンデリバティブ市場の主要プライヤーのIntentXなど、エコシステム拡大に向けた投資も行っている。
セキュリティ対策
Orbsは包括的なセキュリティ設計により、ユーザーとネットワークの安全性を確保している。
リプレイプロテクション
Orbsネットワークはハイブリッドチェーンとして設計されており、ERC20規格でトークンを発行している。セキュリティ面では、Proof-of-Stake(PoS)コンセンサスを採用するEthereumおよびPolygonネットワークの堅牢性に依存している。Ethereumに実装されているリプレイプロテクション機能により、ORBSネットワークにおいても同様の保護機能が確保されている。
DDoS攻撃対策
Orbsネットワークは、世界各地に分散配置された30以上のバリデーターノードによって構成されている。この分散型アーキテクチャにより、特定の地点への物理的なDDoS攻撃を効果的に防御している。
ガバナンス攻撃に対しては、攻撃者がネットワークの制御権を握るためには大量のORBSトークンをステークする必要がある仕組みを採用。これは、Ethereumネットワークと同様のPoSコンセンサスによる経済的インセンティブ設計により、悪意のある行為を経済的に困難にしている。
トークン発行の保護機能
ORBSトークンは、透明性の高いスマートコントラクトによって管理されており、総供給量は100億トークンに固定されている。恣意的なトークン発行や供給量変更は技術的に不可能な設計となっている。
スマートコントラクトのソースコードは完全に公開されており、誰でもEtherscanからコードの詳細を確認し、検証することができる。この透明性により、コミュニティによる継続的な監査と信頼性の確保が実現されている。
コンプライアンス・法的対応
なお、現在Orbsのサービスに対して日本で適用される特定の規制要件はないが、将来的に規制の整備や変更があった場合には、速やかに必要な対応を行う準備が整っている。
5. トークン概要

トークンの用途と機能
Orbsネットワークの基軸トークン「ORBS」は、イーサリアムのERC20規格で設計されているトークン。PoSコンセンサスにおいて、ネットワークの安全性と運用に不可欠な役割を果たしている。現在20以上のPOSガーディアン(検証者)により運用されている。ORBSトークンの主な用途は以下の通り。
- Orbsプラットフォームのサービス利用料の支払い
- 検証者(インフラ運営者)への報酬支払い
- Proof-of-Stakeエコシステムとコミュニティガバナンスにおける投票権
ORBSトークン保有者は、ガーディアン(検証ノード)にトークンを預け入れることで、ネットワークの維持に貢献し、最大6.66%の年間報酬を獲得できる。
トークンアロケーション

ORBSトークンの総供給量は100億(10,000,000,000)トークンで、以下のように分配されている。
割当先 | 割合 | 用途 | 権利確定期間 |
---|---|---|---|
長期リザーブ | 55% | 開発、エコシステム、パートナー向け。Proof-of-Stakeインセンティブモデルの起動資金にも活用。 | TDE後55ヶ月間にわたる権利確定 |
プライベートセール | 20% | プロジェクトの初期資金調達(研究開発、コア技術開発、エコシステム構築など) | ー |
チームと創業パートナー | 20% | チームメンバーと創業パートナー向け | TDE後6ヶ月のロックアップ期間を経て36ヶ月間にわたる権利確定 |
アドバイザー | 5% | 外部プロジェクトアドバイザー向け | TDE後12ヶ月間にわたる権利確定 |
現在の流通量は約40億ORBS(2025年4月現在)で、時価総額は約9,300万ドル、価格は約$0.02となっている。
Orbsの今後
Orbsは、2022年初めにリリースした「メインネットV3」に続き、「V4」の開発が進行中である。V4は2024年初頭に発表され、OrbsのL3基盤を進化させるための重要な更新として位置付けられている。V4の主なアップデートに以下が含まれる。
- L3の処理能力の大幅強化
- ノード運用の自動化と効率化
- 基盤の分散化強化
- AWS依存からの脱却
- 活動追跡ダッシュボードの拡充
また、DEXを直接的な顧客としたBtoBビジネスを進める予定もある。既にソリューションを提供するビジネスが根づきつつあり、この売上収入をトークン保有者に還元する仕組み作りにも注力している。そして、売上を上げるために、現在のソリューション以外にも新しいソリューション・サービスを継続的に提供していく予定だ。