自分や家族の将来のため、資産形成をする方法の一つが「投資」です。リスクはあるものの、正しく運用することで大きなリターンが望めます。その中でも近年注目されているのが、節税対策をしながら安定的に資産運用ができる制度「NISA」です。
ただ、NISAは3種類あり、利用できる期間や金額にも制限があるなど仕組みが少し複雑なので、どのNISAが自分に合っているのか迷ってしまうでしょう。
そこで本記事では、NISAの基礎知識から注意点、上手な資産運用のコツまで、NISAの利用を始めるために必要な情報を投資初心者にもわかりやすく解説します。
- 目次
NISAとは
NISA(ニーサ)は、2014年にスタートした個人投資を促進するための税の優遇制度です。
正式名称は「少額投資非課税制度」で、2013年に終了した投資に対する減税措置に代わって登場しました。
モデルになっているのは、「ISA(Individual Savings Account=個人貯蓄口座)」という若年層の投資を促進するイギリスの制度です。そこにNIPPONの「N」を加えた日本版ISAとして、NISAという愛称が付けられました。
NISA口座は投資口座の一種で「非課税口座」に分別されます。
銀行口座に「普通」「定期」「当座」など複数の種類があるように、証券会社で開設できる投資口座にもいくつか種類があります。主な違いは税金のかかり方で、大きく「課税口座」と「非課税口座」の2種類に分けられることを知っておきましょう。
NISAの仕組み
通常、投資による利益には約20%の税金がかかります。課税の対象となるのは株式の保有で得られる「配当金」や投資信託の「分配金」、保有する金融商品を売却して得た「譲渡益」等です。
しかし「非課税口座」であるNISA口座を使って取引すれば、口座内での投資によって得た利益に対して課税はされず、利益全額を受け取ることができます。
例えば、1株1000円の銘柄を100万円分(1000株)買付けた場合を考えてみましょう。
年1回10円の配当金があるとすれば、1000株なので年に1万円の配当益が発生します。しかし課税口座の場合は約20%課税されるため、実際に受け取れるのは8000円弱まで減少します。
また、この銘柄を1年後、30%の利益が出たので売却するとします。その際の譲渡益は30万円ですが、それに対して約20%課税されるため、実際に受け取れる金額は24万円弱に。
このように約20%の課税は受領金額に大きな影響を与えますが、NISA口座なら非課税になるため、上の例では配当金1万円全額、譲渡益30万円全額を受け取ることが可能。
このように税制優遇によって大きな節税効果を得られるのが、NISAを利用する最大のメリットです。
NISA(一般NISA)・つみたてNISA・ジュニアNISAの3種類
冒頭で述べたようにNISAには3種類の制度があり、非課税となる期間や投資の上限額、利用するメリットが異なります。
簡単に言うと、日本に住む成人は「一般NISA」か「つみたてNISA」のどちらか一つを選択して利用できます。一方で「ジュニアNISA」は、19歳以下の未成年者のために投資する場合の制度です。
そこで次に、それぞれの制度につき特徴を詳しく解説していきます。どのNISAがご自身に最適か判断するための参考にしてください。
NISAの比較表:
一般NISA | つみたてNISA | ジュニアNISA | |
---|---|---|---|
対象者 | 日本国内に在住の、口座を開設する年の1月1日時点で満20歳以上の方 | 日本国内に在住の、口座を開設する年の1月1日時点で満20歳以上の方 | 日本国内に在住の、口座を開設する年の1月1日時点で0~19歳の方 |
年間非課税投資枠 | ~120万円 | ~40万円 | ~80万円 |
非課税となる期間 | 最長5年間 | 最長20年間 | 最長5年間 |
口座開設期間 | 2023年開始分まで | 2037年開始分まで | 2023年まで |
投資方法 | 一括投資/積立投資 | 積立投資 | 一括投資/積立投資 |
非課税対象商品 | 株式・投資信託等 | 国が定めた基準を満たした投資信託 | 株式・投資信託等 |
運用口座の管理者 | 口座名義人 | 口座名義人 | 法定代理人(両親・祖父母等) |
ロールオーバー | 可 | 不可 | 可 |
金融機関変更 | 各年ごとに変更可能 | 各年ごとに変更可能 | 原則変更不可 |
資産の途中売却 | いつでも可能 | いつでも可能 | 18歳まで払出し制限あり |
NISA(一般NISA)
一般NISAは、節税しつつ豊富な金融商品から投資対象を選びたい方や、一括でのスポット投資をしたい方向きのNISA制度です。メリットは購入や払出しが自由にできること、上場株式(国内/国外)、ETF(上場投資信託)、投資信託を中心とした豊富な金融商品から選べること等。
ただし手続きや税制のしくみが少し複雑なため、開始に当たってある程度の投資経験があった方が安心です。
配当金・分配金・譲渡益が非課税になる期間は5年で、非課税期間終了時には「課税口座へ移管」「ロールオーバー」「資産を売却」という3つの選択肢があります。
ロールオーバーとは、翌年の非課税投資枠に移管して非課税投資を継続することです。
非課税期間終了時のロールオーバーは、金額に上限がありません。期間終了時の時価合計額が翌年の非課税投資枠(現行NISAであれば120万円)を超えた場合でも全額を移行できます。なお、一般NISAからつみたてNISAへのロールオーバーはできません。
非課税になる対象は一般NISA口座で「新たに」購入した商品で、既に特定口座・一般口座といった課税口座で保有している商品を一般NISA口座に移管することはできません。
また、金融機関の変更は一般的に1年単位で可能ですが、開設済みのNISA口座で既に金融商品を購入している場合、同じ年に金融機関を変更することはできません。
つみたてNISA
つみたてNISAは、特に長期・積立・分散投資を促進するための非課税制度です。100円など少額から始められ、長期間にわたって非課税で資産運用できるのが特徴。
「投資対象をどう選べばいいかわからない」「手間をかけずに元本割れリスクを抑えた投資がしたい」という投資初心者に向いています。
投資対象は投資信託のみでラインナップも限定的、一般NISAのような豊富な選択肢はありません。これは、長期・積立・分散投資に向いている少数の投資信託のみに投資対象を絞っているためです。
例えば、「販売手数料が0円」「信託報酬(運用管理費)が低い」といった条件が設定されており、これにより投資の知識がなくてもリスクを抑えて資産運用できる環境が整えられています。また、投資の開始時期さえ選べば、その先は自動で資産運用できるため、取引の手間もかかりません。
1年間の非課税投資枠は40万円と一般NISAに比べて少額ですが、非課税期間は最長20年と一般NISAの4倍。20年間の非課税期間終了時には、NISA口座以外の課税口座へ自動的に移管されます。ただし、一般NISAのように、翌年の非課税投資枠に移管するロールオーバーはできません。
ちなみに、1年単位でNISA口座内でつみたてNISAと一般NISAを変更することが可能です。
ただし、既につみたてNISA口座内で投資信託を購入している場合、同じ年に一般NISAへの変更や金融機関の変更はできないため注意しましょう。
ジュニアNISA
ジュニアNISAは未成年者向けの税制優遇措置で、運用・管理は原則として親権者や祖父母が代理で行います。子供のための資産運用をしたい人に向いている制度です。
大学進学時の教育資金のため、結婚・留学の準備金として、または子供に経済への関心を持たせるきっかけとしても利用されています。
ジュニアNISAで取引できる主な金融商品は、株式投資信託・国内株式・海外株式・ETF・ETN(上場投資証券)など。多様な選択肢から選べはするものの、払出しの制限が厳しく未成年者が保有するため、つみたてNISAのような低リスク商品がおすすめです。
未成年者の将来に向けた資産形成が主な目的なため、口座名義人が18歳になるまでは非課税での払出しはできません。18歳になるまでに払出しを行う場合は、過去の全ての取引による利益に対して課税され、ジュニアNISA口座を廃止する必要があります。災害等やむを得ない事由がある場合は非課税で払出しできますが、その場合でもNISA口座は廃止されます。
また一般・つみたてNISAとは異なり、ジュニアNISAでは原則として金融機関の変更ができません。例外として、既存のジュニアNISA口座を廃止した場合には別の金融機関で再開設ができます。
ジュニアNISAは、一般NISAのように延長されることなく2023年末で終了する制度です。
そのため、制度終了時点で口座名義人が20歳を迎える場合・20歳を迎えない場合でその後の選択肢が異なる点に注意しましょう。
制度終了前に口座名義人が20歳を迎える場合、20歳になる年に自動で開設されるNISA口座にジュニアNISA口座内の資産を移管することができます。他には、資産の売却・課税口座への移管も可能。
2023年の制度終了時点で口座名義人が20歳を迎えない場合は、20歳になるまで非課税で資産を保有できる「継続管理勘定」に移管(ロールオーバーの一種)できます。ロールオーバーできる金額に上限はありませんが、継続管理勘定で新規の買付はできません。
この場合も、継続管理勘定へ移管せず、売却・課税口座へ移管することも選択肢です。
恒久化と拡充へ
2022年12月16日付の「税制改正大綱」で、上記のNISA制度について、恒久化と拡充を行うことが発表されました。国の「資産所得倍増プラン」の実現に向け、「貯蓄から投資へ」の流れを加速し、中間層を中心とする人々が幅広く資本市場に参加することを通じて、成長の果実を享受できる環境を整備することが目的です。
若年期から高齢期まで、長期・積立・分散投資による継続的な資産形成を行えるように、非課税保有期間を無期限化。そして、口座開設可能期間についても期限を設けず、NISAを恒久的な措置にします。これらの新制度は、2024年1月に開始する予定です。
NISAの種類における今回の変更点は、以下の通りです。
- つみたてNISA:名称は変えずに継続
- 一般NISA:「成長投資枠」と名称を変えて継続
今回のルールが開始すると、一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資のつみたて投資枠では、年間投資上限額が現水準の年40万円から3倍になり、120万円まで拡充されます。
そして、一般NISAの代わりに成長投資枠を新たに導入。成長投資枠はつみたて投資枠と併用が可能です。成長投資枠の年間投資上限額は240万円に拡充。一般NISAの現水準である120万円の2倍になります。
これで、2つ合わせた年間投資上限額は合計360万円になり、NISAのモデルである英ISAを上回る規模を実現します。
なお、投資余力が大きい高所得者層を際限なく優遇することを避けるために、年間投資上限額とは別に、一生涯にわたる非課税限度額を設定。総額は、老後などに備えた十分な資産形成を可能とする観点から、現行のつみたてNISAの水準「800万円」から倍以上増加する1,800万円に設定します。
また、成長投資枠については、その内数として現行の一般NISAの水準「600 万円」の2倍となる1,200万円とします。
現行の一般NISAとつみたてNISAは、2023年末で買付終了となりますが、非課税口座内にある商品については、新しい制度における非課税限度額の外枠で、現行の取り扱いを継続するとしています。
NISA口座で上手く資産運用する方法
実際に資産を運用するにあたって元本割れ(購入価格を市場価格が下回ること)のリスクを抑えるには、リスクヘッジを念頭にした運用が大前提です。
どのNISAがご自身に向いているか把握できたところで、次にNISA口座利用のメリットを最大化するためのテクニックをご紹介します。
少額資金で大きな利益を狙う積立投資
まず、NISA口座では「積立投資」を積極的に活用することで、少額資金で安定的な利益獲得が狙えます。積立投資とは、定期的に一定額の投資信託を自動購入する投資方法。自動購入のため毎回の取引が不要で、短期的な相場に左右されない安定した資産運用が可能です。
上手に積立投資をする上で知っておくべきルールは2つ。「ドルコスト平均法を実践すること」と「長期間継続的な購入を続けること」です。
ドルコスト平均法とは、定期的に一定額で商品を購入し続けることで価格変動のリスクを低減するテクニック。「定量」ではなく「定額」での購入になるよう設定することで価格変動が起きた際、標準価格より値上がりしている相場では購入する口数が自動的に減り、値下がりしている相場では購入する口数が自動的に増えます。結果、「高値で購入しすぎてしまう」「安値で購入しない」といった初心者にありがちなミスを防ぐことが可能です。
さらに積立投資では、受け取らない分配金は元本に積み増しされていく仕組み。そのため投資期間が長くなるほど、運用で得た利益がさらに運用されることで利益が増幅していく「複利効果」の恩恵を受けやすくなります。
NISAは少額からコツコツと投資でき、投資上限額内であれば投資回数に制限はありません。そのため、積立投資によるリスク分散と非常に相性の良い制度と言えるでしょう。
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リスク回避しながら利益を狙う分散投資
前述した積立投資は、投資するタイミングや期間といった「時間」を分散することで変動リスクを減らす投資手法でした。他にも分散投資として、複数の金融商品へ投資し投資先を分散することで、さらに資産の安定性を上げることができます。
NISAでは投資上限額内であれば購入商品数の制限もないため、複数の商品や複数の地域に少額ずつ投資してリスクの分散が図れます。例えば国内株式だけでなく海外株式、投資信託等に分散して投資する事で、損失分を他の商品の利益でカバーしやすくなるのです。
この点一般NISAでは、何千といった金融商品の選択肢から複数の投資先を選ぶことが可能。
つみたてNISAでも、金融商品の選択肢自体は少ないですが、1本で世界中の株式・債券など幅広い資産へ投資が行えるリスク分散に特化した商品があります。
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NISA口座における注意点
税制優遇措置で投資のハードルを下げてくれるNISAですが、優遇があるからこそ一般的な投資とは異なるルールが定められ、利用枠が制限されています。そこで、NISA口座を開設する前に主な注意点を把握しておきましょう。
年間120万円までしか金融商品を購入できない
一般NISAでは、1年につき120万円(5年で最大600万円)が非課税投資枠の上限です。
また、その非課税投資枠は再利用不可。例えばNISA口座で買い付けた資産を売却した場合、その年はその売却分の非課税投資枠は使えなくなります。そのため、NISA口座は頻繁に売買することが前提の短期トレードには向いていません。
さらに、その年に使いきれなかった非課税投資枠を翌年に繰り越して使うことも不可。
例えば120万円の投資枠のうち100万円分しか金融商品を購入しなかった場合でも、未使用の20万円分で翌年の非課税投資枠を140万円に拡張することはできません。
選べる金融商品(投資対象)には制限も
NISA口座で買付できる金融商品の種類に制限があることは前述したとおりですが、NISA口座が「非課税口座」に分類されるがゆえの制限もあります。
例えば、通常の課税口座では株式等の証拠金(代用有価証券)を担保として証券会社に預けることで、証拠金の約3.3倍までの金額で取引できる「レバレッジ」という仕組みがあります。
しかしNISA口座で保有している株式等は信用取引における証拠金として利用することはできません。
また、NISA口座では利益が非課税になるため、複数の投資口座で利益・損失を相殺して利益への課税を減らせる「損益通算」など税負担を軽減する制度の適用範囲外です。
原則1人につき1口座まで
NISA口座は原則として1人につき1口座しか利用できません。一般NISAとつみたてNISAは選択制で、同じ年に両方の税制優遇措置の適用を受けることはできず、1人につきどちらか1種類に限って利用可能です。
また、ジュニアNISA口座も未成年者1人につき1口座のみ開設できます。複数の金融機関でNISA口座を持っていても買付できるのは1つのNISA口座のみで、金融機関の変更後、変更前のNISA口座では追加の買付が利用できなくなります。
このようにNISA口座では、利益が非課税になる一方で利用にあたっての制限も少なくありません。しかし、この制限は120万円以上の資金で自由に資産運用をしたい投資経験者でない限り、基本的に問題にはなりません。
NISA口座が開設できるおすすめネット証券
NISA口座を開設するにあたっては、証券会社選びも非常に重要です。信頼でき手取り扱い銘柄が多く、お得に利用できることが条件です。そこで、NISA口座を開設できるおすすめのネット証券を厳選して2社ご紹介します。
SBI証券
SBI証券はネット証券の最大手で、SBIホールディングス株式会社の100%出資子会社。
NISA口座開設数がネット証券で断トツの180万口座超という最大手のネット証券で、信頼と実績が豊富なため初心者でも安心して資産運用を始められます。
外国株式の取扱国数も「9か国」と、主要ネット証券で最多。
SBI証券のNISA口座は国内株式・投資信託・外国株式の手数料が原則0円と業界最低水準で
「100円」というとりわけ少額から投資をスタートできるのも魅力です。
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楽天証券
楽天証券のNISA口座なら、楽天サービスの利用によって貯まる「楽天ポイント」を使ってNISA口座内で買付ができます。
また、投資信託では積立の引落時に「楽天カード」で払うと積立金額100円につき1ポイントが還元される等、楽天グループならではのサービスが充実。
豊富な金融商品のラインナップが魅力で、一般NISAでは2610本以上の投資信託、約4000銘柄の米国株式等から選択できます。
さらに、口座開設料・管理料、国内株式の売買手数料、投資信託の買付手数料が全て0円。お得な手数料で利用できるのも特徴のネット証券です。
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将来の貯蓄のためにNISA口座で資産運用
将来のライフプランを考えるとき、避けられないのが「お金の不安」です。現代社会は変化が目まぐるしく、5年先に何が起きているかすら誰にも予測できません。そういった未知に対応するには、確かな備えが必要です。
NISAは、難しい投資の知識がなくても元本割れのリスクを抑えつつ堅実な資産運用ができる「備え」に最適な選択肢。将来の不確定要素から自分や家族を守るため、NISAで今から資産形成を始めましょう。
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