東京大学大学院工学系研究科ブロックチェーンイノベーション寄付講座は2026年度より「ブロックチェーン応用実践プログラム」を新設する。
現在は公開講座と応用実践プログラムが応募受付中となっている。
2年間にわたって提供してきた無料公開講座は開講初年度だけで8,000人超の申込みを集め、受講生コミュニティ(Discord)は現在4,000人超にまで成長した。
次のステージとして同講座が挑むのは、ブロックチェーンの「社会実装」を実際に担う多様な高度人材の育成だ。新プログラムは分野ごとの専門知識とブロックチェーンを掛け合わせた実践型の学びを提供し、特定のチェーンに依存しない中立的な設計のもと、学習段階から起業家支援までを一気通貫でカバーする点が特徴だ。
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CoinPostはプログラムの設計に携わる3名にインタビューを実施。各スタディグループの狙いと設計思想から、育成したい人材像、そして日本のブロックチェーン教育が抱える課題と可能性まで伺った。
公開講座2年間の成果
芝野当初は年間300人ほどを想定していましたが、初年度の申し込み者数が8,000人を超えていました。無料なのでとりあえず登録した方も含まれているとは思いますが、それでも「こんなに多いのか」というのが正直な驚きでした。
受講生の層も想定と違い、8〜9割が社会人で、理工系出身でない方も多数含まれています。そういった方々が最後まで受講してくれているというのは、嬉しい誤算でした。
来てくださった方との対話を通じて感じるのは、投資から入った方が多いということです。何かのきっかけでビットコイン等の暗号資産を買ったことがある人が、裏側まで知りたくなって講座を発見してくれているケースが多いようです。
応用実践プログラム新設の背景
芝野公開講座でブロックチェーンへの理解度が高まっている受講生が増えていて、一定の成果は出ていると感じています。ただ、社会人受講生が頑張って社内でブロックチェーン事業を企画しても、既存事業との調整や実装プロセスのハードルもあり、社会実装の加速はなかなか進まないと感じていました。
以前行っていた起業家支援プログラムを再始動するにあたり、今の業界の流れを踏まえた領域を絞った形で集中的に学ぶ環境を作ることで、最先端領域で活躍できる人材を輩出できると考えています。
道家私が所属するSuperteam Japanは、Solana財団のサポートを受けながらブロックチェーンを使った起業家育成をメインに行う非営利団体です。ブロックチェーン全体でスタートアップが少ない中、もっと増やしていかないとチェーンの存続も活用事例も増えないという問題意識から、こうした教育プログラムに取り組んでいます。
去年・一昨年からSuperteam自体で起業家支援をやってきた経験を、今回のプログラムでも応用できればと考えています。
津田私のコミュニティ「Merkle Japan」は3年ほど前からEthereum Foundationの支援を受けながら、ゼロ知識証明の教育(Core Program)を続けてきました。トータルで45人ほど輩出し、Ethereum Foundationからグラントを受けて研究している方も出ています。
今年から東京大学と規模を拡大するとともに、MPC(秘密計算)やFHE(完全準同型暗号)といった新しい技術も含め、ブロックチェーン以外でも暗号技術が広く使えることを伝えていきたいと思っています。
芝野4月から8月にかけて各領域に特化したスタディグループで集中的に学ぶ前半戦があります。その後、9月からは起業家支援プログラムという形で、新しいビジネスを立ち上げていく後半戦を予定しています。
前半戦は起業を前提としない参加も歓迎していて、大学に残って研究する人材を育てるという方向性も全然あります。前半戦のゴールは多種多様なブロックチェーン人材の育成、後半戦は実際にプロジェクトを立ち上げていくフェーズとして位置づけています。
道家前半のプログラムでは、ブロックチェーンの歴史から始まり、エンタープライズでの活用、DeFi、ミーム、AI、予測市場といった領域も含め、全体を俯瞰できるよう設計しています。
私たちが重視するのは「儲かるプロジェクトのアイデアを自分で発想できる」状態にまで持っていくこと。前半で意欲のある方には9月以降1対1に近い形で伴走し、クリエイターとエンジニアのマッチングや、アイデアはあるけど技術が足りない人と技術はあるけどアイデアがない人を組み合わせるような働きかけもしながら、プロジェクト創出まで繋げたいと考えています。
各スタディグループの内容
芝野ステーブルコインの台頭やRWA(リアルワールドアセット)のオンチェーン化など、既存金融がブロックチェーン領域に入ってくる動きが非常に加速しています。ただ、ブロックチェーンの歴史はせいぜい15年あまりですが、既存金融ではそれより遥かに長い時間をかけて制度や慣行が積み重ねられてきました。その背景を知らないままブロックチェーンの人たちが金融の世界に入っても、なかなか噛み合わない部分があるはずです。
まず既存金融の複雑な仕組みをちゃんと理解した上で、ブロックチェーンの活用可能性を考えられる人材を育てることがこのグループの趣旨です。たとえば債券をテーマにするとすれば、そもそも債券とは何か、どのようにその名義が管理されているのか、そういう根本的な問いから入って、規制そのものを追いかけるというよりは、規制の背景にある仕組みを学べる内容にしたいと思っています。
津田去年の教育プログラム(Core Program)では受講生によって理解度のばらつきがあって、それを計測する仕組みがなかったという反省があります。今回は理論を学んだ後に、実際にプログラムを書いて動くものを作ってもらうという実装のパートを重視します。私たちがそのコードをレビューすることで、どの程度理解しているかを測ろうという設計です。
一方で、数学だけやりたいという人はそんなに多くない。だから最初の数週間は、理論そのものを教えるのではなく「イメージを持ってもらう」ことを優先します。ゼロ知識証明やzkロールアップはイーサリアムに限らず多くのチェーンで使われているソリューションなので、特定のチェーンに依存しない形で暗号技術の本質を教えていきたいと思っています。
芝野ブロックチェーン業界のトレンドに沿った内容にしようとすると、どうしても頻繁に変わるんですよ。一年前に流行っていたものが今は見向きもされなかったり、今はAIエージェントが最前線だったり。そういう変動があるなかで、私たちにしかできない特徴的なスタディグループを一つ入れようと思いました。
現代美術を担当する伊東さんは、アーティストとして個展も開きながら、東大でブロックチェーンの研究もしているという人物です。現代美術の専門家であり、なおかつブロックチェーン研究者でもある、そういう人材はおそらく世界的にもほとんどいない。彼がカリキュラムを作れば、世界で唯一無二の内容になる。時代のトレンドに左右されない、深い専門性を持った育成プログラムになると思っています。
芝野DePIN(分散型物理インフラネットワーク)は今後社会に浸透していく中での活用の在り方だと思っていて、その事例としてモビリティを選びました。車とブロックチェーンの関係を「そもそも車とは何か」という根本から考えていくような内容です。
ブロックチェーンをそのまま使うというより、ブロックチェーンの考え方や価値の概念をモビリティの文脈に当てはめていく。RWAやトレーサビリティ、データの検証といった要素が絡んでくるので、実際には非常に多くの工夫が必要で、プラットフォーム側にも相当な貢献が求められる領域でもあります。
道家Y Combinatorのようなアクセラレーターやインキュベーターが使っているプレイブックをWeb3に特化して落とし込んだもので、Superteam Japanのメンバーが作っています。一枚のシートの全項目を埋めることができれば事業の骨格がほぼ完成しますが、項目間の整合性を取るのが非常に難しい。そのプロセスを毎週ヒアリングしながら伴走していくのが9月以降の想定です。
実際にこのプレイブックを使って事業を改善したチームが複数あって、MonadやSolanaのエコシステムへ展開できたり、ピボットに成功したりといった事例も出ています。プレイブックに当てはめることで事業の弱い部分が見えてきて、それを改善しながらつじつまを合わせていくと、チェーンやエコシステムへの展開が自然と開けていく。事業アイデアの骨格を自分で設計し、検証・改善・運用まで一人称で回せる人材が育つイメージです。
育成したい人材像
芝野ブロックチェーンの世界は専門性が高い領域が多い一方で、その専門性が高いがゆえに一部のマニアックな人にしか届いていない現状があります。今まで意識したことがなかっただけで、「あ、これ面白いじゃん」と思えるきっかけがなかった人も多いと思うんです。
暗号資産の世間的なイメージでまだ良くない部分もありますが、ちゃんと技術的な積み上げがあるものだということを、専門性や興味を持てる層にきちんと届けていくことが、業界の発展につながると思っています。
起業家だけが正解ではなく、大学に残って研究する人材、金融機関でブロックチェーン活用を推進する人材、エコシステムを支えるエンジニアなど、多種多様な方向性があっていい。経済学部の学生が金融の知識を活かしてブロックチェーン業界に入ってくる、そういう掛け算が生まれると嬉しいですね。
道家正直なところ、「ブロックチェーンを意識していること自体がもう駄目だ」と思っています。ブロックチェーンありきで起業家が来る時代はもう終わりに近づいている。実社会に根ざした使い方でRWA、セキュリティトークン、ステーブルコインがあるから使われるべきで、要件に合ったチェーンをたまたま選ぶだけというのが本来の姿だと思います。
MastercardやVisaはB2Bレベルではすでにブロックチェーンを使っていたりします。B2Cにはまだ浸透していませんが、例えばJPYCを「普通に使ってる」という感覚と同じように、気づかないうちにブロックチェーンを使っている世界になってほしい。
津田今見えている技術的な課題を解消し、技術負債を返済していけば、マスアダプション(大衆化)は来ると思っています。既存のシステムが信頼できる間はわざわざ使う必要がない。でも戦争が長期化して国家や銀行が機能しなくなったとき、ブロックチェーンという選択肢を残しておくためのメンテナンスをしておくことが非常に重要で、私はそこに確信を持って取り組んでいます。
ブロックチェーン教育における日本と海外の差
津田Ethereum Foundationはスタンフォード大学に出向してエンジニアが講義を行い、そこから採用するという流れを作っています。ケンブリッジ大学では同財団のJustin Drake氏のような中心的な開発者が講義をしている。こうした「コミュニティと学問の連携」が日本にはほぼないんです。
ゼロ知識証明の大きなカンファレンスやコミュニティが積極的に教材を公開したり、ポッドキャストで発信したりしているような活動も、日本にはまだ少ない。今回は東大でこれをやれればという期待を持っています。
ゼロ知識証明に絞って言えば、日本でも学会で発表している人はいる。でも、その研究がイーサリアムのプロトコルに反映されることはほぼない。スイスやスタンフォードから来る技術がプロトコルに採用されていく現状と比べると、学問とブロックチェーンコミュニティの接点が薄いことが課題だと思います。
他にも日本にはブロックチェーンのコア技術の研究開発で稼いでいる会社がほとんどないんですよ。国内の取引所への就職ならまだしも、海外プロジェクトへの就職もなかなか難しいし、ファウンダーとしてやっていくのもハードルが高い。
去年も同様のプログラムを実施しましたが、学んだ後の出口がなくて、学んだだけで終わりという形になってしまった。そういった経済が回っていない感じが、日本のブロックチェーン教育の大きな課題だと思っています。
芝野まずはブロックチェーンに興味・理解のある人を増やすことが先だと思っています。業界に関心を持つ人が増えれば、金融機関の中にも「うちでもやろう」という動きが出てきて、そこで技術者が必要になる。就職先が生まれれば、学んだ人の出口ができる。そういう産業育成の流れを作っていきたいですね。
道家必ずしも起業だけがゴールではありません。活動を通じてポテンシャルが見えた人材はエコシステム内のプロジェクトや財団から声がかかることがあります。実際にそういうルートで採用につながったケースも出てきています。
津田日本では学生がEthereum Foundation等のエコシステムの人と話す機会自体がなかなかない。その橋渡しをしていくことが、まず取り組むべきことだと感じています。一人の技術者を育てるだけでなく、育った人が次の人を呼んで来て教育の輪を広げる先輩後輩のような形でコミュニティが連鎖していくエコシステムを作りたい。暗号技術のコミュニティそのものをもう少し発展させていくことが、長期的な目標です。
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