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ブラジルの決済革命から日本の地方創生まで、官民が語るオンチェーン経済の現在地|FIN/SUM NEXT

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

フィンテック分野の国際カンファレンス「FIN/SUM NEXT」は3月5日、「トークン化預金がもたらす小売×金融の構造変化」と「地方債ST化×トークン化預金が推進する地方創生」の2部構成のパネルセッションを開催した。

小売・金融・法制度・地域経済それぞれの視点から、トークン化預金とセキュリティトークンが日本経済にもたらす構造変化と実装への道筋が議論された。

  • 第一部 登壇者
    • 尾島 司(イオンフィナンシャルサービス 取締役 / イオン銀行 取締役)
    • 島崎 征夫(金融庁 総合政策局 参事官)
    • 山崎 琢矢(経済産業省 中小企業庁 経営支援部長)
    • ブルーノ・バタビア(Valor Capital Group 次世代技術部門 ディレクター)
    • モデレーター:平子 惠生(ディーカレットDCP 取締役 副社長執行役員 COO)
  • 第二部 登壇者
    • 平井 数磨(BOOSTRY 代表取締役 CEO)
    • 成本 治男(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
    • 大塚 毅純(しずおかフィナンシャルグループ 執行役員 最高イノベーション責任者)
    • 平子 惠生(ディーカレットDCP 取締役 副社長執行役員 COO)
    • モデレーター:上野 直彦(TOYOTA Blockchain Lab アナリスト)

AIエージェントが小売の構造を変える

尾島氏は2月25日付の日本経済新聞が報じた「ECの死」論を引用し、AIショッピングエージェントがカスタマージャーニーの起点を塗り替えつつあると指摘した。

テレビCMからEC検索へと流れた購買行動が、今度はAIによる自動提案に置き換わる。直近半年でウォルマートやホームデポの株価が上昇する一方、Amazonが下落したことをその証左として挙げた。

尾島氏が問題提起したのは小売の危機感だけでなく、制度設計の重要性だ。「データ全体を統合していく中で、トークン化預金で決済できるようになれば、カード会社の加盟店手数料を払わずに済む効率的な決済の仕組みが成立していく」と述べ、サプライチェーンの先にいる中小企業取引先との連携も視野に入れた構想を示した。

イオンは年間約8兆円を仕入れており、そのサプライヤーの大半は中小企業だ。オンチェーン化によって商流と決済を自動連動させる仕組みが、大手小売を起点に中小企業へ波及する可能性を示唆した。

金融庁・経産省が語る制度設計と中小企業への波及

金融庁の島崎氏は、昨年11月に立ち上げた「ペイメントイノベーションプロジェクト(PIP)」の進捗を紹介した。

現在2件の実証実験を進めており、一つは三菱商事と連携した円建てステーブルコインの共同発行、もう一つは国債・社債・MMFなどのオンチェーン証券決済だ。「トークン化預金もステーブルコインと並ぶ重要な選択肢」と位置づけた。

また3月3日に公表した金融機関向けAIディスカッションペーパーにも触れ、AIエージェント同士の取引・決済が増加しつつある現状への対応を検討課題に挙げた。「ブロックチェーンベースでAIエージェントが活動するプラットフォームとしての親和性は高い。相手が使っていなくてもAI単体でできる段階から、AIとAI同士の取引へと進化していく」

経済産業省中小企業庁の山崎氏は、日本の330万社のうち売上100億円超が4,500社に過ぎない現状を示し、成長志向の中小企業を対象とする「100億企業創出事業」を紹介した。「中小企業こそAI導入の可能性が高い。現場が多く、意思決定が速く、コストも下がっている」とし、トークン×AIが中小企業に入っていく余地を指摘した。コスト削減(分母を減らす)だけでなく売上増加(分子を増やす)につながるオンチェーン活用に期待を示し、今年1月に改正された取引適正化法(旧・下請法)の推進ツールとしての可能性にも言及した。

ブラジルPix・Drexが示す「公共インフラとしての決済」

海外事例として登壇したValor Capital Groupのブルーノ・バタビア氏はブラジルのデジタル金融インフラを解説した。即時決済システム「Pix」は現在、1日あたり2億2,000万件超を処理し、MastercardとVisaの合計取引量を上回っている。人口の約90%が登録済みで、金融包摂の基盤インフラとして機能している。さらに金融履歴の持ち運びを可能にする「オープンファイナンス」も整備され、登録者4,000万人超・800以上の機関が参加するエコシステムが構築されている。

その次のステップとして推進するのが「Drex」だ。ブロックチェーンを基盤に銀行・証券・資本市場をオンチェーン化するもので、トークン化預金やステーブルコインとの統合も視野に入れる。BIS(国際決済銀行)が60以上の中央銀行と連携する中で、ブラジルはトップ国として位置づけられているとバタビア氏は述べた。「公共政策側と民間側が協調し、共通インフラと共通標準を設けることが不可欠だ。誰かが自分だけのシステムを持っていても、繋がっていなければビジネスにならない」と日本への示唆を送った。

地方債ST化の法改正が今春国会に提出予定——ST市場の現況

第二部ではセキュリティトークン(ST)市場の現況が整理された。BOOSTRYの平井氏によると、2020年の金融商品取引法改正を機にST市場は現在の公募型発行残高3,000億円超に成長した。不動産STが9割を占めてきたが、今年度からプライベートエクイティやベンチャーキャピタルなど新資産クラスも登場し始めている。大手金融機関の参入が一巡しつつある中、次の局面として期待されるのが地域金融機関の参入だ。昨年末には「デジタル地方債」の関連法案が今春の通常国会に提出予定と報道され、業界の関心を集めている。

実装面では、BOOSTRYのネットワーク上で大和証券・SBI証券・ODX・SBI新生銀行が参加するSTセカンダリー決済の実証実験がすでに進行中だ。DCJPYを用いてDVP(対当決済)を実現し、決済リスクの大幅な削減を検証している。平井氏は「地域の金融機関が自己募集等で地方公共団体と一体になって募集する際、トークン化預金で決済することで、オペレーションと決済リスクをほぼゼロに抑えられる」と述べた。

3種のリターンで個人投資家を取り込む——STの設計論

TMI総合法律事務所の成本氏は、STへの投資リターンを「金銭的リターン」「非金銭的リターン(ポイント・宿泊券等)」「社会的・心理的リターン」の3つに整理した。大阪のホテルWを対象とした不動産STでの宿泊券特典や、丸井が発行した社債STでは年利のうち0.7%をエポスカードポイントで支払う仕組みを例示した。発行体は現金負担を0.3%に抑えつつ、投資家には額面上のリターンを提供できる構造だ。

野村総合研究所の調査では、デジタル資産に関心を持つ若年層の約60%が「社会的に良い目的に使われるなら0.3%(30ベーシスポイント)の利回り低下を許容する」と回答している。成本氏はこの数値を踏まえ、地域への愛着・貢献意識が地方債STの訴求軸になりうると指摘した。かつて2004〜06年頃には全国約100の自治体が総額3,000億円規模の「ミニ公募地方債」を発行した歴史があり、デジタル化によってその再来と進化を期待する声もある。

トークン化預金が地域経済にもたらす可能性

しずおかフィナンシャルグループの大塚氏は、ブロックチェーンによる小口化・機動的な発行が地域資金循環に与える効果を評価した。「地域に投資先がなく、資金が中央や海外に流れていた。地産地消でお金が回る仕組みが作れる」と述べ、発行体側では機動的な資金調達、投資家側では個人による直接投資が可能になると説明した。シビックプライド(地域への誇りや帰属意識)の喚起が地域人材の定着にもつながるとも示唆した。同グループは約1年半前にディーカレットへ出資しており、トークン化預金の活用可能性を研究している。

ディーカレットDCPの平子氏は、銀行向けプラットフォームと利用者向けプラットフォームを組み合わせた二層構造によって、地方公共団体の給付金・補助金・助成金もオンチェーンで配布できる環境の構築を目指すと説明した。地方銀行の口座と紐づいたトークン化預金が地域住民に届く仕組みができれば、公金のデリバリーにも活用できる。総務省が推進する「ふるさと住民登録制度」とのブロックチェーン上での連携も検討課題に挙げており、関係人口の増加策と地方債のデジタル化を組み合わせた地方創生の青写真を示した。

両セッションを通じて官民各者が強調したのは、サプライチェーンや地域金融を含む経済圏全体の「インターオペラビリティ(相互接続性)」の確保だ。ブラジルの事例が示すように、共通インフラと共通標準の整備が普及の鍵になるとの認識が共有された。

FIN/SUM NEXT 2026

FIN/SUM NEXTは「AI×ブロックチェーンが創る新金融エコシステム」をテーマに、日本経済新聞社と金融庁が主催する金融カンファレンス。

10回目となる今回は3月3日〜6日に東京・丸ビルを中心に開催されている。シンポジウムやワークショップのほか、フィンテックスタートアップによるインパクトピッチも実施される。

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