
コインベースの進化とAIイニシアチブ
東京で開催された大型Web3カンファレンス「WebX」に、米大手暗号資産(仮想通貨)取引所コインベースの事業開発担当副社長ダン・キム氏が登壇。AI領域で大きな注目を集める「エージェントコマース」への取り組みを通じて、同社がAI投資を本格化する背景を明らかにした。
キム氏はまず、10年以上前にビットコインの取引所としてスタートしたコインベースが、今ではステーブルコインUSDCの普及推進やEVM互換のレイヤー2ブロックチェーン「Base」の開発、 AIおよびAIを活用したイニシアチブに投資するコインベース開発者プラットフォームなど、単なる取引所から関連ツールや製品を提供する包括的なエコシステムへと進化したと述べた。
コインベースがAIに関心を持つきっかけとなったのは、昨年AIが急激にパワフルになった結果、ハッカーたちがLangChainのようなAIフレームワークを使い、コインのミントや裁定取引、高速取引からさまざまなブロックチェーンの関数呼び出しなど、「AIエージェントがオンチェーンで面白いことをやり始めた」のを目の当たりにしたことだったという。
「エージェントがトレーディングボットのように動作し始めたこと」に触発されたコインベースは、開発者のためのプロセスを簡易化するために、AIエージェントがブロックチェーン上で簡単にアクションを起こせるツールを開発した。
最初のプロダクト「Base Agent」(後に「AgentKit」と改名)は、Baseに限らず、どのチェーンでも使えるように設計されている。
「人間をループから外して、エージェントが自律的に物を売買できるようになると、とてつもなく面白いアイディアがどんどん出てくる」とキム氏は語る。
例えば、ChatGPTで物の修理の方法を尋ねると、そのやり方や何を買ったらいいかについてアドバイスしてくれるが、AIが実際に買うアクションを起こすことはできない。
エージェントが、チャット内でステーブルコインUSDCを使って買い物ができるとしたら、クレジットカード番号をAIエージェントに渡すリスクもなく、クレジットカードで処理できない少額決済が可能になると同氏は指摘。そして、このAIエージェントが自律的にものを売買する「エージェントコマース」が、コインベースが本気で取り組み、積極的に投資を行なっている新たな分野だ。
eコマースを置き換える
コインベースのAIへの最初の取り組みは、コインベースのツールを使ってオンチェーンアプリの構築を簡単にすることだった。例えば、AIが文書を取り込みやすいように最適化し、障壁を下げることに取り組んだ。
次いでAIがチャットだけでなく、物を売買する能力を持つためにはAI用のウォレットが必要だと判断し、エージェント用のウォレットを開発。その中で、ブロックチェーンの関数呼び出しができるように投資したという。
キム氏は、エージェントコマースが新たな産業となり、現在のeコマースを置き換える可能性があると主張する。
同氏は、何年もAIやブロックチェーンに携わってきたが、小さなスタートアップからGoogleのような大企業を含む全ての企業が、本気でこの領域に関心を寄せているのを見るのは、今回が初めての経験だという。
このように大きな注目が集まるエージェントコマースだが、問題となるのは、エージェント同士の支払いを可能にする標準がないことだとキム氏は指摘する。そこで、コインベースは「X402」プロトコルを開発し、エージェントコマースの基盤となることを目指している。
X402は、30年前のHTTPステータスコード「402 (支払いが必要)」を復活・拡張したプロトコル。402は「予約済み」となっているが、現在インターネットやAPIではほとんど使われておらず、放置された状態だった。
コインベースはこの402コードを使って、HTTP上でUSDCを使ったAIエージェントによる支払いを可能にした。Baseだけでなく、ソラナなど低コストのネットワークでも利用可能だという。
すでにFarcasterのようなWeb3企業がX402を使ってデータ売買を始めており、2026年初頭にはさらに多くの採用が見込まれるとキム氏は付け加えた。
チャンスの宝庫
キム氏はAIに興味があるなら、限りないチャンスがあるエージェントコマース分野に注目すべきだと主張する。
これは、今まで世界が見たことがないもので、仮想通貨やブロックチェーンは、より実用的に、より強力に、よりユーザーに使いやすく、そしてより現実味のある存在になっていくと思う。今、AIエージェント自体が”店”になるという考え方が出てきている。
キム氏は、エージェントコマースが「Googleやアマゾンの脅威」になる可能性があると指摘。すでに人々はGoogle検索よりChatGPTで製品を探すようになっており、検索エンジンや大手ウェブサイトは、近い将来、来訪者がいなくなることを恐れているはずだと語った。
検索活動の多くがAIチャットボットに移行している現状を踏まえ、Googleやアマゾンのような大企業も、エージェントフレームワークやチャットボットへの投資を加速させるだろうと同氏は予測。コインベースが開発するX402プロトコルには、すでに支払いを受け入れているプロジェクトが多くあり、「仮想通貨の次のフロンティアになる」と結んだ。
▼WebXとは
WebXとは、日本最大の暗号資産・Web3専門メディア「CoinPost(コインポスト)」が主催・運営する、アジア最大級のWeb3・ブロックチェーンの国際カンファレンスです。
このイベントは、暗号資産、ブロックチェーン、NFT、AI、DeFi、ゲーム、メタバースなどのWeb3関連プロジェクトや企業が集結。起業家・投資家・開発者・政府関係者・メディアなどが一堂に会し、次世代インターネットの最新動向について情報交換・ネットワーキングを行うイベントです。
数千名規模の来場者と100名以上の著名スピーカーが参加し、展示ブース、ステージプログラムなどを通じて、業界最前線、グローバル規模の交流とビジネス創出が行われます。