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「暗黙知」こそがAI時代の差別化に 金融機関の勝ち筋とAI自律決済の現実|FIN/SUM NEXT2026

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

日本経済新聞社と金融庁が主催する金融カンファレンス「FIN/SUM NEXT 2026」で5日、「AIネイティブ世代の金融コード〜Z・α世代が選ぶ新しい価値交換と信用の育て方」と題したパネルディスカッションが開催された。

暗黙知(あんもくち)とは、言葉や数値で明示・体系化しにくい、経験や勘・直感に基づく知識のこと。

日本の金融業界がAI・フィンテック競争でどう勝ち筋を見出すか、銀行が長年蓄積してきた「暗黙知」をいかにAIへ学習させるか、AIエージェントが自律的に決済を行う「エージェンティック・コマース」への備え、そして暗号資産やDID(分散型ID)が担う新たな金融インフラの役割まで、経営者4名が具体的な論点を展開した。

  • 友田 恭輔(Trust 代表取締役社長)
  • 池田 蒼(TempestAI 代表取締役)
  • 各務 貴仁(CoinPost 代表取締役CEO)
  • 鈴木 秀弥(Ippu Senkin 代表取締役社長 CEO/Founder)
  • 谷本 有香(Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長)※モデレーター

金融機関の暗黙知こそ差別化の源泉

谷本氏が「日本の金融業界はどう勝っていくべきか」と問うと、鈴木氏は金融機関へのAIエージェント導入で直面する根本的な課題として「暗黙知」の問題を提示した。

「マニュアルや過去データが存在していても、現場の担当者はそれらを参照して業務しているわけではない。担当者の頭の中にある暗黙知こそが業務の核を支えている」と述べ、これをAIに学習させるかどうかで業務品質が大きく変わると指摘。

同氏はさらに「暗黙知の内容は各金融機関で異なるため、これが競争戦略上の差別化ポイントになる」と述べた。

一方で「AIを使って暗黙知を自動的に形式知化するのは難しい。人間の頭の中にある以上、人間が関わって地道に書き出すしかない」とも語り、AI導入の前提となる人的作業の重要性を強調した。

資産運用立国の追い風と地域金融の潜在力

池田氏は日本の勝ち筋として、政策的な追い風を挙げた。「貯蓄から投資へという流れが金融機関サイドにも高まっており、AI活用への機運が高まっている。これは非常にポジティブな変化だ」と語った。

また地域銀行やメガバンクが長年かけて培った企業評価のノウハウに注目し、「企業を見る力、業種別の財務分析手法、融資審査の知見は日本の金融機関に相当蓄積されている」とした。

この暗黙知をAIに学習させることで、2026年5月から施行される企業価値担保権(担保・保証によらず企業価値そのものを評価する融資手法)にも対応した審査能力の強化につながると述べた。

「東京だけでなく地方にも眠っている力をAIが掘り起こし、それが投資や融資に活かされるサイクルが確立できれば、日本独自の強力な勝ち筋になる」と語った。金融庁が打ち出す「挑戦しないリスク」という姿勢も引き合いに出し、金融機関がAIを毛嫌いせず積極的に対話する姿勢を評価した。

体験価値との融合が日本の勝ち方

各務氏は「金融だけで勝ちに行くより、体験の価値に金融を組み合わせる方が日本の強みに合致する」と述べた。

IPやコンテンツなど日本が世界に提供できる体験価値の裏側に、シームレスな金融インフラを組み込む構想を示したものだ。「AI競争はグローバルで極めてスピードが速く、そこだけで戦い続ければコストが下がるだけ。日本としての勝ち筋は体験への紐付けにある」と主張した。

また金融リテラシー向上の文脈では「学習の進捗に応じて金利優遇などのインセンティブが得られる仕組みが考えられる」と述べ、子どもNISAなど政府方針とも親和性の高い「体験設計による金融教育」の重要性を強調した。Z・α世代への金融リテラシー底上げを、単なる教育ではなくサービス体験として設計することを求めた。

AIエージェントが決済する時代と暗号資産の役割

鈴木氏は「エージェンティック・コマース」と呼ばれる概念を取り上げた。

AIエージェントが情報収集から購買決定・決済まで一貫して実行する仕組みで、「日用品など必要性が明らかな商品では、人間の判断を介さずAIが自動で決済する未来は近い」

「旅行や買い物でAIが情報を集めてくれても、最終的に決済ボタンを押すのは人間だが、これもやがてAIが担うようになる」と語り、金融機関のビジネスモデルそのものが問い直されると指摘した。

AIは銀行口座も証券口座も持てないが、暗号資産とは相性がよいと鈴木氏は強調。「ブロックチェーン上の資産であれば、AIが自律的に保有・決済する仕組みは比較的作りやすい。銀行預金をステーブルコインに変換してAIが決済するモデルも現実的な選択肢だ」と述べ、Web3・クリプトとAIを切り離せない一体として捉える必要性を訴えた。

AI自身のIDとDIDインフラの必然性

各務氏はこの流れを受け、AI自体にIDを付与する必要性を指摘した。

「AIがクレジットカードを使って決済するケースでは、個人の信用と直結しているため、AIが暴走した際のガードレールが不可欠だ。AI自身のIDを管理する仕組みなしには信用毀損リスクが大きい」と述べた。

現状ではKYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング対策)など各サービスへのアクセスハードルが高く、サービスをまたいで個人の信用やIDを携帯できる環境が整っていないとも指摘。「DID(分散型ID)やVC(検証可能なクレデンシャル)の領域が重要になる。人間やAIの行動実績を信用・与信に変換していく新たなインフラは、既存の金融設計の外側から整備されていく」と語った。

FIN/SUM NEXT 2026

FIN/SUM NEXTは「AI×ブロックチェーンが創る新金融エコシステム」をテーマに、日本経済新聞社と金融庁が主催する金融カンファレンス。

10回目となる今回は3月3日〜6日に東京・丸ビルを中心に開催されている。シンポジウムやワークショップのほか、フィンテックスタートアップによるインパクトピッチも実施される。

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