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イラン戦争、ペトロダラー体制の弱体化を加速か=ドイツ銀行レポート

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

この記事のポイント
  • 人民元建て石油決済の拡大、ホルムズ海峡リスクが重なる
  • ドル基軸体制が揺らぐ可能性

ペトロダラー体制に打撃

ドイツ銀行のリサーチ部門は最新のレポートで、イラン紛争が世界の石油取引におけるドル支配の基盤を揺るがす可能性を指摘し、「この紛争はペトロダラーの支配力を侵食させる触媒となり、ペトロ人民元台頭の始まりとなるかもしれない」と警告した。

ドイツ銀行のストラテジスト、マリカ・サクデバ氏は3月24日公開のレポート「イラン情勢がドルに及ぼす影響:ペトロダラーにとっての”パーフェクト・ストーム” 」で、米ドルの基軸通貨体制が、今まさに歴史的な試練の時を迎えていると分析している。

米ドルは長らく「世界の基軸通貨」として機能してきた。その基盤は単なる信用ではなく、石油・安全保障・金融システムが一体化した構造、すなわちペトロダラー体制にある。

この体制は1974年に米国・サウジアラビア間で締結されたペトロダラー協定を起点とする。サウジアラビアは原油輸出価格をすべて米ドル建てとし、石油で得た余剰資金を米国債などに再投資することに合意した。その見返りとして、米国はサウジアラビアに対して安全保障と軍事的保護を提供。湾岸協力会議(GCC)加盟国もこれに追随したことで、世界の原油取引の多くがドル建てで行われる仕組みが確立された。

サクデバ氏は、湾岸地域の石油インフラへの被害やホルムズ海峡の封鎖により、米国の安全保障能力が根本から試されていると指摘。これが、「安全保障の供与」と「原油のドル建て決済」を交換条件としてきたペトロダラー体制の存立基盤を揺るがしていると主張した。

同氏はその根拠として、主に三つの変化を挙げる。

まず、米国の安全保障の信頼性が揺らいでいる。湾岸諸国では米軍基地や石油インフラが攻撃対象となり、さらにエネルギー輸入依存の高い欧州や日本、韓国といった米同盟国にも影響が波及している。

また、ホルムズ海峡の安全確保が従来の「米国主導の海上安全保障」から「二国間外交」へと変化。実際に中国やインド、日本向けの一部のタンカーは個別交渉によって通航が認められている。

さらに重要なのは、イランが複数国に対し「人民元での石油決済」を条件に通航許可の交渉を進めているとの報道だ。これは石油価格と決済通貨の結びつきの強さを改めて示すものであり、ペトロダラー支配が侵食され、「ペトロ人民元」誕生のきっかけとなる可能性を示唆している。

取引通貨の多様化とエネルギー構造の変換

サクデバ氏は、ドルの支配体制に関して、現在の紛争勃発以前からすでに多くの変化が始まっていたと指摘する。

  1. 中東原油の85%はアジア向け:シェール革命により米国がエネルギー自立、中国向け輸出が米国の4倍に
  2. サウジアラビアが軍需産業の内製化推進:米国への軍事依存の低下
  3. mBridgeによる決済の脱ドル化:ドルやSWIFTに依存しない多国間CBDC決済プロジェクトに参加、中国との為替スワップ協定締結
  4. 制裁回避を通じた非ドル経済圏の成立:ロシア・イラン制裁を機に非ドル建ての二国間貿易決済が急拡大(人民元やルーブル、ルピー建て)

また、同氏は複数の戦争による今回のエネルギー危機は1970年代のオイルショックに匹敵する構造変化を引き起こす可能性があると指摘する。

ロシアのウクライナ侵攻に続く中東情勢の緊張により、エネルギー価格は高止まりし、輸送ルートのリスクも上昇。各国は「輸入依存」からの脱却を進め、エネルギーの国内化(国内開発、再生可能エネルギー、原子力の再評価)を加速させる可能性が高いとの見方を示した。

エネルギーの地産地消が進めば、世界の石油・ガス貿易は縮小し、結果的にエネルギー取引におけるドル依存も低下する。そのため、ペトロダラー体制は石油とドルの両面からリスクにさらされる可能性があると指摘した。

総括

サクデバ氏は、今回のイラン紛争が、湾岸インフラへの「米国の安全保障傘」と「海上安全保障網」を揺るがし、人民元建て石油決済の拡大や湾岸諸国のドル貯蓄取り崩しを通じて、ペトロダラー体制の弱体化を一段と加速させると総括する。

さらに大きなリスクとして同氏が警告するのが、脱石油化の潮流だ。

脱石油化の動きは、石油を“他通貨で取引する圧力”と同等の影響力を持ち得る。防衛とエネルギーの自給自足を目指す世界は、同時に米ドル準備高の減少も招く可能性が高い。

各国がエネルギーの自立性を高めることで、これまで各国で保有されたドル準備金が、自国の国内投資に振り向けられる。

サクデバ氏は、これらの要因が複雑に絡み合うことで、「現在の紛争はペトロダラー体制にとって、まさに『パーフェクト・ストーム(破滅的な相乗効果)』となる可能性がある」と結論づけた。

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