- 国会で道が敷かれつつあるビットコインなどの「仮想通貨税制」
- 27日の事業説明会で言及されたディーカレットとJR東日本による仮想通貨関連サービス構想などから、国の方針が浮かび上がってきた。キャッシュレス普及のために「暗号資産の税制改正」が必要な理由とは。
国会で道が敷かれつつあるビットコインなどの「仮想通貨税制」
金融庁は25日、楽天ウォレット(旧みんなのビットコイン)とディーカレットの2社を「仮想通貨交換業者」として新たに業登録したことを発表した。
2018年に設立された株式会社ディーカレットは、2018年1月に発生したコインチェックのハッキング事件以降、審査基準が厳格化する中、(みなし業者を除く)新規登録では”第一号”となる。度重なる資産流出事件以降停滞していた日本の仮想通貨業界が新たに一歩を踏み出した。
ディーカレットは、「全ての価値をつなげて、シンプルに交換する」をコンセプトに、安全性と利便性を備えた「デジタル通貨(仮想通貨)のメインバンク」を目指して立ち上がっており、実現の鍵をデジタル通貨が握っていると考えている。事業説明会では、仮想通貨も新たな時代に入ってくと考えているため、”あえて”デジタル通貨と呼んでいるとしている。
同社は仮想通貨交換業者ではあるものの、既存の事業者とは異なり、顧客からのオファーを受け、カバー取引、国内外の取引所として流動性を確保するモデルを採用する。投資家需要としての目的よりも、決済システムを想定して電子マネーに交換できるサービスも提供するなど、暗号資産交換の目的の先にある「決済サービス」を重視しているという。
このような決済システムを提供することで、これまで銀行や金融機関が独自に発行してきたデジタル通貨の可能性を大きく広げていく役割を担うと見られる。
これに先立ち27日、新たに認可を受けた仮想通貨交換業者ディーカレットが、JR東日本の「Suica」を含む複数の電子マネーで、今年6月から順次、仮想通貨でのチャージ出来るサービスを検討していることが、テレビ朝日のニュース番組で報じられた。
JR東日本が発表した2018年度の発行枚数は、7,161万枚(前年比18.6%高)にも及び、電子マネーでは楽天Edyの1億1250万枚に続き、国内2位の普及率を誇り、1ヶ月あたりのアクティブ利用件数では、Suicaやnanacoの方が群を抜いて高いというデータもある。
ディーカレット社は、持分法適用関連会社とするインターネットイニシアティブを始め、三井住友銀行や三菱UFJ銀行、JR東日本、ビッグカメラ、電通など大企業19社が出資しており、国内最大手企業がデジタル通貨の市場確立のため、スクラムを組んでいると言っても過言ではない。
また、同様に金融庁から業登録を受けた楽天ウォレットも、楽天グループで決済事業を担う「楽天ペイメント株式会社」の子会社だ。仮想通貨交換所ライセンスを取得する「みんなのビットコイン」の商号変更することで誕生した。
楽天は、Eコマースや通信等のインターネットサービスに加え、クレジットカード関連サービスをはじめとする銀行、証券、電子マネーといったフィンテック分野のサービスにおいて、独自の巨大経済圏を確立しており、1億人以上の会員を抱える国内有数の決済インフラを持っている。
先日、楽天の三木谷社長が代表を務める新経済連盟も、「暗号資産の新たな規制に関する要望」を金融担当大臣宛に提出しており、提言内容の中には、藤巻議員が主張する「(税率20%の)申告分離課税や損益通算等の適用」が含まれていることもあり、決済分野への税制面でも注目されている。
JR東日本も前向きな姿勢を示す
ディーカレット社が27日に開催した「事業説明会」に筆頭株主として登壇した、JR東日本 常務執行役員の野口氏も、キャッシュレス領域に関わるデジタル通貨の重要性を以下のように述べている。
我々の事業は、汎用な決済手段である「現金(日本円)」をチャージして利用するところからスタートしたが、昨今急速に台頭している「キャッシュレス化社会」の流れは大きく変わっていくと考えている。
国内のみならず、海外観光客によるインバウンド需要。あるいは様々な年齢層の利用客がJRを利用している中で、デジタル通貨への対応は、お客様のニーズを満たす有力な選択肢の一つだ。決済と連携することで、顧客の利便性を高める時代になるだろう。
そういった意味で、デジタル通貨の発展には、大きな可能性がある。
(新しいテクノロジーである)デジタル通貨と既存決済業界との連携については、「デジタル通貨からSuicaへのチャージ」を最初のユースケースとして検討している段階だ。
JR東日本には、「次の当たり前を作る」というキャッチフレーズがある。ぜひディーカレット社と一緒に作っていきたい。
キャッシュレス普及のために、税制改正が必要な理由
一方で、仮想通貨決済を普及する上で、大きな弊害として見られているのが仮想通貨に関わる税制だ。
現状の仮想通貨税制では、「仮想通貨と引き換えに、経済的価値があるものを手に入れたタイミング」が課税項目として挙げられており、雑所得による高い税金区分が適応される。税金管理の複雑さや高い税率によるキャッシュレス普及への足枷になると見られている理由だ。
藤巻健史議員も、麻生大臣や国税庁に対し、国会(参院予算委員会)で追求しているが、仮想通貨税制に関して、「雑所得による総合課税ではなく、分離課税(最大税率20%)」の適用、及び「少額決済の非課税」、「仮想通貨間の売買を非課税」、「損失の繰越控除」は必要不可欠だ。
仮にJR東日本のSuicaなどで仮想通貨のチャージ機能が搭載されたところで、現行の税制では、チャージする度に課税扱いとなってしまうため、法定通貨である日本円のチャージと比較してメリットが薄い。
海外観光客に対するインバウンド需要自体は期待出来るものの、現状の税制のままだと国内で普及することは容易ではなく、ただでさえキャッシュレス分野で海外に遅れを取る中、さらにその差が拡大し、国益を損ねる事態になりかねない。
そのような状況にある中、「仮想塚税制を変える会」を発足し、精力的に活動している藤巻議員は以下のように述べ、順調に進んでいると手応えを感じている。
この1か月、参議院予算委員会、財政委員会、本会議で集中して暗号資産に関しての質問を繰り返してきた。質問しなかったら国税当局も雑所得のままで、それ以上、何も考えなかったと思うが、質問してきたおかげで、国税当局は暗号資産に関しての論点を整理し始めたと自負している(続く)。
— 藤巻 健史(経済評論家・参議院議員) (@fujimaki_takesi) 2019年3月23日
私は強気です。すぐにとはいかないかもしれませんが、国会で道が敷かれつつある(=いい方向に議論が進んでいる)と私は自負しています。国税当局も感情論では動きませんから、ロジック、政策面の両面で追及・議論しています。 https://t.co/VgDU4kRvyb
— 藤巻 健史(経済評論家・参議院議員) (@fujimaki_takesi) 2019年3月26日
東京オリンピックへの備えは急務
日本の首都機能に欠かせない巨大な”交通インフラ”を抱えるJR東日本が発行する電子マネーSuicaで、仮想通貨チャージが検討されていることが言及された意義は極めて大きい。
政府によるキャッシュレス決済分野の普及・促進を目指す、いわば国策の思惑とも一致するからだ。先日金融庁に認可を受けた仮想通貨交換業者2社が、いずれも決済分野に特化した企業であることも偶然ではなく、国の方針を示唆していると言えそうだ。
国内では、世界最大のイベントである「東京オリンピック」の開催を2020年に控え、さらにその5年後には大阪万博が控えている。
これらのイベントに向けて、外国人観光客によるインバウンド需要が飛躍的に上昇することは想像に難くなく、混雑により店頭決済や交通機関が麻痺する可能性もある。いかにキャッシュレス化の促進で、言語の壁など多様化する利用客のニーズに応え、決済時間の短縮などの効率(回転率)や利便性を高められるかどうかが”成功のカギ”を握っていると言っても過言ではない。
今後は、税制の面からの議論が促進されることが望まれている。