はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 学習-運用 WebX
CoinPostで今最も読まれています

なぜ「デジタル産業」をブロックチェーンで実装するか? Part 2|SBI R3 Japan寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

~ブロックチェーンで世界を変えるための第23歩~

Part1を読んでいない方はコチラから…

さて、今回はブロックチェーンで実装された「デジタル産業」に期待できる、より具体的な価値創出の機会を議論していきたい。

3. トレーサビリティーの実現

商流、物流、金流の見える化

まずは復習として、DXレポート2.1が考えるデジタル産業の将来像を見ていこう。想定するのは、業界ごとの個別プラットフォーム、そしてそれを横断する機能軸としての共通プラットフォームだ。サプライチェーンの文脈では、この機能は3つに分類できる。①商流、②物流、③金流だ。

DXレポート2.1の図を参考に筆者が作成

①商流とは、商取引の流れを示しており、サプライヤー/バイヤー間でやり取りされる発注書や請求書等の書類の流れを意味する。

②物流とは、モノの流れを示しており、出荷された、納品されたという事実に基づいて把握される流通の流れを意味する。

③金流とは、お金の流れを示しており、商流と物流の事実に伴い発生するファイナンス、また結果として発生する入金、出金の流れを意味する。

「デジタル産業」となったサプライチェーンにおいては、上記①~③で扱う情報が、データとして見える化される。誰がいつ何をした、が追跡可能な情報としてサプライチェーンにある企業間で流通できるようになる。さて、この世界でどのような価値を創造できるだろう。

4. その先にあるファイナンス

デジタル産業 X 商流

まずは商流から見ていく。

商流にて発生する発注書や請求書等は、現在でも紙やPDF(メール添付)であることが多い。EDIがあっても紙やPDFが完全に統合されることはない。紙に何も罪はないが、「デジタル産業」においては”悪”である。印刷、コピー、署名(or 判子を押す)、スキャン、メール添付、承認待ち…など業務に分断を引き起こす要因だからだ。これら商流がデジタル産業化されるどうなるか。

ユーザー体験としては、これまで紙で処理していた作業が全て画面上で完結するようになる。承認作業も画面上で可能だ。これにより、迅速な書類の確認、契約実務が実現できる。契約の相手方も同じプラットフォームに存在するため、ワークフローが走り、滞りなく合意形成まで追跡できる。

ただ、これだけの機能であれば、既存の電子署名サービスを利用すれば良いだろう。実はこの商流に金流を掛け合わせたとき、これまでにない価値が生まれる。

デジタル産業 X 商流 X 金流が生み出す価値

ブロックチェーンによるデジタル化が、既存のデジタル化と異なる点は、唯一無二の電子データを作り出せる点だ。データは電子でありながら、紙のような原本としての特徴を具備できる。原本であるため誰かの手を離れてもその真正性を維持できる。データにも関わらず、だ。

商流の場面で想像して欲しい。今ここにある発注書や請求書、契約書といったデータが原本として存在している。であるならば、このデータを金融機関のような取引に直接関与していない第三者に共有したとしても、この第三者はこのデータを、紙で受領したときのように扱うことが出来るのではないか。こうなると、金融機関はこのデータを基礎にしたファイナンス提供の機会が生まれてくる。

具体的なソリューションとして、サプライチェーンファイナンスが考えられる。ブロックチェーン上の商流データは自社の都合で変更することは出来ない。変更すれば付随する電子署名の内容と不一致が発生する。勝手に変更するインセンティブが発生しない仕組みになっている。この対改ざん性が確保された商流データを、金融機関に必要な分だけ共有できれば、技術的にサプライチェーンファイナンスは可能だ。後は銀行の与信次第。

ただ、このような仕組みはブロックチェーンがなくても出来るように思える。例えば、Amazonはトランザクション・レンディングのサービスを提供している。Amazonは自社のサーバーに、あらゆる企業の取引データが蓄積されている。これら取引データはAmazonが管理しており、信頼性は問われない。だからその取引データを裏付けにファイナンスを提供できる。ブロックチェーンは不要だ。しかし、Amazonのようなプラットフォーマーだけしかトランザクション・レンディングを提供できないのか、と言うとそうではない。要は事業会社が提供する取引データが信頼できれば良い。ブロックチェーンでは取引データの改ざん有無を第三者が検証することが出来る。この仕組みがあれば全員がプラットフォーマーにならなくても良い。プラットフォームにのるか反るかの選択肢しかなかった企業は、”なんやかんや払わせられる高い利用料”から解放される可能性がある。また金融機関にとっても、信用度が低いためにこれまでにリーチできなかった顧客へファイナンス提供の可能性が出てくる。そして、ここに新たなエコシステムが生まれる。これがデジタル産業の一類型だ。

デジタル産業 X 物流

次は、デジタルの世界に、企業間を流通するモノの情報をデータとして載せていきたい。

これは、流通履歴が変更できない(改ざんできない)形で記録されることを意味する。つまりトレーサビリティーを有するデータが生成される。ただ物流に関する情報は、ブロックチェーンが社会実装されていない今でも、各社当然のように管理している。在庫情報はERPもしくはWMSにあるし、PLMを見れば、BOM(Bills of Materials, 通称ボム)を含めた設計図、ソーシング情報(設計図にある部品をどこから調達したか)等、一目瞭然だ。BOMを改ざん?なんてそんなことしない。では、なぜブロックチェーンが必要なのか?ブロックチェーンがないと本当にトレーサビリティーは確保できないのか?

例えば、材料の信頼性を確認するには、品質検査(サンプリング・テスト)や大手であればサプライヤーの工場監査を外部の専門機関に委託することもある(中小バイヤーは大手が監査した工場を信頼して使ったりする)。このやり方は、これまでもこれから有効なので継続する。ただ、「デジタル産業」を迎える今日においては、データ連携を通じて、別の形での信頼を紡いでいけるかもしれない。例えば、WMSの在庫情報やBOMに関する情報を、機密情報に触れない範囲で企業間でデータ連携する。材料をインプットし、中間加工品をアウトプットする。次の工場では中間加工品をインプットし、完成品をアウトプットする。このように企業を跨いだ製造工程をそのままデータでも表現する(所謂デジタルツイン)。これは単にアナログをデータで表現しているのではない。参考情報でしかないデータに、現物と同じレベルの信頼性を維持させる手法だ。

とは言え、データ入力時点で不正が入り込むと元も子もない。ノールックでスルーパスを受けてはいけない。そこで、モノとデータの同期はチェックポイントを設けて確認を取る。例えば、検収でゲートを通す度にモノとデータの一致を確認する。バイヤーによるサンプルチェックもある。このような仕組みを組み込んでおけば、仮に事実と異なるデータを入力したとしても、次のチェックポイントですぐに発覚してしまう。すぐに発覚すると分かっていながら、あえて不正なデータを入力する人はいないだろう(いなくなるだろう)。またそのような悪意を持ったサプライヤーは自然淘汰され、結果、正しく業務を行うサプライヤーだけが残る。このように不正データを入力するインセンティブが著しく下げる設計はできる。合意に基づいてデータが記録されるようにすれば、企業間でのトレーサビリティーは信頼できるデータとなる。

トレーサビリティーを実現できたとしても、ある日突然売上が増加することはない。どこで”効いてくる”か?不良品発生時だ。サプライチェーンを跨る製品の流通過程がチェーンとなり、連なったデータがバイヤーの手元にある。あとはボタン一つで問題となっている不良品範囲(対象サプライヤー、製品、製造期間等)の絞り込みが可能になる。サプライヤーに電話を掛けて「至急調査しろ!」と叫ばなくて良い。怒鳴られたサプライヤーも、その先にいるサプライヤーに「至急調査しろ!とバイヤーが言っているぞ!」と伝言しなくても済む。本当にボタン一つでトレーサビリティーが確認できるUXが実現できるのであれば、調査コストの著しい削減に繋がる。その世界はデジタル産業と呼べそうだ。

物流 X デジタル化 X 金流が生み出す価値

トレーサビリティーが実現されると、ある製品が自社の倉庫に入るだけでなく、その製品に紐づく”歴史”もデータとして手元に届く。サプライヤーのBOMに関する情報のうち必要な部分だけが、自社のPLMの中でBOMのインプットとして使われる。これら情報は、全てデータであるため簡単に取り込める。現在どの製品が何個どの倉庫の中に眠っているかも、知りたいタイミングで知ることができる。在庫量は常に変化し続けるが、入と出の実績が積みあがってくれば、AIを活用した需給予測も容易になるだろう。仮にこれら在庫データを、必要な範囲内で金融機関が参照できるのであればどうだろう?在庫の金銭的価値と在庫量に基づくファイナンス提供の機会が生まれる。

具体的なソリューションとしてインベントリーファイナンスが考えられる。財務諸表から在庫情報を読み取って「えいや」で予測する必要はない。金融機関は、常に”事実”としてデータに基づき、タイムリーで精度の高い金融ニーズを捉えることが出来る。在庫データが信用補完となり、企業の信用度だけを基準にする従来の与信の姿は変わっていくことになる。金融機関の与信判断ですら変えてしまったら、間違いなく新たな価値が生まれているだろう。

終わりに

さて、産業がデジタル化され、企業間で商流、物流、金流データが流通する仕組みがあることで、これまで空想でしかなかった価値が本当に実現できるイメージが持てただろうか。ここで紹介した価値創出はアイデアの一例に過ぎない。自社の守備範囲だけに目線を置かず、先の先にいるお客様を想像して、デジタルの力で何が届けられるか、これを考え社会実装できる企業がこれからのデジタル社会の主役となっていくだろう。

・・・

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。記事へのご質問やブロックチェーンに関してお困りごとがございましたらお気軽にご連絡下さい。ブレインストーミングやアイデアソンも大歓迎です。

Facebook: https://www.facebook.com/R3DLTJapan

Twitter: https://twitter.com/R3Sbi

HP: https://sbir3japan.co.jp/product.html

お問い合わせ:info-srj@sbir3japan.co.jp

寄稿者:山田 宗俊 (Munetoshi Yamada)  公式Medium山田 宗俊
エンタープライズ・ブロックチェーン企業R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanでビジネス開発しています。Corda推。

おすすめ記事

~ブロックチェーンで世界を変えるための第21歩~

記事一覧はこちら

“” is published by SBI R3 Japan株式会社 in Corda japan.
CoinPost App DL
厳選・注目記事
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
11/09 日曜日
14:00
今週の主要仮想通貨材料まとめ、リップルの770億円調達やジーキャッシュ高騰の背景分析など
前週比で振り返る仮想通貨市場の最新動向。ビットコインやイーサリアム、XRP、ソラナなど主要銘柄の騰落率や注目材料を一挙紹介。市場トレンドと関連ニュースを詳しく解説する。
11:30
週明けから急落のビットコイン、相場復調の前提条件は?|bitbankアナリスト寄稿
今週のビットコイン相場は続落の見通し。AIバブル崩壊や景気後退懸念から1560万円周辺まで下落。ただし短期筋の97%が含み損となっており、下値余地は限定的との指摘も。bitbankアナリストが今後の展望を解説。
11:00
週刊ニュース|金融庁の仮想通貨ETF関連デリバティブ国内提供への見解に高い関心
今週は、暗号資産ETF関連デリバティブの国内提供に対する金融庁の見解、ビットコインの10万ドル割れ、仮想通貨の最新市場分析に関する記事が関心を集めた。
11/08 土曜日
13:55
JPモルガンのビットコインETF保有量、3ヶ月間で64%増
JPモルガンが第3四半期にブラックロックのビットコインETFを207万株追加し、保有総数は528万株となった。6月から64%増加。
13:30
イーサリアムのバリデータ参加待ちが増加 将来性への信頼高まり示すか
仮想通貨イーサリアムのバリデータ参加待ちが増加している。The Blockが長期視点の投資家増加が示唆されると指摘した。ステーブルコインのインフラとしての期待も高まっている。
11:30
「ビットコインは重要なサポートレベル付近で推移」CryptoQuantレポート
CryptoQuantが最新市場レポートで、仮想通貨ビットコインが10万ドル付近の重要サポートレベルで推移していると指摘した。複数の指標から現在の状況を分析している。
11:20
ストラテジー、STRE優先株を1株80ユーロで価格設定 1100億円調達予定
ストラテジーが10%利回りのSTRE優先株を1株80ユーロで発行し、7億1500万ドルを調達する予定。当初計画の2倍超となる775万株を発行し、資金はビットコイン取得に充てられる見込みだ。
10:12
ビットコイン再び10万ドル割れ、USDXデペッグがDeFiに波及し信用不安広がる|仮想NISHI
仮想通貨ビットコインは5日以来、再び一時10万ドルを割り込んだ。ステーブルコイン「USDX」の担保不足によるデペッグ(乖離)が複数のDeFiプロトコルに波及し、市場全体に信用不安を広げた。
09:50
トランプメディア、第3四半期に84億円の赤字、保有ビットコインの価値は73億円減
トランプメディアが第3四半期に5480万ドルの純損失を計上し、3四半期連続の赤字となった。保有ビットコインの価値は4800万ドル減少したが、オプション収入で1530万ドルを獲得。
09:35
カザフ、最大10億ドルの仮想通貨準備基金設立へ 2026年初頭立ち上げ予定
カザフスタンが最大10億ドル規模の国家仮想通貨準備基金を2026年初頭までに設立する。押収資産と国営マイニング収益を原資としてETFや関連企業に投資する方針だ。
08:25
XRP保有企業エバーノース、約120億円の含み損に 仮想通貨財務企業に圧力
仮想通貨XRPを企業の財務資産として保有するエバーノースが約2週間半で7900万ドルの含み損を抱えている。メタプラネットなど他の仮想通貨保有企業も大幅な含み損に直面している。
07:20
片山金融相「3メガバンクのステーブルコイン共同発行を支援する」
片山さつき金融相は、3メガバンクやプログマらが行うステーブルコイン発行の実証実験を金融庁がサポートすることが決定したと話した。決済高度化プロジェクトの設置にも言及している。
07:10
米FRB理事がドルステーブルコイン市場の成長を評価、一方で合成型USDXは大幅デペグで0.6ドルに
米FRBのミラン理事がドル連動型ステーブルコインを巨大な成長分野と評価した。一方で合成型ステーブルコインUSDXが大幅デペグを起こしバランサー攻撃の影響で連鎖的な危機が広がっている。
06:20
コインベース、Asterなど上場検討
米大手仮想通貨取引所コインベースが複数の銘柄を同社の上場ロードマップに新たに追加した。
05:55
ジーキャッシュ連日高騰、時価総額100億ドル突破 1カ月で約4倍上昇
プライバシー仮想通貨Zcashが過去1カ月で3倍上昇し時価総額100億ドルを突破。アーサー・ヘイズ氏らの支持やグレースケール関連商品の人気拡大が上昇を後押ししている。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
重要指標
一覧
新着指標
一覧