- 匿名通貨MoneroがASICマイニングをめぐり分裂か
- セキュリティに強みを持ち、世界中で広く支持されている仮想通貨Moneroが岐路に立たされました。ASIC耐性を維持する仕様変更に関して緊急ハードフォークが行われ、ASIC耐性を備えた新チェーンのMoneroや、分裂前のチェーンを引き継ぐMonero Classic(XMS)など、計5つ以上の通貨へ分裂しました。
仮想通貨の本質を脅かすASICとは
今回の問題に言及するにあたり、ASICの抱える問題について触れなくてはなりません。
ASICとは、Application Specific Integrated Circuitの頭文字をとったもので、「特定の目的のために作られた集積回路」という意味を持ち、マイニング関連以外にPC関連機器にも搭載されているチップです。
仮想通貨関連で用いられるASICは、マイニングを行うために最適化されているチップのことを指し、PoW方式のマイニングアルゴリズムに対応しています。
ASICは一部のマイナー間に非常に人気なマイニングチップです。
その理由として、ことマイニングの性能に関しては、GPUやCPUなど既存の機器に使われていたチップとは比べ物にならないほど高性能だからです。
ASICの利用により、コストを下げ、かつ大量にマイニングを行うことができますが、その一方で大きな問題があるのも事実です。
仕様変更によるASICの形骸化
一つは技術的な問題です。
ASICのマイニング性能が高い理由は、その機能を一部に特化しているからです。
GPUやCPUは、ASICと比較して、そのマイニング性能は劣ります。
しかも、マイニングを行うには非常に高性能なチップが必要なため、ユーザーの負担はより膨らんでしまいます。
その一方で、これらのチップは柔軟性を持っており、容易にブロックチェーン技術の仕様変更にも乗り切ることができるのです。
しかし、ASICは変化に弱く、僅かな仕様変更により使用が制限されてしまう事があります。
これは仮想通貨の今後を考えた場合、大きな問題といえるでしょう。
仮想通貨の黎明期につくられたビットコインでさえ、いまだに試験的な段階であり、今後も継続的に仕様変更が行われる予定です。
仕様変更や改善は仮想通貨の有用性を今後も担保していくためにも重要なことです。
しかしながら、ASICを利用したマイニング方式ではこれに対応していくことができない可能性があります。
ASICの製造状況
もう一つは、現在のASICを搭載したマイニング機器の製造環境における問題です。
現在ASICは一社独占といえる状態にあり、さらに規制の強い中国に拠点を置くビットメイン社がその製造を独占しています。
昨今の仮想通貨人気の高まりを受けてか、仮想通貨ASICの生産に使うチップに関して、ビットメイン社はGPU大手のNVIDIAの営業利益を上回ったことでも有名です。
仮想通貨の本来的な役割や特徴の一つに非中央集権的で、既存の金融市場のように特定の利益団体や国家の影響を受けづらいというものがあります。
ASICマイニング機器はブロックチェーン技術の外部の機器であり、表面的には、仮想通貨の有用性を揺るがすものではないでしょう。
しかし、マイニング機器は仮想通貨の根幹に関わり、それが一社独占の状況下にあることは、容易に利権構造が出来上がってしまい、仮想通貨の仕様、方向性が同社に左右されてしまう可能性を示唆しています。
その一つが、ビットコインとビットコインキャッシュの分裂であったことは皆さんがご存知の通りです。
Segwitはスケーラビリティ問題、マリアビリティ問題というビットコインが抱える大きな問題を解決するために期待された技術です。
ですが、Segwit実装によって、従来ビットコインで行われてきたASICを利用したマイニングが困難になるという問題も抱えていました。
そのために、Segwit実装を反対したマイニングプール側と、当初の理想に基づき、Segwit実装を支持したビットコインコア派の対立が深まりました。
結果としてSegwitに対応するビットコインと、Segwitには対応せず、ブロックサイズの変更によってスケーラビリティ問題等の問題に取り組んだビットコインキャッシュが生まれ、ハードフォークが起こったのです。
ただ、こうした流れとは違い、当初からこのASICの流れに一貫して反対を続ける仮想通貨がありました。
それが匿名通貨として知られるMoneroです。
ASIC耐性維持に努めていたMonero
Moneroは、匿名性を重視し、圧倒的なセキュリティ体制を誇っています。
他の仮想通貨にはない強みを持ち、一部の富裕層など特定の層からの支持を集めていました。
もともとこのMoneroはASIC耐性という、ASICをマイニング方式に採用することができない特徴を持っており、これを維持するために徹底してきていたのです。
2018年2月11日、Moneroは公式にASIC対策のため、マイニングアルゴリズムを変更することを発表しました。
それは1年から2年間隔で、利用しているPoWタイプのアルゴリズムの仕様変更を行い、ASIC耐性を維持し続けていくというものです。
これはMoneroやその他仮想通貨が抱く懸念をよそに、機器の製造を続けているビットメイン社に対する、ある種の対抗措置でもありました。
この仕様変更後も、ビットメイン社は開発を続け、3月にはMoneroのマイニングアルゴリズムCryptonightに完全に対応したCryptonightASICを発表しました。
この事実を受け、Moneroはさらなる緊急の仕様変更を行っています。
Monero以外にもイーサリアムが、ASICに対する対策を講じており、創業者の一人がネット上でその使用変更に対して、ユーザーから投票を募ったばかりです。
イーサリアムでは過半数のユーザーが、ASIC耐性を維持した仕様変更に多くが賛同しました。
しかしながら、Moneroではそうではなかったのかもしれません。
公式では80%ほどの支持が集まっているとしていましたが、結果として今回の分裂騒動が起こっています。
仕様変更を続ける運営側の仮想通貨がMonero、仕様変更を行わず、ASICへの対応を行うマイナーに根差したものがMonero Classic(XMC)となりました。
Monero Classic(XMC)とは
Monero Classicは、シンガポールのあるMonero支持団体(開発者や一部のマイナーを含む)によって始動しました。
Monero Classicの代表であるBento Tan氏は、Bitcoin Magazineの取材に対し、ASICの開発は健全なものであり、市場をより活性化させるために必要であると主張しています。
また彼は、ハードフォークによるASIC機器対策は、マイニングの中央主権化よりも大きなリスクを伴う可能性があると指摘しています。
さらに、上記のハードフォークに加え、以下の4つのハードフォークプロジェクトが始動しているようです。
- Monero Classic(XMC)(上記の同名プロジェクトとは異なる)
- Monero Original(XMO)
- Monero 0(XMZ)
- MoneroC
仮想通貨の有用性をどのようにして守るのか
今回のMoneroの問題だけでなく、仮想通貨はマイナー側の利権問題によって大きく動いてきた事実があります。
マイナーは仮想通貨の運用に必要不可欠ですが、その一方で昨今の仮想通貨の爆発的な市場価格の高騰によって、必要以上に金銭的なインセンティブが生まれてしまったのも事実でしょう。
金銭的な目的に重きを置きすぎれば、仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーンの影響力は容易に無為になってしまう可能性もあります。
ただ、既存の大手企業が仮想通貨市場に参入していないため、こういった状況は今後健全化されていくかもしれません。
大手金融機関やIT企業の参入によって、仮想通貨を取り巻く環境がどのように変化していくか、そして各仮想通貨とASICを含むマイニング関連の問題を注視していく必要があります。