CoinPostで今最も読まれています

インターネットの遮断でビットコインは分裂するのか? ビットコイン研究所寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

数日前、ツイッター上にロシアが国内外のインターネット接続を遮断するというデマが流れました。これに際して、仮想通貨クラスタの多くが「ビットコインがフォークするかも」「インターネットの遮断にはさすがに対応できないか」といった感想をコメントしていましたが、国家の力を過大評価しつつ、P2Pネットワークの堅牢性を過小評価していると感じたので、僭越ながら自分の評論をここに書いておきます。

インターネットの遮断

上記のシナリオの前提条件として「ロシア政府が国内外のインターネット通信を遮断できる」ということと、「それによって国内外のビットコインノードが一切通信できなくなる」という結果が必要ですが、この前提にいくつか問題があります。

まず、ロシア政府が大規模な混乱なくインターネット遮断を行えるのか、という問題があります。例えば、外国にホスティングされているサーバーやクラウドに依存したソフトウェアは動かなくなるため、よほど準備をしても思わぬところで大きな混乱が生じるなどしそうです。

それでもインターネット遮断を行う国家はときどきあります。例えば今年1月には、カザフスタンでの反政府デモに対する鎮圧の際に、一週間ほどカザフスタンのインターネットが遮断されました。しかしこれは国内外の遮断ではなく、アクセス自体の禁止というより単純で弊害の大きい手段を取りました。これでは確かにビットコインを使うことはかなり難しいですね。(普段の生活や生産活動もほとんどできなさそうですが…)

ちなみにカザフスタンは検閲が厳しく、ネットユーザーは政府が発行するルート証明書の導入が強制されているためSSL通信さえも当局が傍受できる、インターネット環境に問題がある国で、その点ではビットコインのマイニングを行う環境として選ばれることが不思議です。

国内外のインターネットの遮断に話を戻します。ロシアは大陸の国家なので、国境があります。国境地帯の一部では隣国の電波が入り、隣国のSIMカードを持つ者もいるでしょう。つまり隣国経由でインターネットにアクセスできる人たちが結構います。(情報統制の厳しい北朝鮮でさえ、中国国境付近では中国のSIMカードを使ってインターネットにアクセスしている市民がいるようです。)

このように、完全に国内からインターネットを排除することは難しいです。前提条件から非現実的ということになりますが、ある程度譲歩して考えてみましょう。仮に国内外のインターネットを完璧に遮断できたらビットコインはどうなるのか。

ビットコインのネットワーク

ビットコインノードのネットワークはP2P型で、それぞれのノードがいくつかの他のノードと接続し、新しいブロックや未承認トランザクションを受け取ったら周りのノードに伝達することで、ネットワーク全体が常に同期中です。つまり、ビットコインのネットワークを仮にロシア国内のノード、ロシア国外のノードという2つの集合に分断しても、なんとかしてその集合をまたぐノードが1つでもいればネットワークは1つに戻ります。(もし時間が経ってチェーンが分岐していれば、よりPoWを重ねた方が正当なものとして、もう一方が巻き戻されます。)

前述の通り、ロシアの国境地帯でインターネット接続できる者が数万人から数十万人はいる可能性が高いので、その中にビットコインノードを持つ人物がいれば当然問題ないですが、それ以外にも可能性が残されています。それはビットコインノード同士の通信がインターネット経由である必要性がないからです。

既に同期されているビットコインノードを持っていれば、衛星放送を受信するパラボラアンテナと受信機でBlockstream Satelliteから最新のブロック情報などをすぐに受信できます(送信はできません)。ロシア国内でもヨーロッパ国境地帯とシベリア以東の大部分が対応しており、実際にセットアップしているビットコイナーが数人いてもおかしくありません。

これで外部のネットワークの最新状態についていくことができれば、トランザクションの受け取り確認はできます。あとは送信ですが、わずか数百バイトである署名済みビットコイントランザクションはスマホ、電話、書面、モールス信号、アマチュア無線、国外の協力者との指向性Wifi通信、自分が持って国外に出る、伝書鳩…など任意の手段で国外に伝達できるでしょう。

このように、完全に国内からインターネットを排除することは難しい上に、できたとしてもビットコインは簡単に国内外のネットワークをつなぐことができてしまいます。わずか数台のノードであっても国内外を繋ぐものがあればネットワークは分裂せず、ビットコインは通常運転です。

「思考実験の前提を覆すのはおかしい」という声が聞こえてきそうですが、前提が非現実的なシナリオだということがわかっていない人が多いと感じたので、まずそこを指摘したいです。

参加者のインセンティブ

参加者のインセンティブに関しても、ビットコインのネットワークが分裂したと考えられる場合は頑張って1つにまとまろうとするようになっています。

まずマイナーのインセンティブです。ロシアはビットコインの国別ハッシュレートで3位に入るマイニング大国ですが、ネットワークが分裂した場合にマイナーは採掘を続けるかの判断を迫られます。自分がいるネットワークのハッシュレートが外部より少なければ、分裂中にブロックを発見してもネットワークが合流した後に外側の世界で生まれたより長いチェーンによって巻き戻されてしまうので、採掘するだけリソースの無駄ということになります。

一方でじっとしていることにもコストがかかってしまうので、マイナーこそ競って多数派のネットワークのチェーンを繋げようとするでしょう。彼らには国内外のビットコインネットワークをつなぐインセンティブがあり、何らかのバックアップ回線を用意しようとするでしょう。

次に取引所のインセンティブですが、これらも似たものがあります。取引所は入金が巻き戻されると損害を被るので、入金を止める必要が出てきます。その状態をなるべく早く解決しようと思うなら…そうです、世界標準の方のネットワークの状態を取りに行かねばなりません。

もちろん、一般ユーザーも安心して受け取りを行いたいなら同じです。というか、受け取ってくれるところが少ないでしょうから、ネットワークの合流を待つか、自発的に実現せざるを得ません。

おわりに

今回話題になっていたシナリオが「仮に、仮に」という仮定を重ねたものなのは重々承知していますが、あまりにも非現実的なシナリオでブロックチェーンをどうするか、ビットコインはどうなるかというムズカシイ話を真面目にする前に、P2Pネットワークであることの強みと、どうやって活かすか、どうやったら分裂を解決できるか、みたいな話の方が面白いのにな~…ともやもやしたので、今日ここに書くことにしました。

島国の日本だと隣国のインターネットに接続するハードルがロシアより格段と高く感じるので、(これも非現実的そうな気がしてしまうかもしれませんが)自分に同じ状況が来そうになったらどう準備するかを考えてみるのも楽しいかもしれません。衛星インターネットのStarlinkとか日本進出しないかなぁ。

寄稿者:加藤規新(Kishin Kato)氏加藤規新
シカゴ大学卒業後、トラストレス・サービス株式会社にてビットコイン関連のオープンソースツールやライトニングネットワーク関連の開発に従事。オークションサイトのPaddle.bidなどを手掛ける。ビットコイン研究所ゲストライター。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
CoinPost App DL
注目・速報 相場分析 動画解説 新着一覧
04/27 土曜日
10:30
米国で仮想通貨発行の推奨事項5ヶ条、a16z明かす
大手ベンチャーキャピタルa16zは、米国で仮想通貨トークンを発行する際の推奨事項を挙げた。特に証券性など米SECをめぐる対処を中心としている。
09:30
Runesデビュー1週間、ビットコインネットワークで200億円以上の手数料生み出す
手数料については、ミーム仮想通貨取引への高い需要が原因で、4月初めの5ドルから平均40ドルまで高騰している。ビットコインのマイニング報酬が半減し、収益が大幅に減少する見通しとなっていた採掘業者にとっては朗報だ。
08:00
半減期後のBTCのリターン、Nansen主席アナリストが分析
半減期後の仮想通貨ビットコインのリターンを、ブロックチェーン分析企業Nansenの主席リサーチアナリストが分析。半減期後250日までが最もリターンが高いという。
07:30
円安158円台に、米ハイテク株高 来週FOMC金利発表|金融短観
本日の米国株指数は反発。エヌビディアやアルファベットなど大手IT株がけん引役となった。前日発表の米1-3月期GDPは予想を下回って悪材料となっていたが、昨夜発表の米3月PCEデフレーターはほぼ予想通りだった。
05:55
パンテラ、FTXの仮想通貨ソラナを追加取得
FTX破産財団はこれまですでにロックアップされた仮想通貨SOLの約3分の2を手放した。その多くは4年後に完全にアンロックされる見込みだ。
04/26 金曜日
14:22
「ミームコインは危険なカジノのよう」米アンドリーセン・ホロウィッツCTOが警鐘鳴らす
米大手VCアンドリーセン・ホロウィッツの エディ・ラザリン最高技術責任者は、ミームコインを「危険なカジノ」に例え、仮想通貨エコシステムから「本物の起業家」を遠ざける可能性があると主張した。
14:00
米FBI、マネロン防止ルール非遵守の仮想通貨サービスに注意喚起
米連邦捜査局は、マネーロンダリング防止基準を遵守していない仮想通貨送金サービスを利用しないよう、アメリカ国民に対して呼びかけた。
12:55
BTC半減期後に最初に採掘されたSatoshi、3億円超で落札
仮想通貨ビットコインの半減期後に最初に採掘されたSatoshiがオークションで3億円超で落札。Ordinalsの誕生によって、今はレア度の高いSatoshiに需要が生まれている。
12:32
ビットコインの反騰失速、ブラックロックのETF(IBIT)への資金流入が初めて途絶える
暗号資産(仮想通貨)市場では、自律反発のビットコインが日足50SMAを抜けられず再反落。ブラックロックのビットコインETF「IBIT」への資金流入は、ローンチ後71日間で初めて途絶えた。
10:15
著名な「Buy Bitcoin」のサイン、1.6億円で落札
「Buy Bitcoin」と書かれた著名な法律用箋が、オークションで1.6億円で落札された。仮想通貨ビットコインで入札され、正確な落札価格は16BTCである。
09:40
フランクリン・テンプルトンの600億円規模「BENJI」トークン、P2P送信可能に
米大手資産運用企業フランクリン・テンプルトンは、米国政府マネーのトークン化ファンドFOBXXで資産のピアツーピア送信を可能にしたと発表した。
08:30
強気相場継続の兆しか? パンテラが新たな仮想通貨ファンドで1500億円以上調達計画
2024年の仮想通貨相場感が2023年から好転しておりVCの調達案件も着実に増えている状況だ。昨日、野村グループのLaser Digitalが主導するラウンドで、zkSync Era基盤のWeb3ゲーム開発会社Tevaeraは500万ドルを調達した。
07:35
ETHの証券性巡りConsensysがSECを提訴
仮想通貨イーサリアムは証券ではないとの判断などを裁判所に要請するため、 Consensysが米SECを提訴。同社は事前にウェルズ通知を受け取っていた。
07:15
米SEC、イーサリアム現物ETF申請を非承認する可能性高まる
イーサリアム現物ETFの米国での承認は不透明。SECとの一方的な会合や訴訟の影響で、2024年後半までの承認延期が予想されETH今後の価格に下落圧力がかかっている状況だ。
06:50
米Stripe、ソラナやイーサリアムでUSDC決済を導入予定
Stripeは2014年に初めて仮想通貨ビットコインの決済を導入した経緯がある。しかしその4年後の2018年にビットコインのバブル崩壊を受け同社はその取り組みを中止した。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア