Web3.0普及を目指す相互運用性特化プラットフォーム、Polkadot
ブロックチェーンなどの分散型技術の発展により、デジタル主権および個々のデータ管理権を、テックジャイアントを含む中央集権組織からユーザーの元へ返却し、信頼を必要としない分散的な方法で管理すべきだという「Web3.0」の概念が台頭してきました。パブリックブロックチェーンは、この概念において様々な可能性を提示している一方、相互運用性(インターオペラビリティ)、およびスケーラビリティ(拡張性)の観点から、未だ実用的でないことが課題のひとつと考えられています。
Web3.0の普及を目指しながら、この相互運用性およびスケーラビリティ向上に取り組むプロジェクトのひとつが、Polkadot(ポルカドット)です。
20年末以降は、大手仮想通貨取引所バイナンスが1,000万ドル(約10億円)規模のポルカドットファンドを設立したことや、米仮想通貨投資企業グレースケールが、ポルカドットのネイティブトークン「DOT」の投資信託提供を計画していることなどでさらなる注目を集め、DOTトークン価格が急上昇しています。
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1. Polkadotとは
1-1 Polkadot基本概要
ポルカドットとは、イーサリアムの共同創設者兼元CTOのGavin Wood博士を中心に、より公平かつユーザー主権的な分散型ウェブ(Web3.0)の構築を目指す団体、Web3 Foundationが主導で開発を行うPoS(Proof-of-Stake)系ブロックチェーンプロジェクトです。
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ポルカドットで最も顕著な特徴が、高度な相互運用性およびスケーラビリティを有していること(下記1-2-1参照)です。メインチェーンである「リレーチェーン(Relay Chain)」、および「パラチェーン(Parachain)」と呼ばれるシャードチェーンを中心とした独自のネットワーク構造により、これが可能になっています。
また、デフォルトでハードフォークなしでアップグレードができる点(下記1-2-2参照)、セキュリティがプールおよび共有されている点(下記1-2-3参照)、ならびに「サブストレート(Substrate)」と呼ばれるブロックチェーン構築ツールが用意されている点(下記3-1参照)など、他のブロックチェーンプロジェクトとは異なる利点が提供されています。
同様の構造を持つブロックチェーンプロジェクトに、イーサリアム2.0があります。メインチェーンがシャードチェーン、ひいてはネットワーク全体のセキュリティを管理している点、シャード間でメッセージの送信が可能である点などは、ポルカドットでもイーサリアム2.0でも同じです。
一方で相違点としては、イーサリアム2.0では、全てのシャードチェーンが同質である点、ガバナンスプロセスがオフチェーンで行われるためガバナンス決定事項を実行するにはハードフォークが必要な点、およびポルカドットよりも必要なバリデーター数が多い点などが挙げられます。
ポルカドットでは、20年5月にメインネットローンチの第一段階が開始され、同年8月には、DOT転送が解禁されました。21年2月現在、パラチェーンの正式ローンチに向けてテストが行われています。パラチェーンのローンチが完了すると、ガバナンスが始動し、オークションが開始できるようになります。
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1-2 特徴
1-2-1 相互運用性強化によるスケーラビリティ向上
ポルカドットは、リレーチェーンを中心に、複数のパラチェーンが一つのネットワーク内で繋がった、シャード化されたブロックチェーン構造を持ち合わせています。これにより、複数トランザクションの並列処理(複数の処理を同時に行うこと)が可能になり、トランザクションを一つ一つ順番に処理していることによる、トランザクション遅延が解消され、スケーラビリティが向上すると見込まれています。
パラチェーン同士に相互運用性があり、互いにコミュニケーションが可能なため、トークンの形で表された価値やその他様々なデータおよび機能を、パラチェーン間で共有できます。また、ブリッジ機能(下記1-3-3参照)を活用することにより、ビットコインやイーサリアムなど、外部の分散型ネットワークおよび仮想通貨ネットワークとの互換性を持つことも可能です。
単一のメインチェーンのみを利用した構築には、スケーラビリティの限界があるため、各ユースケースに特化したチェーンを単一ネットワーク内で相互運用させる方が、開発およびイノベーションが促進されるという考えを念頭に置いて、ポルカドットは開発されています。そのため、パーミッションレスチェーンおよび許可型チェーンのどちらでも、パラチェーンとしてリレーチェーンに接続可能な上に、各パラチェーンは、想定しているユースケースにとって最適な仕様にカスタマイズすることができます。
1-2-2 フォーク無しのアップグレード
ポルカドットでは、各チェーンの機能がソフトウェアコードによって決定づけられており、開発者が指定した任意のブロック高において、全ノードがアップデートを自動的に実行できるように設計されています。そのため、チェーンに新機能を実装する際やバグ修正を行う際は、ハードフォーク(分岐)無しでアップデートが可能です。
つまり、通常のブロックチェーンアップデート方法とは異なり、モバイルアプリやブラウザのアップデートと同じような方法で、チェーンをアップデートできます。
一般的なブロックチェーンでは、チェーンをハードフォークすることによりアップグレードが行われますが、この方法では、アップグレードに時間がかかり効率的ではなく、コミュニティが二つに分割される可能性が高くなるため、アップグレードのハードルが高くなっています。
一方でポルカドットでは、ハードフォーク無しのアップグレードを可能にすることにより、アジャイル開発(迅速かつ柔軟な開発スタイル)が促進され、進歩するテクノロジーへの適応を容易にしています。
1-2-3 プールされたセキュリティ
ポルカドットでは、セキュリティがリレーチェーンにプールされ、各パラチェーン間で共有されています(Pooled SecurityまたはShared Securityと呼ばれる)。ここで言うブロックチェーンのセキュリティの高さとは、コンセンサスを破る難易度を意味しています。
通常PoW(Proof-of-Work)およびPoS(Proof-of-Stake)を採用したブロックチェーンでは、その性質上、セキュリティ確保(=コンセンサスが破られないようにすること)に膨大なリソース(資源)が費やされます。PoWの場合、計算処理を行うためのコンピュータパワーが、PoSの場合ステークする資産が、リソースとして必要になりますが、これらのリソースは有限であるため、異なるブロックチェーン同士がこのリソースを奪い合う状況が生じます。
この奪い合い競争に負け、十分なリソースを得ることができない小規模または駆け出しのネットワークでは、51%攻撃(悪意ある参加者がネットワーク全体の51%以上のマイニング能力を有し、不正にトランザクションを承認すること)のリスクに曝されるなど、セキュリティ侵害の可能性が高くなります。
ポルカドットでは、異なるシステムを持つ複数のパラチェーンが一つのネットワーク内に存在しているため、セキュリティが脆弱なパラチェーンが一つでも存在すると、ネットワーク全体のセキュリティに影響が及びます。そのため、パラチェーン同士が、セキュリティに必要な有限のリソースを巡って競い合い、格差が生じることは、ポルカドットネットワーク全体の利益になりません。
ポルカドットでは、リソースを奪い合うのではなく、ネットワーク全体のセキュリティ維持を担当するバリデーター(検証者/Validator)をリレーチェーンにプールし、各パラチェーンと共有することにより、全てのパラチェーンのセキュリティを保証しています。
具体的には、ポルカドットでは、各パラチェーンにリレーチェーンからバリデーターが割り当てられ、このバリデーターがパラチェーンのステート遷移を保証しています。パラチェーン自体は、 パラチェーンの最新のステート遷移、およびステート遷移に関する証拠をバリデーターに伝える役割を持つコレーター(照合者/Collator)のみ、配置する必要があります。
割り当てられたパラチェーンのコレーターから、ステート遷移の情報を受け取ったバリデーターは、その情報を検証し、リレーチェーンのブロックに書き込みます。
1-2-4 オンチェーンガバナンスの実装
ポルカドットでは、DOT保有者によるオンチェーンガバナンスが実装されていることも、イーサリアムを初めとする既存チェーンと異なっている点です。
実際に20年には、ユーザーエクスペリエンスの向上の観点から、DOTトークンのデノミネーション(通貨単位変更)に関して、トークン保有者によるガバナンス投票が実施されました。その結果、ブロック高1,248,328(20年8月21日)時点にて、フォークなしで、1DOT=1兆Planck(DOTの最小単位、ビットコインでいうsatoshiに相当)から、1DOT=10兆Planckに変更されました。
ポルカドットのガバナンスでは、ネットワーク手数料、パラチェーン追加または削除、ならびにプラットフォームのアップグレードおよび修正などが決定され、DOT保有者は投票プロセスを通じて、DOTをステークすることにより意思表示ができます。またDOT保有者であれば誰でも、投票提案も可能です。
投票時の各票の重みには、単にトークン数だけではなく、トークンのステーク期間も考慮されています。このような仕組みにより、一部の経済力があるDOT保有者だけに影響力が偏ってしまうことが回避され、より公平な投票システムが維持できます。
ポルカドットガバナンスには、DOT保有者の他、「Council(協議会)」および「Technical Committee(技術的委員会)」と呼ばれる組織が存在しています。Councilのメンバーは、受動的ステークホルダーを代表し、投票提案権および悪意ある投票の拒否権を保有しています。
Technical Committeeは、Councilメンバーによって選出されたポルカドット開発チームで構成され、急を要する投票およびその投票結果実装のための、緊急投票提案権を有しています。
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1-3 基本構造
ポルカドットは、ネットワークの中核を担う「リレーチェーン」、リレーチェーンに繋がる「パラチェーン」、および外部チェーンとの架け橋として機能する「ブリッジ」を中心に構成されています。
1-3-1 リレーチェーン
リレーチェーンとは、ポルカドットの中心に位置するメインチェーンであり、パラチェーンを含むネットワークのセキュリティ維持、コンセンサス形成、およびパラチェーン間での相互運用性保証に関与しています。「取り次ぐこと」や「中継」を意味する「リレー(Relay)」に由来して、名付けられています。
リレーチェーンの主な目的は、ネットワーク全体の連携および統合であるため、リレーチェーン自体で利用できる機能は、最小限にとどめられており、スマートコントラクトはサポートされていません。また、サポートされているトランザクションタイプも比較的少なく、ガバナンスメカニズム、パラチェーンオークション、およびコンセンサス形成への参加などに限定されています。
1-3-2 パラチェーン
パラチェーンとは、リレーチェーンに接続しているシャードチェーンです。並行を意味する「パラレル(Parallel)」に由来した名前であり、文字通りリレーチェーンと並行しているため、トランザクションの並列処理が可能です。
パラチェーン同士でメッセージおよびトランザクションを送受信することも可能です。各パラチェーンは、コレーター呼ばれるノードによって管理されています。
パラチェーンはリレーチェーンに接続しているものの、独立したブロックチェーン(厳密に言えばブロックチェーンの形でなくても可)であるため、各パラチェーン内で独自のトークンおよび経済圏を構築することや、特定のユースケースに特化した設計および機能を内包することが可能です。一方で前述のように、各パラチェーンのセキュリティは、リレーチェーンのセキュリティを共有することにより維持されているため、パラチェーン内でPoSやPoWを採用し、経済的インセンティブを創出する必要は必ずしもありません。
ポルカドット自体は、各パラチェーンのトランザクション検証方法に関与していません。
パラチェーンをリレーチェーンに接続するには、ポルカドットのパラチェーンスロット(枠)を獲得する必要があります。このスロットの数は有限(現在は100を予定)であるため、リレーチェーンの全てのブロックに、自身のブロックを含みたいパラチェーンは、オークションに参加しスロットを獲得する必要があります。
オークションの入札には、DOTを使用します。あるパラチェーンがスロットを落札すると、その入札に利用されたDOTは、そのままスロットの貸出期間中プロトコルにロックされます。ロックされたDOTの移動は不可能で、ステーキング等に利用することもできません。
貸出期間の終了とともに、DOTが返却されますが、スロットを延長していないパラチェーンは自動的に「パラスレッド(Parathread)」に変換されます。
パラスレッドは、パラチェーンと似たような機能を有しています。パラチェーンがオークションを経て一定期間スロットを賃借するのに対し、パラスレッドをポルカドットネットワークに参加させるには、リレーチェーンのブロック毎に使用手数料を支払う必要があります。
オークションでフルスロットを獲得できなかったチェーンや、長期間スロットを賃借する経済的メリットを見出せないチェーンは、パラスレッドの形でポルカドットに接続することにより、パラチェーンと同様に、プールされたセキュリティを享受できます。
パラチェーンスロットのうちいくつかの枠を、パラスレッド用に割り当て、割り当てられた枠をパラスレッド間で共有しているため、パラスレッドの処理能力はパラチェーンよりも限られています。またパラスレッドでは、イーサリアムやビットコイン同様に、ネットワークの使用度に応じて手数料が増減します。
1-3-3 ブリッジ
ポルカドットでは、ブリッジという機能を利用することにより、イーサリアムやビットコインなどネットワーク外部のブロックチェーンを、パラチェーンまたはパラスレッドに接続できます。エンタープライズチェーンやプライベートチェーンから、分散型のパーミッションレスチェーンに至るまで、独自のエコシステムを構築する様々なチェーンとの相互運用が可能になります。
パラチェーンのセキュリティは、リレーチェーンにプールされたバリデーターによって維持されていますが、ブリッジを介して接続された外部ブロックチェーンは、独自のステート履歴およびコンセンサスメカニズムを備えた既存のチェーンであり、ポルカドットはこのようなチェーンをネイティブでサポートしていないという違いがあります。
1-4 ネットワーク参加者
ポルカドットのセキュリティは、バリデーター(検証者/Validator)、コレーター(照合者/Collator)、ノミネーター(指名者/Nominator)、およびフィッシャーマン(漁師/Fisherman)と呼ばれる4種の参加者によって守られています。
1-4-1 バリデーター
バリデーターは、DOTをステークすることにより、リレーチェーン、ひいてはポルカドットネットワーク全体のセキュリティを維持しています。
バリデーターは、セキュリティ維持に際して、主に二つの役割を果たしています。一つ目は、コレーターから渡されたパラチェーンのブロックに含まれている情報が正当かどうか、検証する役割です。バリデーターが正当だと判断したパラチェーンのブロックは、ポルカドットネットワーク全体で共有されているステート(状態)に包括されます。
二つ目は、他のバリデーターと共に、リレーチェーンのブロック生成に関わるコンセンサス形成プロセスに参加する役割です。
ネットワークに貢献したバリデーターには報酬が与えられる一方、バリデーターが、コンセンサスアルゴリズムを破るような行動をとった場合、そのバリデーターがステークしたDOTの一部または全部が没収(スラッシュ)されます。
1-4-2 コレーター
コレーターは、パラチェーンのトランザクションをブロックに集約し、ステート遷移の証拠をバリデーターに提出する役割を担っています。各パラチェーンは、フルノードを維持し、パラチェーンで必要な情報を全て保持しているコレーターによって管理されています。
コレーターの経済的インセンティブの有無、またはその詳細は、各パラチェーンの設計に委ねられています。
1-4-3 ノミネーター
ノミネーターは、DOTをステークし、信頼に値するバリデーターを選出することにより、ネットワーク全体のセキュリティを維持しています。バリデーターと異なり、24時間ノードを運営する必要はありませんが、選出したノードが好ましくない行動をとった場合には、ノミネーターもステークしたDOTを失う可能性があります。
反対に選出したバリデーターがセキュリティ維持に役立った場合は、ノミネーターも報酬を獲得できます。
1-4-4 フィッシャーマン
フィッシャーマンは、ネットワークを監視し、不正な行動があった場合にそれをバリデーターに報告することにより、セキュリティ維持に貢献しています。フィッシャーマンの報告内容が正しかった場合、報酬が付与されます。
一方で誤った報告をした場合、事前にステークしていたDOTを失う可能性があります。
1-5 コンセンサスアルゴリズム
1-5-1 ハイブリッドコンセンサス
ポルカドットでは、ブロック生成メカニズムをファイナリティ形成(そのトランザクションが取り消されない状態になること)メカニズムから分離した「ハイブリッドコンセンサス」モデルが採用されています。
ブロック生成には、確率的ファイナリティ(Probabilistic Finality)およびランダムなスロットシステムに基づいた「BABE(Blind Assignment for Blockchain Extension)」というメカニズムが、ファイナリティ形成には、証明可能なファイナリティ(Provable Finality)に基づいた「GRANDPA(GHOST-based Recursive ANcestor Deriving Prefix Agreement)」というファイナリティガジェットが導入されています。
ハイブリッドコンセンサスを採用し、ブロック生成およびファイナリティ形成を分離することにより、確率的ファイナリティおよび証明可能なファイナリティの両方のメリットが提供されています。
確率的ファイナリティとは、ビットコインの「ナカモト・コンセンサス」等で採用されている概念です。ブロック生成およびファイナリティ形成が同一視されており、あるブロックに一定数のブロックが連なっていた場合、確率的にはそれが有効なチェーンであるという推定に基づいてファイナリティを形成しています。
そのため、そのブロックが有効であるという判断が絶対に覆らないという保証がなく、誤って間違ったフォークにブロックを生成してしまう可能性があります。
一方でGRANDPAなどで提供されている、ビザンチン将軍問題に耐性のあるアルゴリズムに基づいた証明可能なファイナリティでは、チェーンの正当性は保証されていますが、ノード数が増えれば増えるほどノード間のコミュニケーションが複雑化するため、新規ブロック追加に時間がかかるという代償があります。
ポルカドットでは、確率的ファイナリティおよび証明可能なファイナリティの両方のメリットを取り入れることにより、ブロック生成の速度を落とさないまま、誤って間違ったフォークにブロックを生成してしまう可能性を回避しています。
またGRANDPAでは、3分の2以上のバリデータが承認したブロックのファイナリティを保証していますが、バリデーターは各ブロックではなく、複数のブロックを含むチェーンをまとめて承認します。これにより、ファイナリティ形成プロセスが格段に速くなります。
1-5-2 NPoS
ポルカドットでは、BABEおよびGRANDPAプロトコルを稼働するバリデーターの選出に、NPoS(Nominated Proof-of-Stake)を採用しています。
一般的なPoSでは、ノードが資産をステークすることにより、ブロック承認の確率が決定されますが、ポルカドットのNPoSでは、バリデータ(ノード)だけでなく、ノミネーター(指名者/Nominator)と呼ばれる役割もコンセンサス形成に参加し、信頼しているバリデータにDOTをステークすることにより「投票」を行います。
バリデータがネットワークにとって好ましくない行動をとった場合、バリデータのステーク資産だけなく、ノミネーターのステーク資産も一部または全部が没収されます。没収された際のトークンはTreasury(手数料や没収された資金を貯めておくところ)に送られ、不測の事態が起こった場合、カウンシルメンバー(下記2-2-1参照)の投票により還元される可能性もあります。
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2. DOTトークンとは
2-1 DOTトークン基本概要
DOTとは、ポルカドットネットワークのネイティブトークンです。Polkadot上のデータが入手できるエクスプローラーによると、21年3月17日時点では10億5,000万DOTが流通しています。
また、Trading Viewのデータによると、1DOTあたり35ドル(約3,800円)で時価総額第6位につけています。
また、ステーク系データを収集しているStaking Rewardによると、21年3月17日現在、約247億ドル(約2兆6,900万円)がステークされ、ステーク額は、全PoS系プロジェクトの中で、カルダノ(ADA)に次いで2位となっています。
2-2 使用用途
DOTトークンは、以下の3つの用途で利用されています。
2-2-1 ガバナンス
全てのDOT保有者は、ポルカドットのガバナンスに参加し、プロトコル管理に貢献することができます。ガバナンスの詳細は、「1-2-4 オンチェーンガバナンスの実装」をご覧ください。
2-2-2 ステーキング(経済的インセンティブ)
DOTは、ネットワークのセキュリティ維持にも使用されています。
ポルカドットを正常に機能させ、パラチェーンのトランザクションを実行するには、DOT保有者に、バリデーター、ノミネーターまたはフィッシャーマンの役割を担当してもらう必要があります。ネットワークに貢献したいDOT保有者は、DOTをステークし、リスクに晒すことにより、このような役を受け持つ機会を得ることができます。
ネットワークにとって良い行動をとった参加者には、報酬としてDOTが付与される一方、好ましくない行動をとった参加者がステークしたDOTは没収されるため、DOTが経済的インセンティブとして機能しています。
2-2-3 パラチェーンのスロットオークション
ポルカドットネットワーク内にパラチェーンを接続したい場合、オークションに参加し、スロット(枠)を獲得する必要があります。オークション参加者はDOTで入札します。落札者のDOTは、スロットの貸出期間中ロックされ、期間が終了しパラチェーンが削除されると同時に返却されます。オークションは、一種のPoSのような仕組みになっています。
3.関連プロダクト
3-1 サブストレート(Substrate)
サブストレートとは、ブロックチェーン構築に利用できるモジュール式フレームワークです。サブストレートを使用して構築されたチェーンは、ポルカドットと互換性があり、パラチェーンとしての接続が容易になるように設計されています。
サブストレートには、ブロックチェーン構築に必要な既成の構成要素、およびすぐに利用できるコンセンサス、ネットワーキングおよびファイナリティ等のモジュールが用意されているため、開発者は、プロジェクトを築き上げるにあたり、不要な手間および労力を省くことができます。
また、デフォルトでフォークなしのアップグレードが可能であり、透明性の高いガバナンスツールも提供されているため、ネットワークの分割を心配する必要なしに、新機能の追加および実装が可能です。
3-2 Kusama
ポルカドットの「イトコ」とも称されるKusama(クサマ、ネイティブトークン:KSM)ネットワークは、ポルカドットに類似した構造を持つ、実験的なネットワークです。
Kusamaは、ポルカドットで利用されているコードの初期バージョンとしてリリースされたため、マルチチェーン、NPoSに基づいたシャード構造、オンチェーンガバナンス、フォークなしのアップデート、およびシャードチェーン間でのメッセージ送信など、多くの機能をポルカドットと共有しています。Kusamaはポルカドットと比較して、ネットワークのアップデートが高速で行われる点、およびパラチェーン接続に必要なトークン量が少ない点が特徴的であり、このような性質から、新しいアイディアの実験場や、初期段階にあるスタートアップのネットワークなどのユースケースに適していると考えられています。
Kusamaおよびポルカドットは両方とも、独立した分散型ガバナンス構造を持ち合わせているため、各コミュニティの決定に沿って、時間と共に別々に進歩していく見込みです。
4. 関連プロジェクト
4-1 Parity Technologies
Parity Technologiesとは、ポルカドットの開発およびビジネスを総括的に率いている企業です。前述のサブストレートは、Parity techonologiesにより開発されています。
Web3 Foundationと同様に分散型ウェブの普及を目指し、オープンソース技術およびブロックチェーンインフラを提供しています。
4-2 Stake Technologies
日本のブロックチェーン開発企業「Stake Technologies(ステイクテクノロジーズ、以下ステイク)」が開発を行う日本発のパブリックブロックチェーン「Plasm Network」は、21年1月、世界で初めてポルカドットのテストネット「Rococo V1」に、パラチェーンとして接続されました。
Plasm Networkは、前述のサブストレートを用いて開発され、ポルカドットのパラチェーンとして機能できるように設計されています。20年5月には、メインネットがローンチされています。ステイクの渡辺創太CEOによると、今後はポルカドットメインネットへの接続、およびポルカドット上でdApp(分散型アプリケーション)ハブとして機能させることを、優先的に推し進めていく計画です。
ステイクは、ポルカドット開発を牽引しているWeb3 Foundationから、既に複数回助成金を受け取っています。20年2月には、ポルカドット開発に携わるParity Technologies(パリティテクノロジーズ、以下パリティ)から、サブストレートデリバリーパートナープログラム(Substrate Delivery Partners program)のメンバーとして認定を受け、様々な特権が付与されました。
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4-3 Interlay
分散型金融での相互運用性強化に尽力しているプロジェクト「Interlay」は、ビットコインおよびポルカドット間に相互運用性をもたらすことを目的として、ポルカドット上でビットコイン(BTC)のトークン化および発行に取り組んでいます。Interlayは、20年6月にこの概念実証を発表して以降、Web3 Foundationより助成金等のサポートを受けながら、プロジェクトの試験的運用を進めてきました。
Interlay開発の「BTCパラチェーン」実装が完了すると、ユーザーは、ビットコインをロックすることにより、ロックされたビットコインと1対1の比率で「PolkaBTC」トークンを発行できるようになります。発行したPolkaBTCを焼却することで、ビットコインの償還も可能です。
PolkaBTC発行では、完全にトラストレス(信頼不要)かつオープンであることが徹底されています。トークン発行に中央集権的仲介者が存在せず、ビットコインの分散性を損なわない方法で、両エコシステムが連携できるように設計されています。
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4-4 Chainlink
分散型オラクルソリューション開発を行うChainlinkは、独自の分散型オラクルネットワークを、サブストレートに統合する取り組みを行っており、既に統合の第一段階を完了しています。
ブロックチェーンにおけるオラクルとは、ブロックチェーン外のデータを、ブロックチェーン内に取り込む役割を果たすサービスを指しています。Chainlinkは、Web APIや金融機関などの異なるソースから価格データなどを取得することにより、このオラクルの役割の分散化に取り組んでいます。
Chainlinkの分散型オラクルネットワークが、Polkadotエコシステム内にもたらされることにより、パラチェーン開発者は、遅延や追加コスト、さらには致命的なセキュリティ欠陥等、独自にオラクルを開発する際に付き纏うリスクを回避しながら、自身のスマートコントラクト、およびスマートコントラクト実行に必要な外部情報を、パラチェーンへ接続することが可能になります。
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4-5 その他のパラチェーンプロジェクト
この他にも、日本ではまだ広く知られていませんが、分散型ステーブルコイン発行プロジェクト「Acala」、イーサリアムと互換性のあるスマートコントラクト・プラットフォーム「Moonbeam」、低炭素社会および顧客中心の電力システム構築を目指しオープンソースかつ分散型技術を開発している「Energy Web」、ロックドロップ(トークンをロックしエアドロップに参加すること)の仕組みを最初に開発し、ポルカドット上のスマートコントラクト機能開発やガバナンスの仕組みを先導してきた「Edgeware」など、多くのプロジェクトがパラチェーン開発を行っています。