
ついに分離課税実現なるか
大型Web3カンファレンス「WebX」では8月25日、暗号資産税制改正についてディスカッションが行われた。日本の暗号資産業界が長年求めてきた税制改正について、政府関係者と業界団体代表が実現への道筋を議論した。
・12月の税制改正大綱、来年の通常国会で税法を通すことで分離課税が実現する見通し。現在の焦点は分離課税の適用範囲、特にDeFi・DEX取引の扱い。技術革新を阻害しない制度設計まで盛り込めるかが鍵となる。
登壇者:
- 小田玄紀氏(日本暗号資産等取引業協会 会長)
- 小森卓郎氏(衆議院議員・自民党金融調査会事務局長)
- 斎藤岳氏(株式会社pafin代表・JCBAタックス検討部会部会長)
- モデレーター:高山ジョー氏
税制改正議論が加速した背景
小田氏は業界団体が毎年繰り返してきた要望に対する政府側の反応が変わったきっかけを語った。「日本で今1,250万人が暗号資産口座を持っている」という事実が転換点となったという。
2024年5月頃の金融調査会で、小田氏が1,000万口座突破を報告した際、小森氏から「1,000万超えたんだったらちゃんと考えていかなきゃいけない」というリアクションがあり、そこから議論の流れが変わったと小田氏は振り返る。
「2024年1月10日にアメリカでビットコインETFが認められてから、アメリカ、香港、シンガポール、スイス、ドイツと、いろんな国々で暗号資産ETFが認められた。一昨年まで日本では『なんでETFをやらなきゃいけないのか』を考えなきゃいけない状況だったのが、今は逆に『なんで日本はやってないんだ』と問題視されている」(小田氏)
税制改正実現への具体的ロードマップ
小森氏は政府方針を語り、暗号資産の分離課税実現に向けて、昨年12月が分岐点となったと説明した。
「自民党のデジタル本部と金融調査会が連名で、暗号資産を分離課税にしたい、金商法への移行という申し入れをした。党の税調でも政府の税調でも、来年への検討課題として暗号資産のことがしっかり文章で書かれた」(小森氏)
分離課税の実現には、下図の通り3つの条件をクリアし、3つの局面で段階的に進める必要がある。現在は第3局面の「税制改正」段階に入っており、8月末の金融庁要望を経て、12月の税制改正大綱策定が重要な節目となる。

国内、暗号資産税制改正の見通し(本セッション小森議員の発言に基づく)
- 3つの条件:業法位置づけ、投資者保護、税務報告体制の整備
- 3つの局面:業界要望→法制度反映→税制改正の段階的プロセス
- 現在地:第3局面の税制改正段階、8月末に金融庁が主税局に要望提出
- 今後:12月の税制改正大綱策定、2026年1月の通常国会での法改正検討
要点:
この体系的なアプローチにより、長年の課題だった分離課税導入が現実味を帯びてきた。ただし、適用範囲をめぐる議論は今後も続く見通しだ。
最大の論点「分離課税の範囲」をどうするか
斎藤氏(JCBA)は業界の立場を明確にした。「現物暗号資産もETFと同様、すべからく分離課税にしていただきたい」が第一義だが、対象範囲を絞る議論は避けられない。
絞り込みの軸は2つ:暗号資産の種類 vs 取引の場所。特に「取引場所で絞ること」の影響が大きいと分析する。
DEX・DeFi取引が争点
斎藤氏は「税制設計が産業の生死を分ける」と強調。取引場所による限定に強い懸念を示した。
「暗号資産交換業者だけに絞ってしまうと、ブロックチェーンに紐づいた様々なウォレットでのユースケースが日本では発展しなくなる。日本居住者にとって、ウォレットに資産を移すことに強烈なディスインセンティブが発生する」(斎藤氏)
小森氏は課題を共有。税制改正大綱では「取引業者などを通じて税務報告すること」とあり、厳密には交換業者に限定されないが、同等の信頼性ある報告体制が必要だという。
小田氏、及び斎藤氏は、スマートコントラクトによる透明性確保で技術的解決を図る重要性を指摘した。
日本の競争力を高めるため、規制は最小限に
小森氏は政府の危機感を率直に語る。「私は日本の今後の食いぶちをどうやって作っていくかを一生懸命やっていきたい。ブロックチェーンに携わる方たちに世界に向けて勝ち抜いていただきたい。何年か前は『日本やってられないからシンガポールに行く』という人が本当に多かった。今回の税制改正でそうした流れを変えていきたい」
一方で、過度な規制への慎重さも示した。「ルールをかけないほうが業界の発展にとって有利なところはまだまだたくさんある。業法上の縛りは今後もかけるべきではない。業界が成熟して縛りにも耐えられるけど恩恵も受けやすい状況になったら、それはそれでまた検討すればいい」(小森氏)
交換業者は柔軟に対応できるか
小田氏は意外な事実を明かした。「DEX(分散型取引所)、DeFi(分散型金融) *は、交換業者が使う分には問題ない。交換業者が自分たちのリスク判断でこのDeFiシステムを使うのは現状でもできる」*いずれもメタマスク等の個人ウォレットからアクセスできる、スマートコントラクトで自動操業されるサービスの総称。

モデレーターの高山ジョー氏:左、小田 玄紀氏(日本暗号資産等取引業協会 会長):右
分離課税の条件である「税務当局への報告」をクリアしながら、DEX・DeFi取引も対象範囲に含められる可能性についてこう語る。
「ノンカストディアルウォレットやDEXとちゃんと情報連携して、『この人のビットコインの取得価格は○○円です』という計算ができれば、交換業者として年間取引報告書を作ることが可能になる。第三者的にちゃんとその数字が確認取れるかどうかが大事」(小田氏)
暗号資産の可能性
小田氏は日本の暗号資産市場の現状について深刻な認識を示すとともに、税制改正による復活への強い期待を語った。「ようやく個人の税制改正されるタイミングが来た。今年1月で日本にある暗号資産の残高は5兆円。世界のマーケット500兆円ある中でたった1%しか日本にない。2017年は世界全体のビットコインの出来高50%が日本円だった。今はたった1%になってしまった」
わずか数年で50%から1%へと激減した日本のシェアは、規制環境の違いが国際競争力に与える影響の大きさを物語っている。しかし小田氏は、税制改正による巻き返しへの強い期待を表明した。
「この税制改正を含めたいろんな改正を進めることで、15%くらいまで持っていけるんじゃないかと思っている。それが結果的に日本にとっても大きく貢献することになる」(小田氏)

小森 卓郎氏(自民党 衆議院議員):奥、斎藤 岳氏(株式会社pafin 代表取締役 Co-CEO、及び日本暗号資産ビジネス協会 アドバイザー兼税制検討部会長):手前
小森氏は歴史的な視点から暗号資産の将来性について語り、現在の議論を大きな文脈の中で位置づけた。「私が担当した2020年の法改正のときに、株式取引所っていつからどうなったんだろうということを勉強した。17世紀ぐらいまで遡って、株もいろんな問題やスキャンダルがあって信用が失墜して、でもその後新しく制度を作って大きな取引所を作って、何世紀もかけて株式は今の地位を築いてきた」
「ブロックチェーンを通じた取引、暗号資産がその第一歩だと思う。今回、通貨的なところから金融資産としての位置づけが変わっていくので、これを機会にますます皆さんで盛り上がって大いに遊んでいただきたい」(小森氏)
斎藤氏は「これまでと違って、今の議論はいろんな見方や視点を冷静に議論できる環境になっている。皆さんにいい報告ができるよう頑張る」と締めくくった。
分離課税導入への道筋が具体化する中、適用範囲をめぐる議論が業界の将来を左右する重要な局面を迎えている。
関連:仮想通貨税制改正「いつから?」申告分離課税・金商法適用の影響、注目点まとめ
▼登壇者概要
Joe Takayama氏(日本最大の暗号資産系YouTubeチャンネルのホスト)
日本最大の暗号資産系YouTubeチャンネルのホストとして、暗号資産・ブロックチェーンに関する情報発信をリードしている。国内外の最新動向をわかりやすく解説し、投資家や一般視聴者の信頼を集めるとともに、業界の健全な発展に寄与。YouTubeを通じ、暗号資産に関する啓発・教育の最前線で活躍している。
小田 玄紀氏(日本暗号資産等取引業協会 会長)
1980年、東京生まれ。起業家・事業化・投資家として活躍をする。暗号資産交換業者であるビットポイントの創業者。現在はSBIホールディングス株式会社常務執行役員(社長特命事項担当)、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会代表理事。暗号資産を活用して日本の経済・財政を再建させるために法律改正・自主規制規則の改正等に取り組む。
世界経済フォーラムYoung Global Leadersにも選ばれる。
小森 卓郎氏(自民党 衆議院議員)
昭和45年生まれ(55歳)。栄光学園高等学校、東京大学法学部を経て、米国プリンストン大学大学院を修了。大蔵省入省後、財務省、金融庁、防衛省など政府の中枢で要職を歴任し、IMFエコノミスト、石川県総務部長など国内外で幅広く活躍。
令和3年に衆議院議員(石川1区)初当選、現在2期目。総務大臣政務官を務めたほか、総務・国土交通・震災復興特別委員会に所属し、自由民主党では金融調査会事務局長、デジタル社会推進本部事務局長代理などを務めている。
斎藤 岳氏(株式会社pafin 代表取締役 Co-CEO、及び(一社)日本暗号資産ビジネス協会 アドバイザー兼税制検討部会長)
pafinは暗号資産の損益計算サービス「クリプタクト」やWeb3の家計簿「defitact」を運営。暗号資産をはじめとする最先端のブロックチェーン技術と、金融・経済・投資の双方のプロフェッショナルからなるFintechスタートアップ。 pafin以前は、ゴールドマン・サックスにて自己勘定投資部門や同社が運営するヘッジファンドにおける運用担当者として12年勤務。
▼WebXとは
WebXとは、日本最大の暗号資産・Web3専門メディア「CoinPost(コインポスト)」が主催・運営する、アジア最大級のWeb3・ブロックチェーンの国際カンファレンスです。
このイベントは、暗号資産、ブロックチェーン、NFT、AI、DeFi、ゲーム、メタバースなどのWeb3関連プロジェクトや企業が集結。起業家・投資家・開発者・政府関係者・メディアなどが一堂に会し、次世代インターネットの最新動向について情報交換・ネットワーキングを行うイベントです。
数千名規模の来場者と100名以上の著名スピーカーが参加し、展示ブース、ステージプログラムなどを通じて、業界最前線、グローバル規模の交流とビジネス創出が行われます。
▼カンファレンス概要
開催日 | 2025年8月25日(月)・26日(火) |
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開催場所 | ザ・プリンスパークタワー東京 |
主催 | 一般社団法人WebX実行委員会 |
企画 | 株式会社CoinPost |
公式サイト | https://webx-asia.com/ja/ |