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レイ・ダリオが語る秩序の崩壊 仮想通貨は避難先になり得るか?

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

揺らぐ米ドルの信用性

2025年5月16日、国際信用格付け機関ムーディーズは、米国政府の債務規模および利払い比率の継続的な増加を踏まえ、米国の主権信用格付けを「Aaa」から1段階引き下げて「Aa1」とし、見通しを「ネガティブ」から「安定的」に修正したと発表した。

これに先立ち、フィッチとスタンダード&プアーズもすでに米国の格付けを引き下げており、これによりアメリカは主要な3大国際格付け機関すべてで最上位格付け「AAA」を失ったことになる。

これに対して、世界最大級ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」創設者のレイ・ダリオ氏はXで投稿し、警鐘を鳴らした:

信用格付けは「実際の信用リスクを過小評価している」。「政府が債務を返済しないリスク」だけが評価されるが、実際には「債務を抱える国が債務返済のために紙幣を刷ること」がより大きなリスクである。

この見解は理にかなっている。国は債務不履行よりも紙幣を印刷してインフレを引き起こすのが、歴史的によく見られるシナリオだ。

もし世界最大の法定通貨(米ドル)を信用できない場合、分散型で単一政府がコントロールできず、インフレ抑制の仕組みを持つビットコインのような仮想通貨は避難先になり得るのではないか。

人々はそう考えることもできるが、いくつかの注意点を覚えておく必要がある。

秩序崩壊リスクとレイ・ダリオの懸念

今回、レイ・ダリオ氏が国際情勢について懸念を示したのは初めてではない。

トランプ大統領が「解放の日(Liberation Day)」と名付けた4月2日以降、ダリオ氏は世界経済の行方について頻繁に警告を発するようになった。

9日には「関税は単なる関税ではない」「我々は一生に一度あるかないかの通貨、政治、地政学的な秩序崩壊を経験している」と語り、14日には関税政策と世界的な緊張が「景気後退よりも悪い」危機を招く可能性があると指摘した。

関連:著名投資家ダリオ氏が警告「景気後退よりも深刻な事態が起きる可能性」 解決策は?

また4月29日、米国の関税問題が一段と深刻化する中、「もう手遅れだ:変化は既に始まっている」と題した投稿を行い、米国を中心とした世界経済秩序の崩壊が避けられない段階に入ったとの警告を発した。

関連:通貨秩序崩壊の先は? 著名投資家ダリオ氏が描く世界経済の未来とビットコインの役割

なぜダリオ氏はそう考えるのか。手がかりは彼の2021年の著書『変わりゆく世界秩序への対応原則』にある。

この本で「大周期(Big Cycle)」の概念を提示した。ダリオ氏の「大周期理論」とは債務、政治、社会、通貨などの構造が数十年単位で繰り返す循環的な変化を捉え、国家や経済の盛衰を分析するフレームワークである。

強力な国々(オランダ帝国、イギリス帝国、アメリカ合衆国、中国など)も、この周期から逃れることはできない。

彼によれば、以下の三つの力が同時に作用することで世界秩序の大きな変化が生じる:

長期的な債務と資本市場の周期:過剰な債務と低金利が経済の不安定性を増大させる。

国内の秩序と混乱の周期:富の格差や価値観の対立が社会的・政治的な不安を引き起こす。

国際的な秩序と混乱の周期:新興国の台頭が既存の超大国との間で緊張を生む。

こうした状況は決して望ましいことではないが、仮想通貨には有利に働くかもしれない。

債務問題について

政府債務の急増

米国政府の債務は急速に拡大し、2025年初頭に36兆ドル(約5,400兆円)を突破、過去最高を記録した。

2024年の債務残高はGDPの124%に達し、財政の持続可能性に深刻な懸念が生じている。特に、利払い費用は2024年に8,820億ドル(前年比33.8%増)となり、予算を圧迫している。

主な原因は以下の通り:

・コロナ禍の財政出動:大規模な経済支援策が債務を急増させた。

・構造的な財政赤字:歳出が歳入を恒常的に上回る状況。

・減税政策:税収減少による財政余地の縮小。

1966年~2024年の米国連邦債務の対GDP比率

世界でも同様の問題が起きている。

国際通貨基金(IMF)は、2024年時点で世界の公的債務がすでに100兆ドルを超えており、2030年までには世界全体のGDPの100%に近づく見通しだと述べている。

通貨不安とビットコインの台頭

レイ・ダリオ氏は、過剰な債務と低金利の組み合わせが経済の不安定性を高め、中央銀行が国債を買い支える「財政の貨幣化」を進めれば、インフレや通貨の信頼低下を招くと警告する。

「財政の貨幣化」とは中央銀行が国債を買い支えることで貨幣供給が増加することである。

前述した通り、インフレや債務返済のための紙幣印刷により、法定通貨の価値は低下圧力を受けやすい。

その場合、安定したビットコインなど仮想通貨が注目されるのは当然である。政府に対する信頼が揺らぐ時、分散型の仮想通貨は、少なくとも単一の権力主体によって恣意的に操作されることのない存在として、ある種の静かな親近感を抱かせるものである。

社会不安の高まり

社会危機とビットコイン

2022年初頭、カナダではワクチン義務化に抗議するトラック運転手たちが「自由車隊(Freedom Convoy)」を結成し、オタワで道路封鎖などの抗議行動を行った。

その中、政府の介入により、従来の金融プラットフォームを通じた資金調達が凍結されたため、支援者たちはビットコインを活用した新たなキャンペーン「Honk Honk Hodl」(小丑のように笑われても、暗号資産は決して手放さないという意味のネットスラング)を立ち上げ、数十万ドル相当のBTCを集めた。

ビットコインは単なる投資対象ではなく、社会危機が発生する際の対抗・避難手段となりうる。こうした事象は特別な例ではない。

2021年5月以降、BinanceのP2Pプラットフォームでは、ベネズエラの法定通貨である「ボリバル建ての取引が75%増加し、ビットコイン価格が下落したにもかかわらず、ベネズエラはラテンアメリカで唯一取引量が増加した国となった。

なぜなら、社会秩序が崩壊する中で従来のシステムが機能不全に陥り、仮想通貨がその「ギャップ」を埋めるからである。

社会変動の未来とその根本原因

しかし、将来的に社会変動は必ず増加するのだろうか。

ダリオ氏によると、「富の格差や価値観の対立」が社会不安を引き起こす要因として挙げられている。価値観は考察しにくいが、富の格差は確実に拡大している。

世界不平等研究所が発行した『世界不平等報告書2022』によれば、過去20年間で、各国における上位10%と下位50%の個人間の平均所得格差はほぼ倍増した。

世界の収入と財産の格差(2021年)
出典:世界不平等報告書2022

さらに深刻なことがある。フランスの経済学者トマ・ピケティの代表作『21世紀の資本』(2013年)では、資本収益率が経済成長率を上回る状況では、資本主義は自動的に予測不能で長期的な格差の拡大を生み出すとされている。

20世紀における不平等の縮小は、市場メカニズムの結果ではなく、二度の世界大戦、世界恐慌、累進課税制度の導入といった歴史的衝撃によってもたらされた例外的な事象である。

要するに、経済格差の是正は容易ではない。大きな衝撃は誰も望んでいないが、より深刻な貧富の差や社会不安が足音を立てながら近づいているのかもしれない。

だからこそ、仮想通貨にはさらなる可能性があるのかもしれない。不安定な時代において、人々は結局のところ、自分たちが「安定している」と信じられる何かを求めるのだ。

国際秩序の混乱

ドル資産への警戒感

2025年5月19日、中国が3月に米国債保有を減らし、外国・地域による米国債保有で英国が2位に浮上した。

ブルームバーグがまとめたデータによると、中国が最後に米国債保有でトップだったのは日本が首位に入れ替わった2019年。英国が中国を抜いたのは20年以上ぶりとなる。

これについては、以下のような分析がある:

・米国による制裁や決済制限のリスクが高まっている。

・それに伴い、ドル資産が「戦略的負債」となり得る可能性がある。

そのため中国は、リスク分散、収益の最適化を目的として、外貨準備の保有構成を見直している。

将来、大国間の競争が激化すれば、資産分散化は良い選択肢ではないかという考え方に共感する人は少なくない。

戦争下における仮想通貨の機能

極端な場合、もし戦争が勃発すればどのような状況になるのか。ウクライナ戦争を見てみよう。

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、米国および同盟諸国はロシア中央銀行が保有する約3,000億ドル相当の外貨準備を凍結した。

一方、ビットコインは好調だった。2022年2月28日付のブルームバーグ報道によると、CoinSharesのデータに基づき、西側諸国による制裁発動後、取引所におけるルーブル/ドル建てのビットコイン取引量は前週比で121%増加した。

さらに、ロシア連邦議会下院は2024年7月30日に暗号資産マイニングを合法化する法案を可決した。制裁回避、資金調達といった目的で仮想通貨が活用されている。

国際関係が緊張する局面では、伝統的な法定通貨が制限されるリスクを回避する手段として、「中立的」に見える暗号資産への関心が高まる傾向がある。

態度の変遷

興味深いのは、レイ・ダリオ氏がかつて暗号資産をバブルと評していたが、2021年には「非常に優れた発明」と高く評価していることだ。

それに加えて、2024年には「私は負債資産(債券など)から離れ、ゴールドやビットコインのような”ハードマネー”を一部保有したいと考えている」と述べ、2025年には「ポートフォリオの多様化を目的として少量のビットコインを保有し、世界的な債務リスクや通貨価値の下落に対するヘッジ手段としている」と語った。

態度を変えたのは他の人々もいる。

JPモルガンのCEOジェイミー・ダイモン氏は長年ビットコインを「詐欺」などと懐疑的な見方を示してきたが、2025年5月、同社が顧客にビットコイン取引を許可する方針を発表した。

本人は依然として懐疑的だが、「購入する権利は守る」と述べ、顧客需要に応じた戦略的転換を示した。

特筆すべきは現トランプ大統領である。

ドナルド・トランプ氏は第一期政権時代の2021年、ビットコインを「詐欺のようなもの」と批判し、暗号資産に否定的な立場を取っていた。

その声はまだ耳に響いているようだが、米大統領選を踏まえ2024年以降は一転した。支持を表明し、自身のミームコイン「$TRUMP」を発行、さらにビットコインの国家備蓄制度を推進するなど、暗号資産を積極的に取り入れる姿勢を見せている。

関連:トランプ次期大統領が公式ミームコイン「TRUMP」発行、価格は20倍暴騰

関連:ビットコイン準備金とは | 米国・各州の法案動向まとめ

彼らの姿勢が変わる背景には、時代の変化がある。

避難資産としての評価は

しかし、どんな時でも冷静さを欠いてはならない。以下のことを心に留めておくべきだ。

ビットコインはしばしば「デジタルゴールド」として称されるが、流動性が急速に縮小する場面では、他のリスク資産と同様に大きく下落する傾向がある。

その典型例が、2020年3月に発生した「コロナ・ショック」である。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が引き金となり、金融市場全体がパニックに陥った。金(ゴールド)やビットコインも例外ではなかった。

ビットコインは当時、1日で約50%の大暴落を記録し、約8,000ドルから一時3,800ドル台にまで急落した。これは、避難資産としての信頼性に大きな疑問を投げかける出来事となった。

2020年3月12日のBTC大暴落

市場全体が流動性危機に見舞われる状況では、金や国債と同様に、仮想通貨も短期的にはリスク資産として扱われやすいことが浮き彫りになった。

リスクは仮想通貨の追い風になるかもしれないが、そのリスクが爆発して全面的な危機になると、話は別である。

政府の非常措置

社会が激しく変動したり、戦争が発生したりする状況で、政府がそのまま何もしないわけがない。

実際、政府による強力な規制も各国でたびたび見られる:

・中国:2021年9月、中国人民銀行はすべての暗号資産取引を違法とする通達を発表し、国内外の取引サービスに対して包括的な禁止措置を講じた。

規制の発表直後、ビットコインは8%以上下落し、中国のWeb3プロジェクトの多くが海外へと拠点を移し、中国のWeb3産業は大きな打撃を受けた。

・ウクライナ:2022年2月、ロシアの侵攻を受けたウクライナでは戒厳令が発令され、ウクライナ国立銀行(NBU)は自国通貨フリブナを用いた仮想通貨の購入を禁止した。

これは外国為替市場の安定性を維持するための非常措置として実施された。

・欧州:2023年6月、欧州連合(EU)は「暗号資産市場規制(MiCA)」を正式に採択し、暗号資産の発行者およびサービス提供業者に対して統一されたルールの適用を決定した。

MiCAの厳格な要件により、テザー社などには準備金管理の見直しや詳細な開示・監査への対応が求められるようになっている。

つまり、資本逃避や通貨防衛といった観点に加え、金融安定や消費者保護を理由として、仮想通貨は各国政府による強力な規制の対象となるのが常態となっている。仮想通貨に投資する際には、こうした規制環境が避けられない現実であることを常に念頭に置くべきである。

環境問題

ビットコインは環境負荷の大きさが長年にわたり世界的に問題視されている。

特に、現在ビットコインは年間約160テラワット時(TWh)の電力を消費しており、これはアルゼンチン一国の年間電力消費量を上回る水準である。そして、「環境に優しくない技術」との批判が強まっている。

この問題は、今後以下のような影響を及ぼす可能性がある:

・各国政府による規制強化(マイニング禁止や課税強化)

・ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮した持続可能な投資)の流れの中で、機関投資家からの資金流入の減少。

・マイニングコストの上昇による採算性悪化と中央集権化のリスク。

ビットコインが「未来の通貨」として信頼を得るには、エネルギー効率や環境負荷への真摯な対応が不可欠だ。

ビットコインと「その他」の明暗

ビットコインが避難資産としての立場を強める中、その他の暗号資産は依然として取り残されている。

2025年5月にはビットコインが史上最高値を更新したが、イーサリアムはなお過去のピークから60%以上下落し、XRPやソラナも大きな回復には至っていない。

CoinMarketCapのデータによれば、ビットコインの市場占有率は現在も約63%を維持しており、2021年以降の高水準を保っている。市場の分化が一層進む可能性がある。

原因について、そいう指摘がある:

・規制面での安心感:BTCやETHは、米国のCFTCやSECによって分類が比較的進んでおり、他のアルトコインに比べて法的リスクが低いとされている。

・流動性の高さ:機関投資家が、現物ETFやカストディなどの形でビットコインを継続的に保有・運用している。

そして、市場不安が高まる中で資金が向かうのは、ごく一部の信頼される資産に限られる。ビットコインへの期待が高まる一方で、他の仮想通貨はまだ闇の中にいるかもしれない。

まとめ

時代の変動は確かに仮想通貨など新たな資産クラスに歴史的チャンスをもたらしている。投資家にとっては喜ばしいことかもしれないが、激動の時代は時に予想を超えるリスクを伴う。

仮想通貨への期待は持ちつつも、価格変動リスクに備えて、ビットコインの保有比率をポートフォリオ全体の5〜10%程度に抑えるべきだという声もある。不確実な時代にこそ、理性と希望の両方を持って向き合う必要がありそうだ。

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