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初の獄中インタビュー
暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの破綻で25年の禁錮刑が言い渡されたサム・バンクマン=フリード前CEOが、ドナルド・トランプ大統領に恩赦を求める動きを見せている。
ニューヨーク・サン紙との初の獄中インタビューで、バンクマン=フリードは司法制度の「政治化」を強く批判。自身のケースを「検察の権限濫用」の典型例と位置づけた。
2023年11月、バンクマン=フリードはFTXの破綻に関連した詐欺および共謀の7つの罪で有罪判決を受け、2024年3月に25年の懲役と110億ドル(約1兆円6,500億円)の資産没収が言い渡された。
裁判を担当したルイス・カプラン米連邦地方判事は、作家のジーン・キャロル氏が名誉毀損と性的虐待でトランプ氏を訴え、勝訴した裁判の判事でもあった。バンクマン=フリードは、インタビューでカプラン判事が自身とトランプ氏の共通の敵であるとほのめかしている。
トランプ大統領がカプラン判事にかなり不満を抱いていたことは知っている。私も確かにそうだった。
バンクマン=フリードは、トランプ大統領と同様に「司法省の政治化」の犠牲になったと主張した。
また、FTX訴訟を主導したダニエル・サスーン連邦検察官は、トランプ新政権の司法省による、ニューヨーク市長エリック・アダムズ氏に対する汚職訴訟の却下要請に従うことを拒否し、辞任した経緯がある。
バンクマン=フリードは、サン紙に対し、自分は「公正でバランスの取れた」裁判を受けておらず、サスーン氏から「陪審員に伝えられた話」は「虚偽だった」と語った。
民主党への不満
バンクマン=フリードは、バイデン政権下で仮想通貨政策の進展に向けて尽力したものの、成果を得られなかったと指摘した。特に証券取引委員会(SEC)による執行措置については、強い不満と失望を感じていたと語った。
バイデン政権は信じられないほど破壊的で、一緒に仕事をするのが難しく、率直に言って共和党の方がはるかに理性的だった。
これまで民主党への大口寄付者として知られていた同氏だが、共和党にも「公表額をはるかに上回る」寄付を行っていたと明かした。さらに2022年頃から、民主党支持の姿勢を見直していたことも示唆した。
トランプ大統領の恩赦
ブルームバーグの報道によると、バンクマン=フリードの両親は、息子のためにトランプ大統領から恩赦を得る方法を模索している。
米スタンフォード大学ロースクールのジョセフ・バンクマン教授とバーバラ・フリード教授は、息子の恩赦について、弁護士やトランプ氏の側近とみられる関係者と面会したと関係者は語った。
トランプ大統領は、就任後2日目に選挙公約通り、ダークウェブ「シルクロード」の創設者であるロス・ウルブリヒト氏に対し、大統領恩赦を発令した。
ウルブリヒト氏は、2015年にマネーロンダリングや麻薬密売の共謀などの罪で終身刑を宣告されたが、過去に犯罪歴がなく暴力罪にも抵触していないことなどを理由として情状酌量の声が上がっていた。
トランプ大統領は、ウルブリヒト氏を有罪とした裁判の関係者を「狂気じみた人物たち」と表現し、現代の政府の武器化と本人への攻撃に関与したと非難。ウルブリヒト氏への刑罰が「全くもって不条理だ」と述べていた。
ウルブリヒト氏の場合、家族や支持者をはじめ、仮想通貨業界のリーダーによって、長年、恩赦を求める活動が続けられてきた経緯がある。一方、バンクマン=フリードに対しては、仮想通貨業界からの支持はほとんど聞かれることがない。
再審を求める
バンクマン=フリードの弁護側は、昨年9月に控訴裁判所に再審を求める書類を提出。初犯で物理的な暴力をともなわない犯罪に対して25年の懲役刑は過酷だと申し立てた。
さらに、顧客へ返金できることが確定した今では、「FTXが破産したことはなく、実際は顧客に返済できる数十億ドル相当の資産があった」ことが分かったとも述べている。弁護側は、「FTXは流動性危機に直面したのであって、支払い能力危機に直面したわけではない」と論じている。
2022年11月に破綻したFTXは、昨年10月に約2年越しの破産手続きが終わりを迎え、顧客への返済を含む再建計画が今年1月3日に発効した。そして、2月18日より5万ドル以下の小口顧客に対し、現金での返却が開始された。
対象となる債権者は、認定された請求額に加えて、2022年11月以降の年利9%を受け取る予定となっている。
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