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再びブロックチェーンの原理主義議論に
BitMEX創設者のアーサー・ヘイズ氏がイーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏に対し、Bybitハッキング被害からの救済策としてブロックチェーンの巻き戻し(ロールバック)を提案し、業界に波紋を広げている。この提案は、仮想通貨取引所Bybitから約2,100億円相当の401,346 ETHなどが流出した事態を受けたものだ。
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ロールバックとは、2016年にDAOハッキング事件で実施された対応策を指す。当時、イーサリアムのブロックチェーンを特定時点まで巻き戻すハードフォークを実施し、盗難された資金を救済した。今回のケースでは、Bybitから流出したETHの取引記録を無効化し、資金を元の状態に戻すことを意味する。
今回のハッキングは、Bybitのイーサリアムコールドウォレットのスマートコントラクトロジックが偽装されたUIを通じて改ざんされたことで発生。ブロックチェーン分析企業Ellipticによると、これは2021年のPoly Network事件の6億1,100万ドルを大きく上回る、史上最大規模の仮想通貨盗難事件となっている。
しかし、ロールバックの実施には重大な懸念が存在する。DAOハッキング時の対応は、ブロックチェーンの不変性や分散化の原則に反するとして大きな論争を引き起こした。結果として、イーサリアムはクラシック(ETC)とイーサリアム(ETH)に分裂し、中央集権化への批判を招いた経緯がある。
一方、今回の事件では北朝鮮の政府支援ハッカーグループ「ラザルス」の関与が指摘されている。ブロックチェーン調査の専門家Zachxbtとオンチェーン情報プラットフォームArkhamの分析によると、同グループは過去にも多数の仮想通貨関連ハッキングを実行してきた。この状況を受け、北朝鮮によるブロックチェーン利用を技術的に制限すべきとの声も上がっている。
しかし、2016年のDAO事件当時と現在では、イーサリアムのネットワーク状況は大きく異なる。当時の黎明期と比べ、現在のネットワークは広く分散化が進んでおり、ブテリン氏個人や一部の開発者の判断だけでロールバックを実施することは実質的に不可能な状況となっている。
この状況を踏まえ、業界からは新たな提案も出ている。オンチェーンでの投票メカニズムを活用し、イーサリアムのステーキング参加者やトークン保有者によるコミュニティ投票で、重大なハッキング事件への対応を決定する仕組みの構築を検討すべきとの声が上がっている。
なお、Bybitの共同創設者兼CEOのベン・ゾウ氏は、全顧客資産が1対1でバックアップされており、損失を補填する能力があると表明。パートナー企業からのブリッジローンを活用し、流出分の補償に対応する方針を示している。実際に、バイナンスとBitgetから50,000以上のETHがコールドウォレットへ送金されたことが確認されている。
▼ ロールバック(巻き戻し)(用語解説)
ブロックチェーン上で記録された取引を特定の時点まで巻き戻す技術的な操作。通常、ブロックチェーンは一度記録された取引を変更できない「不変性」を特徴とするが、コミュニティの合意によってハードフォークを実施し、特定時点以降の取引を無効化することが技術的には可能。2016年のDAOハッキング事件で実施された例があるが、ブロックチェーンの基本原則に反するとして議論を呼んでいる。実施には、ネットワーク参加者の広範な合意が必要となる。