ステーブルコイン「USDC」の発行元として知られる米Circle社は、安定性と透明性を兼ね備えたデジタル金融インフラの構築を進める世界的なフィンテック企業です。
本記事では、Circleの企業概要、収益構造、USDCや開発者向けプロダクトを通じた成長戦略、そして米国IPO計画や日本市場での展開に至るまで、ステーブルコインの信頼性を支える「中核プレイヤー」の全体像を解説します。
内容
Circle社とは:企業概要と設立背景
Circle Internet Financial(以下、Circle)は、ブロックチェーン技術とステーブルコインを活用した次世代型の金融インフラ構築を目指す米国のフィンテック企業です。
2013年に設立され、当初は個人向けの送金アプリなどを展開していましたが、2018年には米ドル連動型のステーブルコイン「USD Coin(USDC)」を発行。これが現在の同社の中核事業となっています。
Circleの共同創業者兼CEOであるJeremy Allaire(ジェレミー・アレール)氏は、インターネット技術と金融の融合に早くから着目しており、「お金をインターネットネイティブな形で流通させる」というビジョンのもと、規制と透明性を重視したステーブルコイン事業を発展させてきました。
本社はニューヨークに置かれており、規制に準拠した形でのデジタル資産の発行・管理を行っています。Circleは金融サービスを提供するため、米国各州の送金ライセンス(Money Transmitter License)を取得しているほか、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の監督下でUSDCを発行しています。
現在、Circleは単なるステーブルコイン発行企業にとどまらず、法人向け決済、クロスチェーン送金、ウォレット基盤、API開発支援など多角的なWeb3インフラを提供する企業として、グローバルでの存在感を高めています。
USDCを中心としたプロダクト実績
Circleが発行する「USD Coin(USDC)」は、米ドルと1:1でペッグされたステーブルコインであり、2025年4月時点で約560億ドル(約8.8兆円)規模の発行残高を有する、業界第2位のステーブルコインです(※1)。
USDCは100%法定通貨建ての準備資産(現金および米国債)によって裏付けられており、監査法人Deloitte & Touche LLPによる月次レポートでその準備状況が公開されています。これにより、金融機関や機関投資家を含む幅広い市場参加者から高い信頼を獲得しています。
USDCは現在、Ethereum、Solana、Polygon、Arbitrum、Baseなど19のブロックチェーンに対応しており、相互運用性やスケーラビリティを重視した設計となっています。Circleは自社で提供する「CCTP(Cross-Chain Transfer Protocol)」を通じて、これら複数チェーン間のUSDC送金を安全かつ効率的に実現する仕組みを整えています。
USDCは分散型金融(DeFi)市場ではレンディングや流動性提供の基軸通貨として活用されており、中央集権型取引所(CEX)では基軸通貨や送金手段としてのニーズが高まっています。また、国際決済、越境Eコマース、法人向けトレジャリー運用などの分野にも用途が拡大しています。
こうした幅広いユースケースと高い信頼性により、USDCは単なる仮想通貨の一つではなく、次世代のデジタルドルインフラとして国際的なポジションを築いています。
※1:データ出典:CoinMarketCap、Circle公式情報(2025年4月時点)
USDCの主要指標
指標 | 詳細 |
---|---|
時価総額ランキング | #7(約621.3億ドル〈約8.8兆円〉) |
取引高 | 88.5億ドル(約1.2兆円) |
リザーブ(裏付け資産) | 623億ドル相当(現金+米国債) |
発行チェーン | 全19チェーン(Ethereum、Solana、Polygon、Avalanche、Baseなど) |
主要ウォレット | MetaMask、Coinbase Wallet、Ledger、Trust Wallet |
主要取引市場 | Coinbase、Kraken、Uniswap(DEX)など |
発行会社 | Circle(米規制下のフィンテック企業) |
監査 | Deloitte & Touche LLP による定期レポート |
*データ元:CoinMarketCap、Circle公式情報 2025年4月30日時点
Circleの収益構造とビジネスモデル
Circleのビジネスは、ステーブルコイン「USDC」の発行・管理を中心に構築されていますが、その収益構造は複数の柱によって支えられています。透明性・安定性・相互運用性を軸としながら、金融インフラとしての信頼性を高める事業モデルを展開しています。
1. 準備金運用による利息収入

出典:Circle Investor Presentation(2021年9月)
Circleの主要な収益源は、USDCの準備資産(リザーブ)から生まれる利息です。USDCの発行にあたっては、1USDCに対して1米ドル相当の準備資産を保有する必要があり、その多くは短期米国債や現金等により構成されています。
これらの準備金を安全性の高い金融資産で運用することで、利息収益が継続的に発生します。特に金利上昇局面においては収益性が高まり、Circleの事業を支える安定的な収益源となっています。
このモデルは、ステーブルコイン発行における金融業的側面を持ち、従来の銀行ビジネスに近い構造とも言えます。
2. エンタープライズ向けAPI・開発者ツール
CircleはUSDCの発行・流通に加え、開発者や企業向けのインフラサービスも展開しています。
たとえば、企業がUSDCを活用した決済や資金管理を容易に導入できるよう、以下のようなAPI・SDKサービスを提供しています:
- 支払い・入金・精算処理を自動化できる「Payments API」
- マルチチェーン対応のウォレット生成が可能な「Programmable Wallet」
- USDCのクロスチェーン送金を実現する「CCTP」
これらのツールは従量課金制(ペイ・アズ・ユー・ゴー型)で提供されており、Web3事業者やグローバル企業のシステム統合ニーズに対応しています。Circleの収益多様化とエコシステム拡大を担う重要な事業領域となっています。
3. 信頼と規制遵守によるB2B取引の優位性
Circleは、米国各州の送金業ライセンスを取得し、準拠した形でUSDCを運用・発行しています。さらに、Deloitteによる監査を毎月受けるなど、規制対応と情報開示の透明性を重視した運営方針をとっています。
この姿勢は、金融機関や企業との提携、政府主導のパイロットプロジェクトへの採用など、B2B・公共領域での信用力向上につながっており、長期的な事業継続性の強化にも貢献しています。
CircleはUSDCのスケーラビリティと収益性を軸に据えつつ、金融サービス企業から「Web3時代の金融インフラ企業」への転換を進めているといえます。