取引手数料無料の舞台裏
米ビジネス誌フォーブスは、デジタル資産・決済の台頭が、証券会社のビジネスモデルに大きな影響を及ぼす可能性を指摘した。
従来の株取引に大きな衝撃をもたらしたのは、「取引手数料無料」を打ち出した株式取引アプリのロビンフッドだった。2018年、ロビンフッドは暗号資産( 仮想通貨)取引サービスの提供を開始し、現在約1,800万人のユーザーを抱えるまでに急成長した。
手数料無料を実現した大きな要因は、ロビンフッドが顧客の取引注文を、膨大な注文量を抱える大手マーケットメーカーに転送することで得られるPFOF(Payment-for-order-flow:注文フロー支払い金)だという。ロビンフッドの場合、収益の75%以上がPFOFによるもので、2020年には7億2,000ドル(約796億円)に上り、その中には仮想通貨取引も含まれる。
また、大手証券会社が特定の銘柄の買い手と売り手を自社でマッチングさせ、そのスプレッドから収益を得るネッティングという手法がある。ネッティングを利用して大きな収益を上げているのは、世界最大の証券会社Fidelityと投資プラットフォームのeToroだ。
しかし、米証券取引委員会(SEC)のゲンズラー委員長は、PFOFを含む様々な分野の規制を見直すよう求めているといわれており、取引手数料無料モデルの大幅な変更が余儀なくされる可能性も危惧されているようだ。
仮想通貨取引サービスからの収益
eToroやロビンフッドは、軸足を仮想通貨取引サービスにまで広げており、この分野からの収益は大きく上昇している。
ロビンフッドの場合、2021年の第1四半期(1月〜3月)には、ドージコインへの熱狂的な関心も影響して、仮想通貨サービスが同社の収益に占める割合は、前年の4%から21%にまで急上昇したという。
新しい決済インフラ
フォーブスは、仮想通貨およびトークン化された株式などのデジタル資産と、ブロックチェーンを基盤とした決済方法により、次のようなメリットがもたらされると主張する。
- 資金移動の高速化:株式やインデックス、先物契約など様々な資産がトークン化されると、決済は、資産によって数秒、数分、数時間で可能になり、決済スピードが上がる。(現在は翌日決済などが主流)
- 投資家の経済的負担が大幅に軽減される。
- 資産管理の選択肢が広がる。ポートフォリオをユニバーサルウォレットで自己管理することも可能に。
FTXの例
大手仮想通貨取引所のFTXは、スイスのDigital Assets AGと提携し、アップルやテスラなどの人気株をトークン化したデジタル株式の取引サービスを提供している。顧客自身による資産管理が可能なウォレット(Solanaブロックチェーンが基盤)を提供しているため、投資家はブローカーやプラットフォームを自由に変更することが可能になった。
FTXを運営するFTX Trading Ltd.は、先週、仮想通貨業界における最高額を記録した約1,000億円の資金調達に成功している。この投資ラウンド(シリーズB)には、ソフトバンクグループをはじめ、コインベース、VanEck、Circle、Sequoia Capital、また著名投資家ポール・チューダー氏のファミリー基金など60の投資家が参加した。
FTXのサム・バンクマン・フリードCEOは、新たなビジネス戦略として、ウォール街の金融企業に向けた「ホワイトラベルソフト」の提供を掲げている。
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フォーブスは、このような新たな決済インフラの登場によって、PFOFやネッティングにより手数料無料を実現した証券会社の現在のビジネスモデルさえも、脅威に直面していると結んだ。