ファントークンによる新たな経済圏
ビットコインが誕生してから10年以上が経った現在、そのユースケースは、仮想通貨(暗号資産)や金融以外の領域へと急速に広がってきています。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)や医療などといった公的部門から、メタバースやゲーム、アーティストなどのクリエイティブな領域まで、様々な業界がブロックチェーン技術を取り入れている中、ブロックチェーン技術に新たな可能性を見出しているのが、スポーツ業界です。
スポーツ選手のNFT(非代替性トークン)やブロックチェーン上でのチケット販売など、既に様々なブロックチェーン・アプリケーションがスポーツ業界に持ち込まれている中で、「スポーツ選手とファン」という新たな分野にブロックチェーン技術を取り入れ、革新的なユースケースを確立させようとしているプロジェクトの一つが、「Chiliz(チリーズ)」です。
Chilizは、FCバルセロナやユベントスといった著名チームと提携していることで知られており、ブロックチェーン技術を用いることにより、スポーツ選手と彼らのファンが、これまでにない方法で互いに関わることができる技術やサービスを提供しています。
本記事では、Chilizが提供しているサービスやそのメリット、またトークンの詳細や22年現在Chilizが既に提携しているスポーツチームなどについて解説していきます。
Chilizとは
Chilizとは、以下に説明するアスリートとファンを繋ぐプラットフォーム「Socios」、Sociosが基盤としているブロックチェーン「Chilizブロックチェーン」、Sociosで利用されているトークン「Chiliz(CHZ)」および「ファントークン」を開発していることで知られている企業です。Chilizは公式ホームページにて、自身のプロジェクトを「スポーツおよびエンターテインメント分野を対象にしたブロックチェーン基盤のフィンテック提供者」と描写しています。
アスリートと協業している印象が強いですが、「スポーツおよびエンターテインメント分野」と謳っているように、eスポーツチームやプロゲーマーとも提携しています。
起業家Alexander Dreyfus氏(現CEO)の発案により2018年頃から本格的に始動したプロジェクトであり、22年現在マルタを拠点に、マドリード、スイス、マイアミ、韓国およびブラジルなど、27の国と地域にオフィスを構えています。
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提携チーム
Chilizは、既に25の国と地域の150以上のスポーツチームと提携しており、誰もが知っているような著名チームも多数名を連ねています。以下は22年10月現在におけるその一例です。
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サッカー
Chilizは、UEFA(欧州サッカー連盟)の公式パートナーになるなど、元々は欧州のサッカーチームを中心に提携していましたが、22年以降は米MLS(メジャーリーグ・サッカー)のチームと協業したり、マレーシアやインドネシア、ブラジルのチームとパートナーシップを結ぶなど、徐々に事業範囲を拡大しています。
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バスケットボール
Chilizは米NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)を含む約30のバスケットボールチームと提携しています。NBAとの提携では、規制面での制限を理由にファントークン(下記参照)の発行は予定されておらず、提携チームの本拠地にてSociosの広告が流れる、またはSocios上で提携チームのロゴが使用されるなど、プロモーションを軸とした提携となっています。
アメフト
22年4月にChilizは、32ある米NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のチームのうち、13チームと提携したことを発表しました。こちらもNBAチームと同様、トークン発行は予定されていません。
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アイスホッケー
米NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)のいくつかのチームとも提携を発表しています。こちらもファントークン発行の予定はありません。
ゲーム
いわゆる「一般的な」スポーツチームだけでなく、Chilizはeスポーツおよびゲーム分野のチームとも提携を結んでいます。
その他
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ファントークンによる能動的な応援
Chiliz最大の特徴が、ブロックチェーンおよびトークン経済をスポーツ業界に持ち込むことにより、ファンとアスリートをより直接的に繋ぐ目新しい方法を提供している点です。
従来のスポーツ業界においては、自身の好きなチームやアスリートを応援したい場合、ファンは試合を見に行くまたは視聴する、もしくはグッズを買うなどといった受動的な方法でしかサポートを表現することができませんでした。この関係性に改善の余地があると考えたChilizは、ファンがより能動的にアスリートと関わることができるように、ブロックチェーンを活用した「ファントークン」という概念を提唱しました。
ファントークンの機能
ファントークン(FT; Fan Token)とは、Chilizと提携したスポーツチームがChilizブロックチェーン(下記参照)上で発行しているトークンです。「ファントークン」という単一のトークンがあるのではなく、例えばFCバルセロナのファントークンは「$BAR」、ACミランのファントークンは「$ACM」といったように、チーム毎にファントークンが発行されています。トークンの発行量や流通量の決定も各チームに委ねられています。
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ファントークン保有者は、各チームの様々な決定事項に、スマートコントラクトを介して投票することができます。その内容は各チームによって異なっており、例えば、$JUVトークンを保有するユベントスFCファンの場合、「ゴールを決めた時の歌」「公式バスのデザイン」「Tシャツのアイコンデザイン」などに投票可能です。実際に上記の項目は、ファン投票により決定されました。
𝕎𝕖 𝕞𝕒𝕕𝕖 𝕙𝕚𝕤𝕥𝕠𝕣𝕪, 𝕥𝕠𝕘𝕖𝕥𝕙𝕖𝕣.
— Socios.com (@socios) January 6, 2020
Starting today, every @juventusfc goal scored at the Allianz Stadium will be celebrated to the tune of Song 2, as chosen by you on the https://t.co/2FROhSNgw8 app. #BenvenutaSong2 pic.twitter.com/jNlR1zMl13
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「1FT=1票」の投票権として機能しているため、保有するファントークン数が多いほど、決定に与える影響力も大きくなる仕組みとなっています。
ファントークン保有者へは投票権だけでなく、VIP席やサイン入りグッズ、記念品などを獲得する権利や試合前に選手に会う権利も付与されています。投票事項と同様に、特典もチームにより異なっています。また同チームのファントークンであっても、ファントークン保有数により受け取ることのできる特典も変わってきます。
ファントークンはファンジブルトークン(代替可能性トークン)であるため、その他のファンジブルトークンと同じように、その価格は市場の需給バランスにより決定されます。トークンによっては、チームの成績が良ければトークンをバーン(焼却)し、市場の流通量を減少させることも可能です。流通量が減ると希少性が高くなり1FTあたりの価値が必然的に上昇するため、既存のトークン保有者へ利益が還元されることになります。
ファンが応援しているチームとこれまで以上に深く能動的に関わることができるようになるのはもちろん、このような機能を持つファントークンにより、アスリート側にとっても、新たな収益化の機会という利点がもたらされています。
FTO(ファントークン・オファリング)
全てのファントークンは、FTO(ファントークン・オファリング)という方法を介してローンチされます。FTOとは、いわばICO(イニシャル・コイン・オファリング)のファントークン版のようなもので、要するに新規ファントークン公開を指しています。
どのチームのFTOもChilizが提供するアプリ「Socios」(後述)にて開催され、定額で発行総数の一部のみが早期購入者へ販売されます。
購入、売却およびトレード
他のファンジブルトークンと同様に、FTO後に市場に流通したファントークンは、一部の外部で購入可能なファントークンを除き、基本的にはSocios上で購入できます。Sociosでの購入には、Chilizブロックチェーンの通貨「CHZ」が必要で、法定通貨や他の暗号資産では購入できません。ファントークンを手放したい際も、Sociosの交換市場で売却可能です。
Socios以外では、Chiliz開発のトレードアプリ「Chiliz Exchange」でもトレード可能です。
ファントークンといっても、一般的なファンクラブのように有効期限や会費は存在していないため、一度トークンを購入したら手放すまで、保有者はその権利を享受し続けることができます。
Chilizトークン
前述のファントークンの購入に不可欠なトークンが、Chilizトークン(CHZ)です。CHZとは、イーサリアムおよびバイナンス上でそれぞれERC20およびBEP2の形で発行されているユーティリティトークンであり、主にSociosでファントークンの購入に利用されます。
基本的にはSocios上でしか入手できない各種ファントークンとは異なり、CHZはSociosではもちろん、その他の取引所でも購入可能です。22年10月現在、日本ではDMM BitcoinがCHZを取り扱っています。
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Sociosプラットフォーム
ファントークンの売買や入手したファントークンを用いた投票は、Chiliz開発の「Socios」と呼ばれるプラットフォームで行われます。Sociosは、Chilizブロックチェーン上に構築されており、利用にはアプリのダウンロードおよびアカウント登録が必要です。
Sociosでは、以下のような様々な機能が提供されています。
Chilizブロックチェーン
ファントークンおよびSociosは、Chiliz開発の「Chilizブロックチェーン」上に構築されています。Chilizブロックチェーンは、イーサリアムを基盤としているサイドチェーンであり、PoA(Proof of Authority)をコンセンサスプロトコルに採用しています。
PoAでは、あらかじめ選ばれたノードのみがトランザクションの実行および承認に参加する仕組みとなっています。そのため、誰でもノードとして参加できるPoW(Proof of Work)やPoS(Proof of Stake)と比較して分散性は損なわれているものの、処理速度が速く低コストであるという特徴があります。
Chilizは、ファントークン開発にブロックチェーン技術を活用する理由について、「投票の正当性および透明性を維持したいというニーズと、投票権を『所有可能』な商品にしたいというニーズを結びつけるには、ブロックチェーンが最も実用的で強力な方法だった」と語っています。
22年10月現在、Chilizブロックチェーンはパブリックテストネット「Scoville」段階にあります。今後はCHZのステーキングやガバナンスなど、様々な機能が実装される予定です。メインネットローンチは23年Q3以前に計画されているようですが、詳しい情報は公開されていません。
パートナーシップ
リオネル・メッシ
著名サッカー選手、リオネル・メッシ氏は22年3月に、3年契約でSociosの公式アンバサダーに就任しています。また彼の所属チーム「パリ・サンジェルマンFC」もSociosでファントークンを発行しており、メッシ氏は給与の一部をファントークンで受け取ると報道されています。
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メッシ氏はSociosとの提携について、以下のように述べています。
(略)ファンのサポートは評価されてしかるべきものと考えています。ファンには、自分たちが愛するチームに影響を与える機会が与えられるべきだ、とも。Socios.comは、ファンの体験を向上させ、ファンが 「ファン以上( “be more”、メッシ氏とSocios提携のスローガン)」になることを可能にします。世界中のファンのために、よりつながりの強い、実りある未来を創造するというSocios.comのミッションに参加できることを誇りに思っています。
バロンドール
Sociosは、サッカーにおける年間最優秀選手に贈られるバロンドール賞の、22年公式サポーターに就任したことを発表しました。この提携によりファントークン保有者の一部は、授賞式に参加したりその様子が動画に収められるなど、いくつかの特典を受け取ったといいます。
楽天ヨーロッパ
Chilizは21年に、ルクセンブルクに拠点を置く楽天ヨーロッパとの提携を発表しました。これによりイギリス、ドイツおよびスペインに居住する楽天ユーザーは、楽天ポイントをファントークンに交換できるようになりました。楽天およびChilizは今後もさらに関係性を深めていく予定であり、楽天がChilizブロックチェーンの公式ノードになることが決定しています。
コインチェック
国内では、仮想通貨取引所「コインチェック」がChilizと提携を結んでいます。この提携によりコインチェックは、Sociosで利用可能なNFTを、コインチェックのNFTマーケットプレイスで取り扱えるようにする予定です。
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