
BTCとXMRのアドレスを特定
米国財務省の対外資産管理局(OFAC)は4日、2024年に閉鎖されたダークネット市場「Nemesis(ネメシス)」を運営していたイラン在住のベフルーズ・パルサラッド氏に経済制裁を科したと発表した。
これに伴い、パルサラド氏が使用していた44個のビットコイン(BTC)アドレスと5個のモネロ(XMR)アドレスを特定している。なお、モネロは、取引の詳細やその他の身元情報を隠すために設計されている匿名性通貨の一種だ。
匿名性通貨とは
匿名通貨とは、ユーザーのプライバシーを重視し、送金者などの取引記録を非公開にする(または記録しない)仮想通貨のこと。代表的な銘柄は、Monero(XMR)、Zcash(ZEC)。匿名性が高く、マネーロンダリングやテロ資金供与などに悪用される懸念から、規制当局から問題視されている。日本の仮想通貨取引所では取り扱いが廃止された。
ネメシスは2021年に設立されたダークネット市場。このサイトを介して、麻薬密売人は、麻薬鎮痛剤「フェンタニル」を世界中で販売していた。また、偽の身分証明書やハッキング・サービスなど、違法な商品やサービスの販売を仲介していた。
OFACによると、パルサラッド氏はこの市場の唯一の管理者であり、ユーザーから徴収した取引手数料から推定数百万ドルを得ていた。また、ネメシスで活動する麻薬密売人やサイバー犯罪者のために仮想通貨を資金洗浄することも行っていたとされる。
2024年3月、米国、ドイツ、リトアニアの法執行機関による共同作戦で、ネメシスのサーバーが押収された。しかし、パルサラッド氏は依然として逮捕されておらず、新たなダークネット市場の立ち上げを模索しているとされる。
今回の制裁は米国において、パルサラッド氏の財産またはそれに関連するすべての取引を禁止するものだ。さらに、パルサラッド氏との取引などに従事する金融機関およびその他の人物は、制裁や執行措置の対象になる可能性がある。
フェンタニルが社会問題に
フェンタニルについては、以前より米国で麻薬としての過剰摂取が問題となっている。国際麻薬カルテルの利益源としても指摘されるところだ。2023年には、仮想通貨分析企業Ellipticが、多くの中国業者が仮想通貨の形でフェンタニル代金を受け取っていると指摘している。
米国はバイデン政権の時よりフェンタニルのサプライチェーンを取り締まる取り組みを強化。今回の制裁指定も、フェンタニル取引の撲滅を目指す2021年の大統領令に基づいて行われた。
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チェイナリシスによる分析
ブロックチェーン分析企業チェイナリシスの報告によると、パルサラッド氏のブロックチェーン活動のほとんどはネメシスに関連するものだった。
2022年7月から2024年3月までの間に、今回制裁指定された同氏のビットコインウォレットには85万ドル(約1.3億円)以上が入金されていた。ウォレットには、収益の一部を現金化するために使用した仮想通貨取引所のアドレスも含まれる。
また、パルサラッド氏はビットコインの最近の価格上昇から利益を倍増させているとみられ、総額160万ドル(約2.4億円)相当以上を送金していた。
チェイナリシスは、米国当局が近年、特に中国とメキシコの事業者経由のものに関して、世界的なフェンタニルのサプライチェーン阻止を焦点として取り組んできたと指摘している。
その上で今回、イラン拠点のダークネット運営者が制裁指定されたことは、OFACなど米当局が、中国やラテンアメリカ以外の地域でもフェンタニル取引を阻止しようとしていることを示すと意見した。
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