Compoundとは
2020年の夏、DeFi(分散型金融)のユーザーが急激に増え、非常に多くの資金が流入しました。この現象は「DeFiブーム」や「DeFiサマー」と呼ばれています。この流行をきっかけにDeFiを利用し始めたユーザーも多く、暗号資産(仮想通貨)業界で非常に大きな注目を集めました。
人や資金が集まるには理由があります。この時は売買の取引だけでなく、ユーザーは自身の仮想通貨を運用して、より多くの利益を得ようと集まってきました。
このブームを主導したと言われているのが、レンティング(貸付)プラットフォームの「Compound」です。
「DeFi Pulse」のデータによれば本記事執筆時点で、Compoundで運用のためにロックされた仮想通貨の総価値「TVL(Total Value Locked)」は99億ドル相当(約1兆円)。DeFiのプラットフォームとしては6番目に大きな規模です。
本記事では、Compoundの特徴や仕組みを紹介していきます。
1.概要
Compoundは、イーサリアム(ETH)のブロックチェーン上に構築された、DeFiの代表的なレンディングプラットフォームです。貸し出しの審査を行う中央管理者が存在せず、イーサリアムのスマートコントラクトによって運営されています。
ユーザーがCompoundのプラットフォームを利用する目的は以下の3つです。
仮想通貨を借りる場合は、銀行のサービスなどと同様に利子が付きますが、特定の銘柄を購入しなくても入手することができ、別のプラットフォームの運用に回したりすることができます。
また逆に、手元に売却する予定のない仮想通貨がある場合など、貸し出しを行うことで金利を得ることが可能です。貸した仮想通貨は、上述した仮想通貨を借りたいユーザーに貸し出されます。
この一連の貸借が、スマートコントラクトに基づいて自動で執行されているのがCompoundのプラットフォーム。貸借の取引は一対一のユーザー同士で行われるのではなく、貸し出された仮想通貨はCompoundの「プール」という場所にまとめて預けられ、プールからユーザーが借りていく仕組みになっています。
さらに、貸借のどちらを行っても、ユーザーにはCOMPトークン(以下、COMP)が付与されます。COMPは大手仮想通貨取引所の米コインベースやバイナンスなどに上場しているので、売却することで利益を得ることも可能です。
Compoundはイーサリアムブロックチェーン上のプラットフォームなので、ビットコイン(BTC)やXRP(リップル)など、他のブロックチェーン上で発行される仮想通貨を直接貸し借りすることはできません。
貸借に使用できる仮想通貨は、ベーシックアテンショントークン(BAT)やチェーンリンク(LINK)、テザー(USDT)など、イーサリアムブロックチェーンの規格「ERC-20」で発行されていて、Compoundが対応している銘柄のみです。COMPもERC-20で発行されています。
2.プラットフォームの特徴
Compoundのレンディングプラットフォームのトップ画面は、以下のようになっています。
右下の「Borrow Markets」は仮想通貨を借りる場合に参照し、左下の「Supply Markets」は仮想通貨を貸す場合に閲覧します。
2-1.仮想通貨を借りる
仮想通貨を借りる場合は、以下の2点を行う必要があります。
なぜ利子を支払い、担保資産を預けてまで仮想通貨を借りる人がいるのかと言うと、以下のような活用方法があるからです。
画面の見方
以下の画像は、上記画像の右下部分を拡大したものです。「APY」という箇所が利子を表しています。APYとは「Annual Percentage Yield」で「年間利回り」などと訳されます。利回りなので貸す側をベースにした表現ですが、裏を返せば借りる側が支払うという意味でもあります。ここの表示は借りる側が支払う年利です。
例えば1番上のアーべ(AAVE)を借りた場合、年間で2.9%の利子がかかるという意味です。APYは、需給によって1ブロック(約15秒)ごとに変動していきます。
上記画像の「Wallet」は「ユーザーのウォレット内に、その仮想通貨がどのくらいあるか」を表示。「Liquidity」は「Compoundのプールに、その仮想通貨がどのくらいあるか」を表しています。
「Liquidity」とは「流動性」という意味です。流動性とは、金融市場では一般的に「仮想通貨や株などの資産を即座に売ったり、交換したりできる度合い」を指します。ここのLiquidityは「Compoundのプールにどのくらいの数量があり、対象の銘柄を最大でどのくらい借りることができるか」を示しています。
担保率
「最大でどのくらい借りることができるか」と書いたのは、ユーザーが預けた担保資産の数量によって借りることが可能な額が変わるからです。ユーザーは担保資産を預ければ、いくらでも仮想通貨が借りられるわけではありません。
例えば、ステーブルコイン「Dai(DAI)」を担保資産として預けた場合を想定してみましょう。DAIは米ドルと価値が1:1の割合で連動するように設計されているステーブルコインです。つまり1DAI=1ドルとなるように運営されています。
分かりやすいように100DAIを担保として預けたと仮定します。Compoundでは、銘柄ごとに担保率が設定されており、DAIの担保率は75%なので、ユーザーは75DAI相当、つまり75ドル相当まで仮想通貨を借りることができる仕組みです。実際に操作する時は、画面の表示を参考にしながら、いくら借りるかを決められます。
借りている仮想通貨、または担保として預けている仮想通貨の価格が変動して、規定の担保率を下回った場合、預けた担保資産は清算(Liquidation)されます。これは担保資産の価格が下落した場合と、借りている仮想通貨の価格が上昇した場合の両方で起きる可能性があります。
清算の仕組み
Compoundにおける清算とは、具体的に「担保資産の没収」です。例えばイーサリアムを担保にBATを借りていたユーザーがいた場合、イーサリアムの価格が急落するか、BATの価格が高騰して規定の担保率を下回れば、清算が行われます。
この時、担保として預けていたイーサリアムが没収されます。Compoundでは、他のユーザーが代わりにBATをプールに戻して上げることで、その分のBATに相当する額のイーサリアムを、担保から受け取ることができる仕組みを導入しています。なおかつ、そこに8%のイーサリアムが上乗せされるため、清算が起きないか監視しているユーザーもいるようです。
通常は担保が没収されることを防ぐため、余裕を持って借り入れ、担保率が下回りそうな場合は担保資産を増加させて運用します。
なお、この8%は現在の設定で、ガバナンスによる提案・投票を経て変更される可能性もあります。
2-2.仮想通貨を貸す
仮想通貨を貸す場合の画面「Supply Markets」も、「APY」と「Wallet」の見方は同様です。こちらのAPYは、文字通りユーザーが獲得できる年間利回りを指します。Compoundでは、銀行にお金を預けておくよりも高い金利を得ることもできると、多くのユーザーが利用しています。
借りる場合と大きく違うのは「Collateral」の項目です。ユーザーは、各銘柄を担保資産として利用する場合に、対象の仮想通貨のCollateralの部分を有効化します。上述した通り、担保資産にも価格変動リスクがあるので、貸し出して金利は得たいけど、担保資産としては使いたくないという場合には、ここを無効化しておく必要があります。
仮想通貨を返して欲しい場合は、その時点の金利とともに、通常はいつでも引き出せるようになっています。
cトークンについて
Compoundでは、仮想通貨を貸した場合、COMPトークンとは別に「cトークン(cToken)」を受け取る仕組みになっています。イーサリアムを貸した場合にもらえるcトークンは「cETH」、DAIの場合は「cDAI」のように表記されます。
cトークンは「元本と金利」を表しています。Compoundのユーザーは、cトークンを戻すことで貸していた仮想通貨を返してもらう仕組みです。それによって、金利も受け取ることができるので、cトークンは債権のような役割を果たしていると言えます。裏ではcトークンを値上がりさせることで、金利を表現するというプロトコルが動いています。
また、各cトークンはDEX(分散型取引所)のUniswapが取り扱っており、運用に利用することも可能です。
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2-3.COMPトークンをもらう
上述したようにCompoundでは、貸借のどちらを行ってもCOMPがもらえる仕組みになっています。COMPは経済的価値を持っているので、保有者は売却して利益を得ることが可能です。
COMPを獲得すると、以下の画像のように画面の右上に数量が表示されます。
数量の部分を選択すると以下の画面がポップアップするので、以下の赤枠の箇所を選べば、COMPを入手することが可能です。
COMPをもらえる割合は、取引する仮想通貨によって変わります。高い金利の銘柄の貸借を行なっているユーザーほど、より多くのCOMPが配布される仕組みです。また、配布数量は決まっているので、ユーザーが増えればもらえる数量は減っていきます。
実際にどのくらいCOMPをもらえるかは、貸借を行う際、「Distribution APY」として画面に割合が表示されるので、その時に確認できます。
3.COMPトークンについて
上述した通り、COMPはコインベースやバイナンスなどの取引所に上場しているため、ユーザーは単純に、付与されたCOMPを売却することで利益を得ることが可能です。また、Uniswapで流動性プールに預けて運用したりすることもできます。
このように、投資資産として注目を集めるCOMPですが、本来の用途はガバナンスです。Compoundはコミュニティにガバナンスを移行する目的で、ユーザーにCOMPを配布しています。そのため、COMPの保有者は、Compoundの運営に参加することが可能です。
ガバナンスは「governance」の日本語表記で、「統治、管理、運営」といった意味です。DeFiではプラットフォームの運営を指すことが多く、Compoundでは例えば「清算の時のインセンティブを8%よりも高くした方がいい」と提案したり、変更を実行すべきか意見を聞くための投票に参加したりする際にCOMPが必要になります。COMPは株式のように利用されているのです。
公式ウェブサイトでは「COMPは、投票をどのアドレスにも委任できる権利を表す」と説明しています。委任先には保有者自身のアドレスも含まれるため、自分でもガバナンスに参加できることを意味します。
Compoundでは、ガバナンスで提案を行うには6万5,000COMP(14億円相当)が必要であると決められています。そのため、保有量が基準に満たないユーザーは提案を行うことができません。しかし、権利を委任できるシステムを導入することにより、そのような保有者も間接的に運営に関与することができるような仕組みになっています。
公式ウェブサイトでは、以下のようにユーザーごとの投票力の比重も公開しています。
コミュニティガバナンスへの移行
2018年9月にCompoundがローンチされた後、最初からCOMP保有者がガバナンスを担当していたわけではありません。Compoundが、ガバナンスを運営チームからコミュニティへ移行すると発表したのは2020年4月です。
関連:Compound、コミュニティガバナンスへ移行 コインベースもサポートへ
COMPについては当時、「資金調達の手段や投資機会ではなく、コミュニティガバナンスを強化するために発行されたものである」と説明。あくまで「投票権」という位置付けです。
その後、2020年6月から配布を開始。COMPの総発行量は1,000万枚ですが、42%相当の約420万COMPを、4年間かけてユーザーに無料配布しています。
配布開始後、COMPはコインベースProやFTXといった大手取引所に上場。その後、Uniswapにも上場され、投機熱も加わり、価格が高騰しました。
最初に言及した通り、2020年夏にDeFiブームが起こりましたが、COMPの配布を開始したことによって、Compoundがこのブームを牽引したとの見方が多いです。ユーザーは貸借を行うだけでなく、COMPをもらおうと集まってきたのです。これを機に、「イールドファーミング」や「流動性マイニング」を行うユーザーが急増しました。
イールドファーミングとは、DeFiで仮想通貨を預けて流動性を提供することによって利益を得ること。「イールド」は「利回り」、「ファーム」は「耕す」を意味します。
一方、流動性マイニングは、流動性提供の対価として、利息の他にガバナンストークンを獲得することです。
Compoundはイールドファーミングや流動性マイニングのブームを巻き起こしたと言われています。CompoundがCOMPを配布した後、ガバナンストークンを発行するプロジェクトが増えました。ガバナンストークンの配布は、投資家から注目を集めるトレンドの1つになっています。
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4.開発企業
Compoundのプラットフォームを開発している組織は「Compound Labs」という企業です。Compound Labsには主に、以下の大手企業が出資しています。
Compoundは2018年5月、シードラウンドで計820万ドル(約9.3億円)を資金調達。アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)とPolychain Capital、Bain Capital Venturesがこの資金調達を主導し、コインベースらも出資に参加しました。
また、2019年11月にはシリーズAのラウンドで2,500万ドル(約28兆円)の資金を調達。このラウンドはa16zが主導し、Polychain Capital、Paradigm、Bain Capital Venturesらも出資に参加しました。
なお、Compound Labsは、Compoundを開発するためだけの企業ではありません。処理速度が遅かったり、効率性が低かったり、仲介者が制約になっていたりという従来の金融システムが抱える課題を解決することをミッションにしています。
他には、異なるブロックチェーンの相互運用性を実現するためのプラットフォーム「Gateway」や、機関投資家のDeFi参入を促進するとされる「Compound Treasury」といったプロダクトを開発しています。
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5.歴史
Compoundは、2018年9月にイーサリアム上にローンチされ、最初は以下の4銘柄に対応しました。
2019年5月には、プラットフォームの次のバージョンとなる「Compound v2」をローンチ。その時点では、上記4銘柄に加え、DaiとUSDコイン(USDC)に対応しました。上述したcトークンが導入されたのは、このバージョンからです。
その後、バージョンアップのような大きなアップデートは行われていませんが、2020年12月には、独自のブロックチェーン「Compound Chain」と、それに伴うサービス改善の計画を発表。ポルカドット(DOT)やソラナ(SOL)といった他のブロックチェーンとマルチに接続し、より多様な資産を取り扱えるようにすることを目指すと説明されました。
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本記事執筆時点でCompoundは、テザー(USDT)やユニスワップ(UNI)、Wrapped BTC(WBTC)などを追加し、15銘柄に対応しています。
大手企業による採用事例
Compoundは、大手企業にも受け入れられてきました。
2020年3月には、米金融最大手フィデリティが出資する仮想通貨セキュリティ企業Fireblocksが、Compoundを統合しています。
通常、Compoundのユーザーはメタマスクのようなウォレットを利用しますが、この方法ではセキュリティが不十分であると複数の専門家が指摘。Fireblocksの顧客がCompoundを利用できるようにしたことでセキュリティが向上し、機関投資家の参入につながる可能性があるとの声も上がりました。
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また同月にコインベースが、モバイルアプリ「Coinbase Wallet」から直接DeFiを利用できるようになったことを発表。それまでDeFiを利用するには、いったんCoinbase Walletを離れる必要があり、プラットフォームごとの利率の比較や残高の確認が簡単には行えませんでした。
この新機能を追加したことで、コインベースのユーザーは、シームレスにCompoundなどのDeFiサービスにアクセスできるようになりました。
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さらに、同年12月には仮想通貨取引所や決済サービスなどを運営するCrypto.com(クリプトドットコム)が、同社のウォレット内で利用できるDeFiサービス「DeFi Earn」のローンチを発表。
これによりユーザーは、Crypto.comのウォレットからDeFiサービスにアクセスし、自身の資産の管理権を保有したままスマートコントラクトに資産を預け入れ、金利を獲得することができるようになりました。このサービスの最初の統合先として、Compoundが選ばれています。
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なお、Compoundのプログラムのコードは「OpenZeppelin」や「Trail of Bits」などの企業から監査を受けており、その際の報告書も公開しています。