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機関投資家と仮想通貨ETF、米国の教訓と日本の展望|WebX2026

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

WebX 2026 | セッションレポート

機関投資家と仮想通貨ETF、米国の教訓と日本の展望

Katherine Dowling × Giselle Lai × John D’Agostino × 東條 健

米国でビットコイン現物ETFが承認されてから約2年半が経過した。機関投資家の参入はどこまで進み、何が変わったのか。WebX 2026では、ビットコイン現物ETFの立ち上げに深く携わったダウリング氏(ビットコイン・スタンダード・トレジャリー・カンパニー社長)、フィデリティ・インターナショナルのライ氏、コインベースのダゴスティーノ氏、ブラックロック・ジャパンの東條氏が登壇。米国の経験から得られた教訓と、仮想通貨ETF解禁が期待される日本市場の展望を多角的に論じた。
Katherine Dowling

Katherine Dowling

ビットコイン・スタンダード・トレジャリー・カンパニー
President and Board Director

ビットコイン・スタンダード・トレジャリー・カンパニーの社長兼取締役。前職のビットワイズ・アセット・マネジメントではエグゼクティブ委員会メンバーとしてゼネラル・カウンセル・CCOを歴任し、ビットコイン現物ETFとイーサリアム現物ETFの立ち上げを主導。米国連邦検察官として金融犯罪を担当した経歴も持つ。

Giselle Lai

Giselle Lai

フィデリティ・インターナショナル
Director, Digital Assets Strategist, APAC

フィデリティ・インターナショナルのAPACデジタル資産ストラテジスト。フィデリティは2014年にビットコイン調査を開始し、2015年から自社マイニングを開始するなど、デジタル資産カストディの技術開発を業界内でいち早く推進してきた。

John D'Agostino

John D’Agostino

コインベース
Head of Strategy

コインベース・インスティテューショナルの戦略責任者。以前はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)でストラテジーを担当し、フロア取引(オープンアウトクライ)の電子化プロジェクトに従事した経歴を持つ。

東條 健

東條 健

ブラックロック・ジャパン株式会社
ディレクター

日本におけるiShares ETFのプロダクト責任者として、ETFの商品企画・開発を担う。海外上場および東証上場ETFのプロモーションも統括する。

アリス・フレンチ

アリス・フレンチ

モデレーター
ブルームバーグ 記者

ブルームバーグの記者。金融規制・デジタル資産分野を中心に取材・報道を担当する。


ETFが変えた機関投資家の景色

ビットコイン現物ETFの登場が機関投資家の需要構造をどう変えたか、フレンチ氏が問いを投げると、ライ氏は「アクセス、受容、配分」という3段階の枠組みで変化を整理した。
Giselle Lai
ビットコイン現物ETFの登場以前、機関投資家は仮想通貨へのアクセスにさまざまな摩擦を抱えていた。ETFはその障壁を大幅に取り除いた。かつて議論の中心は「安全にビットコインにアクセスできるか」だったものが、今は「どうゼロから配分を組み立てるか」という問いに移っている。伝統的資産との相関が低い資産クラスとして、ポートフォリオ構築の文脈でビットコインが語られるようになってきた。
教育の面でも変化は顕著だ。ビットコイン現物ETFに投資する機関の数は過去2年間で約2倍となり、現在は約2,400の組織が保有するに至っている。機関投資家がこの資産クラスへの入口として仮想通貨ETFを積極的に活用しているあらわれだ。
東條 健
ブラックロックが米国で運用するデジタル資産ETFのうち、機関投資家の保有比率は約25%に上る。機関投資家は一般にポートフォリオの1〜3%程度を仮想通貨に配分しており、分散投資が主な目的だ。
注目すべきは価格変動期の挙動だ。ビットコインが直近高値から約50%、イーサリアムが約60%下落した局面でも、ETFの残高口数はわずか9%しか減少しなかった。この数字は「ETF投資家がこれらの商品を分散投資ツールとして長期視点で保有している」ことを示している。
補足:ブラックロックのiShares ビットコイン現物ETF(IBIT)のAUMは約460億ドル(約7兆円)規模に達している。ライ氏はIBITを「この資産クラスの規模感を示す指標の一つ」として言及した。

機関投資家が直面する3つのリスク

仮想通貨ETFへの参入を検討する機関投資家が必ず直面する課題について、ライ氏が3つの観点から整理した。
Giselle Lai
第一に市場リスク。ビットコインをはじめとする仮想通貨はボラティリティが高く、現物ETFはその値動きに直接連動する。「投資に無料の昼食はない」と前置きしつつも、小さな配分でポートフォリオのリスク調整後リターンを高められる可能性があることを示した。
第二に技術リスク。スマートコントラクトはコードで構築されており固有のリスクを持つが、ETF形式はこのリスク管理を資産運用会社とカストディアンに委託する構造のため、直接保有に比べて大幅に軽減できる。ただし、カストディアンによって資産保全の手法や保険の内容が異なるため、どの運用会社・カストディアンを採用するかが重要な判断基準となる。
第三に規制リスク。各国の規制整備は依然として不均一であり、機関投資家は各地域の規制動向を注視し、変化に対応できる体制を整える必要がある。

承認プロセスの教訓と日本への示唆

米国でのETF立ち上げで得た知見を問われたダウリング氏は、承認プロセスの苦難と解禁後の劇的な変化を率直に語った。
Katherine Dowling
ビットワイズ在籍時、ゲンスラー体制下のSEC(米証券取引委員会)は極めて非友好的な姿勢を取り続け、当社は約500ページに及ぶ調査資料を提出したにもかかわらず、要求事項は常に変わり続けた。最終的には訴訟によってSECが承認に動かざるを得ない状況となった。「苦痛を伴う長い道のりだった」と振り返る一方、承認後の展開は一変したと強調した。
ビットコイン現物ETFの立ち上げは史上最も成功したETFの一つとなった。SECのお墨付きを得たことで、米国の個人資産の大部分を管理するファイナンシャル・アドバイザーが、規制された枠組みの中でクライアントへのビットコイン・エクスポージャーを提供できるようになった。この「効率性の解放」が巨額の資金流入を呼び、その後エコシステムはオプション取引やステーキングの組み込みへとさらに発展していった。
補足:日本では2026年6月、金融商品取引法(金商法)を改正する法案が衆議院を通過した。仮想通貨を株式・債券と同様の「金融商品」として位置づける枠組みへの移行が予定されており、参議院での可決・施行後(2027年頃の見込み)に仮想通貨ETFの上場解禁が期待されている。あわせて、仮想通貨の利益に対する課税が現行の総合課税(最高約55%)から申告分離課税20%に移行する税制改正も予定されており、施行は2028年1月1日を見込む。
Katherine Dowling
日本の税制改革には特筆すべき点がある。最高約55%から20%の申告分離課税への移行により、日本はビットコイン投資の税制面で米国より有利な環境になる。機関投資家だけでなく個人投資家にとっても大きな意味を持つ変化だ。「仮想通貨ETF解禁後の日本での展開は注目すべき道のりになる」と述べた。
東條 健
仮想通貨ETFの東証上場は2028年頃という業界の概ねの見方を共有しつつ、日本が先行市場の経験から学べる有利な立場にあることを強調した。米国でのデータとして、ビットコイン現物ETF保有者の75%が「初めてETFに投資した」と回答し、そのうち約27%がその後に他のiShares ETFにも追加投資したと紹介した。「仮想通貨ETFはデジタル資産に関心を持つ層と伝統的な金融商品をつなぐ橋渡し役を果たした。日本でも同様の効果が期待できる」と語った。
ブラックロックとしての推奨配分は「デジタル資産への1〜2%程度」。この水準がリスク調整後リターンを高める”スイートスポット”であり、2%を超えると分散効果が薄れ始めるという。「製品の立ち上げ自体は比較的容易な部分。本当に難しいのは、投資家が機会とリスクの両方を正しく理解できるよう支援することだ」と訴えた。

ビットコイン現物ETF以外への展開

ビットコイン現物ETFが圧倒的な成功を収めた一方、他のデジタル資産へのETF展開については慎重な見方が示された。
Katherine Dowling
ビットコイン現物ETFが集めた資金と機関投資家の関心は、他のトークンのETFとは比較にならない水準だ。イーサリアム現物ETFについては、当初ステーキング機能を組み込むことができなかったが、規制当局との協議を経て現在は組み込み可能となり、リターン面での訴求力が加わったと評価した。
ビットコインとイーサリアムを超えた資産クラスへの機関投資家の関心は大きく落ち込む。機関投資家は「ユースケースの実証とプロジェクトの持続性」を見極めるまで動かない傾向がある。日本での展開においても、まずビットコイン現物ETFから始め、信頼と実績を積み重ねていくことが現実的なアプローチだと示唆した。

ETFとトークン化の共存

セッション後半、仮想通貨ETFとRWA(実物資産のトークン化)の関係が議題となった。ダゴスティーノ氏が独自の視点を展開した。
John D’Agostino
現在の金融市場インフラは実際によく機能している。しかしそこにはプログラマビリティとブロックチェーン活用によって10〜30倍の規模拡大余地がある。この移行を実現するカギは「橋の比喩」に集約される。老朽化した橋(従来の金融システム)を壊して不便を強いるのではなく、その隣に新しい橋(トークン化・オンチェーン)を架ける。初めは誰も新しい橋を渡らないが、はるかに速く、安く、優れた体験を提供できれば、やがて人々は自然と移行し始める。
ニューヨーク・マーカンタイル取引所でオープンアウトクライを電子取引へ移行させた自身の経験を引き合いに出し、「変化への抵抗は常にあった。しかし電子化によってシステムの規模は劇的に拡大した。今の金融市場はその次の移行期にある」と述べた。現在、主要な取引所や金融機関の多くがブロックチェーンベースの取引実験を時間外または並行稼働で進めており、古い橋を壊さずに新しい橋を架けるアプローチを取っている。
「トークン化をギミックとして捉えるのを止めなければならない。人々が本当に必要とする良質な製品として提供される必要がある。そのためには、既存の仕組みが十分に機能しているにもかかわらず、あえてオンチェーンを選ぶ勇気を持つプレーヤーが必要だ」と強調した。

セッション総括

東條氏はセッションを振り返り、日本が米国や世界市場の先行事例から学べる優位な立場にある点を改めて強調した。
「製品を作ること自体は比較的容易な部分。本当に難しいのは、投資家が機会とリスクの両方を正しく理解できるよう支援することだ」と語り、解禁後の教育の重要性を訴えた。
仮想通貨ETFの日本上場が近づく中、米国の成功と苦難の両面を持つ経験は、日本市場の設計者にとって貴重な先例となる。
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