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新体制のSECが自主的に控訴棄却
米証券取引委員会(SEC)は19日、「ディーラー」の定義拡大をめぐって訴えられていた裁判で上訴を自主的に棄却する文書を提出した。暗号資産(仮想通貨)業界に対するSECの姿勢が軟化していることを示す一例となった。
SECは第5巡回区控訴裁判所に宛てた書面で「被告であり控訴人である証券取引委員会らは、各自が費用を負担する形で、本上訴を自主的に棄却する動議を提出する」と述べている。
原告側が、この申し立てに反対していないことにも言及した。
この訴訟は、米ブロックチェーン協会(BA)とテキサス州暗号資産自由同盟(CFAT)が2024年4月、ディーラー規則の拡大阻止を求めてSECを提訴したものだ。
SECはバイデン政権下の2024年2月、ディーラーを「他の市場参加者に流動性を提供する証券の売買を定期的に行う」人物と定義する規則を採決した。
これにより、DeFi(分散型金融)も含め5,000万ドル(約75億円)以上の資本を持つ仮想通貨流動性プロバイダーに、連邦証券法の遵守が義務付けられることになる。米ブロックチェーン協会らは、業界に壊滅的な影響を及ぼす恐れがあるとして、SECを訴えた格好だ。
その後2024年11月、米国の地方裁判所はSECのディーラー規則は無効だと判断。判事は、SECは「証券取引法の文言、歴史、構造から切り離されたディーラーの広範な定義を制定することで、法的権限を逸脱した」と結論していた。
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この判決を不服としてSECは控訴を行っていたが、今回、トランプ政権で新体制となったSECが、これを取り下げた形だ。
SECとは
株や債券などの証券の取引を監督する米国の政府機関のこと。1934年設立。公正な取引の確保と投資家保護を目的としており、インサイダー取引や企業の不正会計、相場操縦などを防止する。仮想通貨が有価証券に該当するかという判断も行う。
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コインベースらに対する訴訟でも方針転換
米ブロックチェーン協会はSECによる上訴取り下げを「仮想通貨業界の完全勝利」だとして声明を出した。クリスティン・スミスCEOは、「SECにとって新たな時代が到来した」として、次のようにコメントしている。
SECの新指導部が誕生したことにより、本日の最終的な上訴棄却につながった。今後、業界とSECの間で生産的な対話が進むこと、そして米国のデジタル資産分野により明るい未来が訪れるのを楽しみにしている。
新体制のSECは、コインベースとバイナンスとの間の訴訟でも姿勢を転換したところだ。SEC内部に新設された仮想通貨タスクフォースのトークン分類作業に目途がつくまで、裁判を延期する姿勢である。
これらの裁判は、SECがコインベースらを「未登録証券」であるトークンを提供したとして提訴したものだ。しかし今後、SECの証券性判断が以前とは違ったものになる可能性がある。
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SECでは、仮想通貨に厳しい姿勢を示してきたゲンスラー前委員長が政権交代にともなって退任。現在は、仮想通貨擁護派のマーク・ウエダ氏が委員長代行に就任している。
また、トランプ大統領はポール・アトキンス氏を次期委員長に指名しているところだ。アトキンス氏は、2002年から2008年までSEC委員を務めた経歴があり、Patomakグローバル・パートナーズの創設者として、仮想通貨取引所や分散型金融(DeFi)プラットフォームなども顧客としてきた。
アトキンス氏の就任が上院で承認されれば、マーク・ウエダ委員、へスター・ピアース委員とあわせて仮想通貨に友好的な委員が3人となり、SEC委員の定員5名の中で多数派を構成することになる。