「資金移動の禁止に関する条項」に懸念の声
米国下院の民主党議員らは25日、「America COMPETES Act(米国競争法)」の草稿を発表した。中国との世界的な競争において、米国を強化することを目的とした法案とされているが、暗号資産(仮想通貨)取引の過剰な監視を可能にするものとして懸念の声が挙がっている。
問題視されているのは「Prohibitions or Conditions on Certain Transmittals of Funds(特定資金移動の禁止・限定)」と題された条項だ。
この条項は、米国財務省のマネーロンダリング対策当局である、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の監督権限を拡大するもの。理由としては、ランサムウェア攻撃による、国家安全保障上の脅威を挙げている。
ランサムウェアとは
ハッキングを仕掛けたうえで、元の状態に戻すことを引き換えに金銭を要求するマルウェアのこと。「身代金要求型マルウェア」とも呼ばれる。感染すると、他人の重要文書や写真ファイルを勝手に暗号化したり、PCをロックして使用を制限した上で、金銭を要求してくる。
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法案は次のように説明した。
技術革新、特にデジタル資産や非公式の送金システムによるものは、法を遵守する消費者には有用なものだ。しかし、制裁逃れ、詐欺、マネーロンダリング、ランサムウェア攻撃を行う者が、犯罪の収益を送金・隠蔽するためにも利用される可能性がある。
さらに、「中国やその他外国の不正な行為者が、ランサムウェア攻撃の規模と範囲を拡大」しているが、これに対して、FinCENが特別措置を行う上での権限を新たに設定することで、適切な取り締まりを行うことができるようになるとも続けている。
「特別措置」に必要な手続きを削除
仮想通貨などに関する啓蒙活動を行うNPO「Coin Center(コインセンター)」は26日、この条項について懸念を表明した。
コインセンターはまず、条項が拡大しようとしている「特別措置」とはどんなものかを説明している。
コインセンターによると、「特別措置」は、米国財務長官が金融機関に対して、顧客の取引を監視・記録保持したり、取引を禁止することを指示できるようにするものだ。
こうした措置は、米国外の地域に関わる取引や口座が、マネーロンダリングについて懸念されるとする合理的根拠が存在する場合に行われる。現在は、措置の発効前、または120日以内に一般への通知と、パブリックコメントの機会を設けることが必要だ。
しかし新たな条項は、こうした強制措置施行上の手続きを削除してしまうものだという。
7/ The new provision would do three things:
— Jerry Brito (@jerrybrito) January 26, 2022
-Add "certain transmittal of funds" to the list of things that can be banned by the Secretary
-Eliminate all public notice and comment requirements
-Eliminate the 120-day limitation for measures imposed without regulation pic.twitter.com/crGCnPoHn9
コインセンターのJerry Britoディレクターは、条項は「強制措置」に関して、以下の3つの変更点を加えると指摘した。
- 財務長官が禁止できるものとして「特定の送金」を追加
- 措置前の、公示とパブリックコメントの必要性を撤廃
- 120日までという時間的制限を撤廃
Brito氏は、これは財務長官が「どんな仮想通貨取引も、公的な手続きやルール設定、時間的制限なしに禁止する」ことを可能にするものだと懸念している。
Biden大統領は、民主党主導のこの法案を支持しているが、現在のところ、共和党がどの程度支持するかは、まだ不明だ。