
大型Web3カンファレンス「WebX」では26日、Web3と日本のセキュリティトークンの融合可能性についてパネルディスカッションが行われた。
タイトルは「Web3と日本のセキュリティトークンは融合するのか ~規制の流れと、グローバルの潮流から見る暗号資産と有価証券の関係を読み解く~」。登壇したのは以下のメンバーである。
- 小林英至氏:Securitize Japan株式会社 カントリーヘッド,ジャパン
- 板屋篤氏:大和証券株式会社 常務取締役
- 湯浅光則氏:フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社 デジタル&フィンテック/ビジネス開発
- 米山学朋氏:三井住友信託銀行株式会社 取締役専務執行役員
- 朏仁雄氏(モデレーター):大阪デジタルエクスチェンジ株式会社 代表取締役社長

「WebX」は国内最大手のWeb3メディア「CoinPost」を運営する株式会社CoinPostが企画し、一般社団法人WebX実行委員会が主催するWeb3カンファレンスで、今年は8月25日と26日に「ザ・プリンスパークタワー東京」で開催されている。
日本のセキュリティトークン市場の現状
モデレーターの朏氏は冒頭、日本のセキュリティトークン市場について「累計発行額は2,230億円程度に達している」と説明。一方で、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の二次流通市場について「トークンなのにT+2決済で、DVPにもなっていない。トークンの移転は別で、資金の方は銀行振り込み」と課題を指摘した。
また、暗号資産については「国内の取引所での取引は減少してきており、特に海外の方のシェアが大きい。そこに最近またDeFiが出てきている」と市場動向を分析。ステーブルコインについては「国内で発行されることが決まり、もうすでに出てくることが決まっている」と最新の規制動向に言及した。
グローバルでのトークン化MMFの急成長
フランクリン・テンプルトンの湯浅氏は、同社が2021年にアメリカで世界第一号のトークン化MMFを発行した経緯を説明。「弊社のCEOジェニー・ジョンソン氏は、バックオフィスのオペレーションの責任者をしていたというCEOとしては珍しい経歴を持っている。ブロックチェーン技術の将来性に非常に強いポテンシャルを感じていた」と背景を説明した。
湯浅氏によると、当初SECから「オンチェーンでの管理と従来の管理と二重で管理をする必要がある」という指示があったが、約1年の二重管理後「ブロックチェーンの方が正確性と透明性が高いということが実証されて、今ではオンチェーン一本でやっている」という。現在は「アメリカでは8つのパブリックチェーンで販売している」と説明した。
Securitize Japanの小林氏は「RWAトークン化市場は今大体グローバルで270億ドルぐらい、4兆円ぐらいある。年初から大体70%ぐらいボリュームが増えている」と市場規模を説明。特にトークン化MMFについて「75億ドルぐらいの総額がある」と述べた。
小林氏は、ブラックロックのBUIDLについて「2024年3月にローンチしたが、その1年後の現在のトークン化MMFの総額は大体9倍ぐらいになっている」と急成長を強調。成功要因として「T+0で購入・売却ができる」「DVPでステーブルコインでのトランザクションが可能」「配当が毎日支払われる」などの商品性を挙げた。
日本のセキュリティトークン市場の発展と課題
大和証券の板屋氏は、日本のセキュリティトークン市場について「2020年に金融商品取引法が改正され、セキュリティトークンが定義されて、投資家保護などが明確になったことで参入しやすくなった」と経緯を説明。
板屋氏によると「2023年にはかなり伸びたが、2024年は税制改正の影響で一旦止まった。2025年は8月までの実績で560億円で、このペースで行くと2023年の倍以上の市場に育ってきている」と成長を説明。大和証券では「これまでに10案件、累計で600億円ぐらいの引き受けをした。昨日プレスを出したが、300億円近くの規模のセキュリティトークンの引き受けが完了し、国内では最大規模となっている」と実績を紹介した。
課題として板屋氏は「STO化するアセットの拡大」「セカンダリー市場の活性化」「円建てステーブルコインの活用」「パブリックチェーンの活用」の4つを挙げた。
リアルとの接合がもたらす新たな価値創造
三井住友信託銀行の米山氏は「ユースケースを考えた時に、MMFトークンとかステーブルコインもそうだと思うが、リアルと接合していくというのがすごく重要なキーポイント」と指摘。
「既存をデジタルに変えただけだと、どうしても限界になってしまう。所詮今の市場全体の規模(パイ)をどう転換するかという話」と述べ、「セキュリティトークンやMMFトークン、ステーブルコインはリアルとの接合によって新たなパイが生まれ、それが担保となって信用が付与されることによって次の信用創造の種になる」と展望を語った。
米山氏は「いきなり全てフルバーチャルということはあり得ないので、どこでリアルと接点を持たせていくのか、今の実際の経済の循環とどう上手くこれを接合していくのか」が重要だと強調した。
DeFiとの融合による新たな可能性
湯浅氏は、フランクリン・テンプルトンの取り組みとして「ブロックチェーン技術を組み込んだレコードキーピングシステムを運用会社として自社で作っている。有価証券をトークン化するだけじゃなくて、中の取引全てをブロックチェーン、オンチェーン化している」と説明。
特に注目すべき機能として「イントラデイイールド」を紹介。「秒単位まで利回りを付与することができる。6日間5時間3秒保有していたとしたら、その3秒の1秒単位まで利息がもらえる」と説明し、「巨額のお金を動かすヘッジファンドとか、将来的には貿易金融などで取引される機関投資家においては大きな意味を持つ」と述べた。
小林氏は「DeFiに結構使われ始めている。これを担保にして4%くらいの金利を稼いで、さらに色んなDeFiストラテジーではるかに高い利回りを稼ぐ。MMFは今までのベーシックなプロダクトから非常にエキサイティングなプロダクトに変わりつつある」とDeFiとの融合について説明した。
クロスボーダー取引の展望と課題
板屋氏は今後の展開について「海外の色々なアセットをトークン化して国内に持ち込める。国内の非常に多くのアセットをグローバルとか海外投資家の方にも提供できる」という2つの方向性を示した。
一方で「国ごとに規制が違う。証券といっても定義が違ったり、税制が違う。投資家への勧誘の要件やマネロンの要件も違う。こういったものをテクノロジーも制度面も一つ一つクリアしながらやっていく」必要があると課題を指摘した。
米山氏は、アメリカの状況について「主たる融資とか貸付の提供者はもう銀行じゃない。いわゆる大手銀行のシェアはもう3割切っている」と説明。「ファンドとかプライベートの人たちの資金が融資をやって、それらがトークン化されてRWAの上に乗って、個人の方々が日本で言うとNISAみたいな形の中で投資をしてお金が回っている」と米国の現状を紹介した。
▼登壇者概要
小林英至氏(Securitize Japan株式会社 カントリーヘッド,ジャパン)
米ブラウン大学・数理経済学学位、シカゴ大学・MBA取得後、メリル・リンチ・キャピタル・マーケッツのニューヨーク本社・投資銀行部門新卒入社、ゴールドマン・サックスを含め、約4年間のウォールストリート勤務。
帰国後リーマン・ブラザーズ投資銀行部門SVP、ドイツ銀行、アメリカン・エキスプレス法人事業部門在日代表、マスターカード・ジャパン副社長、ウェスタンユニオン在日代表、欧州インシュアテック・スタートアップ在日代表などを歴任、2020年2月、Securitizeに入社。2022年8月、一般社団法人日本セキュリティトークン協会理事就任。本社Securitize, Inc. Executive Committee Member。
板屋篤氏(大和証券株式会社 常務取締役)
1992年、大和証券入社。2021年大和証券グループ本社企画副担当 兼 IT・オペレーション副担当を経て、2024年4月よりIT・オペレーション担当(現職)。
大和証券グループのデジタル戦略を推進し、生成AI・Web3等のテクノロジーを活用したプロジェクトに取り組む。日本STO協会の理事も務め、セキュリティ・トークン市場の発展・成長に尽力。
湯浅光則氏(フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社 デジタル&フィンテック/ビジネス開発)
デジタル資産とフィンテックの事業開発に従事。レッグ・メイソン買収に伴い、2021年フランクリン・テンプルトン入社。営業本部長として、投信営業とマーケティングを担当した後、商品戦略本部長として、商品開発、プロダクトスペシャリストを統括。
大学卒業後、旧三井信託銀行(現SMTB)に入社。モルガン・スタンレー投信移籍後、日興AM、ウエリントンを経てレッグ・メイソンへ。慶應義塾大学 法学部政治学科卒。
米山学朋氏(三井住友信託銀行株式会社 取締役専務執行役員)
1991年住友信託銀行(現:三井住友信託銀行)入社。2017年4月に三井住友トラスト・ホールディングス株式会社の業務管理部長に就任、その後は初代デジタル企画部長として当グループのデジタル戦略を推進。
2019年4月に、経営企画部長に就任以降は、経営企画全般を担っており、2025年4月には三井住友トラストグループ株式会社 執行役専務兼執行役員 CISOに就任。
朏仁雄氏(大阪デジタルエクスチェンジ株式会社 代表取締役社長)
あおぞら銀行にてコーポレートファイナンスに係るベースを積み上げ、ITX(旧日商岩井系IT関連事業・投資会社)にて幅広くベンチャー・買収投資に従事。買収後のIT会社等の経営にも携わり、金融と事業会社のマネジメント双方での知見を得る。
ビットポイントジャパンにて暗号資産交換業のマネジメント、SBI証券に転じ日本初のSTO公募案件を主導。2021年より大阪デジタルエクスチェンジ代表取締役社長。2019年~2020年JCBAにおいてICO/STO部会長を歴任。2024/4~JSTA理事就任。