- ビットコイン保管サービスのXapo
- ビットコイン保管サービスを提供する「Xapo」は、推定1兆円を超えるビットコインをスイスアルプス山中のシェルター内の保管庫に保管しているとされ、名の知れた富豪や、大手法人の顧客を多数抱えています。保管場所は5大陸に分散されており、さまざまな世界最高峰のセキュリティ対策を講じています。
- 秘密鍵とは
- 口座の所有権を証明するプライベートキー(暗号)。 サイバー上の実印のようなもので、漏洩した場合はハッキングリスクが増大するため、厳重に管理する必要がある。
世界規模の貯蔵庫
世界最高峰の厳重なセキュリティにあるその施設では、警備員の後ろにある鉄筋コンクリートの廊下と爆風を防ぐ扉の奥に、暗号化されたコンピュータサーバーが設置されています。
オフラインにあるそのサーバーには、莫大な額のデジタル資産における”秘密鍵”を格納しています。
アルゼンチンの起業家「Wences Casares」氏は、過去数年間に渡り、シリコンバレーの億万長者に対し、「ビットコインこそが、将来的な国際通貨になり得るため、購入すべきである」と説得を続け、購入したデジタル資産を保護すると主張していました。
同氏の運用するスタートアップ企業「Xapo」は、5大陸それぞれに地下貯蔵庫ネットワークを構築しています。
同社は、顧客リストを複数のファミリー・オフィスに分散管理しており、時には、ジャーナリストを招聘・視察させることで、いかに強固なセキュリティで運用されているかを拡散させています。
しかし、彼らがどれほどの額のデジタルキャッシュを管理しているかは、未だ明らかにされていません。
Xapoのクライアント2名は、約100億ドル(約1兆円)相当のビットコインを貯蔵していると予測しており、Xapoに近しい関係者は、正確な予測だと回答しています。ただし、市場価格によって大きく変動するため、その貯蔵価格は一定ではありません。
保管サービスの先駆者
注目すべきは、仮想通貨業界において、Xapoの貯蔵量がビットコインの国際的な供給量の約7%を占めているとされることでしょう。
設立されて4年足らずの企業が、アメリカに存在する98%以上、5670社以上の銀行よりも多くの”預金”を保持していることになります。
しかし、証券保管機関的な側面では、彼らは異なる規制下で運営されています。
一方で、スイスの子会社は、アンチマネーロンダリングに関する規則に則っているかを監査することを目的とした自主規制機関であるFinancial Services Standards Association(VQF)によって監督されています。
Xapoは、アメリカ財務省の金融犯罪捜査網(FinCEN)に認可されており、複数の州にも認可
されているデラウェア州法人を介して、同国の顧客にサービスを提供しています。その多額の所有資産は、連続起業家でシリコンバレーでビットコイン旋風を巻き起こした”先駆者”としての異名を持つCasares氏の信念を象徴し、彼の支持者を始め、Grayscaleや、CoinSharesのような大手仮想通貨投資企業などによって集められました。
Xapoに5億ドル(約545億円)以上のビットコインを預けている、CoinSharesのRyan Radloff氏は、以下のように述べています。
Xapoに資産を預ける億万長者の中には、LinkedIn社の共同創業者であるReid Hoffman氏や、ウォール・ストリートの元トレーダーで、自身で仮想通貨商業銀行を設立中のMike Novograt氏も含まれています。
彼らの予想は、ビットコインのさらなる成長シナリオであり、最大のリスクが資産の盗難なのです。
ビットコインを保有する際の大原則が、仮想通貨を自由に動かすことのできるコードとなる「秘密鍵」を安全に管理することです。
もし、この秘密鍵を悪意のある第三者に盗られた場合、暗号資産を奪われ、基本的に取り戻すことはできません。
よって、秘密鍵をインターネット接続されているオンライン上のデバイスに保存しておくのは、便利であると同時に危険であると言えます。ハッカーは、遠隔操作で秘密鍵を奪うことに長けていることが、すでに証明されているからです。
代替となる保管方法が、秘密鍵をUSBメモリのようなオフラインデバイスに保管しておく、コールド・ウォレットです。
しかし、それでもリスクを完全になくすことはできません。
ハッカーは、フィッシング詐欺などコンピューター上に罠を仕掛け、コールド・ウォレットがインターネットに接続された瞬間に端末へのアクセスを行うことも出来るからです。
そのほか、自宅に泥棒が入る物理的なリスクや、誘拐などが行われる可能性もあります。そのため、一部のビットコイン長者の中には、身元を隠す、自宅のセキュリティを強化する、護身術を身につける、などの防衛策を講じています。
Xapoの取引デスク
Xapoの解決策は、コールド・ウォレットとして機能するデバイスを山間部の施設に埋め、周囲を電子セキュリティで保護するという方法です。
2014年にCasares氏の勧めを受けて、2,000万ドル(約21.8億円)の投資を行なったベンチャーキャピタル企業のGreylock PartnersのHoffman氏は、以下のように語りました。
Xapoでは、電子金庫からビットコインを引き出すのに約2日間要します。
複数の金庫で複数の秘密鍵を使用し、手動で署名を実行する前に、顧客の身分証明書(ID)を確認・検証し、リクエストを慎重に承認するという万全なプロセスを踏むからです。
承認プロセスには、3箇所以上の金庫からの承認が必要になります。
さらに同社は、顧客がビットコインの売買を行えるよう”取引デスク”を設置。ビットコインを使用することのできる最初のデビットカードも作成しました。
44歳になるCasares氏は、コメントを控えています。
仮想通貨カンファレンスでは今でも多くの聴衆を惹きつけていますが、Xapo設立の際に行なった短期間での宣伝以後、メディアインタビューを避けるようになっています。
しかし、彼が桁違いの説得力を持っていることに変わりはありません。
同氏はシリコンバレーでビットコインの普及に努め、Hoffman氏がファミリーオフィスに問い合わせを行なった際、いつCasares氏と話をしたのかを問い返されたことを明らかにしています。
Xapoの顧問には、現時点で前アメリカ財務長官のLarry Summers氏、Citigroupの前CEOを務めたJohn Reed氏、VISAインターナショナルの創業者であるDee Hock氏が在籍しています。
このような売り込み手腕は、Xapoの成功に繋がっていることに疑いの余地はありません。
まず、カナダの認可済み仮想通貨企業であるFirst Block Capitalが、スイスの金庫の視察を含む数ヶ月の調査活動を行った後、Xapoを保管場所として選定しています。
「彼らのDNAの全ては、セキュリティに集約している。」とFirst Block Capitalの創業者Sean Clark氏は述べています。
さらに彼は、Xapoの金庫にて、指紋認証で切断された指が使われることのないように、心拍数の読み取り機能も備わっていたことを明らかにしています。
同社のCEO「Ted Rogers」氏は、UBS Group AGやスコットランド王立銀行にて勤務しており、新興市場取引ベテランとなったPeter Najarian氏と共に、年金ファンド、プライベートバンク、資産マネージャー、ファミリーオフィス、ヘッジファンドなど機関投資家への働きかけを行い、法人顧客の獲得に向け、リスク覚悟で取り組んでいます。
資金流入の津波
ビットコイン保管に関する安全性が、機関基準まで達していないという先入観が、多くの金融マネージャーの”新しい資産クラス”への投資を躊躇させています。
しかしXapoは、すでにその保管方法の最適な解決策を提供していると述べています。彼らにメリットを提示し、説得することができれば、ビットコインへの影響は計り知れないものとなるでしょう。
Najarian氏は、「莫大な資産を保有する”機関投資家”による資金の一部が、この業界に流入するだけでも、津波のごとき規模に匹敵する。」と述べました。
Casares氏は、ビットコインの普及を自身の使命であると考えています。
彼は、アルゼンチンのパタゴニア地方の羊牧場を営む家庭に生まれ、自身の少年時代にインフレーションの影響を身に染みて実感しています。
その影響もあって、ビットコインに出会うまでにフィンテックスタートアップを連続で起業し、何百億円も手中に収めることに成功しました。
同氏は、2000年にラテンアメリカの金融サービスウェブサイトであるPatagonの75%を5.3億ドル(約577億円)で売却、デジタルウォレットスタートアップのLemonも、仮想通貨に専念するため、その13年後に4300万ドル(約46.8億円)で売却しています。
Nathaniel Popper氏によって執筆された”Digital Gold”によると、Casares氏はLemonの役員であるEric O’Brien氏に対し、「私は、ビットコインの将来を心から信じており、純資産を際限なくビットコインに投じている。」と語っています。そんな彼は、2年前にPayPalの役員となりました。
高い敷居
ビットコインのここ数年間の急激な高まりによって、イーサリアムやリップルなどの数十億ドル規模のライバル通貨も台頭して来ました。
しかしXapoは、最終的に1通貨のみが生き残ると予想しており、ビットコインの保管にのみ焦点を当てています。このような独断主義は、ライバル通貨の保管方法を模索するXapoの潜在顧客を突き放してしまっている現状もあります。
また、その他の主義者は、Xapoのようなベンチャーがビットコインエコシステムでの居場所はなく、本来の”透明性の取引”を阻害していると指摘しています。
矛盾の衝突については、Xapoも感じているようで、Rogers氏は、以下のように述べました。
「投資家が自身で秘密鍵を所持するようにならなければ、ビットコインはメインストリームとして普及することは難しい。」
「ただ現実的な問題として、銀行同様のセキュリティを個人で確保するのは、技術的に困難を極めるだろう。」
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考察
ビットコイン全体の時価総額は、現在17兆円を超えています。
その内1兆円がXapoという1企業のもと管理・保管されていると予測された今回のニュースは、衝撃を受けた方も多いでしょう。
更にビットコインは、秘密鍵の紛失などで行方不明となったBTCが、全体の14%という調査結果も出ているため、この1兆円という数字はさらに重要度を増します。
Xapoは、最早仮想通貨業界にとってなくてはならない存在になっていると言えます。
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