仮想通貨での報奨制度に反対する理由
ウィキペディアの共同設立者であるジミー・ウェールズ氏は、ブロックチェーンや仮想通貨(暗号資産)をウィキペディアのプラットフォームに統合することにはメリットがないと、改めて強調した。
ウェールズ氏は、ロンドンで開催されたCoinGeekカンファレンスで講演を行い、ウィキペディアにブロックチェーンを応用することを考えさせるような実用事例を目にしたことはなく、仮想通貨はウィキペディアにとって有用ではないと指摘した。
むしろ、仮想通貨はウィキペディアの持つビジョンや、ウィキペディア独特の運営方法を最終的に損なうものだとみなしており、すでにユーザーがコンテンツの作成者と編集者に仮想通貨で直接報奨を送金可能にすることを検討してほしいという依頼を断ったこともある。
その理由としては、ウィキペディアは新しいコンテンツの追加や編集、事実確認、不正確または適当でない情報の削除を、ボランティアの専門家や愛好家に頼っていることがある。
仮想通貨をプラットフォームに統合すれば、企業や利益団体がいわゆるPRコンテンツのような偏った内容を掲載させやすくなるため、ウィキペディアは「一歩後退」するだろうとウェールズ氏は主張。「お金(仮想通貨)を払わないと編集できない仕組みになれば、本来分散型であるウィキは中央集権的になってしまう」と説明した。
記事の質低下を懸念か
2018年にもウェールズ氏は、「BlockShow Europe」に登壇した際に、フェイクニュースの隆盛について語り、クリック数だけで記事の良し悪しを判断されてしまうような現行体制が、フェイクニュースや『クリックベイト』(俗に言う釣り記事)の蔓延につながっていると指摘した。
調査時間を要した『内容の濃い記事』と、(短時間で殴り書きしたような)不確かな情報による『内容の浅い記事』のクリック数が同等であった場合、記者に対する報酬が変わらない状況に対して危機感を露わにしていた。
今回の発言も、人々が喜んで支払うコンテンツが常に良質なものではなく、ブロックチェーンで支払いを可能にすることで、ウィキペディア記事の質が保てなくなる恐れがあるのではという懸念が背景にあると考えられる。
一方、ウィキペディアへの寄付手段としては、様々な仮想通貨を受け入れることについて問題はないとの認識である。
ウィキペディアは、2014年からビットコインでの寄付を受け付けている。