
大胆な政策実現へ
パキスタン政府は25日、ビットコインマイニングとAIデータセンター向けに2,000メガワット(MW)の電力を割り当てる計画を発表した。この計画は、同国の余剰電力を活用し、経済の活性化とデジタル経済への参入を加速させる国家戦略の第一段階と位置付けられている。
財務局の声明によると、この取り組みは、パキスタン暗号資産(仮想通貨)評議会(PCC)が主導しており、余剰電力の収益化、ハイテク関連雇用の創出、数十億ドル規模の外国からの直接投資の誘致、そして政府への数十億ドルの財源創出という広範な戦略の一環だという。
2,000MWという規模は、グローバルビットコインマイニング電力の約10.3%、ハッシュレート換算では全体の約10.2%(66 EH/s)に相当すると見られる。これはテキサス州(2,500MW)に匹敵する規模であり、単一国家の戦略としては極めて大規模な取り組みである。国際的には、既存のマイニング大国カザフスタン(1,500MW)を上回る規模であり、新規参入国としては異例の投資規模だ。
パキスタン国内では、総発電容量(43,000MW)の約4.65%、余剰電力(5,000MW)の40%を占める規模となり、国内電力供給体制に対して相当な影響力を持つことになる。パキスタンにとって、余剰電力の有効活用による外貨獲得(年間約51.7億円)と雇用創出は、電力過剰問題と経済課題の同時解決を図る革新的なアプローチといえる。
一方で、冬季における電力不足の懸念や、ビットコイン価格変動による収益リスクが存在する。国内電力需要との適切なバランス維持が、この戦略の持続可能性を左右する重要な要素となるだろう。
パキスタンのムハンマド・アウラングゼブ財務大臣は、この計画が同国がデジタル経済へと移行するための最初の重要な一歩となると強調し、次のように述べた。
今回の電力割り当ては、仮想通貨やAIだけのためではなく、国のデジタルの未来を形作るためのものだ。
また大臣は、余剰電力は「国民所得の源泉」として利用することが可能だと付け加えた。
この計画の背景には、パキスタンが長年抱えてきた「電力の過剰供給」という課題がある。パキスタン政府は、この余剰電力の最も有効的な活用先として、ビットコインマイニングとAIデータセンターに注目。大量の電力を必要とするこれらの産業を支援することで、国内の余剰電力の新たな活路を見出そうとしている。
デジタルインフラの重要な拠点
パキスタンは、アフリカ、ヨーロッパ、中東、アジアを結ぶ世界最大級の海底ケーブル建設プロジェクト「2Africa」に参加している。このプロジェクトは、今回発表された2,000MWの電力割り当て戦略の円滑な展開のためにも非常に重要となる。
パキスタンは、インターネット接続速度と安定性に課題を抱えているが、この海底ケーブルにより、パキスタンの帯域幅の拡大、バックアップルートの追加、遅延の低減が実現されると期待されている。これらはすべて、データ集約型のブロックチェーンおよびAI運用に不可欠なものだ。
アウラングゼブ財務大臣は、「パキスタンは地理的にも経済的にも、データセンターのグローバルハブとして機能する上で独自の立場にある」と述べ、パキスタンがアジアと中東、ヨーロッパを結ぶ重要なデジタルの架け橋となる可能性を強調した。
パキスタン仮想通貨評議会(PCC)のビラル・ビン・サキブ最高経営責任者は、このイニシアチブの変革的な性質を指摘。適切な規制と透明性、そして国際協力があれば、パキスタンは仮想通貨とAI技術における重要なグローバルプレイヤーとしての地位を確立できると主張した。
また、エネルギーを基盤とするデジタル変革は、高額投資を誘致するだけでなく、政府がビットコインマイニングを通じて米ドルで外貨を獲得することを可能にすると付け加えた。
仮想通貨評議会の役割
PCCは今年3月に、明確な規制枠組みの構築とブロックチェーン技術の促進、投資家保護と金融安定性の確保を目的として設立された組織だ。それまで、仮想通貨に対し否定的だったパキスタン政府の姿勢の大きな転換点として、注目を集めた。
サキブCEOは、ブルームバーグのインタビューで、米トランプ政権の誕生が、仮想通貨へ取り組むきっかけになったと述べている。「世界最大の経済大国が、金や石油のように、経済的安全保障のためにビットコインを”国家資産”として捉え始めた」という事実は、無視できるものではなく、パキスタンを含むあらゆる国が追随しなければ、取り残されるリスクがあると強調した。
4月には、バイナンス創設者のチャンペン・ジャオ(CZ)氏が、PCCの戦略顧問に正式に任命された。PCCの会長を務めるアウラングゼブ財務大臣は、CZ氏の就任にあたり「パキスタンをWeb3、デジタル金融、ブロックチェーン主導の成長において地域大国にするというビジョンを加速させていく」とコメントしている。
また同月、PCCはトランプ米大統領の一族が関与する仮想通貨ベンチャー企業「ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLF)」と 「ブロックチェーン技術の革新と仮想通貨の統合を加速する」ことを目的とした協定を締結した。この協定は、パキスタンを南アジアの「仮想通貨の中心地」として位置づけ、デジタル金融の分野でグローバルなリーダーシップを確立することを目指している。
PCCの設立後、 WLFをはじめとする複数の代表団がパキスタンを訪れ、新たな機会について協議を始めている。財務省は、ブロックチェーンインフラとAIの開発を促進するため、AIデータセンターへの税制優遇措置とビットコインマイナーへの免税措置を検討している。
パキスタンの仮想通貨事情
パキスタンは、チェイナリシスの2024年仮想通貨採用指標で世界9位にランクインするなど、仮想通貨の採用率が非常に高い国の一つとして知られている。
現在、推定2,000万人のアクティブユーザーを抱え、取引量は200億ドル(約2.8兆円)を超える規模に達しているとされている。
パキスタンは、世界5位の人口(約2億4,500万人:2024年)を誇るが、その約60%が30歳未満と若年層が多いことが特徴だ。この層は、スマートフォンやインターネットを積極的に活用し、仮想通貨やブロックチェーン技術への関心が高い。また、パキスタンは経済が不安定で通貨安やインフレ率の高騰(2023年で36%超)に直面しており、代替資産としての仮想通貨の普及を後押ししている。
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