CoinPostで今最も読まれています

「仮想通貨価格の上昇傾向がマイナーの参入が進む」という洞察は誤り|スタンフォード大レポートで指摘

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

「仮想通貨価格の上昇傾向がマイナーの参入が進む」という洞察は誤り
仮想通貨市場の高いボラティリティは、決済手段の深刻な障害となる一方、ASICの価値低下を招く政策や仕様変更は、マイナーが否決する可能性があるとした。それはなぜか?レポートが公開へ。

「仮想通貨価格の上昇傾向がマイナーの参入が進む」という洞察は誤り

スタンフォード大経済学部の野田 俊也氏と、Blockchain技術に特化した国内屈指のコンサルタントであるBUIDLの橋本 欣典氏が、「マイニング ASIC 機材投資とコールオプションの無裁定原理について」というレポートを公開した。

ビットコインマイニングなどで使用されるプルーフ・オブ・ワーク・システム(PoW)を使用した「ASICマシン」の理論的な適正価格を算出し、仮想通貨の金融資産としての性質と、マイナーの長期的な投資のインセンティブの関係性を分析したという。

マイニング事業に参入するインセンティブが、市場のインプライドボラティリティ、つまり「将来の市場の変動率(ボラティリティ)を予測した指標」に強く影響を受けることを示している。

仮定として、マイニング用のASICマシンでは、1銘柄のPoW型の仮想通貨の採掘しかできず、市場価格の推移とは独立して全体としてのハッシュパワーが増加し、特定の主体の行動が市場には影響を与えないものとした。

同レポートでは、「この仮定のもとで、マイニングASICからの収益は、原資産(採掘を行う仮想通貨)のヨーロピアン型コールオプションの無限和と一致する。」と指摘。以下のように解説する。

さらに、分析対象とする仮想貨は十分な流動性があり、市場を完備をみなせると仮定すれば、マイニングASICと等価な収益をもたらすポートフォリオは、市場で複製可能となり、このとき、唯一に定まるリスク中立確率測度(金融工学などにおいて、金融資産の理論的な価格を決定するために用いられる仮想上の確率)のもと、オプション費用は一意に定まる。

このオプション費用を、マイニングASICの理論的な適正価格とみなすことができる。

マイニングの損益分岐点とBTC価格

主要マイナーの「想定損益分岐点」と、仮想通貨価格(大底圏)の相関性については、アナリストによる仮想通貨市況予想でも度々取り沙汰されているが、ビットコイン相場の上値が重くなる要因として挙げられるのが、ビットコインハッシュレートの状況である。

Bitcoinwisdomが提供するチャートで確認すると、1月14日時点のビットコインのハッシュレートが、直前のBTCのデフィカルティ(難易度)調整されてから大幅下落に転じている。

出典:bitcoinwisdom

実際のビットコイン価格と比較した場合、昨年12月3日と20日共にBTC価格が474,000円付近で推移しており、1月14日時点の400,000円付近から7.4万円ほど高い水準であることがわかった。

デフィカルティ(難易度)調整は、それまでのハッシュレート推移の影響により、かなり高い水準で設定されており、これら2日と比較しても、マイナー撤退ラインの危惧や、それに伴うハッシュレートの下落、およびBTC価格への売り圧力を示唆している。

出典:bitcoinwisdom

オプション取引とは

オプション取引とは、「将来の売買を約束する権利」のことで、あらかじめ決めた行使価格で商品を買う権利をコールオプションと呼ぶ。将来の価格上昇を見越して、現在価格で購入できる権利を先に買っておくものだ。売買時の市場価格が行使価格を下回った場合、権利を放棄することができる。

アメリカン型とヨーロピアン型には、以下のような違いがある。

アメリカン型コールオプション

オプションの満期前、いつでも権利行使ができる

ヨーロピアン型コールオプション

オプションの満期日のみ、権利行使ができる

(その代わり、アメリカン型よりも割安)

なお、日本では、日経225オプションではヨーロピアン・タイプを採用、先物オプションではアメリカン・タイプを採用している。

マイナーの投資インセンティブとの関係性

ASICマシンへの投資から得られるキャッシュフローの現在価値は、

  • 参入時点の仮想通貨価格
  • 仮想通貨価格のインプライドボラティリティ
  • 無リスク金利
  • マイニング報酬
  • ハッシュパワーのシェアおよびその推移
  • 電気代から算出されたパラメータ

を用いて算出可能だとし、コールオプションの現在価値とほぼ同様の性質を持つとしている。

レポートでは、このオプション取引の性質を元に、PoW型のブロックチェーンにおいて「セキュリティの維持、および運営方針の決定に関して、極めて重要な役割を持つ」と言及。マイナーの長期的な投資インセンティブの関係性について、以下のように導き出した。

「コールオプション」の価格は、長期的なトレンドに対して反応しないことから、ASICの価値も仮想通貨価格の長期的なトレンドには依存しない。

一方で、コールオプションは、原資産価格が下落したときに、その損失を被らなくてよいという点で、原資産を直接保持するよりも有利な金融資産なので、原資産のボラティリティが高いと、コールオプションの価値は増す。

ゆえに、すでにマイニングASIC機材を保有しているマイナーたちは、仮想通貨価格のボラティリティが高いほうがより高い利益を得ることができる。

PoWはマイナーの合意によって仕様変更が行われるか否かが決まるため、ASICに多額の資金を投じるマイナーには、事実上、強力な議決権を有していることと同義だとした。

株式市場など他の金融資産と比較して、仮想通貨の価格のボラティリティは極めて高いが、ボラティリティの低下は、ASICマシンの価値低下につながりかねず、すでにASICマシンに多額の投資を行うマイナーが、仕様変更を否決する可能性があるとしている。

今回の考察で、ASICマシンの現在価値との長期的な仮想通貨市況の相関性を否定。現実のマイナーのインセンティブ構造はさらに複雑であり、未解明の点が多いと前置きしつつ、以下のように結論付けている。

仮想通貨の価格が上昇傾向にあるからマイナーの参入が進むという洞察は誤りであり、長期的なトレンドとASICの現在価値は無関係である。

一方で、ASICの現在価値は、直観に反し、仮想通貨価格のボラティリティに関して増加である。

これは、仮想通貨価格が下落したときにはASICを停止させれば変動費用を支払う必要はないため、マイナーはボラティリティが上がり、仮想通貨価格が高まって高いマイニング報酬が得られる状況が増えることを望むためである。

レポート全文はこちらから読むことができます。 素晴らしい内容のため、是非お読みください。

マイニング ASIC 機材投資とコールオプションの無裁定原理について

CoinPost App DL
注目・速報 相場分析 動画解説 新着一覧
05/04 土曜日
10:00
「ソラナは第3の主要仮想通貨になる」フランクリン・テンプルトン見解
フランクリン・テンプルトンは、仮想通貨ソラナについてのレポートを発表。ビットコインとイーサリアムに続く第三の主要トークンになるとしている。
09:00
M・セイラー氏、ETHやSOLは有価証券であると主張
仮想通貨ビットコインを大量保有するマイクロストラテジーのマイケル・セイラー会長は、イーサリアムなどのアルトコインは証券に該当すると主張。それらの銘柄の現物ETFは米国で承認されないだろうと述べている。
07:50
GBTCに約100億円の資金、1月デビュー以来初の純流入 
GBTCはローンチ以来78日連続ですべて純流出だったが、今回はデビュー以来初の純流入となった。
06:30
米4月予想外の失業率上昇、ビットコイン63000ドル台回復
仮想通貨ビットコインは4日、米国の4月雇用統計結果が予想を下回ったことでドル安が進行し、NYダウなどの主要株価指数の上昇に連動して63,000ドルの大台を回復した。
05/03 金曜日
16:00
FSL開発の次世代ブロックチェーンMMOゲーム「Gas Hero」とは
Gas Hero(ガスヒーロー)とは、日本でもブームになったフィットネスアプリ「STEPN」を生み出したFind Satoshi Lab(FSL)が開発・運営し、2024年1月3日にリリースされたNFTゲームです。エコシステムの暗号資産(仮想通貨)はGMTを基盤としています。
15:00
コインベースQ1決算報告、総収益は前期比72%増の2500億円
米大手仮想通貨取引所コインベースは、2024年第1四半期(1月~3月)の決算報告書を公開。総収益は前期比72%増の16億3,700万ドル(2,507億円)で、前年同期の7億7,200万ドルと比較すると2.12倍と好調な滑り出しとなった。
14:20
金融大手BNPパリバ、ブラックロックのビットコイン現物ETFへの投資が判明
金融大手BNPパリバがブラックロックのビットコイン現物ETFを購入していたことが分かった。ブラックロックは今後新たな流入の波を予測している。
12:00
ビットコインおすすめ取引所、手数料・スプレッド・積立・レンディング機能など徹底比較
暗号資産(仮想通貨)ビットコインの売買や送金におすすめの国内取引所について、メリットとデメリットを徹底比較。手数料・スプレッド・送金速度、セキュリティ、積立・レンディング機能などを調査しました
09:50
ソラナのゲームプラットフォーム「GameShift」、グーグルクラウドと提携
仮想通貨ソラナの開発を行うソラナラボは、独自Web3ゲームプラットフォーム「GameShift」とグーグルクラウドの提携を発表した。
05/02 木曜日
18:20
米マイクロストラテジー、ビットコイン利用の分散型IDを発表
米マイクロストラテジーは、ビットコインのチェーン上に構築された、企業向けの分散型IDプラットフォーム「MicroStrategy Orange」を発表した。
14:00
米検察、ビットコイン売買のCashApp運営企業Blockを捜査か
ツイッター(現X)の共同創業者ジャック・ドーシー氏が立ち上げた金融テクノロジー企業Block Inc.が、コンプライアンス違反で米連邦検察当局からの捜査を受けていることが、米NBCニュースの報道から明らかになった。
13:00
「マイニング事業者の降伏迫る可能性」The Bitcoin Layer分析
ビットコインリサーチ企業The Bitcoin Layerは、ビットコイン価格下落などにより、マイニング事業者の利益が深刻に圧迫されていると分析した。
11:00
ビットコイン、BitVMXで高度なアプリ開発を実現へ
仮想通貨ビットコインのブロックチェーン上で高度なアプリ開発を実現する「BitVMX」がホワイトペーパーを公開。BitVMXは早ければ1年後にもローンチされる可能性がある。
10:00
「ビットコインは2030年までに6億円に」ARKウッドCEO
ARK Investmentのキャシー・ウッドCEOは、仮想通貨ビットコインが今後2030年までに約5.9億円に達する可能性があるとの強気予測を披露した。
08:25
ブラックロック、Securitizeの73億円調達を主導
ブラックロックは今回の出資でSecuritizeの提携関係を強化していく格好だ。ブラックロックの他、オルタナティブ投資管理会社のHamilton Lane、ParaFi・キャピタル、Tradewebマーケッツもこのラウンドに参加した。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア