WebX 2026 | セッションレポート
a16zポートフォリオ3社が示すWeb3の次の一手
アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の投資先であるナンセン、ジト・ファンデーション、カントン・ファンデーション。Web3の異なるレイヤーで事業を展開する3社がWebX 2026に集結し、AIエージェントが変えるトレードの未来、ソラナ上での市場インフラ構築、機関投資家のオンチェーン移行の本質、そして日本市場の可能性を語り合った。
登壇者プロフィール
ナンセンのCEO兼共同創業者。「スマートマネーが何をオンチェーンで動かしているかを可視化する」オンチェーン分析から、AIエージェントによる取引執行まで提供するフルスタック取引プラットフォームへと事業を発展させてきた。a16zが設立当初から支援する。
ジト・ファンデーションのAPAC責任者。ジトはソラナのバリデーターインフラ構築から始まり、リキッドステーキングトークンjitoSOL、ブロック・アセンブリー・マーケットプレイス(BAM)、そして取引プラットフォームJTXまでを手がけるソラナの基幹プロトコル。
カントン・ファンデーションのAPAC責任者。カントン・ネットワークはDTCC、JPモルガン、HSBCなど700以上の機関が参加する機関投資家向けのブロックチェーン・インフラ。デジタル・アセット社が開発し、a16zが主導した3億5,500万ドルの資金調達ラウンドで注目を集めた。
a16zのアジア太平洋部門責任者。同ファンドが保有するポートフォリオ企業のアジア太平洋市場への参入を支援する役割を担う。
AIエージェントとトレードの新時代
AIエージェントはトレードの在り方をどう変えるか。パーク氏がナンセンのスヴァネヴィク氏に問いを投げた。
Alex Svanevik
トレードの歴史的な変化が起きている。かつてはターミナルやスワップUIなどの従来型インターフェースで取引するのが当然だったが、今は「エージェントと会話しながらトレードする」スタイルへの移行が始まっている。数カ月以内に、エージェントがユーザーに代わって自律的に取引を実行するのが一般的になると見ている。
この変化が最も恩恵をもたらすのはリテール(個人)投資家だ。大手ヘッジファンドには100人規模の専門リサーチャーが存在するが、フロンティアモデルやオープンウェイトモデルの能力を活用すれば、個人投資家も同等のリサーチ能力を持てるようになる。「投資や取引に関して、エンジニアリングやコーディングの世界で起きたのと似た革命が起きる」と語った。
Alex Svanevik
ブロックチェーン上でのエージェント取引には2つの構造的な利点がある。第一に、ブロックチェーンはパーミッションレスのため実験の自由度が高い。第二に、透明性があるためエージェントが他のエージェントや人間の動きをオンチェーンで観察できる。さらに24時間365日稼働しているブロックチェーンは「眠らないエージェント」との相性が本質的に優れている。
地域別の傾向についても見解を示した。調査データを見ると、アジアでは総じてAIへの評価が高く、欧米に多い懐疑論とは対照的だ。「2020年のDeFiパイオニアと、今のエージェントAIのパイオニアは同じ人たちであることが多い。好奇心旺盛でリスクを取る人々が両方の世界を引っ張っている」と述べ、アジアがAI活用において先行できる優位性を指摘した。
ナンセンが描くオンチェーン取引の全貌
ナンセンがこの変化の中でどのポジションを取るかについて、スヴァネヴィク氏が2つのアプローチを示した。
Alex Svanevik
一つ目はエージェント向けツールキットの提供だ。API、MCP、CLIを通じて、Claude、OpenAIのモデルなどの上で動く自分のエージェントにナンセンのオンチェーンデータを組み込める。より技術的なユーザーが自分のトレーディングエージェントを構築する際の「目」を提供する。
二つ目は一般ユーザー向けの完成品だ。モバイルアプリ「Nansen AI」では、エージェントと会話しながら取引を執行し、オンチェーンのリサーチも同一プロダクト上で完結できる。さらに「自律的に取引するエージェント」機能を年内に発表する計画があるが、品質とセキュリティを万全に整えるため慎重に開発を進めている。「新しい光り物に飛びつき、品質保証が不十分なプロダクトを使ってしまうリスクは常にある。自律型エージェントの公開は少し時間をかけて正しく仕上げる」と述べた。
ジトの「市場レイヤー」戦略とJTX始動
バックエンドインフラで知られるジトが、なぜリテール向け取引プラットフォームJTXを立ち上げたのか。リュー氏が「市場レイヤー」という概念で説明した。
Marc Liew
ジトはソラナの「市場レイヤー」を構築する存在と位置づけている。この市場レイヤーはケーキの3層構造に例えられる。最下層がバックエンドインフラ、中層が流動性レイヤー、最上層がフロントエンドのアクセス性だ。
最下層では、ソラナのバリデーター全体の97%以上がジトのインフラを使ってトランザクションを検証している。BAM(ブロック・アセンブリー・マーケットプレイス)によってフロントランニングやMEV攻撃を排除し、取引のプライバシーも担保する。ソラナが「最速かつ最安のチェーン」として知られる背景の一つはジトのインフラ貢献にある。
中層の流動性レイヤーでは、jitoSOLというリキッドステーキングトークンを展開し、現在ソラナ最大のシェアを持つ。jitoSOLはソラナの価格連動に加えてネットワーク手数料の複利を得られる点が特徴で、コインベースがjitoSOLを担保として借り入れできるサービスを開始したことも機能拡大の一例だ。また、米SECがjitoSOLを有価証券ではないと判断する指針を出したことで、伝統的金融機関との対話が大きく前進。VanEckが米国でjitoSOL ETFをSECに申請し、21シェアーズはすでに欧州でjitoSOL ETFを上場している。
Marc Liew
最上層にあたるフロントエンドとして、WebX 2026のタイミングで取引エンジンJTXを正式ローンチした。分散型・完全セルフカストディの設計で、ユーザーは資産をオフショアの中央集権型取引所に預ける必要がない。ジトが培ったインフラ知見をもとに、ソラナ上で24時間365日のWeb2水準の取引体験を実現することを目指している。
補足:ガバナンス提案JIP-38により、JTXで発生するプラットフォーム手数料の80%がジトのDAOに直接還元される。さらにDAOはこの収益の全額を、少なくとも2027年第4四半期まで市場でのJTOトークン買い戻し・バーンに充てることを決定している。
機関投資家のオンチェーン移行という本質
機関投資家が実際に動き出しているのか、その根本的な動機はどこにあるのか。チョウ氏が業界の通念を問い直した。
Thomas Chou
「機関投資家が仮想通貨に参入している」という表現は、本質的にやや誤りを含んでいる。正確には「金融機関が自らの金融システムをオンチェーンで近代化している」と捉えるべきだ。この違いは重要で、機関投資家が仮想通貨という「新しいもの」に手を出しているのではなく、既存の金融業務の効率化手段としてブロックチェーンを選んでいる。
機関がオンチェーンに移行する背景には3つの要因がある。第一は規制環境の整備で、日本がステーブルコイン法をいち早く整備したことでメガバンクがその活用に踏み出せた例が典型だ。第二は競争圧力。第三はバランスシートの効率化で、カントン上で業務を移行したパートナーの一社は、ビジネスモデルや業務フローを変えずに資産をオンチェーンに移すだけで40%の業務効率改善を実現したという。
重要な視点として「トークン化した後に何が起きるか」を強調した。「単にオンチェーンに乗せるだけでは、高価なスプレッドシートにすぎない」とし、カントンが重視するのはトークン化された資産同士が接続され、資本効率を生み出す状態だと述べた。現在、あるパートナーがカントン上で米国債のレポ取引を処理しており、その規模は1日あたり2,400〜2,500億ドルに上る。DTCCが年間に処理する金額は1京ドル規模であり、これがカントンの目指す機会だ。
Thomas Chou
カントンという名称はスイスの州(カントン)に由来する。スイスにはジュネーブやチューリッヒなど異なる規制・システムを持つ州がありながら、一つの国として機能している。カントン・ネットワークはこの構造を体現しており、各金融機関が独自のプライベートチェーンとして独立運用しながら、同時に相互接続できる設計だ。「接続なしに資産をブロックチェーンに乗せても意味はない」と述べ、相互運用性こそがカントンの根幹だと強調した。
日本市場が持つ3つの優位性
パーク氏が日本市場の展望を各登壇者に問うた。リュー氏とチョウ氏それぞれが具体的な取り組みと見解を示した。
Marc Liew
日本はジトにとって戦略的に重要な市場だ。規制環境が整備されており、イノベーションを後押しする姿勢が業界として評価されている。機関投資家がオンチェーンへ来る際の最大の懸念、すなわち「規制に準拠した形でデジタル資産にアクセスできるか」という問いに対して、日本はすでに答えを持っている。
日本での展開に向け、アンカレッジ・デジタル、ビットゴー、ヘックス・トラストと戦略的パートナーシップを締結しており、機関との接点を広げている。また、ソラナ財団との協業のもとAPAC特化のバリデーターネットワークを構築中だ。機関投資家向けには「jitoSOL = より優れたソラナへのアクセス手段」として提案している。JTXは、仮想通貨トレーダーと伝統的金融のトレーダーを一本化する取引環境として、日本市場でも大きな意味を持つと述べた。
Thomas Chou
日本市場の優位性を3点に整理した。第一に規制環境の成熟だ。法整備が進み、金融機関が本番サービスとして稼働できる土台がある。第二に規模だ。日本のメガバンクが持つ法人顧客は30万社規模に上り、システムをオンチェーンで近代化すれば即座に大きな需要が生まれる。第三にアジアおよびグローバルへの波及効果だ。日本がスタンダードを作れば、それがアジア全体の規範となりうる。
具体的なターゲットとして、日本国債(JGB)のオンチェーン化を挙げた。カントンはDTCCとの連携を進めており、米国財務省債と日本国債を並行して24時間365日リアルタイムで決済できるインフラの構築を目指している。日本のレポ市場規模は約160兆円で世界全体のおよそ10%を占める。「日本がリーダーシップを取れる位置は、多くの人が思うよりはるかに近い」と語った。
セッション総括
スヴァネヴィク氏は「エージェントとともにすべてをオンチェーンで取引する時代が来る。好奇心を持ち、少しリスクを取って、エージェント取引を試してほしい」と呼びかけた。ただし「全財産を自律型エージェントに委ねることはしないように」と釘も刺した。
リュー氏はJTXを試すよう促しつつ、長期視点を強調し、「JTXの手数料収入の80%はDAOに還元される。10年後、20年後のソラナとジトの姿を見据えて、コミュニティとともに構築していく」と語った。
チョウ氏は機関投資家の参入が最終的に個人の日常にも恩恵をもたらすという展望で締めくくった。「機関がオンチェーンに移行すれば、みなさんが使う日常の銀行取引の決済が速くなり、手数料が大幅に下がり、お金が24時間365日動かせるようになる。国内だけでなくクロスボーダーでも、リアルタイム市場の実現が日本から始まる」と語った。
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