はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 学習-運用 WebX
CoinPostで今最も読まれています

仮想通貨取引所Coinbaseを襲った過去の標的型攻撃 最高情報責任者の報告を読み解く

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

Coinbaseへの標的型攻撃
過去に起きた米Coinbaseへの標的型攻撃。最高情報責任者が公開した内容をセキュリティに詳しいエンジニアが読み解く。

ハッキングされた大学ドメイン経由の攻撃

Coinbaseは、ゼロデイの脆弱性を組み合わせた標的型の攻撃を受けていたとして、最高情報責任者 Philip Martin氏のブログ記事を公開した。

この件については、6月19日にtwitter で第一報を共有しており、後日詳細を開示すると伝えていたものだ。

5月30日木曜日、複数のCoinbase従業員が、ケンブリッジ大学の研究助成金管理者である Gregory Harris からの電子メールを受信しました。このメールはケンブリッジの正当なドメインから送信されたもので、悪いものは含まれておらず、スパム検出機能も通過しました。次の数週間にも、同様にメールを受信しました。何もおかしな要素はありませんでした。

6月17日午前6時31分に、Gregory Harris は別のメールを送信しましたが、これは異なるものでした。Firefoxで開いた場合に、マシンを乗っ取ることができるマルウェアをインストールする URL が含まれていました。

ブログは上記のように始まっており、5月から2週間以上にわたって注意深く攻撃を行われていたことが示唆されている。

Coinbase セキュリティチームは数時間のうちに攻撃を検出してブロック。スピアフィッシングおよびソーシャルエンジニアリングを用い、クリティカルな Firefox の2つの脆弱性を狙った、高度な標的型攻撃であったことを確認したという。

5人まで絞り込まれた標的型攻撃

攻撃者はまず、ケンブリッジ大学から 2つの電子メールアカウントを奪取し、5月28日に新規ドメインを登録した(analyticsfit[.]com)。

攻撃者が最初にケンブリッジアカウントにアクセスしたのはいつか、アカウントが乗っ取られたのか作成されたのかはわかっていない。電子メールアカウントに関連付けられたIDはオンラインでは見つかっておらず、関連付けられた LinkedInプロファイルは偽物とみられている。

そして、最初のメールが 5月30日に送信された。最初に送信されたメールはシンプルなもので、ケンブリッジ大学の Adam Smith Prizeに推薦されたことを伝えるものだった。(ブログでは、対象は 200人だったとしている)

その後、ゼロデイ攻撃を仕掛ける対象を選別し、5人に向けてマルウェアをインストールするURLを含んだメールを送った。

攻撃に用いられた脆弱性

利用された 2つのゼロデイ脆弱性は、Firefox ブラウザの問題を突くもので、それぞれ 6月19日(CVE-2019-11707)、6月20日(CVE-2019-1170)に公開されたものだ。

攻撃に利用された時点で対策が完了しておらず、かつパブリックな情報でもなかったため、未知の脆弱性、ゼロデイ脆弱性とされている。

CVE-2019–11707を報告したGoogle Project ZeroのSamuel Groß氏によれば、攻撃者は恐らく独自に分析を行って脆弱性を見つけた可能性が高い、という。

当該脆弱性は 2月に報告された CVE-2019-9810 と似たようなものであり、この考え方に基づいて類似の問題を探していて、今回の脆弱性を見つけたのだろう、と述べている。

なお、この脆弱性自体は以前から存在していたようですが、攻撃に利用できるようになったのは5月12日以降である。

実際に送出された攻撃用のコードは難読化(コードを読みにくくする加工・圧縮。分析を阻害するためのもの)されていなかったものの、コードの実装は関数が分かりやすく命名されていた上、機能ごとの分割も適切になっていた。

このことから、攻撃者の研究開発スピードは非常に早いこと、コードの開発も経験豊富なグループで実行されている可能性が高い。

2段構えの攻撃

確実にペイロードを動作させるため、攻撃は複数の段階に分かれていた。

攻撃の第1段階では、まずオペレーティングシステムとブラウザーを特定し、Firefox を使用していない macユーザーにはエラーを表示して、Mozilla から最新バージョンをインストールするよう指示していた。

ユーザーがインストールを行うと、CVE-2019–11707 および CVE-2019–11708 を使用して任意のコードが実行できる状態になり、ここでシェル(curl やダウンロードしたバイナリ)を実行した。 Coinbase は「Firefox では通常発生しない動作」としてシェルの実行を検出したという。

実際には、最初に Netwireマルウェアの亜種が動作したのち、バックドア型(Remote Access Tool)の Mokesマルウェアの亜種が動作する形になっていた。

攻撃者は Gmail などクラウドベースの情報も標的にしていたため、この挙動についても不審な動作として検出された。

その後の対応

従業員からの報告と自動アラートの両方を受けて、インシデントの調査が開始された。

Coinbase セキュリティチームは問題を調査し、攻撃者が用意したフィッシングサイトがまだ残っているうちに情報を採取してブロック。影響を受けた従業員については資格情報をはく奪の上でアカウントをロックし、封じ込めた。

さらに Firefox を手掛ける Mozilla のセキュリティチームにも攻撃に関する詳細を連絡したことで、結果として、翌日には CVE-2019-11707、週内には CVE-2019-11708 のパッチがリリースされた。

ケンブリッジ大学にも連絡を行って情報収集を行ったことにより、今回のキャンペーンが 200人以上を狙った標的型攻撃に始まっていたことが分かった。

まとめ

Coinbase の事例は、ゼロデイを用いた攻撃であったにも関わらず、不審な動作によるアラート検知、従業員の資格情報はく奪やセキュリティチームの迅速な調査が功を奏し、ほとんど被害を出すことなく収束できた好例だろう。

もちろん、従業員が報告しやすい空気や文化、インシデント発生時に参照されるプレイブック(手順書)、それらに迅速に対応できるだけの人材といった要素は欠かせない。

坪 和樹

Twitter:https://twitter.com/TSB_KZK

Linkedin:https://www.linkedin.com/in/tsubo/

プロフィール:AWSで働くエンジニア、アイルランド在住。MtGoxやThe DAOでは被害を受けたが、ブロックチェーンのセキュリティに興味を持ち続けている。セキュリティカンファレンスでの講演、OWASP Japanの運営協力やMini Hardeningといったイベント立ち上げなど、コミュニティ活動も実績あり。

CoinPost App DL
厳選・注目記事
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
09/18 木曜日
16:50
「社会のジレンマを突破する」日本初のステーブルコイン発行ライセンス取得、JPYC岡部典孝氏が語る|独占インタビュー
JPYC株式会社が日本初の日本円建てステーブルコイン発行ライセンスを金融庁から取得。代表の岡部典孝氏が語る100万円制限の実態、3年後10兆円の発行目標、プログラマブルマネーがもたらす金融革命とは。
13:40
ウォーレン米議員ら、トランプ政権の仮想通貨特命官に対する倫理調査を開始
エリザベス・ウォーレン米上院議員ら8名の民主党議員が、トランプ政権のAI・仮想通貨特別顧問デービッド・サックス氏の特別政府職員としての任期制限超過疑惑について倫理調査を開始した。130日の上限を超過している可能性を指摘し、詳細な勤務日数報告を要求している。
13:35
米SECが承認、BTCやXRP投資のマルチ仮想通貨投資信託のETF転換
米SECがグレースケールのマルチ仮想通貨ETPを承認し、ビットコインやイーサリアムなど5銘柄への一般投資家アクセス投資が可能になった。新たな包括的上場基準も同時に導入されている。
13:02
ポリマーケットでの裁定取引で年間60億円の利益発生か 研究者ら分析
分散型予測市場ポリマーケットでミスプライシングを利用した裁定取引により年間60億円の利益が発生しているとの論文が発表された。研究者による分析を解説する。
12:04
FRB利下げ決定も仮想通貨の市場反応は限定的、BNB前週比9.2%高で1000ドルの大台迫る
FOMCでは米FRBが0.25%利下げを決定したが、暗号資産(仮想通貨)への影響は限定的だった。主要アルトコインでは、BNBが前週比9.2%高の1,000ドル目前に。背景としては、バイナンスの規制環境の進展の兆しとMegadropなどの需要が挙げられる。パウエル議長は年内2回の追加利下げを予想するも慎重姿勢を維持。
11:03
業界の行方を決める「天王山」に臨む──ビットバンク廣末氏が描く未来戦略
ビットバンク廣末紀之CEOが語る、預かり資産1兆円規模への成長と今後の展望。金商法への移行と分離課税実現に向けた2025年後半は業界の「天王山」。
11:00
ビットコイン・トレジャリー企業の勢い減速か、4社に1社が純資産割れで取引=K33報告
K33リサーチなどが報告したところによると、ビットコイン・トレジャリー企業の4分の1が純資産価値を下回る時価総額で取引されており、業界の統合が進む可能性が指摘された。
10:02
ヴィタリック、イーサリアムの開発計画をプレゼン
ヴィタリック・ブテリン氏は、仮想通貨イーサリアムの開発計画についてプレゼンを行った。大阪で開催されているイーサリアムのカンファレンスEDCONに登壇した。
09:40
フォワード・インダストリーズ、最大5900億円規模の資金調達でソラナ戦略を推進
米上場企業フォワード・インダストリーズが最大40億ドル規模のATM増資で仮想通貨ソラナトレジャリー戦略を推進する。DeFi Development Corpもソラナ買い増しを発表した。
08:45
トランプ・ジュニア出資のサムザップ、750万ドージコインを初購入
米ナスダック上場のサムザップメディアが750万ドージコインを200万ドルで公開市場から初回取得したと発表した。
07:20
米SEC、仮想通貨ETF上場手続きを大幅簡素化へ
米証券取引委員会が、ナスダック、Cboe BZX、NYSEアルカの3大取引所による包括的上場基準を承認。今後、仮想通貨を含むコモディティベース株式の上場プロセスが大幅に簡素化される見通しである。
07:10
SBI新生銀行、トークン化預金「DCJPY」の導入を検討へ
SBI新生銀行は、円建てトークン化預金DCJPYの導入を検討すると発表。JPモルガンらが参加するプラットフォームを活用し、トークン化預金での多様な外貨の取り扱いも検討する。
06:50
仮想通貨取引所Bullish、NY州からビットライセンス取得 米国展開へ
機関投資家向け仮想通貨取引所ブリッシュが17日にニューヨーク州金融サービス局からビットライセンスと送金業ライセンスを取得したと発表した。
06:25
マネーグラム、ステーブルコイン送金サービス開始 
国際送金大手のマネーグラムが9月17日にクロスミントと提携しステーブルコインを活用した新たな送金サービスを南米コロンビアで開始すると発表した。
06:02
カルシ、予測市場エコシステムハブ開始 ソラナとベースと提携
予測市場プラットフォーム大手Kalshiが17日、ソラナとベースとの提携によるエコシステム支援ネットワーク「カルシエコ」の開始を発表した。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
重要指標
一覧
新着指標
一覧