仮想通貨のPoS(プルーフ・オブ・ステーク)とは
仮想通貨のPoSとは「Proof of stake」の略で、ブロックチェーンにおけるガバナンスモデルのひとつです。具体的な話をする前に、イメージをお伝えします。このイメージを浮かべつつ、本文を読み進めてください。
PoSは、株式会社の株(債券)と似たような仕組みです。
株式会社の社員でない者が、特定の株式会社の運営に多かれ少なかれ関わる場合、その部外者は投資家として株を購入します。株式会社では、1株が1票のような働きをもつため、経営者選びや会社方針の策定に多少の影響を与えることができます。
もちろん、保有する株の数が多くなればなるほど、その影響力は大きくなります。
株はお金で購入することができ、その会社の経営がうまく運び、会社が大きく成長すれば、その株の価値は上がり、投資家は配当を受けれるようになります。
実は、PoSはこれと似ています。ブロックチェーンでのPoSは、株がStake(掛け金)にあたり、その量によって受け取ることのできる暗号通貨量が変動します。株では会社の成長により株価が変動し、配当も増えます。PoSでは、Stakeした暗号通貨の量により、受け取れる報酬が変動します。
なぜPoSに注目が集まっているのか
PoSの存在自体は、ブロックチェーン業界の開発者や関係者の間で以前より知られており、数年にわたり大きな議論対象のひとつでした。
しかし、とりわけ2019年後半頃より一層議論が白熱化しています。その理由のひとつは、仮想通貨イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムがPoSへ移行することにあります。
イーサリアムは、開発が始まった当初から、複数の段階を経てプラットフォームとして完成されていくことを標榜してきました。
インターネットがかつてはダイヤルアップだったものが、徐々に進化してADSL、光ファイバーと通信ケーブルが進化すると同時に、通信速度が向上しました。それと同様に、イーサリアムが処理できるトランザクション量を増やす、つまり決済や送金にかかる時間を短縮したり、より多くのユーザーが快適に利用できるようになるために必要なアップデートを、数年間かけて行っていくのです。
現在イーサリアムで利用されているコンセンサスアルゴリズム、PoW(Proof of Workでは、スケーラビリティの限界が問題視されています。
PoWでは、一度に処理できるトランザクション数に限界があり、増加し続けるユーザーやDapp数に対応しきれなくなり、結果としてトランザクションの遅延、およびガス代の増加に繋がっていきます。イーサリアムでは、この課題を解決するためにPoSを基盤にしたイーサリアム2.0(ETH2.0)へのアップグレードを計画しています。
20年にはPoSが導入されるイーサリアム2.0のテストネットがローンチされ、翌21年にはPoSへの完全移行が予定されており、多くの論争が巻き起こっています。
現状のイーサリアムからPoSを採用するイーサリアム2.0への移行がどのように行われるのか、現状のイーサリアムとどのような違いがあるのか、PoSは想定通りに機能するのかなど複数のテーマについて、世界中の開発者や起業家、経済学者などが熱い議論を重ねてきました。
コンセンサスアルゴリズムとは?
多くの人が参加するプラットフォームやネットワークでは、その場を利用するためのルールはもちろんのこと、運営・管理している主体のガバナンスも重要です。
そのネットワークの秩序を誰が保ち、そのために参加者にどのような行動をとらせるかは、誰もが参加でき、金銭を含む価値のやりとりが行われるブロックチェーンでは非常に重要です。悪意のある人物が存在しても、悪事を働けない仕組みが不可欠です。
とりわけ、パブリックブロックチェーンを利用したアプリケーションやシステムにおいては、特定の管理者が置かれないことが原則となっています。
そのため、中央集権的な組織・個人が運営するプラットフォームで発生しうるリスク、例えば利用者の個人データをユーザーの知らないところで売買したり、価値交換について恣意的な操作を加えたり、妨害したりするといった事態が発生しにくくなっています。
こうした理由から、それぞれのブロックチェーンアプリケーションや暗号通貨には、それぞれのアルゴリズムが立案・実装されています。
この記事では、PoSについてお伝えしていますが、理解しやすくするためにPoW(Proof of Work)についても触れます。
PoWもPoSも、それらが採用されているネットワークのインセンティブとしてのコインの新規発行のルール、そのネットワークの維持・運営に関わるノードにどのような条件や配分で報酬を与えるのかを定めています。
ブロックチェーンは様々な暗号通貨に採用されていますが、その暗号通貨の価値や取引の記録を保管するための仕組みがブロックチェーンであり、そのブロックチェーンに取引記録を書き込むためのルールが、コンセンサスアルゴリズムです。
合意の仕方、という意味合いになりますが、暗号通貨のように特定の企業・人が取引をコントロールしない仕組みを実装する上で、どのようなコンセンサスアルゴリズムを採用するかは非常に重要です。
PoWの仕組み
PoW(Proof of Work)は、特定の計算問題を早く解いたノードが報酬を受け取るコンセンサスアルゴリズムです。
ビットコイン(BTC)のPoWが有名で、ビットコインでは計算問題を一番最初に解いたノードがブロックを追加します。PoWは、計算問題の答えをいかに早く出すか、つまり、計算処理能力の高いマシン(ノード)がブロック形成と新規コインの発行を担っている形になります。
PoWでは、計算処理能力を高めるために、複数のマイナーがグループを作ることがあります。
このグループはマイニングプールと呼ばれ、マシンパワーを結集して自分たちだけが優位に計算できるように結託します。すると、一部のマイナー達にブロック生成権が偏ることとなり、個人でノードを運営する弱小マイナーはネットワークに参加しなくなります。
こうなると、マイナー数は減り、51%を超えるマイニングプールが誕生しやすくなり、そのブロックチェーン上でのトランザクションがマイナー達によって改ざんされるリスクが高まります。
もうひとつ、PoWの欠点は消費電力が大きいことです。強力な計算処理能力を持つマシンは、その消費電力量も大きくなります。PoWのマイニングに多額の電気代がかかってしまうため、現在は電気代が安い中国などへマイニングが集中しています。また、電力消費による環境への影響も懸念されています。
PoSの仕組み
PoSは、保有する資産の多さによってブロックチェーンに新たなブロック追加を承認するノードが決まる仕組みです。
ブロックの内容に誤りや不正がないことを証明するのは、計算ではありません。この証明を行うノード、およびその所有者が、一定水準以上の資金を掛ける(預け入れる、投資する)ことが承認者となるための条件です。
この承認者は、掛けた金額に応じて、ネットワーク上のトランザクション手数料を報酬として受け取ります。
ただし、これでは大富豪がマイニング報酬を独占することにもなってしまうため、アルゴリズムによっては掛け金を保有している期間の長さ、利用した掛け金の量、あるいはランダムで承認者を決定するPoSアルゴリズムもあります。
PoSは、PoWの欠点のひとつである消費電力量を削減することができます。なぜなら、必要なのは計算処理能力の高いマシンではなく、そのネットワークを維持するために必要な資金だからです。
また、PoSのようにマイニングプールが作られることにより、51%攻撃に対して脆弱になる心配もありません。なぜなら、51%攻撃を仕掛けることで自身が掛け金としてステークしている資産の価値が下がる可能性があるためです。
特にイーサリアム2.0におけるシャーディング導入では、51%攻撃の観点からPoSが重要視されています。ブロックチェーンのシャーディングとは、トランザクションの検証作業をグループ毎に分割して行う技術のことであり、これにより処理能力が飛躍的に改善すると言われています。
シャーディングにPoWを採用した場合、ブロックチェーン分割によって競争率が低下し51%攻撃に曝されるリスクが高くなってしまうため、イーサリアムのシャーディング導入は、PoSへの移行が前提となっています。
さらには、PoSはPoWよりもブロック生成時間が短くて済みます。例えば、PoWを採用しているビットコインでは、送金ごとに最低でも10分ほど待つ必要がありますが、PoSであれば数秒でトランザクションが完了します。PoSに移行することで、より多くの人が暗号通貨を利用し、かつ、その暗号通貨のやりとりにかかる時間が大幅に削減することが期待されています。