
大型Web3カンファレンス「WebX」では25日、暗号資産規制とステーブルコインの普及についてディスカッションが行われた。
タイトルは「日米における暗号資産規制とステーブルコインの普及」。登壇したのは以下のメンバーである。
- Emily Parker氏:コインチェックグループ シニア・ストラテジック・アドバイザー
- Heath TARBERT氏:サークル・インターネット・グループ 代表
- 片山 さつき氏:参議院議員/自由民主党決算委員長/金融調査会長
「WebX」は国内最大手のWeb3メディア「CoinPost」を運営する株式会社CoinPostが企画し、一般社団法人WebX実行委員会が主催するWeb3カンファレンスで、今年は8月25日と26日に「ザ・プリンスパークタワー東京」で開催されている。
日米のクリプト規制とステーブルコイン採用に関するパネルディスカッション開催
日本と米国におけるクリプト規制とステーブルコインの採用状況について議論するパネルディスカッションが開催された。サークル・インターネット・グループのKeith Tarer氏と参議院議員の片山さつき氏が登壇し、Point Check GroupのEmily Parker氏がモデレーターを務めた。
米国における規制環境の劇的な変化
Keith Tarer氏は、米国のクリプト規制環境が過去1年で劇的に変化したことを強調した。同氏によると、1〜2年前まで米国では事実上「クリプトに対する戦争」とも言える状況があったが、大統領選挙の結果と議会の両党の見解の変化により、現在は非常にクリプトに前向きな政権となっている。
「米国は業界が長年求め、必要としてきた規制の明確性を提供しようとしている。正直に言えば、これは日本が時間をかけて実施してきたことであり、米国は遅れをとっていた」とTarer氏は述べた。
ジーニアス法案の可決とその意義
先月可決されたジーニアス法案(ステーブルコイン規制法)について、Tarer氏は「流域の瞬間」と表現した。同法により、ステーブルコインは初めて実質的に現金と同等のものとなり、健全な規制が提供されることになる。
ジーニアス法案の主要な要件は以下の通りである:
- 1対1の準備金:発行されるすべてのステーブルコインは、財務省証券などの高品質流動資産で1対1で裏付けられる必要がある
- 透明性の確保:準備金に関する報告と情報開示が義務付けられる
- 第三者監査:資産の裏付けを証明するための監査と証明が必要
- 健全性監督:適切な監督体制の確立が求められる
- 国際的な相互認識:類似の規制を持つ他国のステーブルコイン制度を米国政府が認識できる仕組み
しかし、Tarer氏は、包括的な市場構造規制がまだ整備されていないことを指摘し、デジタル資産の証券と商品の区別、カストディサービス、取引所の規制など、多くの課題が残されていると述べた。
日本の規制環境と税制改革の動き
片山さつき議員は、日本が2017年という早い段階で資金決済法にクリプト資産規制を導入し、2020年にはカストディアル規制を強化したことを説明した。また、昨年は米国の例に倣い、準備金として短期国債を最大50%まで含めることを可能にする規制の拡大を行った。
現在、日本ではクリプト資産が雑所得として分類され、最大55%の税率が適用されている。片山議員によると、日本には既に1,200万のクリプト資産口座が存在し、株式口座数を上回っている。その多くは若い世代と初心者が占めている。
「誰も55%の税率では売却できない。もし金融商品として分類されれば、売却益やキャピタルゲインは株式と同じ扱いになり、税率は約20%まで下がる」と片山議員は説明した。
この税制改革は、自民党の金融調査会がすでに方向性を示し、内閣決定もされているが、与党が過半数を失っている現状では、他党との協議が必要となっている。通常、12月までに結論を出す必要があるという。
ステーブルコインの使用事例と展望
現在の主要な使用事例
Tarer氏は、ステーブルコインの現在および将来の使用事例について以下を挙げた:
- デジタル資産の売買における流動性提供
- 信頼できない中央銀行を持つ国での価値保存手段
- 国際送金(現在の6-7%のコストを大幅に削減)
- ビジネス間決済(特に国境を越えた取引)
- AIエージェント間の決済(将来的な展望)
「日本企業がアフリカに製品を販売する場合、ステーブルコインを使用すれば、ほぼ瞬時に取引が完了し、外国為替手数料も回避できる」とTarer氏は具体例を示した。
日本における課題
日本のステーブルコイン規制には、1回の取引限度額が100万円(約7,000〜10,000ドル)という制限がある。Tarer氏は、この制限がB2B(企業間取引)のユースケースを事実上排除しており、日本の競争力を低下させる可能性があると指摘した。
片山議員は、この制限の見直しについて、法改正を経ずに対応できる可能性があることを示唆した。「JPYコインが先週登録されたばかりで、まだ発行されていない。今後、B2Bの大規模決済のニーズを聞きながら変更を検討する必要がある」と述べた。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)への見解
CBDCについて、片山議員は興味深いエピソードを共有した。「ワシントンDCを訪問した際、多くの人から『CBDCには進まないように』と言われた。彼らは中央集権的で、すべての金融活動を中央銀行が把握できることを懸念している」
米国では、トランプ大統領が「私の目の黒いうちは絶対にない」と発言し、ジーニアス法案も事実上連邦準備制度理事会のCBDC実験を禁止している。Tarer氏は「近い将来、そしておそらくより長期的にも、ブロックチェーン上で取引される米ドルを求めるなら、それはステーブルコインの形になる」と結論づけた。
今後の展望
両国とも規制の調和に向けて前進している。片山議員は、SEC委員長代理のAtkins氏らと会談し、両国の規制の調和について議論したことを明らかにした。「基本的に両国の法制度はそれほど離れていないが、クリプトは新参者であり、印象的で大きく、恐れられている存在だった。今回、我々は調和のプロセスにある」と述べた。
パネルディスカッションは、日米両国がそれぞれの課題を抱えながらも、クリプト資産とステーブルコインの健全な発展に向けて前進していることを示す内容となった。
▼登壇者概要
Emily Parker氏:コインチェックグループ シニア・ストラテジック・アドバイザー
Heath TARBERT氏:サークル・インターネット・グループ 代表
片山 さつき氏:参議院議員/自由民主党決算委員長/金融調査会長
昭和34年、埼玉県生まれ。昭和57年に東京大学法学部を卒業後、大蔵省(現:財務省)入省。フランス国立行政学院(ENA)修了。 広島国税局海田税務署長(西日本女性初)、主計局主査、G7サミット政府代表団員、主計局主計官等女性初のポストを歴任。
平成17年、第44回衆議院議員総選挙で静岡7区より選挙区初当選し直後、経済産業政務官、広報局長等を歴任。平成22年から参議院議員(全国比例区)として3期目。総務政務官、外交防衛委員長、自民党政調会長代理、自民党総務会長代理等を歴任、第4次安倍内閣で入閣し内閣府特命担当大臣、地方創生・規制改革・女性活躍推進等担当(2018~2019)。自民党金融調査会長(4期連続)、本年1月より参議院決算委員長。
▼WebXとは
WebXとは、日本最大の暗号資産・Web3専門メディア「CoinPost(コインポスト)」が主催・運営する、アジア最大級のWeb3・ブロックチェーンの国際カンファレンスです。
このイベントは、暗号資産、ブロックチェーン、NFT、AI、DeFi、ゲーム、メタバースなどのWeb3関連プロジェクトや企業が集結。起業家・投資家・開発者・政府関係者・メディアなどが一堂に会し、次世代インターネットの最新動向について情報交換・ネットワーキングを行うイベントです。
数千名規模の来場者と100名以上の著名スピーカーが参加し、展示ブース、ステージプログラムなどを通じて、業界最前線、グローバル規模の交流とビジネス創出が行われます。
▼WebX開催背景
日本市場は、政府によるWeb3政策の後押しを受け、世界各国から大きな注目を集めています。
他の先進国と比較した時の日本経済・国際競争力の低下が問題視される中、越境を強みとするWeb3分野は、アニメ、マンガ、ゲームなどIP(知的財産)大国と呼ばれる日本のコンテンツ産業等、さまざまな業種のDX(デジタル変革)化や、グローバル事業への進出を大きく後押しする可能性があります。
しかしながら、言語環境等を背景とした閉じた制度設計や最先端技術を取り巻く環境実態に則していない規制面などが課題としてあり、国外への人材流出、有望スタートアップの育成不足が課題として挙げられます
また、日本国内の事業者からは、Web3事業を進めるための知識やビジネスアイデアの構築、企業間ネットワーク、専門知識を有する人材不足などが浮き彫りになっていることが指摘されます。
このような背景を踏まえ、CoinPostでは、Web3分野で国際間交流と情報・人材の流通網を確立できる国際カンファレンスの確立がアジア市場における日本のブロックチェーン産業全体の成長に必要不可欠であると考えております。
日本だけでなく、世界各国でWeb3関連事業に携わる企業や関係者が一堂に会するイベントを開催するにあたり、第3回となる「WebX 2025」を開催する運びとなりました。
▼カンファレンス概要
開催日 | 2025年8月25日(月)・26日(火) |
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開催場所 | ザ・プリンスパークタワー東京 |
主催 | 一般社団法人WebX実行委員会 |
企画 | 株式会社CoinPost |
公式サイト | https://webx-asia.com/ja/ |