投票システムのリスクと改善方法
暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)考案者のヴィタリック・ブテリン氏が、分散型プロトコルのガバナンス方法について、現在のリスクを指摘し、改善方法を提案した。
MakerDAOなど分散型プロトコルでは、ガバナンス(運営)方法に関わる決定で、コイン投票(coin voting)という仕組みが採用されていることが多い。
一般的にこの仕組みでは、トークンを沢山保有している者ほど、投じることができる票の数も多くなる。このシステムについてブテリン氏は、欠点をいくつか挙げている。
まず、ガバナンス方針に影響を与えるためにトークンが買い占められる可能性だ。例えば、DeFiのレンディングプラットフォームに自分の資産を預け入れて、それと引き換えにあるトークンを多量に借りて投票に使う例がある。
この場合、投票を終えたらトークンを返却してしまえば、ガバナンス方法の変更で自分が影響を被ることはないため、無責任な投票が行われかねない。
また、現在のところ事例は少ないものの、他のユーザーに賄賂を渡して投票をコントロールすることや、ユーザーのトークンを預かる仮想通貨取引所が、その預かった多数のトークンで投票に参加することもあるという。
こうした、「コイン投票」の問題点に対して、ヴィタリック氏はいくつか解決策を提案した。
より良い投票システムは?
まず、投票が影響を与えることのできる範囲を限定することだ。例えば、イーサリアム基盤の分散型取引所Uniswapでは、トークンの分配や取引所の手数料に関することのみが、投票結果に影響される。
ユーザーが容易にプロトコルのハードフォーク(分岐)を行えるようにすることも一案だという。新しい方針に賛成しないユーザーが、それを取り入れないプロトコルを立ち上げて、そちらに移動することが予測されると、票を買い占めてガバナンス方針を決定しようとするインセンティブが薄れる格好だ。
ハードフォーク
双方に互換性がない状態で永久的にブロックチェーンが分岐すること。現存する問題を解決するアップグレードなどのためにハードフォークは実施される。コミュニティ内で合意形成できずに分岐する場合は、対象の仮想通貨も分裂し、新しいコインが誕生する。過去の例として、ビットコインがハードフォークして、ビットコインキャッシュが生まれた。
▶️仮想通貨用語集
ヴィタリック氏は、そもそもコイン(トークン)自体を、投票に使わない方法もあるとしている。
その一つ目は、アカウントが特定の人物に対応していることを検証するテクノロジーを導入して、一人につき一票を割り当てることだ。こうしたテクノロジーの例としては、すでに「Proof Of Humanity」や「Bright ID」などが開発されているという。
二つ目は、参加による人物証明だ。あるアカウントが、何らかのイベントに参加したり、教育訓練に合格したり、エコシステムの中で役立つ仕事を行うなどしたことを証明して、投票権を与える仕組みである。
その他のアプローチとしては、投票のルールそのものを変えることも考えられる。一般的にコイン投票では、投票結果について全員が集団的に責任を負うことになる。例えばひどい決定が行われて、トークン価格がゼロになる場合、その決定へ賛成した人も反対した人も同様に影響を被る形だ。
ヴィタリック氏は、こうした状況を変えて、投票者が自分の決定に対して個別に責任を負うような投票システムを設計することも可能だと論じている。