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米クラリティー法案、成立は実現可能か 上院を阻む3つの対立点

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

この記事のポイント
  • 米クラリティー法案、上院で暗礁に
  • 3つの対立が解けず、中間選挙前の成立に黄信号

仮想通貨市場に待望の法的枠組みをもたらすとされる仮想通貨市場構造法案(クラリティー法案)が、米上院で難航している。

2025年7月17日、下院を294対134という超党派の賛成多数で可決した同法案は、本来であればその後速やかに上院審議を経て成立するはずだった。

しかし現在も上院銀行委員会のマークアップ(条文審議)すら通過できておらず、法制化への道筋は不透明なままだ。

問題の核心は「ステーブルコインへの利回り付与の是非」をめぐる仮想通貨業界と銀行業界の対立にある。

一見テクニカルな争点に見えるが、この問題は米国における金融秩序の再定義にも直結する。クラリティー法がいつ、どのような形で成立するかは、世界の仮想通貨市場に多大な影響を与える。

規制の空白を埋める法案

クラリティー法の本質は、これまで曖昧だったデジタル資産の監督権限を整理することにある。同法案は、デジタルコモディティの現物市場についてはCFTC(商品先物取引委員会)に排他的管轄権を付与し、一方でSEC(証券取引委員会)は投資契約資産に対する監督権限を維持するという構造を採る。

ビットコイン(BTC)はコモディティ、多くのアルトコインは証券に分類される見通しで、業界が長年求めてきた「規制の明確化」に応えようとするものだ。

トランプ大統領の仮想通貨政策の柱の一つとして位置づけられ、米国を「世界の仮想通貨首都」にするという政権目標と直結している。

また仮想通貨業界にとっても、一貫した規制枠組みの欠如が市場の成長と技術革新を妨げてきたとして、クラリティー法案の成立を最優先の立法目標と位置づけてきた。

関連:仮想通貨規制のクラリティー法、今年可決の確率は3分の1か 米投資銀行TDコーウェン警告

コインベース離反が引き金に

だが最大の障害となったのが、ステーブルコインへの利回り付与問題だ。法案では、単なる保有に対する利回り(利息)の支払いを禁止し、支払いや送金などの取引活動に連動した報酬プログラムのみを許容するという方向で調整が進んでいる。

すでに成立したジーニアス法では、ステーブルコイン発行体による利回り支払いが明確に禁止されている。仮想通貨業界は、クラリティー法案にも同様の禁止条項が盛り込まれることに強く反発した。

仮想通貨取引所がUSDCなどのステーブルコインに年4〜5%の利回りを付与すると、銀行預金より高い収益が得られる。ユーザーが銀行から資金を引き出して仮想通貨取引所に移す動きが加速し、銀行の融資原資が失われる。これが銀行業界の恐れる「預金流出」シナリオであり、対立の核心だ。

事態が大きく動いたのは2026年1月だ。上院銀行委員会は、翌日に予定されていたクラリティー法案のマークアップ(条文審議会議)を直前になって突如延期した。

この予期せぬ決定が法案の先行きに深刻な不透明感をもたらした。延期の直接的な引き金の一つとなったのがコインベースの離反だ。

米国最大の仮想通貨取引所であり、業界ロビー活動の最大の資金源でもあるコインベースのCEO、ブライアン・アームストロング氏が「現行の条文では支持できない」と公言したことで、共和党議員の間にも動揺が広がり、委員会採決の失敗リスクが現実味を帯びた。業界の「旗手」が反旗を翻した以上、委員会として強行採決は難しいと判断したとみられる。

妥協案成立も、業界の反発は続く

その後、交渉は断続的に続いた。3月20日、ティリス上院議員(共和・ノースカロライナ州)とアルソブルックス上院議員(民主・メリーランド州)が、ステーブルコインの利回りに関する合意の大枠を発表した 。

合意の骨子は「単なる保有に対するイールド(利回り)支払いを禁止し、支払いや送金などの活動に連動した報酬プログラムのみを許容する」というものだ。

しかしこの妥協案も業界の全面支持を得られていない。仮想通貨業界の関係者が3月23日の閉鎖的審査で条文を初めて確認したところ、「ステーブルコイン報酬に関する言語が過度に狭く、不明確だ」という懸念が示された。

予測市場ポリマーケットでは2026年中の法案署名確率が、今年初頭の70〜90%台の高値から一時約51%まで低下したが、現在は60%台に回復している。

残る複数の障壁

さらに複数の論点が未解決のまま残っている。民主党はDeFi(分散型金融)条項について、マネーロンダリングや制裁回避などの不正資金流入リスクに対する規制が不十分だと懸念を示している。

また、トランプ大統領一族が独自のミームコイン発行やDeFiプロジェクトへの関与など仮想通貨事業で多大な利益を得ていることを背景に、政府高官が個人として仮想通貨事業で利益を得ることを禁じる倫理規定を法案に盛り込むよう民主党が強く求めており、共和党との対立が続いている。

加えて、トランプ大統領が有権者ID法案(投票時に写真付き身分証明書の提示を全国一律で義務化する法案)を先に可決しなければ仮想通貨関連法案に署名しないという政治的条件を示唆しているとの報道もあり、法案の前途はさらに不透明さを増している。

3月26日にはデービッド・サックス氏が仮想通貨・AI担当大統領補佐官(通称:クリプト・ツァー)の任期終了を確認し、後任の指名はないと発表された。法制化の最も重要な局面を迎えたまさにこのタイミングで、法案の主要な推進役を失ったかたちだ。

関連:米上院、クラリティー法の委員会審議を4月に確定 5月不成立なら2027年まで審議困難か

残された時間はわずか

本稿執筆時点(4月2日)時点でも新たな動きがある。コインベースのCLO(最高法務責任者)ポール・グルーウォール氏が4月1日のFox Businessで、「48時間以内にステーブルコインの利回り問題で合意に達する」と確信を示した。これが実現すれば法案は大きく前進する。

ただし、たとえ銀行委員会のマークアップが4月後半に予定通り実施されても、法案はその後も上院本会議での60票以上の可決、農業委員会通過版との統合、下院通過版との調整、大統領署名という5段階の手続きを残している。

仮想通貨業界のロビー活動が共和党主導の立法の推進力となってきた以上、上院本会議での採決は2026年8月以前に実現しなければならない。それ以降は中間選挙キャンペーンが本格化し、論争的な法案の採決は政治的に難しくなるからだ。

銀行委員会の採決をまだ経ていない現状で、残された時間は極めて限られている。銀行業界の預金保護という既得権益と、仮想通貨業界の利益創出の自由という新興産業の主張が激突するこの構図は、クラリティー法の枠を超えて「米国は金融イノベーションをどこまで許容するのか」という根本的な問いでもある。

クラリティー法は、単なる規制整備の話ではない。デジタル資産を「次の金融インフラ」として本格統合するかどうかを巡る、米国の国家的意思決定の場となっている。

関連:ステーブルコイン報酬制限条文に『重大な懸念』、コインベースがクラリティー法支持を再度撤回

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