- 「クリプトバレー」ツークに迫るエストニア
- エストニア共和国は、デジタル社会とブロックチェーン導入の面では世界で最も進んだ国の一つに。すでに仮想通貨関連の事業を展開している国外在住の株主をもつ企業は、700を超えるという。
エストニアの現在
人口132万人、北欧バルト三国の最北端に位置するエストニア共和国が今、ブロックチェーン開発の新たなハブとして急速に進展しているようだ。
AIソフトウェア開発企業、ORS CryptoHound社のリサーチによると、世界でも先進的なブロックチェーン関連法を持つエストニアには、700を超えるブロックチェーン企業が集結しており、「クリプトバレー」として知られるスイスの都市ツークをしのぐ勢いだという。
ちょうど1年前、ヨーロッパの48カ国を対象として、ブロックチェーンならびに仮想通貨の税制や規制等に関して最も整備の進んだ国に関する調査が行われたが、エストニアはそのトップ10にも入っていない。首位は「クリプトバレー」を擁するスイス、ICO誘致を積極的に行ったジブラルタルが2位、大手仮想通貨取引所BinanceやOKExを迎え入れたマルタ共和国が3位となっていた。
しかし、エストニアは、1997年から積極的にIT技術を行政に活用し、2008年には、いち早くブロックチェーン技術を試験的に導入、2012年には、国民保険や司法、立法、商業法などの分野で実際に運用を始めている。
そして、世界でも先進的な「電子政府」として、エストニアの名を一気に世界に知らしめることとなったのは、2014年に開始された「e-Residency (電子居住権)」プログラムである。
e-Residencyを取得すると、エストニアが自国民や居住者に提供している電子政府システムの一部を利用することができる。つまり、世界中のどこに住んでいようが、エストニアのビジネス環境に繋がり、同国での銀行口座開設をはじめ、法人設立も可能なため、オンラインで、EU加盟国であるエストニアに登録された企業として、経営する自由が得られる。
このプログラムと、ブロックチェーンスタートアップ企業との相性は抜群のようだ。
ブロックチェーン先進国
オフショア企業設立サービスを行うPrivate Financial Services社のDmitri Lihno氏は、エストニアは、デジタル社会とブロックチェーン導入の面では世界で最も進んだ国の一つであり、既に制定された仮装通貨規制、有利な税制、および業務が容易に行えるため、多くの起業家がブロックチェーン事業をエストニアに移転していると述べている。
エストニアでは、「20~30分でオンラインで会社を設立し、数回のクリックで税金を支払うことができる」とは同氏は語り、そのような有利な環境が整備されているため、エストニアから仮想通貨ならびにブロックチェーン事業を展開している国外在住の株主をもつ企業は、700を超えると言う。
さらに、税制の面でもエストニアは、ブロックチェーンと仮想通貨関連企業にとっても、国際的に有利な環境にあるようだ。
その一つに、「分配前の利益が課税から免除される」という面があげられる。KRM Advisor社の顧問弁護士である Kristine Akopdžanjan氏は、次のように説明した。
利益が分配されない限り、会社に適用される法人所得税はない。(他の費用が課税されない限りにおいて)つまり、課税されることなく会社を運営することが可能であり、すでに多くの起業家がそうしている。
また、仮想通貨に関する課税については次のようなルールがあると、Akopdžanjan氏は説明している。
- トークンが、証券、投資、または通貨として売買される場合は、直接の課税はない
- 商品やサービスの支払いが仮想通貨でなされた場合も同様
- 会計上、決済はユーロ建てで評価され、申告される
- 仮想通貨での商品およびサービスの支払いは、法定通貨の支払いと同じく、付加価値税処理の対象となる
また、Eesti Consulting社のPaweł Krok氏によると、仮想通貨は資産として扱われることが多いため、付加価値税は免除となるという。
なお、今年、エストニアを拠点とするブロックチェーンおよび仮想通貨事業は、より厳しいデューデリジェンスの対象になり、これまで、オンラインで完結していた仮想通貨通貨取扱免許取得は、4月17日より、対面での本人確認が必要になるという。つまり、エストニアに渡航し、手続きを完了させる必要性が生じることになる。
それを踏まえても、なおエストニアがブロックチェーン企業にとって友好的で有利な環境にあることは明らかであり、これからの発展が注目される。
「クリプトバレー」スイスの都市ツーク
一方、本家クリプトバレーのツークでは、3月に開催されたブロックチェーンカンファレンス「クリプトバレーサミット」において、ウエリ・マウラースイス連邦大統領が登壇し、ブロックチェーンを活用したビジネス振興のため、迅速で透明な規制体系を導入することを表明、連邦政府からの支援を強調した。
また、ブロックチェーン企業を育成する共同オフィスを運営するCVVC社は、今年から、スタートアップ企業の事業アイディアをサポートするインキュベーションプログラムを開始し、IT、法律、ビジネスの面から専門家が約3ヶ月にわたり、支援するという。
最終的には10社から20社程度が選ばれるというが、1社あたりに対し、12万5000ドルを援助するという。
イーサリアム財団やカルダノ財団といった仮想通貨の大御所が本拠地を置くツークと、国をあげてデジタル化を推進するエストニア。ブロックチェーン企業の発展を後押しする時代の潮流は、これからも続いて行きそうだ。