普及進むファントークン
国内外で、暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術を活用したスポーツを中心とした「ファントークン」発行の動きが加速している。
ファントークンは、スポーツチームなどがチーム運営やファンとの関わりを強化することなどを目的に独自に発行するトークンのこと。
ブロックチェーン上で発行され、チーム運営などに関わる投票や、各種企画に参加する「権利」として販売され、チームの新たな資金調達手段として機能するほか、トークン購入を通じて応援するサポーターとの持続的な関係性の構築に繋げることができるとして、世界中で普及しつつある。
トークン発行・売買のプラットフォームとして代表的な例として、チリーズ(chiliz)が提供するファン投票や報酬付与のプラットフォームアプリ「Socios.com」や公式ファントークンを取引できる仮想通貨取引所「Chiliz Exchange」、そしてブロックチェーン活用のトークン発行型クラウドファンディングサービス「FiNANCiE(フィナンシェ)」が挙げられる。
本記事では、こうしたプラットフォームを利用してファントークンを発行したスポーツチームのなかで、代表的な事例を各種スポーツごとにまとめた。また、クラブトークン発行により得た資金の使途は様々であるが、それぞれのケースでどのように活用されているかも併せて紹介する。
海外の事例
ファントークン発行のブームは、ヨーロッパのサッカーチームの相次ぐ参入により形成されたと言っても過言ではない。海外ではサッカーを中心に数えきれないほどのチームがファントークンを発行しているが、その一部を紹介する。
サッカー
- FCバルセロナ
スペインのサッカークラブの強豪「FCバルセロナ」は3月、48時間限定でファントークン「BAR」60万トークンを1単位あたり2ユーロ(約240円)で販売したところ、2時間足らずで完売。130万ドル(約1.4億円)を売り上げてセールは終了、ファントークンの発行はChilizが行った。
FC Barcelona is proud to announce a global partnership with blockchain platform @chiliz & @socios. Using the digital currency $CHZ, you’ll soon be able to buy Barça Fan Tokens, which give you the right to vote in club polls & earn rewards https://t.co/2NOhfsHV8i pic.twitter.com/a5GhCCo717
— FC Barcelona (@FCBarcelona) February 13, 2020
BARの保有者は、シーズン中の様々な企画などについての投票権が得られる。また、試合前に選手と会ったり、VIP客として試合を観戦したりなどといった特典も付与されるという。
関連:サッカーチーム「FCバルセロナ」のファントークン、2時間で完売
- ユベントスFC
20年12月には、イタリアのプロサッカーリーグセリエA所属の「ユベントスFC」のファントークン(JUV)が、Socios.com上で発行。2021年3月にスポーツ・エンターテイメント向け仮想通貨取引所「Chiliz.net」で取引を開始した。1枚2ユーロ(約260円)で販売されたが、JUVは上場後最初の2時間で15%価格が上昇し、出来高は20万ドル(約2160万円)に達した。主にイタリア、トルコ、日本からの取引が多かったという。
トークン保有者は、ゴールを決めた際に流れる曲を決める投票権が得られ、その他チームの様々な決定事項に関わることができる。
関連:サッカー:ユベントスのファントークン、仮想通貨取引所で取引開始
- ポルトガル代表チーム
ポルトガルサッカー協会は7月、Chilizと提携し、「Socios.com」上でポルトガル代表チームの公式ファントークン「$POR」のファン・トークン・オファリング(FTO)を開催。同チームのFTOでは、100万枚の$PORが1枚辺り2ユーロ(約260円)で販売された。
クリスティアーノ・ロナウド選手(ユベントス)、ベルナルド・シウバ選手(マンチェスター・シティ)などスター選手が揃うポルトガル代表チームのファントークンは大いに注目された。
NBA
ファントークンはサッカー以外のスポーツでも提供事例がある。
Socios.comは7月、全米プロバスケットボール協会(NBA)所属のチーム「クリーブランド・キャバリアーズ(通称:キャブス)」と提携することを発表。ファントークンの発行などの具体的な言及はなかったが、NBA「チームベースのファンエンゲージメントは検討・開発フェーズ」にあると説明していることから発行の可能性も考えられる。
🏀The 2016 champs are here.
— Socios.com (@socios) July 26, 2021
Welcome to the home of fan influence & engagement, @cavs❤️💛!#WeAreSocios pic.twitter.com/1moTvSRY44
また、キャブスは同月、バスケをテーマにした独自のNFT(非代替性トークン)アートコレクションのローンチを発表しており、限定オリジナルNFTを50個発行している。
関連:チリーズ(CHZ)が運営するSocios.com、米NBA「クリーブランド・キャバリアーズ」と提携
総合格闘技団体
総合格闘技団体のUFCは5月、Chilizと提携。UFCファントークンをローンチすると発表した。トークンの保有者は、ファン投票や、VIP向け報酬、限定プロモーションなど様々な機能・特典を利用可能になる予定だ。
4月にはUFCが仮想通貨の商標を提出したことが明らかになっていた。
関連:総合格闘技団体のUFC、独自の仮想通貨を6月にローンチへ Chilizと提携
関連:総合格闘技団体UFC、仮想通貨・NFT関連の商標を提出
7日連続で米スポーツチームと提携へ
7 days.
— Socios.com (@socios) August 12, 2021
7 teams.
The 🏀 starts rolling today. pic.twitter.com/eBqbkuMUyo
Socios.comを運営するチリーズは、8月12日から7日連続で米国の主要スポーツのチームとの提携発表を行うことを明らかにした。
初日はバスケットボールチームのサクラメント・キングス (Sacramento Kings)と、2日目は同じくバスケットボールチームのOrlando Magicとの公式パートナーシップを発表。なお、それぞれの提携においてファントークン発行の有無は現時点で明かされていない。
国内事例
海外の動きに追随する形で、国内におけるファントークン発行事例も増加しつつある。
サッカー
- 本田圭佑氏
サッカー元日本代表の本田圭佑氏は2020年10月、「Rally.io」というコンテンツクリエイター向けのトークン発行システムを使用し、独自のファントークン「KSK HONDA」コインの発行を発表。
本田氏がYoutubeで発表した内容によれば、「KSK HONDA コイン」の保有ユーザーは、無料ボイスチャットアプリの「本田圭佑プライベートチャンネル」への参加権が得られ、本田氏やユーザー同士におけるコミュニケーションが可能になるという。
また、保有者には、定期的な特典も実施していく予定だと説明。本田氏は、調達した資金を意義のあることに使うことを念頭に、コインのホルダー履歴を開示するとした。
関連:本田圭佑、ファン向けトークン「KSK HONDA」発行へ
- Y.S.C.C.横浜
Jリーグプロサッカークラブ「Y.S.C.C.横浜」は3月、フィナンシェ上を活用しクラブトークンを活用したクラウドファンディングを実施。
約2ヶ月かけて実施された1次販売期間で4,947万円を売り上げたが、これは当時、フィナンシェにおける最高売上額だった。J1で優勝を争うような巨大クラブではないクラブチームがまとまった額の支援金を獲得した事例となった。
関連:地域密着のサッカークラブがトークン発行で感じた魅力【Y.S.C.C.横浜×FiNANCiE】
- SHIBUYA CITY FC
また渋谷のフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」は3月、フィナンシェを利用したクラウドファンディングでクラブトークンを販売。
購入したクラブトークンには、クラブ投票企画への参加権、トークン主総会・フットサルイベントなどの参加型イベントへの招待権、特典抽選などへの応募権をといった特典がついている。売上は、SHIBUYA CITY FCのクラブ運営費用と参加型イベントの開催費用に利用される。
関連:「SHIBUYA CITY FC」、クラブトークンを「FiNANCiE」で販売開始
卓球
- 琉球アスティーダ
沖縄県を本拠地とするプロ卓球チーム「琉球アスティーダ」は7月、フィナンシェを利用してクラブトークンの発行を開始した。
同チームは、設立3年目にして国内卓球リーグ「Tリーグ」優勝を果たしている。また、運営企業の琉球アスティーダスポーツクラブ社は、日本のスポーツ界では初めて株式上場している。
トークン保有者は、クラブの投票企画への参加、参加型イベントへの招待などの特典が得られると説明されている。調達した資金の使途については、同クラブのの運営・強化費用、2021年内に開催予定の「アスティーダフェス 2021-2022」イベント企画・運営費に利用される。
その他
上記の以外の注目事例としては、楽天グループのヨーロッパ支社 楽天ヨーロッパがChilizと提携し、イギリス、スペイン、ドイツの居住者が楽天ポイントとスポーツ団体のファントークンの交換が可能になったことや、堀江貴文氏が運営するオンラインサロン発のプロ野球独立リーグ加盟準備中の球団「福岡北九州フェニックス」がフィナンシェを利用しファントークンを発行したことが挙げられる。
チリーズとフィナンシェについて
チリーズ(Chiliz)は、海外サッカーなどのスポーツクラブとファン(サポーター)をつなぐプロジェクトおよびそのプロジェクトで使用される仮想通貨。Socios.comやChiliz Exchangeといったサービス上でチリーズと各クラブのファントークンとを取引できる。
国内仮想通貨取引所コインチェックとNFT事業で提携した際には話題となった。また、海外の40以上の名門サッカーのクラブチームと提携してそれぞれのファントークンを発行してきた実績があるほか、eスポーツのチームや格闘技団体などとも提携している。
世界中のスポーツチームが提携の対象となるため、今後さらに大きなプロジェクトに育っていく可能性を秘めていると言える。
一方、FiNANCiE(フィナンシェ)は、ブロックチェーン技術を利用した新世代のクラウドファンディングサービス。
夢を実現したいスポーツチーム・インフルエンサー・アーティストなどがトークンを発行・販売し、サポーターを募集し、サポーターと共に夢の実現に向けて歩んでいくことをコンセプトとしている。
フィナンシェではトークンかトレカ(NFT)から選んで発行できる。前者の場合、トークンホルダーには、限定のコミュニティ活動への参加、トークン保有量に応じた投票権や成功時のリターン獲得の可能性が与えられる。後者は、定期的なカード販売で、収集という楽しさとプロジェクト支援の両方を実現する。カードは限定販売されるが、購入したカードを売買することも可能だ。