
ステーブルコインのリスク対策も調査
金融庁は6月30日、「ステーブルコインの健全な発展に向けた分析」の調査研究報告書を公表した。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社によるもので、金融庁の公式見解ではないとしている。
報告書は、ステーブルコインが市場で存在感を増す中で、不正利用についても懸念が浮上していると指摘。このため、今後の健全な発展のために実態を把握することを目的として調査を行ったとしている。
ステーブルコインは従来の暗号資産(仮想通貨)が抱える価格変動リスクを回避して、迅速かつ低コストな送金や決済を実現できる点が強みだと述べた。
さらに、個人や企業、機関投資家の利用が急激に拡大しており、1月時点で時価総額2,100億ドル(約3兆円)超規模に達していることに言及している。
一方で、匿名性や即時性を悪用する形で、不正利用が拡大しているとの報告もあり、その実態やリスクを把握し、ステーブルコインがもたらす新たな機会を最大限に活かすための知見を得たいと続けた。
ステーブルコインとは
価格が常に安定している(stable)仮想通貨を指す。ステーブルコインは暗号資産の一種で、BTCやETH、XRPなど変動性のある資産とは異なり、米ドルなどに裏付けられその価値を保つことが目的だ。米ドルの裏付けによるステーブルコイン(USDT・USDC)のほか、アルゴリズムを利用するステーブルコインもある。
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まず、ステーブルコインの不正利用について国際的に問題視されているが、これは近年、経済制裁の対象となる主体に関する取引の分析が進んだ結果だとの報告があると指摘した。
不正利用で幅広く使われているのは、依然としてビットコイン(BTC)であり、制裁対象組織や詐欺行為に関連する取引額では、ステーブルコインの割合が高い傾向があるとしている。

出典:デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
このため、ステーブルコインの利用拡大により不正が拡大したとは必ずしも言えるわけではない。不正利用については、仮想通貨との瞬時交換性を捉えた全体像として把握する必要があると結論した。
また、ステーブルコインの不正利用対策としては、トークン発行者によるブラックリスト機能の活用などが考えられるが、発行者が単独で出来ることには限界があり、ブロックチェーン分析事業者や当局との協力が必要だと指摘した。
ステーブルコインはモノやサービスへ交換したり、決済事業者やマーチャントなどへも採用が拡大しているため、関連するステークホルダー全体で、それぞれの役割に応じた対策が期待されるとしている。
今後対応すべき課題は?
報告書は、今後対応すべき課題として、主に、以下のようなものを挙げた。
- ガバナンス構造の明確化
- リスク管理の強化
- 規制の枠組みの整備
- 詐欺防止やウォレットのセキュリティなど利用者保護の強化
- バグやハッキングなど技術的リスクへの対応
- クロスボーダー取引の課題
ガバナンスについては、ステーブルコイン発行体のガバナンスモデルの標準化や、意思決定プロセスの公開性・監査可能性を確保するフレームワークの構築が指摘されている。
また、リスク管理については、たとえばステーブルコインの価値安定メカニズムの評価が不十分である現状があり、担保資産の定期的な監査制度の導入や、リスク評価基準の策定などが必要だとした。
金融庁は2月、暗号資産やステーブルコインに関する包括的な制度改革案を提示している。また、ステーブルコインの裏付けとなる資金を現行の要求払預貯金に加え、短期国債や一定の定期預金でも運用できるようにする方針も示した。
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