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日本のクリプト大転換期 金商法・税制改正の舞台裏|WebX2026

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WebX2026 | セッションレポート

日本のクリプト大転換期 金商法・税制改正の舞台裏

廣末紀之 × 加納裕三 × 河合健

暗号資産を巡る規制の枠組みが、資金決済法から金融商品取引法へと大きく変わろうとしている。ビットバンクの廣末紀之氏、bitFlyerの加納裕三氏、そして法制度の専門家である河合健弁護士が、この転換がどのような舞台裏を経て実現しつつあるのかを語った。モデレーターはzERC20の藤本真衣氏が務めた。
廣末紀之

廣末 紀之

ビットバンク株式会社
代表取締役社長CEO

野村證券でキャリアを開始後、IT系スタートアップの経営に従事。2014年ビットバンク株式会社を創業し代表取締役社長CEOに就任、2022年にはデジタルアセット信託事業のJADATを設立。

加納裕三

加納 裕三

株式会社bitFlyer Holdings
代表取締役CEO

ゴールドマン・サックス証券等を経て、2014年bitFlyer共同創業。現在は株式会社bitFlyer Holdings代表取締役CEOのほか、JBA代表理事・JVCEA理事も務める。

河合健

河合 健

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
パートナー

東京銀行等を経て2009年弁護士登録。フィンテック・ブロックチェーン・金融規制などを専門とし、国際的評価機関でも高い評価を得る。

藤本真衣

藤本 真衣

モデレーター
zERC20 CEO

2011年よりブロックチェーン業界に参入。日本初のBitcoin寄付プラットフォーム「KIZUNA」やJapan Blockchain Week Summitの創設に携わる。現在はスイスを拠点にzERC20・INTMAX創業者として活動。

資金決済法から金商法へ、制度改正の経緯

暗号資産事業者を取り巻く制度が大きく変わろうとしている背景について、藤本氏はまず河合氏に制度の整理を求めた。
資金決済法から金商法への制度改正について説明する河合健氏
河合健
2017年に資金決済法の中で仮想通貨が規制対象となって以降、様々な変遷を経て、暗号資産の法制を資金決済法の枠組みから金融商品取引法の枠組みに変える法案が国会に提出され、衆議院を通過して参議院の通過待ちとなっている*。可決されれば公布から1年以内に施行され、2027年夏頃には新しい規制がスタートする見込みだ。
(*7月15日参議院本会議でも可決
資金決済法はあくまで決済の法律であり、暗号資産を決済手段として見てきた。しかし実際には一般ユーザーの多くが投資手段として利用しており、投資手段に関する法制、すなわち株式やデリバティブを規制する金融商品取引法の方が適しているのではという議論が2年ほど前から起きていた。決済法が決済の安全・確実性を定める法律であるのに対し、投資に関する法律は投資家への正しい情報提供や自己責任での投資判断、不公正な取引の排除を定めるものだ。今回の改正では、情報公開規制とインサイダー取引規制が主眼となる。

自主規制団体としての舞台裏、JCBA・JBAの歩み

続いて藤本氏は、JCBAの立ち上げから自主規制の運営まで携わってきた廣末氏、JBAとして政策提言を続けてきた加納氏に、それぞれの舞台裏を尋ねた。
廣末紀之
業界団体としては日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の会長を務めてきた。業界としてはかねてより、世界と並ぶように分離課税(約20%)への税制改正を求め続けてきたが、長年「詐欺業者に分離課税とかふざけるな」といった反応を受けながらの活動だった。流れが変わったのは2年ほど前で、分離課税は特別に優遇された税体系であり、優遇を受けるにはきちんとした金商法の枠組みが必要だという議論から、業界内で金商法移行を受け入れるコンセンサスが形成された。そこからタスクフォースを組み、当局と一つひとつ論点を潰しながら交渉を重ね、今に至っている。
加納裕三
従業員から経営者まで向き合わなければいけないのがこの業界のレギュレーションであり、業界団体の活動は非常に重要だ。業界には金融庁認可の唯一の団体であるJVCEA(日本暗号資産等取引業協会)、任意団体のJCBA、JBA(日本ブロックチェーン協会)の3団体があり、それぞれ役割が異なる。分離課税を求めるには金商法という証券会社のライセンス枠組みへの移行が前提となり、これによりインサイダー取引や相場操縦といった不公正取引の禁止が課される。この法改正の根底にあるのは顧客保護であり、社会的に守らなければいけない人々を守ることが基本だという点で議論が積み重ねられてきた。

金商法移行後も残る「クリプトらしさ」とは

藤本氏は、ビットコインがまだ知られていなかった時代から業界に関わってきた両氏に、規制強化の中でも残ってほしい「クリプトらしさ」について尋ねた。
クリプトらしさについて説明する廣末紀之氏
廣末紀之
ビットバンクを創業した当初は、この技術をもってすれば規制でがちがちな既存金融とは違う新しいフロンティアが開けるという期待があった。12年が経ち、結局は金融の世界に近いユースケースが当てはめやすく、一般的な金融の枠組みに収斂してきた面はあるが、DeFiなどの領域には、まだフロンティアとしてのクリプトらしさが残ってほしいと考えている。
加納裕三
もともと外資系証券会社でトレーダーをしており、金商法や証券業協会(JSDA)のルールを守るのが基本だった。金融が30年変わらないことに物足りなさを感じていた中でブロックチェーンに出会いbitFlyerを創業した。金商法移行は取引所にとって非常にタフになる。さらに証券会社も含めた新しいマーケットの中で戦い、新しい金融を作り出したいというのが目指すビジョンだ。

事業者が注意すべき実務論点と各社の対応状況

藤本氏は法律実務の観点から、金商法移行にあたって取引所や事業者が特に注意すべき論点を河合氏に尋ねた。
河合健
論点はエンティティごとに異なり、大きく取引所運営者、これまで暗号資産に参入してこなかった金融事業者、それにテクノロジー提供会社の3カテゴリーに分かれる。取引所運営者にとってはインサイダー取引の発見体制や取引監視、自己資本規制比率、責任準備金、セキュリティ水準の引き上げなど投資家保護のルール整備が重要になる。施行は1年後を見込むため、新たなライセンスの取り直しも必要になり、体力のある会社と小さな会社では、合併や資本注入、業態転換といった生き残りの判断が求められる局面に入る。今までとは違った戦い方、どういう相手とどう組んでいくかという判断も必要だ。一方で銀行や保険会社が暗号資産に投資できるようになるなど、新しいマーケットも生まれてくる。
加納裕三
不公正取引への対応やインサイダー取引の規定作り、マネーロンダリング対策など、証券会社が一般的に行っていることを実装していく段階だ。ショートスクイーズやパンプアンドダンプ、引け値操作といった不公正取引の類型を防止できるシステム改修や、インサイダーに関する社員教育などが必要になる。
廣末紀之
ビットバンクは現在資金決済事業者だが、金商事業者になるにあたっての差分は非常に多い。コンプライアンス、マネーロンダリング対策、サイバーセキュリティといった到達水準のゴールを決め、足りない部分を全社挙げて埋めている段階だ。リソース面やファンクション、社員のことなどを考慮した結果、SBIグループ入りというチョイスをした。単独で生き残るか、資本提携するか、業態を変えるかなど、各社が今後1年ほどで判断を迫られる局面になるだろう。

トラベルルールとセルフカストディを巡る課題

オーディエンスの関心が高いテーマとして、藤本氏はセルフカストディへの出金が厳しくなるのではという不安の声について両氏に尋ねた。
トラベルルールとセルフカストディについて説明する加納裕三氏
加納裕三
トラベルルールとは、取引所間や個人ウォレットへの移動時に移動先と目的の申告を求めるルールで、国際機関FATFの要請を受けて各国が法制化したものだ。ルール自体がそこまで厳格化したわけではなく、セルフカストディウォレットへの出金対応が厳しくなったように見えるのは業界の判断による部分が大きい。本人確認や目的確認をしっかり行うようになったということで、セルフカストディだからダメというルールになっているわけではない。マネーロンダリング等に使っていないことを証明できれば送金は可能だ。
廣末紀之
マネーロンダリング対応の要請は年々厳しくなる一方で、予測市場などにホップしているようなものは止めろというのが事実上の業界の指導になっている。国際的要請であり従わざるを得ない。非VASP領域、つまりセルフカストディやウォレット事業者についても何らかのホワイトな統制を敷くことで、クリプトの良さであるスムーズな価値の転送をできるだけ維持していきたい。この非VASP領域をどうクリアにしていくかは、業界がこれから取り組むべき課題だ。
藤本真衣
自身もプライバシーを提供するツールを作っている立場として、オンチェーンAML(アンチ・マネー・ローンダリング)を使って悪い資金を弾きつつ必要であれば開示する仕組みを調整している。悪い人のためにルールを合わせて、良い人まで諦めさせる仕組みになってしまうのは残念でもったいない。
続けて藤本氏は、国内取引所同士で送金できない組み合わせが残っている点についても質問した。
廣末紀之
bitFlyerとビットバンクの間は、実は双方向とも送金できない。これはトラベルルールに基づく通知情報のやり取りで使用しているソリューションが異なるためで、bitFlyerは「TRUST」、ビットバンクは「Sygna」を採用しており互換性がない。国内ユーザーの利便性のためにも、加納氏には互換を働きかけている。
加納裕三
bitFlyerはグローバル展開しており、米国・欧州にも拠点があるため、国際的にTRUSTを採用している。
河合健
これはルール上は問題なく、どちらのソリューションを使っても、両方導入しても構わない。ルールの問題ではなくテクノロジーやビジネス上の選択の話であり、進展することを期待している。

今後3〜5年の展望

最後に藤本氏は、今後3〜5年で日本の暗号資産市場がどう変わっていくか、3氏それぞれに展望を尋ねた。
河合健
今回の資金決済法から金商法への変更は、規制法の領域で根本的な規制法を途中で変更する初めてのケースであり、大きな制度実験だ。制度が変わればプラスの影響を受けるプレイヤーもマイナスの影響を受けるプレイヤーも出てくるが、税率が20%に下がることで個人投資家の参加が増え、機関投資家も金商法という枠組みに入ったことで市場に参入するきっかけができる。全体のパイ自体は増え、投資の手段も広がっていくと見ている。
加納裕三
既存金融とクリプトの境目はより融合し、オンチェーン金融によってトークン化されたエクイティなど様々な資産が一気通貫で取引できる世界を実現したい。bitFlyerとしては機関投資家向けのクリプトカストディ事業を強化していきたい。ビットコインETFはおそらく2028年頃に上場し、その前の2028年1月に税制が変わると予想している。さらにその先には、AIがステーブルコインを使ってAI同士で発注・納品・決済を行う世界を見据え、独自開発のブロックチェーン「miyabi」を軸にオンチェーン金融の一端を担う会社を目指したい。
廣末紀之
これまでの10年は基礎を作る時代であり、まさに法案が可決されようとしている今、これからの10年は実装の時代に入る。クリプトはまだまだ発展性があるものであり、新しいプレイヤーを迎え入れながら業界全体で発展していきたい。

セッション総括

藤本氏は「これからもこの業界に深く関わっていきたい」とし、パネリストへの謝辞とともにセッションを締めくくった。
資金決済法から金商法へ。基礎を作ってきた10年から実装の10年へ。制度整備が進む中で、クリプトらしさをどう残していくかという課題も含め、業界の次の局面が動き出している。
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