日本銀行(日銀)は金融政策の運営に関する会合を年8回行います。その会合が「金融政策決定会合」です。投資家の方々は、終了後公表される政策の変更などの会合結果について毎回注目しています。
これは、金融政策決定会合にて金融政策が変更されると、株式市場や債権市場に影響をもたらすことがあるためです。仮想通貨市場においても大きな影響を及ぼす可能性があるので、投資家は会合の仕組みについて理解しておくことが望まれます。
本記事では、金融政策決定会合の概要や直近の会合内容、株式・仮想通貨市場に与える影響について紹介します。
- 目次
1. 金融政策決定会合とは
金融政策決定会合とは、年8回(毎回2日間)開催される日銀の金融政策を決定する会合です。この会合には日銀の9名が政策委員(総裁、副総裁2名、審議委員6名)として参加し、多数決によって政策が決められています。
主な会合の内容は、以下のとおりです。
- 金融市場調節の方針(日銀の基本方針)
- 基準割引率・貸付利率(日銀が民間の金融機関に資金を貸し出すときの基準金利)
- 預金準備率(金融機関の預金残高のうち日銀に預け入れなくてはならない比率)
- 金融政策手段
- 金融・経済情勢に関する基本的見解
会合結果の公表後は、株式市場や債権市場などが敏感に反応することもあるので注目しておくとよいでしょう。
1-1. 10年ぶりの日銀総裁交代の影響は
なお、直近の動向として、2023年4月に10年ぶりとなる日銀総裁の交代が行われました。2013年3月20日に日銀総裁に就任した黒田東彦氏は2023年4月8日に任期が終了。日銀総裁の任期は5年であるため、黒田総裁は2期に渡り総裁を務めたことになります。
新総裁は、戦後初の学者出身である植田和男氏。植田新総裁は過去に日本銀行政策委員会の審議委員を務めた経歴の持ち主で、日銀との関係が深いとされています。
就任後初の会見では「金融緩和を維持する」方針を示し、黒田前総裁の政策変更を見送った形です。しかし、黒田前総裁とは経済に関して異なる考え方を持つとされており、長期的には政策の修正が行われる可能性があります。
2. 2023年の金融政策決定会合日程
金融政策決定会合の日程は、公表されています。2023年の日程は以下のとおりです。
回数 | 金融政策決定会合開催日 |
---|---|
第1回 | 1月17日(火)・18日(水) |
第2回 | 3月 9日(木)・10日(金) |
第3回 | 4月27日(木)・28日(金) |
第4回 | 6月15日(木)・16日(金) |
第5回 | 7月27日(木)・28日(金) |
第6回 | 9月21日(木)・22日(金) |
第7回 | 10月30日(月)・31日(火) |
第8回 | 12月18日(月)・19日(火) |
出典:日本銀行
金融政策決定会合は1年間の日程が決まっており、会合終了後には会合結果や各資料が日本銀行の公式サイトで公開されます。
3. 現在施行されている金融政策
ここからは、2023年3月現在、日銀が行っている金融政策について一例を紹介します。
3-1. 2016年から実施しているイールドカーブコントロール(YCC)
イールドカーブコントロール(YCC)とは、2016年9月から日銀が行っている金融政策です。長期金利に目標を設定し、目標達成に必要な分の国債の売買をおこないます。
そもそもイールドカーブとは、債券の利回り(金利)と償還期間の関係性を表したグラフで、グラフの形状は政府にお金を貸す人(債券を購入する投資家)の心理を反映して変化する事を知っておきましょう。
具体的には、「順イールド」と呼ばれる右上がりのグラフの場合、投資家たちが短期よりも長期間の貸出に対してより多くの利息を求めている事を意味します。反対に「逆イールド」と呼ばれる右下がりのグラフは、投資家たちが長期よりも短期間の貸出に対してより多くの利息を求めている事を表すものです。
順イールドに比べて逆イールドの発生は珍しく、投資家たちが近い将来における経済の先行きを不安視していることから、短期間での資金償還を求めている可能性があります。
なお、金融緩和時や平常時は順イールド、金融引き締め時は逆イールドを形成する傾向です。
3-2. 2023年1月の前年比物価上昇率は4%超え
日銀は2013年1月から、金融政策の1つとして「物価安定の目標」を達成するべく、消費者物価の前年比上昇率(インフレ率)を「2%」と定めています。
物価上昇率の目標数値を2%に定める理由としては、主に3つの理由が上げられるでしょう。
一つは「上方バイアス」。消費者物価指数は、統計上実際よりも高めの数値で算出される傾向があるため、あらかじめ高めの数値を掲げる必要があるとのことです。また、金利引き下げの余地を確保し、景気悪化への金融政策の対応力を高めることが必要です。この考え方を「のりしろ」と呼びます。
さらに、2%という目標数値はグローバルスタンダードとして主要先進国の多くで掲げられている事です。実際、雨宮前副総裁は就任直前に、主要先進国が共通して2%を目標にしていることで為替相場のトレンド安定を招くと発言しています。
ただし、2023年1月時点の前年比物価上昇率は4%を超えており、目標を上回っています。物価上昇率は2023年1月がピークだと予想されており、2023年後半には低下傾向になると考える識者も存在します。。
4. 直近の金融政策決定会合における動向
日銀が現在行っている主な金融政策について説明しました。続いては、直近の金融政策決定会合における動向を紹介します。
4-1. 2022年12月の会合にてイールドカーブコントロールの柔軟化を決定
2022年12月の会合では、10年国債利回りの変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」へと拡大することが決まりました。この決定は「事実上の利上げ」と呼ばれています。
今まで、黒田総裁はイールドカーブコントロールの見直しに反対の姿勢を見せていたため、この変動幅の拡大は驚きとともに市場に受け止められました。
またこの変更を受けて、2022年12月20日のドル円相場は137円台から130円台へと約7円の円高となり、為替市場へ大きな影響を及ぼしています。
4-2. 2023年3月の会合ではイールドカーブコントロールの追加修正はなし
2023年3月の会合は、黒田総裁にとって最後の金融政策決定会合となりました。注目されたのは、2022年に拡大した10年国債の利回りの変動幅について、再拡大などの追加修正があるかどうかです。
結論としては、変動幅に対しての変更はなく、4月以降の新体制に委ねられました。
イールドカーブコントロールには懸念点があり、維持するためには大量の国債買入れを強いられます。それは国債市場の流動性を低下させ、日銀のバランスシートが肥大化し将来的な財務リスクが高まることに繋がるのです。
4-3. 新体制ではイールドカーブコントロールの見直しが行われる可能性も
2023年3月に引き続き、2023年4月に行われた新体制後初の金融政策決定会合においても、イールドカーブコントロールの追加修正は行われませんでした。
6月以降の会合では、イールドカーブコントロールに修正があるのではないかと予想されます。変動幅を±0.5%程度から±0.75%や±1.0%程度に拡大するか、もしくは変動幅を撤廃するかなどについて、注目されるでしょう。
5. イールドカーブコントロール(YCC)見直しによる影響
2022年12月の会合で、日銀が10年国債利回りの変動幅を「±0.5%程度」へと拡大したのは、事実上の利上げという見解がなされています。イールドカーブコントロールの見直しは、為替や株式、暗号資産にどのような影響を与えるのか、説明していきます。
5-1. 事実上の利上げによる為替への影響
事実上の利上げを公表したことにより、2022年12月20日のドル円相場は137円台から130円台へと約7円の円高となり、為替に大きな影響を及ぼしました。2022年10月に一時1ドル=150円まで値上がりした円は、2023年5月22日現在では1ドル130円台となっています。
金利の高い通貨ほど投資家からの需要が上がる傾向です。そのため、日本の金利が上がると円に交換する人が増え、円の価値が上がり円高になる確率が高まります。10年国債利回りの変動幅の拡大は事実上の利上げと市場に判断されたことは、円高が進んだ要因の一つと言えるでしょう。
5-2. 事実上の利上げによる株価への影響
一般的に、利上げが行われると株価は下落します。企業が借入を行う際に、支払の利息が増え収益が減ってしまうからです。これによって企業は新規の借入を控えるようになり、企業の業績に悪影響を及ぼし株価も下落する可能性が高まります。
2022年12月に事実上の利上げが行われたことで、円安から円高の状況が作られました。株価が円高になることは、輸入企業にとってプラスに働きます。一方で、輸出企業にとっては事実上の利上げはマイナスに働いたと言えるでしょう。
6.今後の金融政策決定会合の動向に注目
金融政策決定会合は、日銀によって開催される年8回の金融政策を決める会合です。会合結果次第では、為替や株式、暗号資産の市場に影響を及ぼします。2022年12月に公表された10年国債の利回り変動幅の拡大は、為替市場に大きな波紋を広げ、それに伴い株式や暗号資産市場にも影響を及ぼしました。投資家は、金融政策決定会合の日程を把握し、その都度結果を確認しておくと良いでしょう。
また、2013年から10年間総裁を務めた黒田氏から、2023年4月以降は総裁が植田氏に変わるため、金融政策にどのような修正が入るか注目です。特に、イールドカーブコントロールの変動幅をより拡大するのか、撤廃・削減をするのかに注力すると良いでしょう。