
暗号資産(仮想通貨)推進策を公約に掲げ、2024年の大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏は、自身の考えや政策を発表する際にSNSを頻繁に活用します。その投稿内容は金融市場に大きく影響を与えることが多く、投資家や報道機関らは常に注視しています。
この傾向は仮想通貨領域にも当てはまり、トランプ氏がどんな仮想通貨政策にどのように言及するのか、投資家からの注目度は大統領選以降、非常に高まっています。
トランプ氏は主に、「トランプのSNS」と呼ばれる「Truth Social」を使って投稿を行なっています。2025年3月には、仮想通貨準備金構想をTruth Socialに投稿し、その際に名前が上がった銘柄は価格が急騰しました。
また、最近はTruth Socialの運営企業が、仮想通貨関連事業を発表しており、ますます注目度が高まっています。
そこで本記事では、Truth Socialの特徴や仮想通貨との関連性、運営企業の金融事業などについて解説していきます。
- 目次
1.概要・基本情報
1-1 Truth Socialとは
Truth Socialは、X(旧ツイッター)に類似したSNSです。ユーザーは、ウェブサイトとアプリでTruth Socialを使用することができます。

出典:Truth Social
最初にアカウントを作成して、「Truth(真実)」と呼ばれる投稿を行ったり、「いいね」やフォロー、コメントなどをしたりすることが可能。投稿は1,000文字まで書き込むことができ、画像は最大4つ、動画を1つ添付できるなどの特徴があります。
なお、Xとの大きな違いは、本記事執筆時点では日本語に対応していないことです。
1-2 誕生の背景や時期
Truth Socialは、トランプ氏が立ち上げたSNSです。立ち上げの背景には、Xなどの大手SNS企業が2021年にトランプ氏のアカウントを凍結したことがあります。トランプ氏は、IT大手のSNSが使用できなくなり、情報発信ができなくなったため、Truth Socialを立ち上げました。
アカウントが凍結された原因は、トランプ氏の当時の投稿が暴力を扇動する可能性があるなどと問題視されたためです。例えばXは当時、問題となった投稿を特定し、アカウント凍結に至った理由を詳しく公表しました。暴力を扇動すると問題視した背景には、2021年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件があります。
議会議事堂襲撃は、トランプ氏の支持者が行ったものです。当時の大統領選における敗北を認めないトランプ氏に同調し、支持者は大統領に選出されたバイデン氏への権力移行を妨害しようとしました。
当時、SNS企業は、トランプ氏の投稿がこういった暴力を扇動する可能性があると指摘したのです。

出典:TMTG
Truth Socialを運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(TMTG)は公式サイトで、企業のミッションとして「インターネットを開放し、発言権を取り戻すことによって、IT大手による言論の自由への攻撃を終わらせる」と述べています。
サービス開始日については、2022年の「大統領の日」である2月21日にiOS向けのApp Storeで最初に正式にローンチしたとの情報がありますが、米証券取引委員会(SEC)の書類によれば、iOS版が正式にリリースしたのは同年4月。その後、同年5月にウェブ版、同年10月にアンドロイド版がリリースされました。
1-3 運営企業について

出典:TMTG
運営企業のTMTGは、企業名にトランプ氏の名前が入っていることに加え、公式サイトによれば同社の発行済株式の約58.7%をトランプ氏が保有しています。また、TMTGの取締役会にトランプ氏自身は所属していませんが、息子のドナルド・トランプ・ジュニア氏が参加していることも大きな特徴です。
同社はデジタル・ワールド・アクイジションという企業と合併し、2024年3月に上場しました。デジタル・ワールド・アクイジションはSPAC(特別買収目的会社)で、同社自体は事業をもたず、未上場企業の買収・合併を行うことを目的として設立された企業です。
現在、TMTGの株はナスダックとNYSE(ニューヨーク証券取引所)テキサスに上場しています。以下のチャートは、これまでの株価の推移。合併手続きが完了し、ティッカーが現在の「DJT」に変わったのは24年3月26日です。

出典:TradingView
Truth Social以外の事業では、TMTGは「Truth+」というブランドでストリーミングプラットフォームも展開。一方で、仮想通貨領域で注目を集めているのは、フィンテックブランドの「Truth.Fi」です。
1-4 Truth.Fiとは
Truth.Fiは、TMTGが2025年1月に立ち上げを発表したフィンテックブランド。発表では、金融サービスに事業を拡大すると説明しており、仮想通貨だけに特化しているわけではありません。
Truth.Fiについて同社は2025年4月の株主向けの書簡で、米国投資家へのサービス提供と戦略的買収の模索に重点を置くと説明しました。同月には、「メイド・イン・アメリカ(米国製)」に重点を置いた仮想通貨関連株式、ビットコインおよびその他のアルトコインから構成される投資商品を提供する計画も発表しています。
また、最近では同年5月にビットコイン財務戦略を実行するとして、この戦略のために機関投資家およそ50社から総額25億ドルの資金を調達すると発表。その後6月にはビットコイン現物ETFを申請したことも明らかになっています。
2.Truth Socialのデータ
Truth Socialの利用状況について、TMTGは公式の数字を公表していませんが、データプロバイダーのウェブサイトなどを確認することで規模や動向を把握することができます。
まず、トランプ氏は2022年2月からTruth Socialを始めており、フォロワー数は990万です。参考までに、2009年3月からトランプ氏が始めたXのアカウント(@realDonaldTrump)はフォロワー数は1億です。(25年6月時点)

出典:Coolest Gadgets
また、「Coolest Gadgets」というウェブサイトによれば、Truth Socialの2024年における月間ユーザー数は平均で590万でした。また、Truth Socialのユーザーの84.16%が米国に居住しているとのデータも公表しています。
他には、ユーザーの61%以上が、トランプ氏の共和党の支持者であるとも説明しています。
3.収益基盤
2025年1Q(1月から3月)の四半期報告書を見ると、2025年3月末時点でTMTGの収益を主に支えているのはTruth Socialによる広告収入であることがわかります。Truth+はまだ広告収入を生み出しておらず、Truth.Fiは収益自体を生み出していないと同社は述べています。
2025年3月末時点では、前年同期比で収益が50.7ドル(7%)増加しましたが、これは主に広告の経済的な側面の改善が寄与したと説明しました。また、同社の収益は、Truth Socialの広告事業の実験によって変化するとも述べています。
今後については、Truth+での広告事業やプレミアムコンテンツ付きのサブスクリプションサービスで収益を上げるなど、既存のプロダクトやサービスを拡充させると説明。一方で、提携や合併・買収を行って新たな領域へ参入し、事業を多様化していくことも計画しているとも述べています。
4.投稿の影響やリスク
本節では、トランプ氏による投稿を振り返ります。仮想通貨市場に大きな影響を与えた投稿を中心に取り上げ、リスクや懸念事項も考察していきます。
公式ミームコイン発行
まず、トランプ氏の仮想通貨関連の言動で最もインパクトが大きかったものの1つが、2025年1月の独自ミームコイン「OFFICIAL TRUMP(TRUMP)」の発行です。世界一の経済大国の大統領に就く人物が公式ミームコインを発行した事例は非常にインパクトがありました。このTRUMPの発行が、最初にTruth Socialで発表されています。
その後トランプ氏のXアカウントでも発行が発表され、数時間が経過。オンチェーン専門家らは流動性供給などの観点からミームコインは公式である可能性が非常に高いと指摘し、価格は20倍以上に暴騰しました。
一方、ミームコインの発行を巡っては法的な観点から問題視する声が上がっています。
米消費者権利擁護団体Public Citizenが2025年2月、トランプ氏がTRUMPをSNSで宣伝したことを問題視し、司法省と政府倫理局に書簡を送付して調査を要請。このトランプ氏の行為が贈与の勧誘にあたり、違法の疑いがあると指摘しました。
関連:仮想通貨トランプ(TRUMP)の買い方|特徴・価格動向、将来性を解説
仮想通貨準備金の創設
また、2025年3月には、米国の仮想通貨産業を支援する新たな政策を投稿。デジタル資産に関する大統領令に関連し、仮想通貨準備金の創設を指示したと明らかにしました。
この戦略準備金にはXRP、ソラナ、エイダといった主要な仮想通貨が含まれるとしており、この発表を受け、3銘柄の価格が急騰。その直後、ビットコインやイーサリアムが準備金の中核となるとも投稿しました。
一方、この投稿については、その後にホワイトハウスAI・仮想通貨特命官デビッド・サックス氏が、「大統領は単に時価総額で上位5つの仮想通貨に言及しただけなので、人々は少し深読みしすぎていると思います」などと発言しています。
名前の上がった銘柄の価格は一時急騰しましたが、その後に失望売りによって大きく反落もしたため、価格の急変動には注意が必要です。
FRB議長解任を示唆
他にも、2025年4月には米連邦準備理事会(FRB)に対して利下げを要求し、ジェローム・パウエルFRB議長の解任をほのめかす投稿を行いました。これは仮想通貨市場に関連するだけでなく、中央銀行の独立性を脅かすことにもつながる重大な投稿です。
その後、解任の意図はないと撤回しましたが、この投稿には仮想通貨業界の内外から批判が上がりました。
例えば、エリザベス・ウォーレン上院議員は、政治的動機によるFRB議長解任は投資家の信頼を揺るがし、株式市場を急落させる可能性があるなどと警告しています。
また、仮想通貨投資家で起業家のアンソニー・ポンプリアーノ氏も、米国大統領が一方的にFRB議長を解任すべきではないと強調。意見の相違のために、FRB議長を解任するという考えは非常に悪い前例となるため、実行すべきではないと述べました。
このように、Truth Socialなどでのトランプ氏の投稿を閲覧する際は注意が必要です。トランプ氏は政策が二転三転することが多いだけでなく、投稿は法令違反、価格変動、投資家保護などのリスクをはらんでいる可能性があります。
また、このようなリスクが含まれているのは、トランプ氏が関与するイベントも同様です。
例えば、大統領就任式の前夜祭として開催され、コインベースらの主要プレイヤーが参加した「Crypto Ball(クリプトボール)」、TRUMPの保有者を招いた「大統領晩餐会」などのイベントも影響を注視する必要があります。
5.独自トークン発行について
5-1 発行検討を発表
TMTGのTruthエコシステムを巡っては、2025年4月の株主向けの書簡で、同社がユーティリティトークン発行を模索していることを明かしており、仮想通貨領域で非常に注目が集まっています。
ユーティリティトークンとは権利や機能を有する実用性のあるトークンで、幅広く利用が可能。「ユーティリティ(utility)」という英単語には「多目的の」や「実用的な」という意味があります。
書簡では、Truth+の項目で報酬プログラムの一環としてユーティリティトークンの導入を検討していると説明。Truthデジタルウォレットに導入して、最初はTruth+のサブスクリプション費用の支払いに使用できるようにすると述べています。
そして、その後はTruthエコシステムのプロダクトやサービスでも利用できるようにすると説明。今後、Truth Socialにも導入される可能性があります。
5-2 報道内容
ユーティリティトークンに関するその後の公式発表はありませんが、「Yellow」というメディアが2025年5月1日、複数の情報筋の話として具体的な発行計画まで報じています。
正確な情報かは不透明ですが、ユーティリティトークンの発行には主要ブロックチェーンとしてポリゴンを採用することが決定したと報道。ソラナ、アバランチ、Baseなどを数カ月に渡ってリサーチした後に、ポリゴンに決めたと述べています。
Yellowによれば、2025年4Q(10月から12月)に機能を限定してユーティリティトークンをローンチする予定。Truth Socialへの導入は2026年1Qを計画しているようです。
なお、この内容は情報筋の話に基づいているだけでなく、他の主要メディアは報じていません。
関連:トランプ大統領のSNS『Truth Social』、ミームコイン発行のうわさを否定
5-3 肯定的な意見
米国の大統領が関与する企業が独自トークンを発行することについては、肯定的な意見と批判的な意見があります。
まず、肯定的な意見として、ブロックチェーン技術を活用することで決済を高速化したり、手数料を安価にしたりできる可能性が指摘されています。独自トークンの導入によって、TMTGが技術的な恩恵を受ける可能性があります。
また、Web3の投資家やコミュニティの関心を引き、新しいユーザーを呼び込むことができる可能性もあります。TMTGの利用はトランプ氏の支持者に偏っているとのデータがあるため、ユーザーを増やすことができれば、各ブランドの成長や収益増加につなげることができます。
独自トークンによって報酬プログラムを展開し、ユーザーのエンゲージメントが向上すれば、エコシステムの発展につなげることができるかもれません。
他にもIT大手への依存からの脱却を掲げるTMTGにとって、Web3技術の導入は独立性を強化する手段になる可能性もあります。さらに、Web3特有の新たな収益モデルも構築できるかもしれません。
5-4 批判的な意見
一方で批判的な意見も多く上がっています。
まずは、規制や法律に関するリスクです。現在、米国では国家レベルの仮想通貨規制が整備されておらず、特に現役の大統領が関与している企業が独自トークンを発行するとなれば、証券法などの法的要件を満たすのか不確実性があります。それに加え、利益相反、汚職、倫理の観点からも監視の目がさらに強まる可能性があります。
また、トークンの価格変動や投機性の問題も指摘されています。例えば熱狂的なトランプ支持者が市場に参入し、価格が乱高下すれば、投資家が大きな損失を被る可能性があります。TMTGの株はミーム株(はやり株)の性質があるとの見方も多いです。
他にも、価格操作を防げるのか、流動性にリスクはないのか、プラットフォームを含めて独自トークンがトランプ氏の支持者以外にも普及するのか、実際の経済的価値を持ちうるのか、商業的に成功できるのかといった声もあります。
まとめ
本記事では、トランプ氏のSNS「Truth Social」と仮想通貨との関係について、TMTGの戦略や市場への影響、そして独自トークン構想まで幅広く解説しました。
政治家による投稿がデジタル資産の価格を左右する時代において、Truth Socialのような発信媒体の存在感は無視できません。運営企業であるTMTGが進めるWeb3戦略も、仮想通貨の将来性を語るうえで重要な材料となっています。
とはいえ、トークン発行や仮想通貨政策に関しては、規制や倫理面での懸念も残されており、冷静な視点での情報収集が欠かせません。
今後は、TMTGの動向やトランプ氏の発言が、仮想通貨市場や世論にどのような影響を与えるのかを注視していく必要があるでしょう。
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