高速ブロックチェーンの競合
21年以降、それまではイーサリアム一強であったスマートコントラクト対応ブロックチェーン領域の勢力図に変化が現れ、いわゆる「イーサリアム・キラー」と呼ばれる新興プラットフォームが複数台頭してきました。
イーサリアム・キラーとは、その名の通り、現在市場シェアの大部分を占めるイーサリアムの対抗馬と考えられている同種プロジェクトです。DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)ブーム以降、ガス代高騰やトランザクションの遅延が問題視されているイーサリアムと比較して、高度なスケーラビリティを特徴としているものが多くなっています。
Solana(ソラナ)やBSC(バイナンス・スマートチェーン)、Cardano(カルダノ)など、多くのイーサリアム・キラー系プロジェクトが日々発展を続けていますが、その中でも特に21年以降急成長を遂げているプロジェクトのひとつが、「Avalanche(アバランチ)」です。
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Avalancheとは、高度な分散性および高速トランザクションを特徴としたプラットフォームです。21年4月に「Avalanche Rush」と呼ばれる流動性マイニング・プログラムを実施したことをきっかけに、ネイティブトークン「AVAX」の価格が急上昇し、TVL(プロトコルにロックされている総額)も大幅に増加したため、大きな注目を浴びるようになりました。また同年、大手仮想通貨取引所CoinbaseにAVAXが上場したことでも、話題となりました。本記事では、Avalancheの特徴、およびその背後にある技術、ならびにエコシステムやAVAXトークンを解説していきます。
1.基本概要
1-1 Avalancheとは
Avalancheとは、高速かつ低コストなトランザクションを特徴とした、dApp(分散型アプリケーション)構築用のオープンソース・プラットフォームです。dAppだけでなく、PolkadotやCosmosのように、独自のネットワークおよびブロックチェーンを作成することもできます。
米コーネル大学教授のEmin Gün Sirer氏を中心としたチームにより創設されたプロジェクトであり、21年現在は同氏がCEOを務めるブロックチェーン企業「Ava Labs」が、開発を進めています。20年9月にメインネットがローンチされましたが、それ以前から業界の注目を集めており、Avalancheへの投資企業には、Andreessen Horowitz(a16z)やPolychainなど多くの著名VCが名を連ねています。
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1-2 特徴・メリット
1-2-1 スケーラビリティおよび分散性の両立
Avalancheの最も特徴的な点は、おそらく、他のブロックチェーンとは全く異なる種類のコンセンサス・アルゴリズムを採用している点です(2-1参照)。
このアルゴリズムを、下記にある特徴的な並列ブロックチェーン構造(3参照)と組み合わせることにより、Avalancheでは、1秒間に最大で4,500ものトランザクションを処理できると言われています。この4,500という数字は、ビットコインの7TPS(Transaction per Second;1秒間に処理できるトランザクション数を表す単位)やイーサリアムの14TPSよりも遥かに大きい数であることはもちろん、1,700TPSのVISAと比較しても、その処理能力がいかに高いかが窺えます。
ノードの数を制限したり、ノードになるには処理能力の高いハードウェアを要するなど、分散性を幾分か犠牲の上に高度なスケーラビリティを実現しているネットワークは多々存在していますが、Avalancheでは、採用されているコンセンサス・アルゴリズム自体がスケーラビリティおよび分散性の両立を目指して開発されたものであるため、分散性を維持したまま、低コストかつ高速なトランザクションを実行できます。
またこのアルゴリズムでは、ノードの8割が悪意あるノードであったとしてもネットワークが機能するため、より高度なセキュリティが提供されます(ビットコインではノードの51%以上が正しく作動する必要あり)。
1-2-2 相互運用性
Avalancheは、他のブロックチェーン、特にイーサリアムとの相互運用性も備えています。イーサリアム・キラーと呼ばれてはいるものの、EVM(イーサリアム仮想マシン)が実装されており、イーサリアム・ブロックチェーン上でのスマートコントラクト構築において最も広く利用されているプログラミング言語「Solidity」に対応しているため、イーサリアムのdAppをそのままAvalancheへ持ち込むことができます。
両チェーンの互換性は非常に高く、イーサリアムユーザーに広く利用されているウォレット「MetaMask」は、Avalancheでも利用可能です。また上述の流動性マイニング・プログラム「Avalanche Rush」には、Aave、Curve、SushiSwapおよびKyber Networkなど、イーサリアム基盤のプロジェクトも参加しており、これらのサービスは、Avalanche上でも展開しています。
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Avalancheとイーサリアム間を繋ぐクロスチェーン技術、アバランチ・ブリッジ(AB;Avalanche Bridge)」も21年7月に新しくローンチされ、ERC-20トークンの両チェーン間での移動が可能になりました。今後は、イーサリアム以外のチェーンに繋がるブリッジの構築も予定されています。
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1-2-3 独自のブロックチェーンおよびネットワーク作成
Avalancheでは誰でも、「サブネット(Subnet)」と呼ばれる、複数のノードから構成されるネットワークを構築し、そのネットワーク内でブロックチェーンを作成できます。サブネット内のブロックチェーンは、プライベート型またはパブリック型のどちらでも可能で、ユースケースに合わせてカスタマイズ可能です。
サブネット作成者は、規制を遵守できるよう「KYCプロセスを経た人のみ参加可能」、「日本居住者のみ参加可能」など、サブネット内の参加者を制限することも可能です。反対にオープンなサブネットを作成することもできます。
2 コンセンサス・アルゴリズム
2-1 アバランチ・コンセンサス
Avalancheでは、コンセンサス・アルゴリズムに「アバランチ・コンセンサス」と呼ばれる、非常に特殊なアルゴリズムが採用されています。このコンセンサス・アルゴリズムこそが、Avalancheの高度な分散性およびスケーラビリティを可能にしています。
コンセンサス・アルゴリズムとは、あるネットワーク内で、ネットワーク参加者の総意をどのようにして決定するか(ブロックチェーンの場合、どのようにトランザクションを記録するか)を定めたルールのようなものであり、意訳すると「合意方法」となります。
コンピュータ科学の歴史には長年、「クラシカル・コンセンサス」、およびビットコインに使用されている「ナカモト・コンセンサス」と呼ばれる、二種類のコンセンサス・アルゴリズムしか存在していませんでした。この二つは画期的ではあったものの、様々な理由から、分散型でスケールが大きく、高速な合意を必要とするネットワーク、つまり現在我々が利用しているブロックチェーン・ネットワークにとっての最適解ではありませんでした。
しかし18年に、Team Rocket(チーム・ロケット、ポケモンの「ロケット団」の英訳)と呼ばれる匿名の研究チームが、この二つのアルゴリズムの限界を打破するかのように、アバランチ・コンセンサスという、クラシカルでもナカモトでもない第三種のコンセンサス・アルゴリズムを発表しました。
アバランチ・コンセンサスとは、端的に言えば、スピードおよびエネルギー効率の良さが特徴的なクラシカル・コンセンサス、ならびにスケーラビリティ、オープン性、分散性およびセキュリティの高さが特徴的なナカモト・コンセンサスのいいとこ取りをした、ハイブリッド型アルゴリズムです。
アバランチ(AVAX)の投資に
アバランチ・コンセンサスの基本ルールは、「各ノードは周りのノードの大多数の意見に合わせる」というものです。具体的には、以下のように考えられます。
例えば、ある部屋に64人の人がいたとします。この64人の人は、ランチに何を食べたいか決めようとしています。個人個人で別のモノを食べるのではなく、全員で同じモノを頼まなければいけません。仮に選択肢がピザかバーベキューかの二択だとします。当然ながら、ピザを食べたい人もいれば、バーベキューをしたい人もいます。そのうちの一人(Aさん)は、ピザを食べたいと思っていると仮定します。
64人の総意を決定するための方法として、部屋にいる全ての人が、それぞれランダムに選択した数人の人に「ピザとバーベキューどっちがいいですか?」と聞きます。Aさんもランダムに選択した数人に、この質問をします。
今回質問する人数は5人に設定します。5人のうち半数以上の3人が「ピザ」と答えた場合、Aさんはそのまま「やっぱりピザが食べたい」と思い続けます。一方で3人以上が「バーベキュー」と答えた場合、Aさんは「みんながバーベキューと言っているから自分もバーベキューにしよう」と自分自身の好みを変更します。このように、最初の自分の好みがどちらであろうと、大多数が好む方に自分の選択肢も変更します。
Aさんだけでなくこの部屋にいる参加者全てが同時並行的に、質問する相手を変更しながら、この質問プロセスを何度か繰り返し行っていきます。Aさんのように最初の好みがピザであったとしても、質問の結果バーベキューに好みを変更した場合、次のラウンドではバーベキューを自分の好みとして、質問に答えていきます。
これを何度か繰り返して行っていくと、多数派の意見がさらに支持者を増やしていくことになり、部屋にいる人全員が徐々に同じ意見を持つようになっていきます。何度このラウンドを繰り返しても多数派の答えが変わらなくなったところで、つまり、どのランダムな5人に何度質問してもピザ(またはバーベキュー)との答えしか返ってこなくなったところで、このプロセスを終了します。
そうすると必然的に、最初の段階ではバラバラだった部屋全体の意見が、一つにまとまることになります。要するに、部屋にいる64人の合意が得られたことになります。
ブロックチェーンにおいては、64人の人をノード、部屋をネットワーク、ピザまたはバーベキューの選択をトランザクションの承認または拒否に関する選択に置き換えて考えることができます。
このアルゴリズムでは、全てのノードが全てのノードと関わる必要がなく、どれだけノード数が増えたとしても、やりとりするノードの数(ランチの例では5人と設定した数)が増えることはないので、ネットワークの拡大、すなわちノードの分散化が促進され、高速なトランザクションが可能になります。
2-2 PoS
Avalancheでは、上記のアバランチ・コンセンサスをPoS(Proof-of-Stake)と組み合わせています。ノードとしてネットワークに参加するには最低2,000AVAX(21年10月現在約1,500万円)が必要です。
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3 構造
上述のように独自のブロックチェーンを構築することも可能ですが、それとは別にAvalancheでは、X-Chain、C-ChainおよびP-Chainと呼ばれる3つの用途の異なるブロックチェーンが、デフォルトでプラットフォーム内に用意されています。一般的なブロックチェーンでは一つのチェーンにまとめられている機能を分割し、それぞれの機能に特化したアルゴリズムを各ブロックチェーンで採用することにより、ネットワークはより効率的に稼働できると考えられます。
3つのチェーン全てにおいて、AVAXがネイティブ通貨として流通しており、この3つのチェーン間で自由に動かすことができます。
3-1 X-Chain
X-Chain(Exchange Chain)とは、資産の作成およびトレードに特化したチェーンです。スマートコントラクトには対応していません。資産作成の際に「特定の日までトレードできない」や「特定の居住地に住む人にしか送付できない」などのルールを設けることも可能です。X-Chainで作成した資産をC-Chainで利用することもできます。
X-Chainは、C-ChainおよびP-Chainとは異なり、ブロックチェーンではなくDAG(Directed Acyclic Graph)構造となっています。ブロックチェーンは、その名に「チェーン」とあるとおり、ブロックが一つのチェーンのように繋がっています。一方でDAGでは、一つのブロックに対して複数のブロックが繋がることが可能なため、トランザクションの並列処理が可能となり、処理速度が格段に上がります。
資産の作成およびトレードのみを実行する場合、ブロックチェーンのようにブロックが時系列で並ぶ必要はないため、X-ChainではDAGが採用されています。
3-2 C-Chain
C-Chain(Contract Chain)とは、EVM(イーサリアム仮想マシン)実装のチェーンで、スマートコントラクトの実行が可能です。dApp構築には、このチェーンを利用します。
3-3 P-Chain
P-Chain(Platoform Chain)とは、Avalancheのメタデータを記録するチェーンです。バリデータや後述のサブネットの管理は、このチェーンで行われます。
3-4 プライマリーネットワーク
これら3つのチェーンは、「プライマリーネットワーク(Primary Network)」と呼ばれる特殊なサブネットの一種により管理されています。
プライマリーネットワークは、サブネットの参加ノードで構成されており、サブネットに参加しているノードは全て、プライマリーネットワークにも参加しなければいけません。つまりサブネットの参加ノードが増加すれば、プライマリーネットワークの参加ノードも必然的に増加するため、サブネットが活性化すればするほど、プライマリーネットワーク、すなわちX-Chain、C-ChainおよびP-Chainの3つのセキュリティが高まることになります。
アバランチ(AVAX)の投資に
4 AVAXトークン
4-1 トークン概要
トークン名称 | Avalanche(AVAX) |
発行上限 | 7億2,000万AVAX |
ジェネシスブロックでの発行 | 3億6,000万AVAX |
4-2 内訳
7億2,000万AVAXのうち、ジェネシスブロックで発行されていない方の3億6,000万AVAXは、ステーキング報酬として分配されます。ジェネシスブロックで発行された3億6,000万AVAXは、トークンセールによる資金調達や開発資金、エアドロップなどに利用されています。
4-3 使用用途
AVAXには、主に以下の二つの用途があります。
4-3-1 ステーキング
AvalancheはPoS型のブロックチェーンです。ノードを稼働しバリデータになるには、最低2,000AVAX(21年10月現在約1,500万円)のステーキングが必要ですが、25AVAX(約19万円)から、デリゲータとして自身のAVAXを他のバリデータに委任することが可能です。
Avalancheでステークした場合、他の多くのブロックチェーンとは異なり、スラッシュ(ステークした資産の没収)はありません。
執筆時点では、ステーキングの年利は9.91%で、100AVAX(約75万円)をステークすると、1日あたり0.03AVAX(約200円)、1年あたりで9.91AVAX(約74,000円)の収益を得られる計算になります(年利は変動します)。
4-3-2 手数料支払い
X-Chain、C-ChainおよびP-Chainでは、トランザクション実行の際の手数料は、AVAXで支払われます。支払われたAVAXは、バーン(焼却)されます。これにより供給量が減少し、その結果、流通しているAVAXの価値が上昇する仕組みとなっています。
21年には、バーンされた総トークン量が10万AVAXを超えています。
5 ユースケース
Avalancheは、以下のユースケースでの活用が期待されています。
5-1 DeFi
スケーラビリティの高いAvalancheは、DeFi分野で既に広く利用されています。イーサリアムとの互換性もあるため、イーサリアム基盤のDeFiアプリケーションの中には、AAVEやCurveなど、Avalancheで展開しているもののあります。
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プロジェクト一例
- Pangolin:21年にローンチされたAvalanche最大のDEX(分散型取引所)。Avalancheおよびイーサリアムのトークンに対応。
- Trader Joe:DEX、レンディング、ファーミングなど様々な機能を備えているDeFiプラットフォーム。
- BENQI:貸付市場。ユーザーは資産を預け、利子を得ることができる。
- Abaracatabra:他のプラットフォームに資産を預け入れると受け取れる利子付きのトークン(yvYFIやxSUSHI)を担保にステーブルコインを発行。
- TrueUSD:TrustToken社発行のステーブルコイン。
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5-2 公共機関・企業・政府
Avalancheのサブネット技術を活用することにより、規制に準拠した、または特定のルールを組み込んだネットワークおよびブロックチェーンを構築することが可能になるのは前述の通りです。この特徴を受け、公共機関や企業、政府などが資産を発行しアプリケーションを構築するのに、適したプラットフォームだと考えられています。
プロジェクト一例
- メキシコ、キンタナ・ロー州議会:透明性を保証するために、立法に関する文書ののデジタル証明にAvalancheを活用。全ての法案にQRコードが紐付けられており、スキャンするとその文書の正当性を検証できる仕組み。
5-3 NFT
Avalancheでは、NFT作成機能がプラットフォームに組み込まれており、アートやゲーム分野を中心に、NFTプロジェクトの数が増加しています。
プロジェクト一例
- Topps:NFT市場。米メジャーリーグベースボール(MLB)やコミック系のコレクションを取り扱う。
- Kalao:VR技術を取り入れたNFT市場。
- Yeah Probably Nothing:写真家Jason M Peterson氏のNFT作品。シカゴにあるラッパーKanye West氏の壁画写真などを含む。
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アバランチ(AVAX)の投資に
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