中央・南アジア・オセアニアの市場
ブロックチェーン分析企業Chainalysisは4日、中央・南アジアおよびオセアニア(CSAO)の市場における暗号資産(仮想通貨)市場の分析レポートを発表した。この地域では、昨年7月からの1年間で取引量が700%以上増加し、急速に成長を遂げている。
CSAO地域には、「仮想通貨採用指標」の上位3カ国=ベトナム(1位)、インド(2位)、パキスタン(3位)が含まれているのが特徴的だ。レポートでは、この3カ国を比較して各国の市場動向や取引事情を明らかにした。
この3カ国は、いずれも草の根レベルにおける仮想通貨の普及率は高いが、市場規模の面ではインドとベトナムが、パキスタンよりも遥かに大きく、また分散型金融(DeFi)活動の割合も異なっている。(インド:59%、ベトナム:47%、パキスタン:33%)
一方、成長率で見ると今年6月時点で、パキスタンは711%でインド(641%)を上回った。
さらに取引通貨別の内訳を見ると、インドではDeFi取引に使用されるイーサリアム(ETH)やWETH(Wrapped ETH)が大きな割合を占めているという。
Chainalysisは、このような内訳は「市場の洗練度の違いを反映している可能性がある」と分析した。
ベトナム
仮想通貨採用指標トップとなったベトナムの投資事情について、ロイヤル・メルボルン工科大学ベトナム校(RMIT)のプログラムマネージャー、Binh Nguyen氏は以下のように説明している。
- ベトナムでは一般的にギャンブルに人気があり、ボラティリティの高い仮想通貨運用に参入する意欲が高い
- その多くは、金融リタラシーが低くリスク管理の経験がない
- しかし、強気市場ではリスクをとることが幸運な結果を招くことがある
- 5年〜10年待つような洗練された投資家はその機会を見逃しているかもしれない
同時に、ベトナムでは、ETFやオプション、先物などの金融市場が未発達で、証券会社の普及率は5%を下回るという。特に若年層にとって、このような投資の選択肢の欠如が仮想通貨投資への高い関心に結びついているとNguyen氏は指摘した。
同氏は、ベトナムの仮想通貨市場が成熟するためには、政府が仮想通貨の定義を含む規制の方向性を明確にすることが欠かせないと考えている。
パキスタン
パキスタンの事情もベトナムと似ているようだ。P2P(ピアツーピア)型の金融プラットフォームPaxfulの熟練トレーダーは、ほとんどのトレーダーが貯蓄よりもアルトコインの取引に重点を置き、「手っ取り早く稼ぐ」ことが仮想通貨運用の目的のようだと語った。
インド
上記2カ国と対照的に、インドの仮想通貨市場はより成熟しているようだとレポートは評価している。
インドでは1,000万ドル(約11.5億円)以上の高額送金が全体の42%を占めており、このようなトランザクションの規模から、インドでは大規模な機関投資家が仮想通貨市場に参入していると見て取れる。(パキスタン:28%、ベトナム:29%)
レポートは、インドでは仮想通貨関連企業の起業が盛んで、ベンチャーキャピタルからの投資が大幅に増加していると指摘。またインドで株式に投資するには、3〜4日かかる煩雑な手続きが必要なのに対し、仮想通貨投資を始めるには1時間もかからないことも、仮想通貨の普及を後押ししていると、仮想通貨投資会社LedgerPrimeのJoel John社長の言葉を引用した。John氏はインドには株式投資家の4倍ほど仮想通貨投資家がいると推測している。
インド固有の事情
インドは有能なエンジニアやスペシャリストを輩出することで有名だ。仮想通貨の普及を後押しする動きとして、フリーランスとして海外企業で働く開発者やアナリストなどが、仮想通貨での支払いを求め始めている事実があると、Quantstamp社のKrishna Sriram氏は語った。
多くの開発者がイーサリアムやDeFiのエコシステムで働いており、Sriram氏の知り合いのほとんどが、DEXや取引所を介してETHやUSDCで報酬を受け取ることを選択しているという。他の分野から同分野へ移転する技術者も多く、DeFi市場の成長を支えているようだ。
また一時期、仮想通貨取引が全面禁止になるかと危ぶまれたインドでは、規制の不透明性によりCeFi(中央集権的な取引所)が使いづらくなり、DeFiの人気が高まる要因となったとSriram氏は考えている。しかし、ここにきてインド政府は仮想通貨を禁止するのではなく、課税する方向に舵を切ったようだとレポートは評価している。