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PoS技術の台頭と「仮想通貨報酬の適切な課税」について

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

仮想通貨に対する課税の問題点

仮想通貨(暗号資産)のネットワークは、米ドルや日本円など、法定通貨に維持されているわけではなく、人々がネットワーク維持をサポートすることを奨励するため、新しい仮想通貨トークンを発行するインセンティブネットワークによって成り立っている。

従来の法定通貨とは異なり、通貨の発行が民間など一般レイヤーに落とし込まれたことは、仮想通貨の課税問題でも各国を悩ませる問題だ。

世界的に支持されている課税のタイミングとしては、「報酬トークンは発行された瞬間に課税されず、売却時や交換時にのみ課税する」こと。より仮想通貨のマーケットを捉える方法として、より健全なマーケットに繋がる課税方法として支持されている。

課税に係る問題

仮想通貨がどのように動作するのか、なぜ課税が問題になるのかは、大雑把な「例え話」で理解できる。

パブリック型の仮想通貨トークンを持つ者は、その仮想通貨ネットワークを利用する際に維持費を手数料として支払う。

この手数料は、一時的にプールされる。これを「仮想通貨共同積立金」と呼ぼう。

積立金には「このトークンはネットワーク維持者のためのもの」という名目がつけられている。ネットワークを維持を行った者は積立金からトークンを受け取り所有することができる。

税務署は、積立金からトークンを受け取った者に課税したい。

課税の問題が最も顕在化するのは、共有ファンドにトークンを積み立てたトークン所有者と、そのトークンを受け取った者が同一人物である場合である。もしトークン所有者が同時に積立金に支払い、かつ受け取るなら、トークン所有者が自分自身に事実上支払った部分を無視するのはフェアではない。

もし彼が受け取るのと同じ額を支払ったとしたら、収入はどうなるだろうか?2014年の米政府による課税ガイダンスでは、このようなトークン所有者に関しては支払ったトークンの分は考慮されず、積立金から受け取ったトークンに対する税金を納めるよう要求している。

実際のところ、仮想通貨は上記の通り積立金を用いて設計することもできなくはない。だが実際には仮想通貨はこのような手法では設計されていない。

現実の仮想通貨、少なくともこれまで開発されたものは、新しいトークンの発行を伴う。しかし課税の厄介な問題を理解するためにも、この積立金の例えを頭に入れたままで話を進めよう。

関心高まるPoS技術

仮想通貨の研究・開発は、ますますPoS技術にフォーカスしており、特に新しいPoS仮想通貨のために、適切な課税は重要である。

Tezos(テゾス)のようなPoS仮想通貨は、ビットコインなどのPoW仮想通貨とは、どのようにネットワーク維持責任が分担されいているかが異なる。PoS技術では、ネットワーク内のその時点での所有額もしくは所有規模に応じて仮想通貨ネットワーク維持の機会が参加者に割り当てられる。つまり、PoSにおいては積立金に支払う者と積立金から支払われる者は同じ人々になる。

例え話を続けよう。

Tezosトークン所有者は、Tezosネットワーク維持のために毎年積立金に所有トークンの「約5%」を支払う。ネットワーク維持を助けるトークン所有者にとって、受け取る額は他に何人がネットワーク維持を助けるかに依存する。

もし所有者ひとりひとり全員がネットワーク維持を行ったとしたら、各人が所有の5%を積立金に支払い、同じ5%を受け取ることになる。この限られたケースだと、ネットワーク上の誰もその維持活動を通して所有額を増やすことはない。

現実のTezos仮想通貨に話を移そう。

総Tezosトークンの2/3を少し上回る量がネットワーク維持を行っている者たちに所有されている。計算すると、これらの所有者は彼らが支払った5%に加え、さらに約2%を受け取ることになる。このプラス2%は、ネットワーク維持費用を支払いはするけれども維持活動を行わない他の所有者からのものだ。

あくまで、これは例え話でしかないが、ブロックチェーン上で発生する文字通りの現象はこの総合的に起こること(サポートする者は2%を得、サポートしない者は5%失う)を完成させるための経理トリックにすぎない。サポートする者は利益を得るので、課税されることになる。とはいえ課税のタイミングと額は適正なものでなければならない。

Tezosトークン所有者が2%儲けるか、それとも5%失うかを実現する経理トリックは、ビットコインなど大多数のパブリック仮想通貨が用いるトリックと同じである。

ネットワーク維持者にインセンティブを提供するため、トークン所有者自身から積立金に支払わせる代わりに、新しいトークンがどこからともなく発行される。報酬トークンには価値があるが、もし発行時にはきっかり「1ドル」の価値があると我々が保証できるとしても、その価値は見かけほど単純明快ではない。

なぜなら、報酬トークンの機能はネットワーク上の所有規模(または所有額)のシェアを、ネットワーク維持をサポートしない者からする者へと、「再分配」することにあるからだ。

新しいトークンはすべてのトークン所有者が所有する価値を希釈させ、ネットワーク維持に参加する者の分だけ正味の価値を上げる。

当然ながら、この希釈により、ネットワーク維持による儲けは部分的に失われることになる。これらの報酬を受け取った際にそのまま総収入に含めてしまうと、この希釈効果を把握できず、トークンへの適正な課税が困難となる。

不適切な課税ポリシーによる弊害

この積立金の例えをTezosに適用したとすると、このようなトークンをただちに収入として扱うことは、バリデータの実際の儲けが2トークンだけなのに7トークンを課税対象収入とすることになる。

このような不平等があると、納税者はこの新しい技術への参加を躊躇してしまうだろう。そうなれば、この分野のイノベーションはより適正な課税ポリシーを持つ、他国へと移動していくことになる。

また、報酬トークンをただちに収入として課税してしまうと、この不適正な課税を避けるために、文字通りにどう機能するかと総合的にどう機能するかをより一致させる、クリエイティブではあるが経済的には的外れな仮想通貨の再設計につながってしまう。

ブロック報酬がどのように課税されるべきかの議論には、パブリック仮想通貨ネットワークの構造と経済についての詳細な説明が不可欠である。それで、以下の二つの理由からアナロジー(類似性)とメタファー(例え話)はこの議論における重要な部分である。

第一に、仮想通貨は税金の観点ではユニークであり、政府が取り組むべき問題は未だに多い。我々は、関連がある可能性のある様々な政策や原則を押し付けられている。だから現行法に取り組むにあたって必然的にアナロジーが第一の方法となる。

第二に、仮想通貨そのものがアナロジーとメタファーを通じてしか説明できない。

仮想通貨トークンは実在するが、我々はその実在を「トークン」と呼ぶことでトークン(代替通貨)という別の既存の概念を通して理解している。このようなアナロジーやメタファーのなかには、とても完璧とはいえないものもあり、それが仮想通貨に関する混乱が蔓延する原因となっている。

例えば、PoS仮想通貨における報酬トークンを「金利」あるいは「配当」と呼ぶことは良いこととはいえず、むしろ有害である。

仮想通貨のはたらきについての文字通りの細かい事象の中には、重要なものもあれば、さほど重要でないものもある。

例えば、仮想通貨コードの細かい部分ひとつを変えると、ある税務上の結果にたどりつき、同じ設計問題を異なる方法で解決しようとすると、異なる結果にたどりつくことがある。

これは厄介である。現在、少なくとも1つの指標において、一千万ドル以上の価値を持つ仮想通貨(もしくは10年前には存在しなかったタイプのデジタル資産)が300ほどある。新たな変種も生まれつつあり、PoS仮想通貨でさえ、進化し、時には一定でないカテゴリーを作り出している。我々が注意していなければ、仮想通貨は悪いメタファーと、不備のあるアナロジーに基づいて課税されてしまうだろう。

課税リスクが顕在化した例

このリスクは、2014年3月にアメリカの税務当局IRSが発したガイダンスによって顕在化した。このガイダンスではビットコインのマイニング報酬は受け取った時点で総収入となると明言している。

法的拘束力を発揮する法律を通し法令規制を制定する権力を持つのは米議会もしくは財務省のみであり、この非公式なIRSガイダンスには法的拘束力はない。

が、これはIRSがいかに法や規制を解釈するかの表明であり、そして仮想通貨規制をめぐっては不確実性も強いこともあって、このIRSのガイダンスには非常に影響力がある。そしてIRSはこのトピックに関してはガイダンスの更新を行っていないので、作成時には理解されていなかった技術にこのガイダンスが適用されてしまう恐れがある。

2014年の納税通知書には、この結論の理由は明記されていなかった。

しかし、主にビットコインにより具現化された2014年の技術状態からすれば、当時はこのガイダンスが根拠にしていると思われるアナロジーは不合理なものではなかった。ビットコインや類似の仮想通貨に適用されたこの提言は正当化できるものだ。

ただし、より新しいPoS技術の観点からするとこれはあまり意味をなさない。仮想通貨経済を明快に理解すれば、単一の正しい課税ポリシーをPoSとPoW両者に適用することは可能だし、適用されるべきなのは明らかだ。

仮想通貨が進化の途上にある技術とはいえ、ネットワーク維持の基礎経済は明らかだ。したがって、的確かつ注意深く課税に取り組むには、これらの基礎経済を論拠としなければならない。課税は、特定の仮想通貨の特徴、つまり特定の仮想通貨がどのように設計されているかという、所見上認められる特異性に左右されてはならない。

公平な課税方式とは

ブロック報酬の発行は、課税対象となるべき事象ではない。

そうではなく、「報酬トークンは、売買されたときや交換されたときのみ課税される」べきである。こうすることで公平な市場価値とすべてのトークンへの公平な課税が確約される。またこれにより事務的負担も軽減されるが、こういった事務負担量は軽視されるべきではない。大多数のビットコインユーザーはビットコインをマイニングしないので、マイニング報酬への課税方法に影響される納税者は少ない。

しかしPoSでは、トークン所有者なら誰でも報酬トークンを発生させうる。Tezosにおいては、もし報酬トークンが生成され納税者が受け取ったと同時に収入とみなされるなら、課税対象事象が年に最低でも120回も発生してしまうことになる。

もちろん、ブロック報酬がどのように課税されるべきかと、仮想通貨ネットワーク維持サポートの利益に課税しようとしているアメリカや日本や他法域の現行法下ではどのように課税されなければいけないのかは、異なることもある。

法規制の明確さと確実さがあれば、仮想通貨は間違いなく恩恵を受けることができる。

しかしブロック報酬の税制上の扱いが未だ不透明な米国や他の法域では、新しい法律が制定されるまでは、現行の税務規則および原則がブロック報酬の正確な課税の根拠となる。

上記積立金の例えは仮想通貨のはたらきを説明するのに役立つが、別の例え話で、どのように報酬トークンが課税されるべきかを説明できる。

この第二の例え話も、我々が不可解なデジタル文字列の議論をしていることを考えれば、これまで設計された仮想通貨において文字通り起こっている真実により近い:仮想通貨ネットワークを維持するものが報酬トークンを発行するのである。

報酬として受け取った資産と作られた資産には、ほとんど触れられることのない大きな違いがある。受け取った資産は通常、受け取った時点で収入となる。一方、作られた資産は作られた時点では収入にはならない。

収入もしくは利益と確定するのは初めて売却あるいは交換されたときのみである。報酬トークンは仮想通貨ネットワーク維持者によって作られた財産とすると、最もよく理解できる。この点において、トークンは農作物、鉱物、家畜、アート作品、または工業製品のようなコモディティに近い。

これらひとつひとつは報酬として得ることができ、その報酬は通常、法の下で総利益とされる。

しかしそれぞれの財産形成は税事象となることなく、すなわち栽培や採掘や飼育や制作や、ビジネス上の他の方法での最中に、所有することができる。

同じロジックはブロック報酬にも適用される。新しい仮想通貨トークンは仮想通貨ネットワークの維持の、まさに最中に発行される。これらのトークンは、収穫前の稲にも収穫後の米にも価値があるように、工業製品が組立ラインから離れたと時に価値を持つように、発行された時点で価値をもつことが多い。

しかし水田の稲のように、ブロック報酬は売却または交換の瞬間まで課税利益を構成すべきではなく、その必要もない。

新しい技術ゆえのジレンマ

仮想通貨は新しい発明である。

その様々な特徴は、特にその一部だけを分離して分析してしまうと、広範な税規定やポリシーを生み出すアナロジーにつながってしまう。

トークンは公共企業の株によく似ている。報酬トークンは株の分配、もしくはPoS仮想通貨では株主に支払われる配当やその他の優待に似ている。視点を変えれば、ブロック報酬はネットワーク維持サポーターに支払われる対価によく似ており、そしてこのことが、ビットコインブロック報酬を受領時点でのその市場価値での総収入とみなす2014年IRSガイドラインの根拠となっているのだろう。しかし、どの位置付けも正確とは言えない。

仮想通貨はユニークなものであり、課税の扱いを決定づける現行の法律やポリシーの中に完全なものはない。

とはいえ、仮想通貨ブロック報酬の適正な収入課税の方法は、基本課税原理の中に十分な先例がある。 上記で手短に述べたように、他の形式の財産と同じく、報酬トークンは、初めて所有した者によって、発行された時点で財産となると多くの場合とらえられている。

はっきりとした理由が問われることはほとんどないが、作られた(栽培、採掘、飼育、伐採、漁獲、捕獲、制作、コーディング、組立、製造された)財産は一般的には売買または交換されるまでは課税されない。新しく発行された仮想通貨トークンもまたしかりである。

出典:アブラハム・サザーランド『Cryptocurrency Economics and the Taxation of Block Rewards』

このエッセーはアブラハム・サザーランド著『Cryptocurrency Economics and the Taxation of Block Rewards』、165 Tax Notes 749 (Part 1; Nov. 4, 2019) および 165 Tax Notes 953 (Part 2; Nov. 11, 2019) を要約した物である。完全な研究論文は https://ssrn.com/abstract=3466796 から無料で入手可能である。

アブラハム・サザーランド (abraham@virginia.edu) はヴァージニア大学ロースクールの非常勤教授である。

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