
2025年3月5日、東京で開催された「HashPort・WebX Round Table」のセッション「ブロックチェーンが金融業界にもたらす変革」では、Web3政策の最前線で活躍する日米の専門家が一堂に会した。
KDDIの黒田千春氏がモデレーターを務め、日本のWeb3政策を牽引する川崎ひでと衆議院議員と、Aptos LabsのCEOを務めるAvery Ching氏が登壇し、両国の取り組みや今後の展望について語り合った。
セッションの概要

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登壇者
- 川﨑 ひでと(衆議院議員、総務大臣政務官、自民党Web3プロジェクト元リーダー)
- Avery Ching(Aptos Labs CEO、元Meta Libra/Diemプロジェクト担当)
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モデレーター
- 黒田 千春(KDDI株式会社、レギュラトリーエキスパート)
セッションでは、日本の税制改正やNFT課税の検討状況、米国の新政権下での暗号資産政策など最新動向が共有された。特に注目すべきは、Web3の一般社会への普及(マスアダプション)に向けた課題と日米の規制アプローチの違いだ。
川﨑議員は「テクノロジーの仕組みよりも体験価値を先に示す」重要性を強調し、Ching氏は「技術のシンプル化とアクセシビリティの向上」が鍵になると指摘。両国が協力してWeb3の国際標準形成に影響を与える可能性についても議論された。
Web3政策における日本の取り組み
川崎議員は、自民党Web3プロジェクトのリーダーとして推進してきた政策について言及。「Web3というものの可能性にずっとかけてきた」と述べ、この分野の若い起業家たちが日本で活躍できる環境整備に注力してきたことを強調した。
「有望な人材がシンガポールやドバイに流出してしまうことがとても悔しかった」と川崎議員が発言。そのため、Web3を国家戦略として位置づけ、2022年、2023年と連続して税制改正を実現してきた。現在はNFT課税についても検討を進めているという。
アメリカの技術革新と新政権の動向
一方、Aptos LabsのChing氏は、Web3の普及状況について「現在50億人以上がインターネットを使用していますが、ブロックチェーン技術を利用しているのはその10%未満」と指摘。Meta時代に携わったLibraとDiemプロジェクトの経験を踏まえ、「ステーブルコインの動き、世界中の誰もがアクセスできるブロックチェーン上の資産(RBA)など、様々なユースケースが出てきている」と説明した。
特に注目すべきは、米国の政権交代に関する言及だ。「トランプ新政権では、ステーブルコイン送金、トークン発行、暗号資産、AIなどの技術をサポートする動きが見られる」と述べ、アメリカ国内外での技術の未来に対して楽観的な見方を示した。
日米の規制比較と協力の重要性
討論では日米の規制環境の比較も行われた。川崎議員は日本の携帯電話産業の歴史を振り返り、「かつて日本はiモードなどを開発したが、iPhoneという黒船が出てきた時に立ち位置を失った」として、Web3でも同じ過ちを繰り返さないよう警鐘を鳴らした。
特に「トランプ大統領は暗号資産をアメリカが中心となると発表した」状況下で、「アメリカのルールがグローバルスタンダードになる」可能性を指摘。「日米の関係をWeb3の経済圏でもつなぎながらルールを作っていくことで、日本を巻き込んだグローバルスタンダード、言い換えればジャパンスタンダードにしていく可能性がある」と述べた。
Ching氏も日本の規制環境を評価し、「日本は規制などのデザインが非常に早かった」と言及。両国の協力の重要性を強調した。
マスアダプションに向けた課題
セッション後半では、テクノロジーの進化に伴う格差解消についても議論が及んだ。Ching氏は「モバイルデバイスが最初は一部の人しか使用していなかったように、Web3も技術が非常にシンプルになり、誰でも使えるようになる必要がある」と述べ、現在のWeb3利用の難しさを指摘した。
川崎議員も「テクノロジーを多くの人々に使ってもらう時にやってはいけないことは、技術の名前や中身を詳しく説明しようとすること」と述べ、「何ができるのかという体験」を先に示すことの重要性を強調。「iPhoneだってみんな内部の仕組みは知らないけれど、当たり前に使っている」と例え、マスアダプションのあり方を説明した。
大阪万博と今後の展望
両登壇者は大阪万博をWeb3普及の重要な機会と位置づけた。Ching氏は「大阪万博のような日本でのイベントに技術で貢献し、政府のイニシアチブをサポートすることを嬉しく思う」とコメント。Aptosの技術がオープンソースで、特定の国や地域に限定されず、世界中の誰もがアクセスできる点を強調した。
まとめ
本セッションでは、ブロックチェーン技術が金融業界にもたらす変革について、日米を代表する専門家が貴重な見解を示した。日本のWeb3政策の先進性と、アメリカの技術革新力が融合することで、両国のWeb3産業がさらに発展する可能性が示唆された。
川崎議員の「政策立案者と知り合い、法律の壁を壊せる人材と連携することの重要性」、Ching氏の「技術のシンプルさとアクセシビリティが世界中の人々に恩恵をもたらす」という言葉は、今後のブロックチェーン技術の普及と発展の指針となるだろう。
国際競争が激化する中、日米の協力関係を深め、Web3技術の社会実装を進めることが、両国の金融革新と産業競争力の維持に不可欠であることが改めて確認された。