シグネチャー銀行の買収競売
閉鎖された米シグネチャー銀行の買収競売(オークション)で、入札企業に対して「暗号資産(仮想通貨)顧客とのビジネス関係の継続を禁止する要件」が組まれていることが15日に明らかになった。
*17日追記:FDICはロイターの報道を否定した。
匿名情報源に基づいてロイター通信が報じた内容によると、連邦預金保険公社(FDIC)はシグネチャー銀行買収の入札期限を17日に設定したという。
ここ数週間に、仮想通貨業界と深く関係してきた銀行3行の破綻と閉鎖が相次いだが、シグネチャー銀行の閉鎖については仮想通貨業界関係者から不当とみなされ、「規制当局による仮想通貨業界に対する過度な取り締まり」を疑う声が高まっていた。
買収入札で仮想通貨顧客を禁止する条件が付されたことで、業界関係者の疑念はさらに深まることが予想される。
関係者によると、銀行の破綻時に預金保護を担う米政府機関FDICは、10日に破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)、12日に規制当局に閉鎖された米シグネチャー銀行の資産管理を担い、民間企業への完全売却を目指している。
非上場企業より伝統的な金融機関への売却が優先されており、完全売却が実現しない場合は2つの銀行の事業毎の売却も視野にあるという。
中でも、シグネチャー銀行を買収する企業に対しては、「仮想通貨事業者の顧客を放棄することに同意する付帯条件」が設けられていると、事情に詳しい人物は加えている。
シグネチャー銀行の閉鎖理由
シグネチャー銀行の2022年12月31日現在の総資産は約14.6兆円(1,103億6,000万ドル)、預金総額は約11.8兆円(885億9,000万ドル)。仮想通貨顧客の預金シェアは同年9月末時点で約4分の1を占めた。
そもそもシグネチャー銀行の閉鎖処置は、シリコンバレー銀行の破綻により市場に不安の連鎖が広がり、金融システム危機を回避する名目で米ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)によって12日に実行された。
その後、米財務省と米連邦準備理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)が共同声明で、システミックリスクの例外措置として、FDICによりシグネチャー銀行の全預金が保護されると表明した経緯がある。
NYDFSの対応について、米共和党の元議員でシグネチャー銀行の取締役会に所属するBarney Frankを含む有識者らは不信感を示してきた。
Frank氏は、SVBの破綻を受けて預金者から約1.3兆円(100億ドル超)の引き出しがあったことを認めつつ、支払い能力に余力がある中で、「暗号資産(仮想通貨)に反対する規制当局がメッセージを伝えるため、とにかく介入した」とCNBCで発言した。
米通貨監督庁(OCC)の元長官代行で、一時期Binance.USのCEOを努めたブライアン・ブルックス氏もまた、シグネチャー銀行の閉鎖は、仮想通貨業界を銀行システムから締め出すための規制当局の協調的取り組みではないかと指摘。
こうした論調に対して、NYDFSのAdrienne Harris監督官はシグネチャー銀行の閉鎖要因として仮想通貨は関係ないと説明。「同行のリーダーシップに対する信頼の危機が原因であり、特定の業界が理由ではない」と述べていた。
関連:米下院議員、FDICに疑問呈す シグネチャー銀行閉鎖めぐり
仮想通貨に親しい他の2つの銀行
3月8日には、仮想通貨関連サービスを提供する米シルバーゲート・キャピタルが、銀行事業を自主的に清算して、事業を縮小する方針であることを発表。
シルバーゲート銀行の決済ネットワーク「Silvergate Exchange Network(SEN)」は機関投資家が仮想通貨取引所に送金する手段として普及していた。22年9月末時点のデジタル資産関連の顧客からの預金額は全部で119億ドルで、そのうち10%未満が破綻した仮想通貨取引FTXの預金だったと説明している。
一方、経営判断のミスから取り付け騒ぎを起こし、10日に閉鎖されたシリコンバレー銀行はスタートアップ(新興企業)向けの融資大手だ。仮想通貨関連のベンチャーキャピタルでは、Andreessen Horowitz(a16z)が約28億5000万ドル、Paradigmが17億2000万ドル、Pantera Capitalが5億6000万ドルを預けていたことが判明していた。
仮想通貨への銀行サービスを警戒
米連邦準備制度(FRB)のジェローム・パウエル議長は3月7日、上院銀行・住宅・都市問題委員会の公聴会で、仮想通貨領域には「多くの混乱が見られる」ため、銀行は関与することに慎重になるべきだと発言。「我々は詐欺、透明性の欠如、取り付けリスクのように、非常に大きな混乱を目にしている」と述べていた。
ブルームバーグは3月15日、マネーロンダリングの温床になった可能性があるとして、シグネチャー銀行が閉鎖される前に司法省(DOJ)と米証券取引委員会(SEC)から調査を受けていたと報じている。
2月には、シグネチャー銀行を相手取った集団訴訟が持ちあがり、同行がFTXの詐欺を助長したと非難。原告は主に、FTXが顧客資産を流用している事実をシグネチャー銀行が把握していながら、決済ネットワークの使用を許してきたと主張している。
関連:パウエルFRB議長「銀行は仮想通貨との関わりに細心の注意を払うべき」