米国トランプ大統領が「押収したビットコインを含む国家的なBTC準備金」を創設する構想を掲げる一方、ユタやアリゾナなど複数の州政府もビットコインを“戦略的準備資産”と位置づける法案を提出。連邦・州レベルで進むこれら2つの動きを追跡する。
1. 最新動向:トランプ大統領の発言と狙い
トランプ大統領は3月3日0時過ぎ、公式SNS「Truth Social」で新たな「仮想通貨支援政策」を発表しました。
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を主要な対象に挙げつつ、
ソラナ(SOL)、リップル(XRP)、カルダノ(ADA)など米国関連銘柄も名指しし、
「インフレに対する戦略的備蓄」を確立しながら「米国を仮想通貨の中心にする」方針を打ち出しています。
さらに、3月7日にホワイトハウスで開催される「仮想通貨サミット」では、Coinbaseのブライアン・アームストロングCEOやマイクロストラテジー社のマイケル・セイラー会長など、業界の著名人が参加予定です。ここで「仮想通貨準備金」の具体的な内容や、米国の仮想通貨政策全般に関わる重要発表がある可能性が高いとみられています。
ホワイトハウスの“AIおよび仮想通貨皇帝”とも呼ばれるPayPal元COOのDavid Sacks氏は、
「大統領令14178に基づき、ビットコインとイーサリアムを中心とした仮想通貨準備金を正式に発表し、米国を仮想通貨の中心に据える計画だ。詳細はサミットで明かす」
と語っており、近く追加情報が公表される見通しです(2025年3月3日:Coinpost)。
ADA(カルダノ)まで名指しされたことはサプライズとなり、発表当時は一時60%近い急騰も。しかし、今回の名指しには背景があります。
カルダノ創設者のチャールズ・ホスキンソンは米国人で、24年11月の大統領選勝利直後からトランプ政権関係者とワシントンDCで鋭意接触。また、研究者組織IOHKは当初香港を拠点としながら、その後米国ワイオミング州へ移転した経緯もあります。
「利益相反では?」懸念される課題
就任後のトランプ政権はビットコインマイニング(採掘)支援策や、規制強化路線をとっていたゲイリー・ゲンスラー前SEC委員長の解任など、暗号資産分野で大幅な政策転換を進めています。一方で、トランプ大統領自身がETHを個人的に保有し、
トランプコイン(Official Trump)やNFTコレクションも所有しているため、公的政策との混在による「利益相反」への懸念が指摘されています。
2025年初頭には、大統領の息子エリック氏がETH購入を促す発言を行うなど、家族ぐるみで積極的な姿勢を示唆。さらに、2025年2月にはWorld Liberty Financial社(WLFI)とトランプ氏の関与が報じられ、政策決定と個人的利益があいまいになるリスクが一段と高まっています。
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2. そもそも準備金構想とは? 押収した仮想通貨がベース
準備金とは、政府や中央銀行が経済の安定と国際的信用力を維持するために保有する資産のこと。従来は外貨や金(ゴールド)が主流でしたが、近年のインフレ懸念や財政赤字拡大などを背景に、ビットコイン(BTC)などの暗号資産(仮想通貨)を準備金として活用しようとする動きがあります。
「仮想通貨準備金」が最初に注目されたのは、2024年7月に行われたビットコインカンファレンスです。当時大統領選挙を控えていたトランプ氏が示した構想がもとになっています。「ビットコインを国家戦略として捉え、押収したBTCは売却せず国家備蓄として保持する」と明言したことが、当時から大きな注目を集めました。
実際、2025年1月に大統領へ就任したトランプ政権は、ビットコインだけでなくさまざまな暗号資産を対象とした「仮想通貨準備金」の構築・評価を行うワーキンググループ(作業部会)を発足。大統領令(2025年1月24日署名)でも、その方針が改めて打ち出されました。
こうした動きの背景として、大きく以下のポイントが挙げられます。
- 政府が押収した約20万BTCを売却せず、備蓄に回す方針
- 仮想通貨法案の整備(上院議員らによる新規予算案や法執行体制の拡充)
- トランプ大統領が署名した大統領令(E.O. 14178.)(2025年1月24日)
これらはいずれも「米政府としてビットコインやイーサリアムなどの暗号資産をどのように保有・管理するか」を巡る動きです。
米国議会にはシンシア・ルミス上院議員(共和党)のように、5年間で100万BTCを備蓄する「ビットコイン法案」を提出する議員もいますが。議論の本格化からは遠い状況です。(25年1月24日:Coinpost)
米国が押収した仮想通貨の行方
トランプ政権下で暗号資産投資家から最も注目されているのが、FBIや米司法省が押収した約20万BTC(2.6兆円相当)を「国家ビットコイン準備金」として保持する計画です(2024年11月22日:Coinpost)。
これらのビットコインは、2013年の「シルクロード」などダークマーケットをはじめ、犯罪捜査で没収された資産が中心。従来はこうした押収資産をオークションで売却し、被害者補償や政府歳入に充当するのが一般的でした。しかしトランプ政権は、ビットコインを「戦略的資産」と位置づけ、財政・金融政策に組み込もうとしています。
2024年12月には、破綻したFTX関連で押収された約30億円相当のイーサリアムを米政府ウォレットが移動した事例も確認されており(2024年12月5日:Coinpost)、過去にはXRPをオークションにかけたケースもあるなど、押収暗号資産の扱いは市場の関心を集めるテーマです。
ただし、この政策を本格的に進めるには法整備や議会承認が必要です。National Bank Financial Marketsのダニエル・ストラウス氏は、共和党が上院で過半数を確保しているものの、法案成立に必要な60議席には届かず、現在の可決見込みは50%程度との見解を示しています(2024年11月25日、Financial Post)。
3. 米国各州のビットコイン準備金に関する動向
*出典:Bitcoin laws
連邦政府の動きとは別に、ユタ、アリゾナなど20州以上で「戦略的ビットコイン準備金」法案が提出されています。一部の州では同一州内で複数法案が競合しており、最初の可決を目指して議員たちが活発に動いているのが特徴です。多くの法案はビットコインを戦略的資産として認識し、州財政の安定化や経済競争力の強化を図ることを目的としています。
先行している州の法案内容
*出典:Bitcoin laws
州名 | 進行中の法案 | 最終更新日 | 概要 |
---|---|---|---|
ユタ州 | HB 230 | 2025/2/27 | 「ブロックチェーンおよびデジタルイノベーション改正案(HB 230)」が下院を通過。現在は上院で審議中。 |
アリゾナ州 | SB1025、SB1373 | 2025/2/27 | SB1025「Arizona Strategic Bitcoin Reserve Act」などが財務委員会を通過。州年金や財務局が最大10%を暗号資産に投資できる案。 |
オクラホマ州 | HB1203 | 2025/2/4 | 「Strategic Bitcoin Reserve Act」。時価総額5,000億ドル以上のデジタル資産への投資を認め、退職年金基金への適用も含まれる。 |
主な目的
- インフレヘッジ(「デジタルゴールド」としてのビットコインの特性)
- 公共資金の分散投資と財政リスクの軽減
- 州のデジタル資産関連ビジネス誘致による経済成長
一方で、ボラティリティ(価格変動の大きさ)や規制リスクを理由に法案を却下した州もあり、各州ごとの温度差が大きい点が特徴です。
また、モンタナ、ノースダコタ、ペンシルベニア、サウスダコタ、ワイオミングなどでは既に否決事例があり、2025年2月14日にペンシルベニア州で却下された法案(HB2664)は、高いボラティリティや公共資金への適合性が大きな懸念材料であることを改めて示しました。
まとめ:今後の展望
「戦略的ビットコイン準備金」の創設を掲げるトランプ政権の構想は、インフレ対策や国債・ドル防衛といった国家財政上の戦略と深く結びついています。一方で、州レベルではテキサスやフロリダ、アリゾナなどが独自のビットコイン備蓄案を相次いで提出し、連邦政府を先行する形で暗号資産を公的資産とする流れを促進中です。
米国議会にはシンシア・ルミス上院議員(共和党)のように、5年間で100万BTCを備蓄する「ビットコイン法案」を提出する議員もいるものの、現段階では押収した仮想通貨を準備金に充てる動きや、「州単位の取り組み」の方が実際の可決に近いとの見方があります。実際、各州が仮想通貨を活用しようとする狙いはインフレヘッジや分散投資が中心で、法案を否決する州もあるなど、「ボラティリティの高さ」や「公的資金への適合性」が今なお大きな論点です。
しかしながら、州ごとのイニシアチブが徐々に広がれば、最終的にはトランプ政権の「戦略的ビットコイン準備金」構想とも合流し、連邦政府の政策に大きく影響する可能性が十分に考えられます。3月に開催予定のホワイトハウス「仮想通貨サミット」や議会審議の行方によっては、ビットコインを国家レベルで保有・活用するシナリオがさらに現実味を帯びるでしょう。