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米SEC初の『仮想通貨の有価証券』に関する裁判 業界における重要性を考察【独自】

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米SECが「Kik」に対する提訴、業界に及ぶ影響とは
米国において仮想通貨のステータスが「有価証券」に該当するか否か、米SEC初の「訴訟」に発展する。有価証券問題で揺れるXRPなども含めた業界における重要性を考察する。

米SECが「Kik」に対して提訴、業界に及ぶ影響とは

世界の仮想通貨業界において先進的な対応をとる米国のSEC(証券取引委員会)。これまで仮想通貨の発行および販売(いわゆるICO)では、基本「有価証券に該当する」との規制観点を維持してきている。

昨年より具体的な対応をとる米SECは、未登録有価証券の違反で複数の仮想通貨プロジェクトに対して、罰金を下している。しかし、これらの取り締まりは法廷での議論を経た結果でなく、提訴された仮想通貨企業が「和解」により、提訴を収めたものであり、罰金および仮想通貨の有価証券再登録の要求といった条件のみで、実際の刑事裁判や刑罰の適応には至っていない。

しかし、2019年に入り米国初の法廷で争う裁判に発展するケースが公表、6月にSECが公式声明として発表した。(対政府規制当局との裁判は初)裁判の判例が法的拘束力の強い米国において、今後を左右する重要な事例となる可能性が高い、と注目を集めている。

この事例は米SECが5日、独自通貨「Kin」のICOを2017年に行なったカナダのメッセージアプリ「Kik」社に対して、未登録証券販売の容疑で告訴したものである。

今回は、仮想通貨関連事業に対する定義や規制などの連邦法が存在しない米国において、裁判所によるKikに関わる裁判の判決が、今後の米国会の法案構成における議論、米国で行われた様々なICOプロジェクトへの法的対応にとって、極めて重要な先例となることを踏まえて、状況を解説する。(有価証券問題が不安視されるリップル社とXRPにおいても重要な判例となる可能性もある。)

Kikの告訴に至る経緯

なぜKik社がSECとの訴訟に至ったのか。

2017年初頭、メッセージアプリ「Kik」を提供するKik社は独自仮想通貨のICOを実施した。当時換算で総額1億ドル(およそ110億円)の資金調達に成功。そのうちの6000万ドル以上は米国投資家から調達したものだが、米SECに対して登録申請を行わなかったことを米SECは問題視したという。

SECはICO実施後にKik社に連絡を取り、未登録証券である可能性を調査。その後複数回に渡り、対話を重ねていたが、昨年秋にKik社に「Wells Notice」を通達した。

Wells Noticeとは

米SECが有価証券に関する取り締まりを発令する前に企業や人物に提出する通知書。通知はSEC側が既に判断を下しているが、罰金などを下す前の段階で該当団体に送付される。

この通告に対してKik社は、SEC側に向けた反論を訴える「Wells Response」を提出。独自仮想通貨Kinは有価証券ではなく、「通貨」という交換手段としての側面が強いユティリティー・トークンであると主張している。

今年1月にはKik社のCEOであるTed Livingston氏はSECとの徹底抗戦を辞さない姿勢を示し、先月末にはSECとの裁判に備え資金募集を開始している。

Kik社が米SECの決断を告訴

米SECと戦闘態勢|仮想通貨の有価証券問題で初の告訴へ
米SECに対して独自の仮想通貨プロジェクトKinが有価証券に該当した判断を告訴する姿勢を以前表明していたKik社が裁判に向け5億円相当の資金を募るサイトを特設。仮想通貨プロジェクトと米SECとの裁判事例は業界が求めていた「規制明確化」への大きな一歩として注目が集まる。

SECが主張する根拠

SECは今回の発表で以前Kik社がトークンセール行なった際に、以下のように十分な情報を提供しなかった点や将来的な利益を約束した点など、有価証券性に関する指摘を行なった。ここでは、証券法・「ハウェイテスト」に詳しい米弁護士Marc Boiron氏の説明を引用し、それらの問題点に加えて関連発言を記載する。

  • Kik社が投資商品としてマーケティングした・・・「収益性を見込む」
  • 「需要の高まりが価値を見出す」と宣伝・・・「収益性を見込む」
  • 需要が高まる機能追加などを約束・・・「収益性を見込む」
  • 実際はまだそのようなサービス・システムが確立されていなかった・・・「将来的なサービス提供での収益性を見込む」
  • Kik社も需要増の恩恵を受けられる・・・「他人の労力による収益性を見込む」
  • 一部省略

このように、「ハウェイテスト」にて仮想通貨を有価証券と定めるいわゆる「投資契約」の構成部分として、上記で取り上げられた『収益性を見込む』の点を、SECは集中的に攻めている。この点に関しては、多くの仮想通貨関連法律専門家や弁護士もKik社にとっての最大の弱点としている。

なお、Kik社が「将来的な利益を保証するような行為をとったことが有価証券である最大の特徴だ」とSECのサイバー部門執行部の責任者であるRobert Cohen氏も指摘した。

SEC執行部の共同監督であるSteve Peikin氏は、「企業側にはイノベーションと証券法への遵守のどちらかを選択することはない」と述べ、Kik社が有価証券として登録しなかったことで参加した投資家が法的にこの投資商品を知る権利を持つ情報を取得できなかったと指摘している。

Kik社がSEC側の告訴に対する「挑戦」

Kik社は、米SEC側からの告訴に対して公式見解を公表した。

CEOのLivingston氏は、SECからの告訴を「上等だ。」と発言。仮想通貨の規制明確化に向けて戦う姿勢を改めて示した。

米国における仮想通貨の将来の為に戦うことを待ち望んでいる。

証券法は何百万人のユーザー、そして無数のアプリで利用されている通貨には該当するべきでないことを証明したい。

さらにSECの摘発は2017年のトークンセールに関する出来事の流れが誤解を招く内容だったと指摘し、「裁判でそれを正したい。」と意気込みを語った。

またKik社の顧問弁護士であるEileen Lyon氏は、米SECの判断が「欠陥がある法律理論に基づいてる」と説明。以下のように米規制当局の「間違い」を指摘しながら、「ハウェイテストの定義を広げているため、SECの告訴は司法審査に耐えられない」と述べた。

  • 資産の価値が上がる可能性への言及は利益を保証することとは違う。
  • また同じ目的を持つことは「共同事業(ハウェイテストのもう一つの条件)」とは異なる
  • 後援者、販売人がいることは必ずしも投資契約であることを意味しない

さらに昨年11月、Kik社とKin財団の両方に宛てに提出された「Wells Notice」に対する返答「Wells Response」がKin財団、およびプレセール・トークン配布後の取引に関しても言及されなくなった点も指摘。

これをLyon氏は「SECがKinエコシステムで現在も行われている取引が連邦証券法に該当しないことを認めている。」と説明している。

法律専門家の見立て

Marc Boiron弁護士が説明したように、Kik側に不利な点が多く見受けられる。米仮想通貨メディアThe Blockの取材に応じた複数の弁護士も今回の案件に対して、見解や解説を寄せている。

仮想通貨に関する規制にも精通するStephen Palley弁護士はこの件に関して、「Kik社に対する訴訟はいたってシンプルだ。SECがハウェイテストを利用し訴えれば、仮想通貨トークンは有価証券の範疇に置かれるはめになるだろう。」と、ハウェイテストの影響力を強調した。

ここでは一つの事実がKik社を不利な位置に追い込まれる可能性が浮上した。Kik社がトークンを発行する前にすでに財政難に陥っており、企業の買収などの資金調達方法を講じたが、結果ICOを行う方法しかないと社内で合意に至ったことだ。

SECも指摘したようにKik社はこの事実をこれに関して、名門大学Cornellの法律教授は「このような境地にいた企業は訴訟で負ける可能性が高まるだろう。最初に投資家に開示しなかったため、投資家保護の面ではSECはそれから目を背けることは考えにくい。」と、むしろKik社がICOに出た行動に驚いたという。

ブロックチェーン企業Athena Blockchainの法律顧問を務めるDrew Hinkes氏は、「Kik社の弁護士チームはおそらく裁判官に、ハウェイテストの新たな法的解釈を求めるだろう。」と述べた。仮想通貨という新たなカテゴリーに対応する証券法の定義を今後類似案件の先例としてそのメリットを探る可能性もあるとされている。

一方で、Kik社がこの訴訟で完全に負けることが決まっている状況ではないとの見解もある。仮想通貨界隈でも有名な弁護士Jake Chervinsky氏はこのように訴訟プロセスにかかる時間・結果について予測を展開した。

推測では、和解がないと仮説した場合、一時進展としては、Kik社はこれから8〜18ヵ月の間には「棄却の申し立て」を勝ち取る可能性が考えられる。そして、Kik社かSECは18ヵ月〜36ヵ月の間、総結判決か、または24ヵ月〜48ヵ月での判決を勝ち取る。その後はどっちかが上訴する。

他の仮想通貨にはどのような影響が及ぶか

SECの代表格であるClayton長官はこれまで、ビットコインとイーサリアムに対して、「有価証券に該当しないステータス」とのお墨付きを与えているが、冒頭で紹介したようにその他の仮想通貨に関しては、正しい見解は見られていない。

先日SECは、ICOを検討している企業などを対象に特定の仮想通貨およびトークンが有価証券に該当するかを判断するためのガイダンスを発表した

同文書内には、これまでSECが引用してきた「ハウェイテスト」に関する説明が加わっている。

今回の文書で新たに追加された項目としては、有価証券に該当する可能性が低くなる条件がまとめられていた点だ。

米SECによると以下のような条件をより多く揃えているほど、トークンが有価証券として見なされる可能性が低いと説明されている。

  • 分散台帳ネットワーク、およびデジタル資産が既に開発済みで稼働可能である
  • 通貨保有者はネットワーク上でトークンをすぐに利用できる
  • デジタル資産は投機目的ではなく、ユーザーの必要を満たすために設計、導入されている
  • 価値が増加する可能性が低い(長期的な価値がある程度保たれる設計を持っている)
  • 通貨の価値上昇は通貨の元々の目的ではなく、二次的な恩恵に過ぎない
  • デジタル資産は価値が上昇する可能性ではなく、その機能性を重視に販売されている

SEC初のICOガイダンス

米SEC初、仮想通貨の有価証券基準に具体例示す|証券問題で通貨価格への影響に注目
米SECは米時間3日、ICO発行に関する有価証券性を判断するためのフレームワークを発表した。また米国内のICOプロジェクトに初めて取り締まりを行わない方針を表明する文書も公表している。

このような条件を見ると、Kik社は上述のように再び不利な状況に置かれる可能性が考えられるだろうか。例えば、「分散台帳ネットワーク、およびデジタル資産が既に開発済みで稼働可能である」との点では、Kin社の場合、販売時に存在しなかったのも事実である。

他の条件からしても、利益が見込める可能性がKik社がホワイトペーパーで開示した内容に類似するため、仮に今回SECが訴訟で勝った場合、このような巨額のICOを行なったプロジェクトを追求する可能性は十分に考えられると専門家から指摘されている。

なお、ここではトークンの名前を取り上げることを避けるが、Kik社の状況に似た、価格上昇の可能性といった投資性を示唆するホワイトペーパーを持つプロジェクトが、今回の判決でSECが勝訴した場合、次点のターゲットとして見られる可能性がある。この点は、今後の投資における重要な判断材料の一つになる可能性は高い。SECはこの訴訟を皮切りに今後どのように仮想通貨プロジェクトを管轄下に巻き込むか目を離せない。

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