
暗号資産(仮想通貨)とDeFi(分散型金融)の普及により、従来の金融システムに代わる新たな資産運用手段が生まれています。ブロックチェーン技術の進歩とともにDeFiは急成長を続けていますが、参入障壁の高さや流動性不足、操作の複雑さといった課題があります。
そんな中で注目されるのが、高速でスケーラブルな性能を持つSuiブロックチェーンです。しかし、Suiエコシステムでも、十分な流動性確保と多様な金融サービス提供などの課題解決は困難でした。
こうした状況を解決するために開発されたのが「NAVI Protocol」です。開発チームは、Suiエコシステムにおける流動性レイヤーと貸付市場の課題を特定し、安全でスケーラブルかつユーザーフレンドリーなDeFiインフラへのニーズに応えることを目標にNAVIを構築しました。そして、2023年8月にSuiメインネット上でレンディングプラットフォームとしてNAVIをリリースし、すべてのDeFi機能を一か所で提供する総合プラットフォームとしてサービスを開始しました。
独自トークンの「NAVX」はBinance Alphaプログラムのリスティング後、数日で取引高3,000万ドルを達成。さらに、海外暗号資産取引所OKXの新規発行トークン「xBTC」との独占的パートナーシップを締結しています。このように、現在注目を集めている「NAVI Protocol」について紹介します。
Binance Alphaとは
Binance取引所が運営する、将来有望な初期段階プロジェクトを紹介するプレリスティングプール。ここで紹介されたトークンは、将来的にBinance本体への上場候補として考慮される可能性があります。
NAVI Protocolとは?

NAVI Protocolは、Suiブロックチェーン上に構築された総合的な分散型金融プラットフォームです。「NAVI Protocol」「Volo」「Astros」の3つのプラットフォームを運営しています。その結果、中間業者を介さずに暗号資産の貸付・借入、ステーキング、クロスチェーン取引など、多様なDeFiサービスを一つのプラットフォームで利用できます。
さらに、安全性と拡張性に優れたMove言語で構築することで、Suiネットワーク向けに最適化された高いパフォーマンスとセキュリティを提供しています。現在は、20種類以上の主要仮想通貨・ステーブルコイン・利回りトークンに対応し、手数料無料の取引を含むDeFi主要機能を一元化しています。
また、「NAVI」という名前は「人に優しくあれ」というインドの古い言語に由来し、この理念がサービス全体に反映されています。DeFiの一般普及を目指し、分散化・透明性・包括性という目標を掲げています。
主要プロダクト
NAVI Protocolは、Suiエコシステムの多様なDeFiニーズに対応する統合型プラットフォームとして、主に以下のプロダクトを提供しています。
NAVI Lending

NAVI Lendingは、25種類以上の暗号資産に対応する包括的な貸付・借入サービスです。ユーザーは保有する暗号資産を担保として預け入れることで、利息収入を得ながら、同時に他の通貨を借り入れることができます。
主な特徴として、リアルタイムで変動する金利システムにより、市場の需給バランスに応じた最適な利率を提供。また、「Isolation Mode」により、リスクの高い資産でも安全に取引できる環境を実現しています。自動レバレッジVault機能では、ワンクリックで複雑なレバレッジ戦略を実行でき、上級者向けの高度な資産運用も可能です。
特筆すべきは、フラッシュローン機能の実装です。これは同一トランザクション内で借入と返済を完了させる特殊な無担保ローンで、アービトラージ取引やポジション調整などの高度な取引戦略を可能にします。手数料はわずか0.06%と低水準を実現しており、トレーダーにとって魅力的な環境を提供しています。
Volo LST

2024年1月に買収したVoloは、SUIトークンのリキッドステーキングサービスを提供しています。従来のステーキングでは資産がロックされて自由に動かせなくなりますが、Voloなら、ステーキング報酬を受け取りながら、同時に他のDeFi活動も継続できるのが大きな特徴です。
ユーザーがSUIをステーキングすると、代わりにvSUIトークンを受け取ります。このvSUIは、ステーキング中のSUIの価値を表すトークンで、エコシステム内での担保の利用や他のDeFiプロトコルでの取引が可能です。vSUIの価値は、ステーキング報酬の蓄積により時間とともに増加し、安定した収益が見込まれます。
Astros

Astrosは、複数の分散型取引所(DEX)から最適な価格を自動的に検索し、最良のレートで取引を実行する統合型取引プラットフォームです。
最大の特徴は「ガスフリー取引」の実現です。通常、ブロックチェーン上の取引には手数料(ガス代)が必要ですが、Astrosは独自の仕組みにより、ユーザーが手数料を気にせず取引できる環境を提供。さらに、マルチホップ取引により、複数の経路を経由して最適な取引ルートを自動選択し、スリッページを最小限に抑えます。
スリッページとは
為替などの取引実施時に提示する注文レートと約定レートの間に乖離が生じること。
また、永久先物取引にも対応し、レバレッジを活用した高度な取引戦略も実行可能。クロスチェーンスワップ機能により、イーサリアム、ソラナ、ポリゴンなど他のブロックチェーンとの資産交換もシームレスに行えます。
AI Trading Bot

2025年1月にローンチされたAI Trading Botは、Telegram上で動作する自動取引ツールです。複雑なDeFi取引を、使い慣れたメッセージアプリ上で簡単に実行できます。
主な機能として、AIによる最適価格の自動検索、スリッページ設定、ウォレット管理、損益レポートの自動生成などが可能な機能を搭載。簡単なコマンドで即座に取引を開始でき、初心者でも簡単に利用可能です。
競合優位性
NAVI Protocolは、競合他社に対していくつかの差別化要素を持っています。技術面では、安全性と拡張性に優れたMove言語でネイティブに構築されています。Suiブロックチェーンの高速・低コスト特性を活用することで、従来のEthereumベースプラットフォームと比較して取引速度の向上と手数料の削減を実現しています。
さらに、重要な特徴として「すべてが揃った総合DeFiサービス」としてのポジションがあります。競合他社がレンディングや取引など単一サービスに特化する一方、NAVIは貸付、借入、流動性ステーキング、取引をすべて統合提供しています。Astrosを通じた手数料無料取引、AIボットといった機能は、多くの競合が提供していないサービスです。
戦略面では、OKX、Backpackなどの大手企業との提携により信頼性を高めています。xBTCとの50万ドル規模のインセンティブプログラムなどのキャンペーンで新規ユーザーを獲得しています。より高速な取引、より低い手数料、より統合された体験を提供することで、市場での独自のポジションを構築しています。
主要実績
NAVI Protocolは、2024年に大幅な成長を記録しています。TVL(預かり資産総額)は2024年に7億5,000万ドルを記録し、これは2,000%以上の成長率を意味します。ユーザーベースも急拡大し、2025年第1四半期までに95万人以上のユニークユーザーを獲得しています。
さらに、取引も活発で、838万件以上のトランザクションを処理し、総預金額305億ドル、総貸付額132億ドルという規模のプラットフォームとなりました。資金調達面では、2024年1月に「OKX Ventures」、dao5、Hashedなどから200万ドルを調達し、「Sui Foundation」、Mysten Labsなどのプロジェクトとパートナーシップを締結しています。
また、戦略的展開として、2024年1月にリキッドステーキング(流動性のあるステーキング)サービスのVoloを買収しました。2024年2月にはNAVXトークンをローンチし、IDOで約1億5,000万ドルを調達しています。
TVLとは
Total Value Lockedの略で、DeFiプロトコルに預けられている資産の総額を示す重要な指標。
NAVXトークン

NAVXトークンは、NAVI Protocolのガバナンスとユーティリティを兼ね備えた独自トークンであり、NAVIエコシステム全体の基盤となっています。最大供給量は10億枚に制限され、価値安定化のためのメカニズムが導入されています。
主要な機能には、重要提案に対する投票権を提供するガバナンス機能、流動性提供者への報酬としての流動性インセンティブ、NAVXをロックすることで追加報酬を獲得できるブースティング機能があります。
取引所での取り扱い状況として、Bybit、OKX、Bitgetなど複数の主要取引所で取引が可能です。特に注目すべきは、Binance Alphaプログラムへの採択です。Binance Alphaは、成長性を持つトークンを紹介するプレリスティングプールとして機能し、ここで紹介されたトークンの一部は将来的にBinance取引所での正式上場候補となる可能性があります。
トークンアロケーション

NAVXトークンアロケーション
NAVXトークンの配分は、プロトコルの持続的な成長と分散化を支援するよう設計されています。総供給量10億NAVXは以下のように配分されています。
配分項目 | 割合 | 詳細 |
---|---|---|
エコシステム・エアドロップ | 45.8% | 最大の配分がエコシステムの成長に充てられています。TVL(預かり資産総額)の成長促進、各種キャンペーンの実施、コミュニティへのエアドロップに使用されます。初期サポーターへのインセンティブも含まれており、プロトコルの普及と利用拡大を目指しています。 |
チーム | 20% | 開発チームメンバーへの配分です。長期的なプロジェクトの成功に向けて、チームのコミットメントを確保するための割り当てとなっています。 |
投資家・アドバイザー | 16% | プロトコルの成長を支援する投資家やアドバイザーへの配分です。戦略的パートナーシップの構築と、専門知識の提供を通じてプロトコルの発展に貢献します。 |
財務 | 10% | プロトコルの日常的な運営資金と戦略的取り組みのために確保されています。持続可能な運営と将来の開発資金として活用されます。 |
流動性提供 | 4% | マーケットメーカーのサポートと、取引所での十分な流動性確保のために使用されます。 |
マーケティング | 3% | プロモーション活動やコミュニティへのアウトリーチに使用され、NAVIプロトコルの認知度向上を図ります。 |
パブリックセール/IDO | 1.2% | 2024年2月の初期分散型取引所オファリング(IDO)で一般投資家に提供された配分です。 |
トークン発行スケジュール

NAVXのリリーススケジュール
NAVXトークンの発行は、プロトコルの長期的な安定性と持続可能性を確保するため、段階的なリリーススケジュールに従って実施されています。
配分項目 | 割合(%) | ロックアップ期間 |
---|---|---|
チーム | 20.00% | 8ヶ月のクリフ期間後、2年間で毎月権利確定 |
投資家/アドバイザー | 16.00% | 6ヶ月のクリフ期間後、18ヶ月間で毎月権利確定 |
エコシステム (エアドロップ&流動性インセンティブ) |
45.80% | TGE時に1.1%解除、36ヶ月間で毎週権利確定 |
財務 | 10.00% | TGE時に14%解除、2年間で毎週権利確定 |
マーケティング | 3.00% | TGE時に10%解除、18ヶ月間で毎週権利確定 |
パブリックセール | 1.20% | TGE時に100%解除、CETUS Launchpadで実施 |
流動性提供(MM) | 4.00% | TGE時に100%解除 |
トークン発行の特徴
- TGE(Token Generation Event)
2024年2月のトークン生成イベント時に、パブリックセールと流動性提供分は100%解除されています。 - 段階的リリース
チームと投資家への配分には長期的な権利確定期間(クリフ期間)が設定されており、急激な売り圧力を防いでいます。 - 長期的なコミットメント
特にチーム配分は8ヶ月のクリフ期間後、2年間での権利確定となっており、プロジェクトへの長期的なコミットメントを確保しています。 - 市場への影響最小化
最大配分のエコシステム分は36ヶ月という長期間での権利確定により、持続可能な成長を支援しています。
このトークン発行メカニズムは、NAVIエコシステム内で活動するすべてのステークホルダー間の利害関係を調整し、プロトコルの機能性とセキュリティを強化する重要な役割を果たしています。
2025-2026年の成長戦略
エコシステムの拡大では、Suiブロックチェーンの成長に合わせた対応資産と機能の継続的拡充、DeFi分野での存在感強化を目指しています。
複数のブロックチェーンへの対応、BTCFi領域への参入を計画しています。技術インフラ面では、トランザクション高速化、セキュリティ強化、レンディング製品最適化を継続的に実施し、新しいDeFiツールの開発やAI搭載取引ツールの導入も検討されています。
さらに、NAVX SDKのオープンソース化、UI/UXの改良、DeFi教育コンテンツの充実といったユーザー体験向上策も計画され、一般ユーザーへの普及戦略に取り組む予定です。
まとめ
NAVI Protocolは、Suiブロックチェーン上で多機能な総合DeFiプラットフォームとして運営されています。貸付、借入、リキッドステーキング、取引をワンストップで提供し、使いやすい設計により初心者から上級者まで幅広く利用できます。
Binance Alphaプログラムへの採択により注目を集めるNAVXトークンは、ガバナンス機能と報酬メカニズムを通じてエコシステムの成長を支えています。Suiブロックチェーンの発展とともに、NAVIはDeFiの新たな可能性を切り開いていくことが期待されています。