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AIが変えるサイバーリスク 金融・Web3の次世代セキュリティ戦略|WebX2026

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WebX 2026 | セッションレポート

AIが変えるサイバーリスク 金融・Web3の次世代セキュリティ戦略

平将明 × 廣末紀之 × 田中悠斗 × 矢野貴文 × 吉崎敏文

AIの急速な進化は、金融・Web3領域のサイバーリスクをどう変えるのか。2026年7月13日、WebX 2026のBinanceステージで開催されたこのセッションでは、自民党の平将明衆議院議員が政府の取り組みを語り、ビットバンクの廣末紀之CEO、レッドチームの専門家・田中悠斗氏、AIインフラを手掛けるRUTILEAの矢野貴文氏、NECの吉崎敏文副社長が登壇。「攻撃の民主化」「回復可能性」「エージェント認証」というキーワードを軸に、サイバーセキュリティの現在地と日本の勝ち筋を議論した。

平将明

平 将明

自民党
衆議院議員 前デジタル大臣 国家サイバーセキュリティー戦略本部長

デジタル大臣・初代サイバー安全保障担当大臣を歴任。サイバー対処能力強化法の立法を主導し、プロジェクト「ヤタシールド」立ち上げを指揮。AI×Web3小委員会委員長も務める。

廣末紀之

廣末 紀之

ビットバンク株式会社
代表取締役社長CEO

野村証券でキャリアをスタート後、GMOインターネット常務取締役などを歴任。2014年ビットバンク株式会社を創業し、2022年には機関投資家向けデジタルアセット信託事業を目指すJADATを設立。JVCEAにてセキュリティ委員長として業界の安全対策を牽引する。

矢野貴文

矢野 貴文

株式会社RUTILEA
代表取締役社長

2018年RUTILEA創業。「AIを簡単に。」をミッションに、AIアプリ開発からGPUデータセンターの構築・運営まで垂直統合で手掛ける。機密情報を安全に扱えるAIインフラの提供を通じ、企業のAI活用を支援する。

田中悠斗

田中 悠斗

株式会社フォアー/フォアーゼット
代表取締役

レッドチームの専門家として企業のペネトレーションテストを手掛ける。攻撃者視点でのセキュリティ対策を体系化した著書「攻撃学」を刊行。

吉崎敏文

吉崎 敏文

NEC
執行役 副社長 兼 COO

外資系IT企業を経て2019年NEC入社。生体認証・AI・クラウド等のデジタル事業を推進し、2023年CDO、2024年執行役副社長、2026年COO就任。全社の製品開発・サービス・研究・事業開発を統括する。

白石陽介

白石 陽介

モデレーター
一般社団法人日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)専務理事

JVCEAの専務理事として、暗号資産業界の自主規制・ガイドライン策定を担う。本セッションのモデレーターを務めた。


サイバー安全保障の法整備 なぜ日本は迅速に動けたか

ロシアのウクライナへの侵攻で、サイバー攻撃が安全保障の核心課題となった。平将明議員は、この危機感を起点に日本の法整備を主導した経緯を振り返った。
WebX 2026 AIサイバーリスクセッション写真
平将明
ロシアがウクライナの鉄道のメインサーバーに侵入し、いつでも乗っ取れる状態にしていた。「Living off the Land攻撃」と呼ばれるもので、標的のシステムに既に存在する正規ツールを悪用して長期間潜伏する手法です。この現実を踏まえ、セキュリティクリアランスと、悪さをするサーバーを世界中で発見したら無害化できる「アクティブディフェンス」の2本柱を整えることにした。
サイバー対処能力強化法では、世界のどこにあっても警察・自衛隊がアクセスして無害化できる仕組みを作った。あわせて官民協議会を設け、民間にもセキュリティクリアランスを取ってもらい、政府が持つ情報も開示して共に守りを固めていく体制にした。
補足:2026年5月、政府はAIセキュリティに関するパッケージを発表。特定のAIモデルを名指しした政府対応は異例のスピードで、「プロジェクト ヤタシールド(Project YATA SHIELD)」の名称で官民連携の枠組みが整備された。金融を先行させた理由について平議員は「世界中に接続していて影響範囲が大きい。米国も取り組んでいた」と述べた。
平将明
Anthropic1本足打法はやめろと指示した。Anthropic、OpenAI、Google、Microsoftも含めて、全員と真剣に付き合えという話をしている。また、AIが特定国から止められたとき、石油と違って「その日から止まる」。先進国の中で米中は最先端のAIを自分たちで抱える方向に動いている。分野によってはソブリンAIという議論も改めて現実味を帯びてきている。

攻撃の民主化 脅威の実態と価格表

AIの登場は攻撃側のコストを劇的に引き下げた。レッドチームの専門家である田中悠斗氏が、現在のサイバー脅威の経済構造を明かした。
田中悠斗
AIが誕生したことで攻撃自体が民主化している。金額が安くなっただけでなく、ターゲットを決めて攻撃を指示するだけで基本的には動く。ローカルモデルはセンサーなしで動くし、クラウド型モデルも様々なバイパスができるようになっている。
田中氏によれば、ランサムウェア・アズ・ア・サービスのROIは平均14倍ほどある。100万円ほどのツールを使って1,400万円ほど稼げるというのが相場です。アンダーグラウンドの情報売買でいえば、日本人のクレジットカード情報(CVCナンバー含む)が1人当たり20ドル程度。電話番号やVPN情報、IoTデバイスのパスワードなどは5ドル程度。一方、医療情報や薬局の調剤データは平均250ドルほどになる。いずれもセッション内で示された水準であり、市場価格は変動する。
補足:医療情報が高値で取引される理由について田中氏は「既往症は大して変わらないので、手を替え品を替え、同じターゲットを狙い続けられる」と説明。病院や薬局へのランサムウェア攻撃が増加している背景には、こうした情報の資産価値の高さがある。
田中悠斗
現行のコンピューターシステムはノイマン型で、OS命令とデータが同一メモリ空間にある。世の中の攻撃の80%はメモリ攻撃から始まり、この根本的な問題は解決しない。攻撃を完全に防ぎ続けることはおそらく無理です。
だとすれば、「やられるを前提とした社会」に変えるしかない。レジリエンスの先にある「リカバビリティ(回復可能性)」に焦点を当て、攻撃を受けてもRPO(目標復旧時点)ゼロで業務継続できる体制に考え方自体をシフトする必要がある。防御の第一歩は「反撃の意思を表明すること」です。

業界の共助体制 JPクリプトISACの設立背景

暗号資産業界は現在、重要インフラに指定されていない。廣末紀之氏は、その現実と向き合いながら業界横断の防衛体制を構築してきた経緯を語った。
WebX 2026 AIサイバーリスクセッション写真
廣末紀之
暗号資産業界は重要インフラに入っていないので、政府の情報が全然入ってこない。2年ほど金融ISACへの加入をお願いしたが、「そういうところは入れない」と冷たい反応だった。それなら自分たちでやるしかないということで、2025年1月にJPクリプトISACを立ち上げた。
セキュリティの取り組みは「自助・共助・公助」の3段階で考える必要がある。自助は各社の取り組み、共助は業界全体、公助は国家として。共助の仕組みが業界にはなかった。JPクリプトISACでは世界のインシデント情報の共有、発生時の対応フロー整備、外部委託先との連携、PQC(耐量子暗号)対応といったテーマで業界全体のレベルを上げる活動をしている。
課題は人材不足です。サイバーセキュリティの人材が少なすぎる。これは教育も含めた国家的な強化が必要です。またAI時代を踏まえると、ある程度のバックアップを確保していないと厳しい局面が来ると感じている。
補足:金商法への移行に際して、暗号資産業界には金融ISACが定めるFISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準へのキャッチアップも求められている。廣末氏は「技術と体制の両面を同時に整えなければならない」と現状の負荷を説明した。

AI基盤と物理インフラ データ主権という問い

AI時代のセキュリティを語るうえで、インフラを誰が握るかという問いは避けられない。AIインフラを垂直統合で手掛けるRUTILEAの矢野貴文氏が、スタートアップが基盤に挑む理由と、物理インフラが生むセキュリティ上の優位性を語った。
矢野貴文
垂直統合じゃないと利益が出ないというのがもともとのきっかけです。チップを原価で買える会社と、利益乗せで買う会社ではかなり差がつく。AI=データセンターと電力で利回りが生まれる構造になっている。
攻撃者の意図を理解したLLMへのニーズが、防御側から実は強くある。攻撃者の気持ちが分からないと防御に至らないが、公開されているものは全然役に立たない。そこで自分たちで学習させている。日常的に1日100件程度のサイバー攻撃アラートを受け取っているが、オープンソースのAIソリューションやエージェントにバックドアを仕込んでばらまき、ルート権限を取って乗っ取るというパターンが非常に巧妙です。
基盤を自社で持つメリットは、セキュリティ基準を自分たちで作れること。そして「インターネットに繋がないオプション」が取れること。宇宙船のエアロックのように、物理的な隔壁を設けることが有効な場面はある。
Googleドライブに上げるデータなら気にしない人が多い。でも、生まれてから今現在までの記憶をすべてアップロードするAIができたとき、Googleに上げたいかという問いが本質だと思っています。

エージェント認証 AIが取引する時代のKYC

AIエージェントが自律的に金融取引を行う時代が来たとき、「このエージェントは誰のものか」という問いが避けられなくなる。吉崎敏文氏は、NEC×Anthropicの取り組みを軸に、エージェント時代のセキュリティ実装を語った。
吉崎敏文
NECがAnthropicとグローバルパートナーシップを結んだのは、AIによってソフトウェア開発のやり方が変わり、スピード感が全く違うから。その意思決定のスピードと実装能力を学びたいと思った。発表から1ヶ月で5,000人の社員が活用し、320の具体的なソリューションを実装で使っている。
ソフトウェアのステージが変わったと強く感じている。以前はパッチ1つでも月次点検のイメージがあったが、今では毎日、数時間単位でのサイクルになっている。
信頼性の担保として、「Face VC(フェイスVC)」の実装を進めている。NECは顔認証が得意で、エージェントが広がったときに「そのエージェントは誰の権限で動いているのか」を担保する仕組みが必要になる。みずほ銀行と協働で金融の高度なサービスにVC(Verifiable Credential)を組み合わせる実証も進めている。
白石陽介
KYCはこれまで事業者側にあった。でもエージェントが暴走して、本人が認めていない取引を勝手にやってしまうリスクが生じる。エージェント自身が「誰のエージェントか」を証明できる仕組みが、これからのKYCと等しい意味を持ってくるということですね。
吉崎敏文
そういうことです。銀行に登録された個人情報とエージェントが紐づき、なおかつ自分の主権は自分にある、ということが重要になってくる。スピードは最大の防御だと思っていて、テクノロジーはグローバルで進んでいく。日本がハイブリッドな運用のやり方でアジア、さらに世界に打って出られる可能性はある。

セッション総括

最後に、各登壇者がAI時代のサイバーセキュリティに向けたメッセージを語った。
田中悠斗氏は「回復可能性にフォーカスを当てることと、反撃の意思を表明することが防御の第一歩」と締めくくった。廣末紀之氏は「人材強化と、AI時代に備えたバックアップ体制の整備が急務」と述べ、矢野貴文氏は「クラウド集中型からエッジ分散型へのシフトをオポチュニティとして捉えるべき」と語った。
吉崎敏文氏は「スピードが最大の防御。日本がハイブリッドな運用でアジア・世界に出ていける勝ち筋がある」とした。平将明議員はセッションをこう締めくくった。
「サイバーセキュリティは安全保障そのものです。AIとサイバーセキュリティとブロックチェーンは全部繋がってきている。AIエージェントの時代にあって、ブロックチェーンとの組み合わせは大きなフロンティアが広がっていく分野だと思っています」
「攻撃の民主化」が進む一方で、国・業界・企業・個人のそれぞれのレイヤーで防衛体制の整備が急ピッチで進んでいる。暗号資産・Web3が社会インフラとなる過程でサイバーセキュリティは不可分の議題であり続けるだろう。
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